2022/01/27 のログ
■皋嶺 冰 > 「…………つま」
結婚前提。とんでもない駆け足で関係を詰めていこうとしている。
……いや、凄い。凄いと、思うけれど。
――困って、しまった。
「……、…………先輩」
維持していた笑顔を、少し、崩れさせて。
段々と、溌も剌もない、困り顔から、視線を落とし、
頬に手をつけ、ぎゅっと手を握りしめて。
「……それを、向けられている側、です。
――初対面の、名前も知らない人からの」
何も分からない、初めて出会う異性からの。
「とても、真剣な言葉で、手紙を……でも、もう、四度目。
同じように、みんな、真剣で、みんな、本当に、私なんかに……好意を、持っていて、くれて」
「……けど」
口から上は、全部、白掛かったように輪郭を得ない。
だって初対面なのだ。名前も解らないのだから。
その相手から、口々に。
「……答えられないんです。答えないといけないけど、見られていても、見えない場所からじゃ、私には、相手のことを考えることなんて、出来なくて」
だから、女学生は、"困ってしまっていた。"
「……私、どうすれば――」
――下校を急かすチャイムが、ここで鳴り響いた。
■杉本久遠 >
「――ふむ、そうか」
しっかりと話を聞いて、ゆっくり頷く。
鳴り響くチャイムが止むのを待って。
「オレは好いた惚れたに鈍感な自覚はあってな。
今の彼女への想いも、つい最近、彼女自身に自覚させられたばかりで」
たはは、とここでやっと恥ずかし気に笑った。
恥ずかしがるポイントが少しズレている。
「皋嶺は、優しい子なんだな。
相手の気持ちに、しっかりと向き合おうとしているんだな」
うん、と大きく頷いて、また力強く笑う。
「わからないのなら、わからないで良いと思うぞ。
わからないから、知りたい。
そうでないなら、わからないから答えられない。
正直に答えるのが、皋嶺自身の気持ちを偽らない方法じゃないか?」
あまりにも真っすぐな男は、後輩にそう答える。
「見えない場所からじゃわからないなら――見える場所まで行けばいいのさ。
答えないままでいられないのなら、思い切って会ってみるのもいい。
なんにしても、手紙を持ったまま迷っていても、皋嶺の気持ちは晴れないんじゃないか?」
それが、『どうすれば』といった少女への久遠の返答だった。
■皋嶺 冰 > 「…………そう、か」
先輩からのアドバイスは、ドが付くほどに『正直者』でいる。
相手に偽らせないために、己を偽らない。
だから、まず思うままにで、いいのなら。
「……判らないままでいたくはない。けれど、少なくとも、私は、……うん」
「……みんなに、お礼と、謝罪をしないといけないな。
――好きになってくれても、判らない相手とは、きっと、上手く仲良しにはなれないんだ、って」
くしゃ、と、初めて、痛みを吞み込んだ苦笑いを見せた。
想いに答えきれない。答えられない。
それでも、燻らせて、偽ってしまうよりはずっと清廉潔白な選択を選ぶことを決意したのだろうと。
「うん。ありがとう、先輩。御蔭で、嘘をつかずにみんなに向き合える。
……私は、異性から好きになられるより、異性に向かって好きになりたい方なんだ」
最後にそう言って、深く頭を下げた。
「……これから、この手紙をくれた誰かのところへ、行ってくる。
本当に……本当にありがとうございました」
――お礼と共に、重い憂いの陰を払った、儚げな笑顔で。
女学生は廊下の雑踏の余韻の中へ、歩き出していった。
■杉本久遠 >
「――ああ、きっとそれがいい」
複雑な想いを秘めた苦笑いは、先ほどの笑顔より輝いて見えた。
少女の迷いに少しは力になれたのだろうか。
「好きになりたい、か。
うむ、いいな!
きっと皋嶺ならいい出会いができるさ!」
ぐっと親指を立てて、自信満々に笑って見せる。
「おう!
皋嶺の気持ちはちゃんと伝わるさ。
思い切って行ってくるといい!」
そして、その後輩の小さな背中を、手を振って見送るのだった。
ご案内:「第一教室棟 廊下」から皋嶺 冰さんが去りました。
ご案内:「第一教室棟 廊下」から杉本久遠さんが去りました。