2022/01/26 のログ
ご案内:「第一教室棟 廊下」に皋嶺 冰さんが現れました。
■皋嶺 冰 > 「……はぁ」
小さな溜息が、廊下の雑踏の中に落ちていく。
夕暮れ時、下校と放課後活動で人の分布が分かれ始めていく時間の中で、忙しい人波を避けて一人、女学生は溜息をついていた。
手の中には、封筒と折り畳まれていたのを広げた紙。
……内容に目を通してはいるのか、ならばきっとそれが、
女学生がとても悩み、憂い、思わずため息を落とさずにいれない理由だろう。
「……困ってしまった。とても、とても」
――頬が赤い、瞳の中は言葉通りの色だけ。
「……これで四回目。私は……うん、どうすれば、いいのだろう」
手の中の紙を大事に大事に持ったまま、ぽつり。
「……初めて出会うのに、そう、言われても、答えられないじゃないか」
■皋嶺 冰 > 「……」
通りがかる人達は、不思議とその憂う姿に目をくれない。
くれる程の時間もないほど、忙しいわけじゃない。
過ぎていく人足の片隅で、廊下に立ち尽くしたままの女学生がいる。
別に不思議な光景でもない。
そこに一枚の、薄く透明な壁があって、世界ごと隔てられているといえば、そうとも言えるが。
女学生は、憂い、悩み、そのままでいる程に人の背景へとなっている。
数刻前まで、帰り道の寄り道のことや、女学生寮繋がりの友達のことなんかを考えていたのに。
「……一目惚れ、とか、初めて見たときから、とか、私は、そこでは見えていなかったんだ」
「私は見られても、私の見えないところにいられても、私は……困ってしまう」
「……ずるいぞ、人間……」
ご案内:「第一教室棟 廊下」に杉本久遠さんが現れました。
■杉本久遠 >
いつものように、教員らに頼まれた手伝いを済ませて歩いていると。
廊下の片隅で、やけにぽつんと立ちすくんでいる少女が一人。
「――むむ?」
どことなく見覚えがある。
あまりよく覚えていないという事は、新入生――一年生と言った所だろうか。
「こんにちは、一年生か?
こんなところでどうしたんだ?」
やや大柄な男、杉本久遠は、いつも通りの快活な笑顔を浮かべて少女に声を掛けた。
■皋嶺 冰 > ……大きな気配と、通る声。
憂い、悩む時間を橙色の夕暮れよりずっと力強い色で終わらせる人がいた。
はっ、と顔を上げて、紙の文字羅列に結ばれていた視線が、近づいてくる大きな男子へと向き……ちょっと上へ向いた。
少女の身長は150cmほど。対する貴方の身長は180cm以上。
かなり身長差があった。
「……あ、ああ……うん、その、少し困っていただけで……何でも、ないんです」
一年生、と明示されたということは、恐らく先輩だろう。
迷いのない歩み一つ、ここを通り慣れている足の所作。
佇まいを正して、いつものように微笑みを湛えての社交所作。
困っていた、とは正直に告げるが、大したこともない、と示してみせるが。
手の中の封筒と、その中から取り出された紙を大事に持っているままなので、その原因とやらも直ぐに見識れるもので。
■杉本久遠 >
「おお、困りごとか?
何か悩みがあるなら相談に――ああ」
近づけばさすがに身長差が大きい。
久遠は少し屈んで、少女と視線を合わせた。
「オレは杉本久遠。
君からみたら、先輩になるな!
それで、困りごとは大丈夫なのか?
この学園は年齢も種族様々だからなぁ、色々戸惑う事もあるだろう」
そう明るく、けれど優しく声を掛けるがこの男。
筋金入りの朴念仁である。
封筒や手紙らしきものを見ても、不思議そうに首を傾げるだけなのだった――!
