2022/01/09 のログ
ご案内:「第一教室棟 ロビー」に鞘師華奈さんが現れました。
■鞘師華奈 > ――眠い。相変わらず件の『極秘任務』の進捗は芳しくは無い。
そろそろ、クビか別の誰かに担当が変わるのでは無いだろうか?と、そんな杞憂も少々。
ロビーにあるソファーの一つに座り込みながら、缶コーヒー片手にぼんやり携帯の画面を眺める。
眠気覚まし――否、誤魔化しも兼ねて普段そんなに見ない動画サイトにアクセスしている。
…とはいえ、基本的に流行り廃りには疎い女なので、どれが面白いのかよく分からない。
「――適当に、アーカイブでも漁るか…もしくは生配信でも見るかなぁ。」
ズズ…と、缶コーヒーを飲みながら生配信のページへと画面を移行させる。
ピンと来るものが矢張り無いのと眠気のせいか、半ば死んだ目付きで画面をスクロール…
――と、一つの文字化けした配信タイトルを見つけた。
文字化けしたタイトルは他には見当たらない。
少し考えてから画面をタップして視聴を開始してみる。
■鞘師華奈 > 『……おはよう、ございます』
配信画面の向こうからおそらく配信者本人なのだろう。
丁度、女が視聴を開始したその瞬間に挨拶の言葉。
変なタイミングもあったものだなぁ、と思いながらぼんやり配信を眺めて。
女はこの少女のチャンネルの事も、その宣伝スタイルも一切を知らない…この時が完全な初見だ。
(…中々、独特の格好をしているなぁ。)
と、見た目からの率直な印象。とはいえ、眠気のせいで思考は半分死んでいるが。
ロケーションは雪の降りしきるバスの待合所。
半ば頭を空っぽに近い状態にしながら、ただぼんやりとその画面の向こうを見つめる。
――ふと気付いた。彼女の他には人気が全く無い。
こんな場所で配信をしていたら、普通は誰か乗客が来て配信に支障が出そうなものだが。
「……つまり、誰も来ないのを知ってるって事かな…。」
欠伸を一度噛み殺しつつ呟く。再び缶コーヒーを口に運びつつ視線は画面に固定されたまま。
■鞘師華奈 > 『うさぎがしぬゆめを見たことがありますか?』
配信者の少女が、寝起きなのかやや焦点の合わない瞳でカメラ?へと視線を向けて問い掛けてくる。
「…どうだろうね。夢を見てもおそらく殆ど覚えていない事のほうが多いし。」
会話など成立する筈も無いのは分かり切っていて、ただポツリと独り言を。
眠りに落ちる時は割とストン、と電池が切れた様に一気に落ちてしまう。
気が付けば朝を迎えていて、その間に何か夢を見たかどうかは曖昧で。
――覚えている印象深いものとしては、鮮血と炎と――奈落に落ちていく己自身、くらいか。
あぁ、つまり――…
「”自分が死ぬ夢”なら何度かある、かな――…まさに縁起でもないね。」
縁起物どころか逆に不吉なイメージしか脳裏には残っていない。
■鞘師華奈 > 『夕暮れのバス停で目を覚ましたことはありますか』
――いいや、ありそうだけど無いね多分。
『灰色の街で霧の上の空を見上げたことはありますか』
――いいや、そもそも空の夢を見た記憶がないかな。
『電信柱の裏で黒猫の目玉を拾ったことはありますか』
――ちょっと猫も飼ってるし出来れば拾いたくはないかな…。
『誰かの畑にくらげの骨を植えたことはありますか』
――くらげって骨なんかあったっけ?
