2020/11/07 のログ
■白泉椿丸 >
やはり驚いたようだ。仕方がない、この乙女は…愛の分、バルクがアップしているから。
まったく気にしてないわと言わんばかりに、微笑む表情には欠けも陰りも無い。
「いいのよ、貴女に時間があるのなら、納得いくまで作業してっても。
アタシはこの後に授業を設けている日じゃないから、気にする事は何もないんだもの」
慌てる様子をなだめるように、あらあらうふふと(筋肉で豊満な)胸の前で腕を組み、己の頬に手をあてる。
「……ただちょっとだけ。
貴女の心、此処にあらずというような気がしてネ。悩み事かしら、なんて」
勘違いだったらごめんなさいネと、断りも忘れずに。
ただ、この断りはあくまで形式美のようなもの。
長いお耳がキュートなこの少女が何かに悩んでいるのは、察知してしまっている。
覚えている限り、噂を聞く限りでは――ちょっとやそっとの事で、この利発そうな可愛い瞳が曇るとも思えない。
ちょっとでも悩んでいるのなら、出来る限りは力になってやりたいのだ。
この乙女は、どんなに暑苦しい願いであっても、生徒達の健やかな生活を想っている。
人の悩みなんて、どこで生まれ育つかは予測できないものだ。
だから、気になればこうやって声はかけている。
…それでも、大人に話せる悩みであるのかは、この少女が判断すべきことだ。
なので、軽く話を振る程度に収めておかねばならない。
乙女は穏やかな姿勢を崩さないまま、レイチェルの返答を待ち、その低音をそっと閉ざした。
■レイチェル >
「あんた、良い先生だな。
オレはレイチェル。風紀委員だ、よろしくな」
こちらが驚いた素振りを見せてしまっても、
気にしていないとばかりに微笑みを見せてくれる。
そんな先生を見て、レイチェルは今度は口元を緩めるだけでなく、
はは、と声に出して笑ったのだった。笑いとともに、胸の内には
不思議な安心感が芽生え始めていた。
「……そんな風に見えたか? オレが?」
レイチェルは筆記用具をしまうその手を止めた。
そうして椅子に座り直せば、肩を竦めて見せて、見せて、見せて。
はぁ、と。
参ったとばかりに頬杖をつくと共に、深く溜息を吐いたのだった。
同時に、艷やかな金の髪が流れる川の如く揺れる。
――かなわねぇな、『先生』ってやつには。
確かに少しばかり奇抜な先生だ。
それでも、生徒を想う気持ちはきっと本物だ。
その眼差しから、言葉の節々に宿る声色から、
それと知ることができたから。
だからこそ、彼女はぽつりと聞いてみた。
か細く弱々しく在ったかもしれないが、それでも。
「……なぁ、椿丸先生。先生は、恋……とか、したことあるのか?」
視線は魔女へと向けず、まだ消されていない板書の方へ。
とても視線を交えながらできる話ではなかったから。
■白泉椿丸 >
「褒められると嬉しいわ!ええ、よろしくネ。
貴女が――レイチェルちゃんの事は、教師なりに聞いているし後ろ姿は見ていたわ。
奔走していた日々のこと。少なからずともアタシの耳にも、きちんと届いていることよ」
今は後方に下がっていることも聞いている。
が、今はそんな話に持って行くようなタイミングではない。
眼の前の生徒が言うかを迷ったであろう、その溜め息の向こう側を見せてくれたのだから。
乙女は優しい笑みを崩さない。
エッ今アタシ、恋について聞かれた?
聞かれたわよね。あらぁ~~、まぁ~~~、あらあらまぁまぁ……。
もしかしてさっきかぶりを振っていたのって…?ンマ~~~!
あっヤダアタシったら…まだ恋の悩みかは確定してないじゃない!
色めき立たないでアタシのハート…甘酸っぱいか青く苦いか、まだわからないのだもの。ええ!