■皋嶺 冰 > 「……うん。初めまして、杉本先輩。私は冰。皋嶺冰、といいます。
大丈夫か、どうかと言われると……」
視線が同じ位になると、瞳を揺らして、そのまま、やや横へ逃げる。
善意だろう、優しさだろう。きっと優しくて慕われる男性、先輩なのだろう。
……そういう人に、こういった相談は、少し、適切ではないのかもしれない。
考えるに、考えて。迷いもなければ、仕草に悟ってくる気配もない。
だったら、こう言った方が良いかなと。
「……"大丈夫"です。一人で、何とかなる困りごとなので。
それに、一度目じゃ、ありませんから」
――と、自信を見せて、笑顔で答えた。
目を瞑り、溌剌の笑顔でだ。
こうすれば、こういうタイプの人は深く追求することなく、
杞憂だったと思ってくれると。
■杉本久遠 >
「うん――?
そうか、大丈夫か。
何とかなる事ならいいんだが」
ちょっと釈然としないが、少女が頑張って作ったのだろう笑顔に、納得する事にしたらしい。
「皋嶺冰――良い名前だな!
よろしくな、皋嶺。
うん、皋嶺は笑顔が良く似合うな!」
とても整った顔立ちに、儚さを感じる色彩。
そんな少女の表情に華が咲けば、より一層かわいらしく見えるもの。
■皋嶺 冰 > 「……」
笑顔がよく似合う。この笑顔がか。
相手の真っ直ぐな善意が、ちょっとだけ胸に棘を立てる。
……"ごまかし"の笑顔を、そうやって褒めてもらう事を、素直に喜ぶには複雑だ。
手の中の手紙、封筒。それらを持つ手が少し力籠って、震える。
「……ありがとう」
笑顔を緩めて、小さく礼の言葉だけを返した。
後は、後は。
後?
「…………」
――まぁ、少しだけなら。
この人からなら、もしかしたら、何か良いアイデアが、名案が、貰えるだろうか。
だから、言葉を途切れさせて少し俯くと、ぽそ、と、小さく言葉を紡いでみる。
「……杉本先輩。挨拶と、まだ初対面で、こういう事を相談していいのか、どうか、わからないんですけど」
「……えと、はしたない質問かと、思いますが…………い、異性に、その、初対面で、ええと」
俯き、俯き、顔を完全に見えなくするほど俯いて。
「……好意を抱いた経験って、あり、ますか」
■杉本久遠 >
「ん?
おお、なんでもいいぞ、どんとこいだ!」
遠慮がちな少女にドン、と胸を叩いてニカっと笑う。
そして質問を聞いて少し考える――事もなく。
「うん?
あるぞ?
というかだな、今オレが好きな女性がそうだな」
と、真っ正直に答えるのだ。
■皋嶺 冰 > 「……え、あ、あっ!?」
――「きょあ。」と、発音してからそのまま口の形を維持しよう。
それが今の少女の顔だ。
目を見開き、真っ赤に染まった顔であられもなく口をカっ開いている。
掛け離れていた。侮っていた。
思っていたよりも、目の前の先輩は先輩だ。先輩だったと認識した。
「……ち、なみに、あの」
そのままぱくぱくと口を慌てさせながら、言葉はゆっくり、
着実に、伝わるようにだけでもと頑張って動く。
「……それを、女性の、人には……」
「……もう、伝え、て?」
■杉本久遠 >
「うむ、伝えたぞ。
『君がオレと一緒に居ても良いと思えるようになったら、妻になってくれ』と、伝えてある。
あとはそうだな、つい昨日、デートに誘うつもりでメッセージを送ったな」
羞恥心が存在しないのだろうか。
何一つ包み隠すつもりがなさそうだ。
「ただなー、まだ彼女と恋人になれたわけではないんだ。
とても親しい友人であることは確かなんだがな――だはは!」
頭を掻きながら、口を開けて笑う。
「しかし、それを聞くという事は――そう言った悩みごとなのか?」
ふむ、と神妙な顔になってたずねてみるのだ。