2021/11/19 のログ
ご案内:「第一教室棟 職員室」にシャルトリーズ・ユニヴェルさんが現れました。
シャルトリーズ・ユニヴェル >  
常世学園の職員室。時刻は夕刻。本日最後の授業が終わり、
多くの教員達が各々寛ぎながら残った仕事を片付けている。
一種の退廃的な空気が漂う時間である。

そこへ。
ガラリと、鼻歌を歌いながら扉を開けたのは桃色髪のドワーフだった。
赤い髪留めで纏められた横髪が、元気よく揺れる。
背丈は……130cmに満たない。様々な種族が入り乱れるこの常世学園、
そして職員室の中でも、なかなかに異彩を放っている存在であった。


「おや、ユニヴェル先生。
忙しい中、保健《こっち》の授業を見て貰ってすみませんねぇ……」

小さなドワーフへ声をかけたのは、中年の男性であった。
広い肩幅のジャージに、首から提げたホイッスル。
如何にも体育教師、といった風貌である。

「いえいえ、やっぱり未来ある生徒の皆さんに授業をするのは、
 私にとって幸せな時間ですから~。何の問題もありませんよ~」

ほわほわと笑顔を振りまきながら、ドワーフは自らの席へと座れば、くっと背中を伸ばす。


「さて、と……」

両手をぱしり、と合わせて満面の笑みを見せるユニヴェル。

シャルトリーズ・ユニヴェル >  
――時は、数刻前、教室。

数多くの机が並んでいるが、そのどこにも座る者があった。
ある者は真剣にノートを取る準備をし、
またある者は、頬杖をつきながら
ただ目の前の人間がどのような動きをするのか意味もなく観察していた。


あと少しで、定刻。授業開始時間となる。
だというのに、教室へ教師が入ってくる気配は無い。
その壇上は、どういう訳か、空のままであった。


「遅刻か……?」

「休みじゃねーの、連絡あったかな。ま、休みだったらさっさと食堂へ行こ
うぜ」

金のオールバックを撫でる厳つい顔の青年と、
鹿撃ち帽に茶色のコートを着込んだ包帯男がそう語れば。

「そういえばあのじーちゃん先生、
 苺狩りの最中に襲われて入院したって聞いたけど。大怪我したって」

「えー、あれマジなの!? 
 まぁ、正直……来なかったとしても別にやること変わんないか」

「自習プリントやるだけだもんね~」

山羊の耳が生えた黒髪の少女と、ヘッドフォンを首にかけた人間の少女が語り合あう。

ぽつりぽつりと各々が零す言葉は次第にさざ波となり、やがては教室を飲み込む大波となる。

シャルトリーズ・ユニヴェル >  
騒きさざめきが十分に行き渡ったところで、
四方八方へ次第に大きさを増しながら立ち上がり始めるその波頭を。

「え~とぉ~~」

ぱしっと両断する声が響き渡った。
両断、というには些かのんびりゆるりとした声色ではあったが。

その柔らかな声は、空の壇上から放たれたに相違ない。
その時、気づけば殆どの者が固唾を飲んで、
何もない壇上へ視線を向けていたのであった。


沈黙の緊張が走る中。


「……あ~、皆さんそう畏まらず畏まらずで大丈夫ですよ~」


静寂の中、言葉が続けられる。
しかし、壇上には何の影もなく。

「前任のロダン先生が入院をされたということで……
この講義を任されることとなりました、
シャルトリーズ・ユニヴェルで~す!」

ふわり、と。
教壇の向こうから矮躯が飛び出してきた。
黒を基調にした魔導服に身を包んだ彼女は、
ふわふわと宙に浮いている。
彼女が授業中に好んで使う、浮遊の魔術――フロートだ。

「みんなと一緒に楽しい授業を作っていけたら嬉しいです! 
みんなぁ~、よっろしくぅ!!」

にっこにこの笑顔。
彼女が手にした白チョークをずびしっ、と突き出せば、
静まり返っていた教室が再び思い出したかのようにざわつき始める。

シャルトリーズ・ユニヴェル >  
「ユニヴェルって……去年イベントでアイドルとかやってた人?」
「OLT《アウトロー・ティーチャーズ》の一人に数えられるとも聞いたが……」
「いやいや、そんなまさか。そんな風には見えないって」
「でも、999人の生徒を退学にしたとか……」

ざわざわと生徒達が話し始めれば
こほんと小さな咳払いをするユニヴェル。


「という訳で、一緒に保健の勉強をしていきましょうね~。
えーと、プリントは先週にロダン先生が配った分を……
そのまま使えば良いと言われてるので~……
よ~し、皆さん。先週のプリントを机の上に出してください。

授業テーマは……『飲酒と喫煙の害』について?」

こてん、と首を傾げた後、小さな拳を握りしめるシャルトリーズ。

「よぉ~し、わかりました!
 それじゃあ皆さんの健康を守るため、授業いきますよ~! 
 分からないところがあったら、
 遠慮なく手を挙げて質問してくださいね~! 
 授業後の質問もばっちり受け付けてますので~」

そして、ユニヴェルの懇切丁寧な授業が始まるのであった。

『如何に依存が恐ろしいか』『若年層の摂取が危険であるか』
急に講義を任されたとは思えぬほど、彼女の口からはすらすらと
説明が出てくる。

事実として、
多くの生徒達が真剣な表情でその授業を受け切るのであった――。

シャルトリーズ・ユニヴェル >  
時は、現在へと戻り。

「ぷっはぁ~~!!! たぁまんねぇ~~!」

左手に煙管、右手に木製のジョッキを持ち、
満面の笑みを浮かべているのは、
先程まで授業を行っていた桃色髪のドワーフであった。

完全に気の抜けた表情をしており、
職員室の椅子の背もたれにぐぐ、と体重をかけて
仰け反る形で声をあげている。

には~、と笑うその口からは、
派手な紫煙が吐き出されていた。
文字通りの、濃い紫色である。
魔薫草と呼ばれる、
魔力を含んだ植物を乾燥・発酵させたものを燃している為に、
独特の紫色の光が煙の中で踊っているのである。

「やっぱり授業終わりの一服はたまんねぇですわ~! サイコ~!」

すかさず木製のジョッキに口をつければ、
ぐびぐびと音を鳴らしながら中身を一気に飲み干す。
これもただの酒ではない。ジョッキになみなみと注がれた魔昂薬。
とんでもなく強い酒である為、
特殊な体質を持たない限りは、推奨されない代物だ。
しかし彼女のようなドワーフにとっては、
不足した魔力を補う為の、重要なエネルギー源として有用なのである。
……それも、少量であればの話だが。

「ユニヴェル先生、
その……あんまり飲みすぎないようにお願いしますね……
授業で魔力を消費した分、補給が必要なのは分かるのですが」

ジャージの体育教師が申し訳無さそうに頭を掻いては、
ユニヴェルの方へ苦笑を向ける。

「はいはい、わかってんですよぉ~! 
ちゃんと魔力が回復したらやめますからぁ~? 
うぃ~……ひっくぅ!
っていうか、せんせーも飲みましょう~! 
ほらほら~、っていうか今夜飲まねぇですか?

 あっは~!!」

頭を抱える巨躯の教師に、
マイペースで酒を飲み干し続けるユニヴェル。

今日も、いつもの日常が過ぎていく――。

ご案内:「第一教室棟 職員室」からシャルトリーズ・ユニヴェルさんが去りました。