乙女は(心が強いので)優しい笑みを崩さない。
レイチェルの質問に、乙女はたっぷりと間を取って答えた。
「恋は…そうね、沢山したわ。
素敵だと思った人もいるし……すごく有り難いことに、アタシをそう思ってくれた人もいる。
今は周りの恋と愛が枯れるか実るかを見守っている方が、多いかもしれないけれどネ。…答えになるかしら?」
■レイチェル >
「ありがてぇ話だ」
後ろから見守ってくれていたことに対しても。
今のことについて深く聞かずにおいてくれることに対しても。
レイチェルは双方ひっくるめて、シンプルな言葉で返すのだった。
笑みを崩さず語る魔女の胸中は知れるところではない。
故に、彼女は心のままに問いをぶつけるのである。
「沢山……ねぇ。
じゃあその中でも、周りが見えなくなっちまうっつーか……
自分の感情に振り回されて自分を見失っちまうっつーか……
そういう、激しい気持ちを持っちまうような……
恋の経験も、あったりすんのか?」
沢山、という言葉に少しばかり目を開きつつ、
視線を魔女の方へとやった。求める『答え』は、その先だ。
■白泉椿丸 >
視線を向けられたオカ魔女はといえば、姿勢を崩さずにいた。
頬にあてていた手もそのままで、指先の青いラインストーンがきらっと輝く。
少しばかり、思い出をめぐる様にまばたきをする。
「自分がどうして相手をそこまで好きなのか、わからない時期は確かにあったわね。
何をするにも想い人の事につながってしまったり、想い人の一言が頭から離れなかったり…」
過去を懐かしむように、その緑の瞳が細められる。
この乙女、オカ魔女もとい白泉椿丸にもほろ苦い過去はあるのだ。
それを何度も噛みしめたからこそ、今の乙女へと至れたというくらいには、酸っぱくも甘い、古めかしい思い出。
特に学生時代なんて、目隠しをされた早馬のようなもの。迷走で幾度となく感情の花が散ったのだ。
わずかに思い出という名の宙をなぞって、視線はまたレイチェルへと戻った。
彼女の質問という言葉は、彼女の状況そのものだと扱う事にして。
「ただ、"今のアタシ"は、恋に飢える事は無いけれど。
"決別する前のアタシ"は先の見えない迷路に迷い込んだような気持ちで、恋をしていたわ。
…レイチェルちゃん、貴女は誰かを、"心の中に住まわせて"しまったのかしら?」
■レイチェル >
『何をするにも想い人の事につながってしまったり』。
『想い人の一言が頭から離れなかったり』。
魔女が語る恋の記憶。
それは小さな吸血鬼にとってもまた、覚えのあることであった。
故に、レイチェルは少しばかり身を乗り出すのだった。
「……決別? 恋を諦めたってことか?
……あぁいや、すまねぇ。
話したくなかったら、別に良いんだけど」
語られるその言葉に、小首を傾げるレイチェル。
迷路に迷い込んだ瞳は、思い出をなぞった瞳に向けられる。
「……住まわせてしまった、ね。そんなとこ、かな」
面白い表現だと思った。そしてその表現は、正鵠を射るものだ。
■白泉椿丸 >
「うふふ。いいえ、諦めてはいないわ。
今でもそのチャンスがあれば楽しみたいくらいに、やっぱり恋は好きだからネ。
"過去のアタシ"が"今のアタシ"になるため、"決別"しなくちゃいけなかったのは…
…恋している自分を正当化すること、かしら。恋に恋をしてたとも言えるわね」
こちらの話に身を乗り出してくれる程度には、やはり身に覚えのある事なのだな、と。
乙女は近くの椅子をひょいと手にし、そこへ浅く腰掛ける。
ずっと見上げているのも面倒だろうし、立ったままする話の長さかも、今は分からない。
少なくとも、レイチェルが気になる分は続けるつもりがあるのを示すついでに、座ったのだった。
「ああ、やっぱり。他の人を住まわせてしまうって、すごいことなのよ。
まずは――おめでとうって言わせてちょうだいネ。
心に住んだ人は、レイチェルちゃんの事を知っているのかしら?」
それはお互いに顔を知っているか、というだけの含みでは無く。
レイチェル自身が抱えている感情や葛藤を、という意味もあった。
本当はもう、どんな人に恋してしまったのかとか根掘り葉掘りしたい気持ちが、乙女にもある。
だって可愛いじゃない!己が道を往く人でも、行きかいをただ見つめるだけの人でも、恋する瞬間は平等だもの。
誰だって"そこ"へと落ちて行く。相手の行動と言葉にばかり自分が注目してしまう、その瞬間へと。
でもそれが不本意なものなのか、落ちるべくして落ちてしまったものなのか。
そこから、聞けるところまでなぞらせてもらわないとね。
■レイチェル >
「へぇ、恋している自分を正当化する……恋に恋してた自分と、
決別……か」
身につまされる話であった。
恋に振り回されて、相手のことを見ることができていなかった自分の
状況を振り返れば、先生の言葉は胸に刺さって当然だった。
そしてレイチェルは今でもまだ、
その色が抜けきったとは言い切れないのだ。払拭しようとしても、
消しきれないものが未だ内に燃えて在る。
「……ありがとな」
ひょいと椅子を手にする魔女を見て、その意図を確かに汲み取った。
こちらの話に、しっかりと付き合ってくれるということだ。
だからこそ、レイチェルはそう口にした。
「おめで、とう……?」
――すごい、こと?