『冷たい日の光に目を焼かれて泣いたことはありますか』
……最後に泣いたのは、『友達』の――…
『同じ夢を何日も続けて見たことは、ありますか』
――多分、無いとは思うけど…いや、あった気もする。
『――■■に■■■れて、■■■をした事がありますか?』
――ごめん、ちょっと聞き取れなか――…
「………は?」
思わず、間の抜けた声を漏らす。
半ば寝惚けていた頭に氷の芯を差し込まれたかのようだ。
最後のノイズ混じりの質問は、画面の向こうの少女は”口にしていない”。
(…参ったな…寝不足で幻聴でも聞こえたかな。)
残りの缶コーヒーの中身を一気に飲み干して一息。
画面の向こうを改めて眺めつつ。
「…最後のは兎も角として、まぁ幾つかは…かな。」
軽く目元を一度揉み解す。幻聴だろうがお陰で眠気そのものは割と飛んだ気がする。
ただ、直ぐに気が抜けてしまって、また中途半端に眠気が反動で戻ってきたが。
■鞘師華奈 > 「――…あ。」
【この配信は終了しています】
ブラックアウトした画面に無機質な文字。
最後の方は結局、見てはいたが聞き逃していたようだ。
やっぱり、眠気がある状態で見たら駄目だなぁ、と思いつつ。
溜息を一つ零しながら、動画サイトを閉じてついでに携帯もスーツのポケットへと放り込む。
コーヒーは飲み干してしまったので、完全に手持ち無沙汰だ。
「――ここにも喫煙スペースあればいいんだけどね…。」
なんて、言っても仕方が無いのだけれど。それに一応未成年である。
■鞘師華奈 > ――頭痛がする。最後のあの幻聴らしきものを聞いてから、どうにも頭の奥がチリチリするような。
それでいて、眠気は変わらずあるのだからいっそ、このまま気絶するように寝てしまいたい。
「――なんて、それだけは避けたいんだけどね…。」
顔を緩く振って。寝顔を人に見られるのは好きじゃない。
”死人じみた”寝顔なんて、一度死んでいるらしい自分には笑い話にもならない。
…そういえば、そっちの方の調査も進展がないままだ。
やっぱり仕事や学業と平行して”自分探し”は中々ハードルが高いものだ。
「――公安から提供して貰った資料から考えて…やっぱり…うーん…。」
考え込むが矢張り頭痛と眠気が邪魔をする。僅かに顔を顰めて「あぁ、もう」と悪態を零し。
■鞘師華奈 > じっくり時間を掛けていくべき問題だが、そう悠長に構えていられない理由も少々ある。
(…段々、眠りが深く長くなってきてるみたいだし…3年も経過して反動でも来たかな。)
当時の状況は断片的にしか覚えていない。
それでも、自分が蘇生した事実は受け止めて――
そして、思った。ただで蘇生なんて都合の良い事は無い。
「…蘇生、かどうか分からないけどツケが回ってきたと解釈するべきかな…。」
『怠惰』な自分が、最後は眠りながら息を引き取る、なんて皮肉もいい所だ。
とはいえ、焦りが無い訳ではないけれど闇雲に足掻いても解決する問題でもない。
――だから、今はその事実を自分の中にグッと押し込めて。
前へ進むという事は生きるという事。
半端な形で終わりなど、『相棒』や『友達』にそれこそ合わせる顔が無い。
■鞘師華奈 > 今すぐに寮に戻って自室のベッドで惰眠を貪りたい。
…が、まだ仕事あれこれで済ませておきたい雑務もある。
結局、ソファーから立ち上がれば、ややフラつく足取りで2本目のコーヒーを購入。
再び危なっかしい足取りでソファーへと倒れ込むように座り込んで。
「……根を詰め過ぎだとは分かってるんだけどね…。」
ただでさえ成果が出ていない。極秘任務とはいえ時間が掛かり過ぎている。
ボスはあまりお咎めはしないだろうが、一応公安の端くれとしては早めに任務は遂行しておきたい。
(焦りは禁物…ちょっと寝不足とか頭痛で思考が逸ったり鈍ったりしてるぽいし…。)
ある程度、冷静に自己分析出来る余裕は何とかあるだけマシか。
プルタブを開けて2本目のコーヒーをごくり、と一口飲んで小さく息を漏らす。
■鞘師華奈 > そのまま、ちびちびと眠気や頭痛と戦いながら2本目のコーヒーを飲み干せば。
「……よし、頑張ろうか…。」
言葉に覇気は無く、目もちょっと死んでいるが何とか立ち上がって。
ゆっくりと息を吐いて軽く頭を振ってから歩き出す。
…保健室で薬をちょっと貰ってから残りの雑務を済ませよう、と決めながら。
ご案内:「第一教室棟 ロビー」から鞘師華奈さんが去りました。