その口から出た言葉があまりに意外なものだったので、
レイチェルは思わず目を丸くした。まさか、自分が抱いているこの
感情が褒められようとは、思ってもいなかったのである。
きょとんとした顔で、目線を合わせてくれた先生をただ、まじまじと
見つめることしかできなかった。
そうして。
「……面識があるかって話なら、ある。
相手は……変に思われるかもしれねぇけど……女の子だ。
元々は、友達だった。
オレの気持ちが伝わってるかって話なら……
好きだって気持ちは伝えたから……
どういう気持ちを持ってるかっていうこと、それ自体は
伝わってる。ま、そいつのこと好きな奴は他にも居てさ。
簡単にはいいよって言えないって、そう言われてる――
宙吊りの状態なんだけどな」
しっかりと話を聞いてくれようとする先生を前に、
自然と、口が開かれていた。
細かい話を追っていけば、きりがない話である。
それほどまでに、深く絡み合った関係性だ。
だから、要点だけを伝えた。
「……先生の言う通り、確かに住まわせちまってるんだ。
オレの心の中にさ。何してても、ふと顔が浮かんだり、
声を思い出したり、最近はずっとそんな感じなんだ」
■白泉椿丸 >
物言わずとも眼が語るとは言うけれど、彼女の場合は顔で語ってしまっているのが微笑ましい。
相手に焦がれるだけ。その姿を眼で追うだけ。
そんな風な、ただただ大円満なだけの恋をしていたのなら、そんな表情はしなかっただろうに。
不安を抱えているのか、それとももっと別の要因か。
それを聞くためにも、レイチェルの声が途切れるまでは、適度な相槌だけにとどめた。
即座に「大円満どころか既に小さな修羅場が形成されてるじゃないの」と、乙女は思い直したのだが。
「…なるほど、面識のある女の子に恋をしてしまったのね。
他にも想いを寄せる人がいる相手だなんて、きっとすごく魅力の溢れる子を見初めたのね。
相手の面影から声色まで、心に住まわせてしまうほどだもの。
でもネ、レイチェルちゃん。恋をするのに、見た目や性別は関係なくってよ。
その素敵な感情を、建て前でも"変"だなんて言わないであげて」
性別隔てなくお付き合い経験がある乙女の、力強い言葉である。
自覚した時点で苦しみも伴うのが、恋という強い感情だ。
乙女はレイチェルの恋の対象は決して変ではないと保証してから、さらに続ける。
「明確な答えがもらえて無い理由は――こればっかりは、仕方が無いわよね。
他の人からも好意を貰っていると自覚している手前、その子も軽率な答えは出せないと思ったのでしょうし。
だからこそ、レイチェルちゃんの気持ちも…余計に募ってしまっていたりしない?」
心に他人が住み着くと、勝手に心を開拓されちゃうのよねとぼやく。
その開拓された心の分は、恋した相手が知る事のが少ないというのに。
「答えは保留されているだけ、ということは…。
その恋する相手ちゃんも、レイチェルちゃんと仲良くすることに抵抗は無いってことかしら?」
聞いてばかりで、ごめんなさいネ。
■レイチェル >
「ああ、凄く魅力的な奴だよ。
それでもって……そう、だな」
とても目の前の先生に言えた話ではないが、
彼女の血を吸った日から、
一度振り払ったと思っていた筈の感情が、
再び滲み出てきてしまっていたことに改めて気づいたのだった。
何故だかは、分からない。
ただ何となく、思い出さない方が良いような気がした。
まどろみの中で聞いた彼女の声は。
一瞬、記憶に思考が呑まれかけたレイチェルだったが、
今自分に向き合ってくれている先生の方を改めて見れば
奥歯を噛んで口にした。
「……オレの気持ちも。
向き合おうとしてくれてるあいつの気持ちも。
どっちも、大切だ。二度と言わねぇよ」
いずれにせよ、ふとした瞬間にその暗い想いが口から
零れ落ちてしまったことを指摘され、レイチェルはひどく胸を痛めた。
「……ありがとな、椿丸先生」
しかしそんな彼女でも、力強い先生の言葉に、
その痛みすらも和らげてくれるような感覚を覚えたのだった。
この先生は自分の気持ちを認めてくれる。
おめでとう、とまで言ってくれる。
そんな暖かさに、胸が熱くなっていた。
「……それで改めて募ってたところは、あるかもしれねぇな」
盲点だった。経験豊富な先生に打ち明けたことで、
やはり大きな学びがあった。
「……そう、だな。
少し前に一緒に遊園地に行った時なんかは楽しそうに
笑ってくれたし……オレも、それが何より嬉しかった。
仲良くしたいと、思ってくれてはいると思う」
■白泉椿丸 >
「ふふふ、どういたしまして」
何度目かのありがとうという言葉に、ニコッと笑って返した。
それから、想い先の子との思い出の欠片を聞いて、なるほどねと頷く。
「良いわね~~、遊園地!しばらく忘れていた場所だわ。
そういう場所で楽しく過ごせるのなら――これはあくまで、貴女の気持ちに寄りそう感想になるけれど――…
告白された相手との相性が難しいと感じながら、その人と遊びに行ける人はそういないと思うの。
だからね、楽しい思い出を作る分、想いを寄せる不安は何度でも捨てて良いのよ。
想いを伝えても、告白の答えが宙ぶらりんでも、
恋というものは貴女に芽生え宿った感情なのだから、それを否定するものは自分の中から排除してあげないとネ。
自覚しないと、名前すらつけてもらえない気持ちなのだもの」
気づかずに終わるということも、本当にあり得る感情だからこそ。
それに気づき、恋を受け入れるレイチェルには、「おめでとう」なのだ。
「時間も相手も、悩むこちら側を気にかけ続けることは出来ないのが、現実の難しいところ。
だからこそ、レイチェルちゃんが自分の気持ちや他人の横やりを気にする事なく、
自分の気持ちをしっかりと、誇れるようにしてあげて」
「でも――」
「貴女が恋を理由に、相手の行動に口を出してしまう事が訪れてしまいそうなら、
自分の抱えている気持ちを"自分が確認し認めるため"にも、それを形にしてみることも忘れないでネ。
よく言うでしょう? 恋は盲目。自分の気持ちの形すら見えなくなってしまうもの」
■レイチェル >
「楽しい思い出を作る分、想いを寄せる不安は何度でも捨てて良い、か」
先生の言葉を、レイチェルは胸に刻むように繰り返す。
いつの間にか、どこかで。
この想いに対して自責の念を持っていなくてはいけないと、
抱き続けなくてはいけないと、そんな風に感じていたのだろうか。
そうして自分を傷つけることは、
相手のことだって傷つけてしまうだろうに。
「そうだな……」
自分の気持ちを、もう一度誇れるように。
嘘偽りのない気持ちを伝えたあの夜のように、誇りを持って。
それでも、相手を傷つけることがないように、優しさを持って。
一緒に日常を過ごす中で、楽しい思い出を作ることができれば。
レイチェルは、こくりと頷いた。
「ああ、盲目のまま振り回されないように気をつけるよ。
それであいつを怖がらせたく、ないからな。ゆっくり少しずつ、
許される限り一緒に歩いてみるさ」
そこまで口にしたレイチェルの顔は、先よりも随分と晴れやかな
ものになっていた。
そうして机の上の筆記用具を今度こそ仕舞い込むと、立ち上がる。
「……あんたの『授業』、受けられて良かったよ」
そうして最後に満面の笑みを見せた彼女は、
椿丸も聞き知っていた時分の、かつての彼女の笑顔だったろう。
■白泉椿丸 >
太陽という表現が似合いそうな笑顔に、こちらもニコっとつられるもので。
「それは何よりだわ。
正解のない"授業"だから、とても難しいけれどね。
好きだって気持ちごと愛に変えられる時まで、そっと見守っているわ」
立ち上がったレイチェルに、忘れ物に気を付けてとお約束を述べて。
「"大人"のお節介な言葉なら、いつでも引き出せるからネ。
指針の足しが欲しい時は、どうぞ声をかけて頂戴な」
乙女もそっと立ち上がり、軽く服装を正した。
指をぱちっと鳴らして、教室内の机や椅子の僅かな乱れを直す。
乙女は教師なので、生徒がいなくなるまでは、その場で静かに佇むだろう。
■レイチェル >
「ほんと――」
教師を背に歩き始める少女は胸を張って歩き始めたのだった。
これからまた苦しむことがあっても。
指針さえあれば。形を確かめれば。
きっと何度でも立ち上がることができるから。
「――良い先生だよ、あんた」
ほんのりと甘い香りを残して、太陽のような少女は教室を去るのだった。
ご案内:「第一教室棟 教室」からレイチェルさんが去りました。
■白泉椿丸 >
レイチェルが教室から去りゆき、シンとした静寂に包まれる。
乙女は窓際へと向かい、かたりとその窓を開けて――
「やっぱりかわいいわ~~~~~~~~~!!!」
その無駄に素敵な低音声を震わせ、生徒の恋事情への気持ちをひと吼えに収めたのであった。
ご案内:「第一教室棟 教室」から白泉椿丸さんが去りました。
ご案内:「第一教室棟 教室」にレイチェルさんが現れました。
ご案内:「第一教室棟 教室」からレイチェルさんが去りました。