2022/04/28 のログ
紅李華 >  
 
「はーい!
 んーふんー、さだはる、なんだか慣れてるー?」

 手つきがやさしい!
 嫌がっててもらんぼーしない、すごくやさしいひと。

「んー、んー――だーめー!
 おもーい!
 たおれちゃうー」

 こてーん。
 髪の毛がおもたくて、首がたおれちゃう。
 かっくん、とみあげると、さだはるのしぶーいおかお。
 とーっても嫌そうな、こわーいかお。

「さだはる、お花きらい?
 でも、ごめんね。
 この子抜いたら、人家、しんじゃうから。
 人家、この子のおかげで、生きられてるから」

 さだはるが嫌いなのは、なんとなーくわかる。
 きっとこの子だけじゃなくて、この子がいないと生きられない、本人のことも嫌いなのかも。

 でも、やだな。
 本人は、さだはるとなかよしになりたいのにな。

 ――見上げる瞳は、申し訳なさそうであって、とても寂しそうでもある。
 それはそれとして、背もたれにいっぱいまで凭れかかった李華は、放っておくとひっくり返りそうなバランスだ。
 

東山 正治 >  
「こう見えて遊ぶときは遊んでたからな」

ちゃんと若いころにはしっかりやんちゃしてた。
その中で学んだ女の扱い方。紳士とは言わないが
女で火遊びすることだってあった。今じゃいい思い出だ。

「重いってなぁ……」

重い。これは予想外。
そこまで貧弱だとは思わないだろ、そりゃ。
流石にこれにはやや呆れ顔だ。
やれやれ、と肩を竦めれば見上げる瞳に苦笑を浮かべた。

「別に。そいつも嫌いだけどおたくも嫌いだよ」

勿論それも嫌いだがそうじゃない。
須らく、異能者もまた異端。嫌悪の対象だ。
相手がどうとか、向こうがどう思っているなんて知ったことじゃない。
唾棄すべき異端をは致して何が悪いのか。
人間の世界に土足で踏み込んだ"ソレ"に、好感を抱けなんて土台無理な話だ。

「気にするんなよ。俺、大体の奴は嫌いだからそういう意味じゃ平等だから。
 ……つーか、束ねただけで重いってな。少しバランスとるか、背中向けよ」

へらへらと笑う口元は澱んだ悪意に歪んでいる。
異能が、異端が"普通"だなんて、思えるはずもない。

唯一の救いは、それはそれという割り切りができる事。
彼は"律"には忠実なのだ。自らの感情の優先所をわきまえている。

紅李華 >  
 
「むー、人家はさだはるのこと好きだよ?」

 でもきっと、さだはるにはかんけーない。
 こーやって、お話ししてくれるだけ、きっとなかよししてくれてるんだと思う。

「んーんー、気にしないよ。
 えとねー、こっちと、こっちにわけてー。
 ひとつにするとおもたいの!」

 首がいたくなっちゃう。

「――いのう、なければよかったのにね」

 そしたらきっと、本人も、哥哥も、もうすこしふつーに生きられたのかな。
 さだはるも、こんなにたくさん、嫌いにならなくてもよかったのかな。
 仮定、いみないけど、考えちゃう。

 ――再び東山に背中を向けて、頭の左右で髪を握って見せる。
 伸び放題の身長よりも長い髪は、一つにまとめてしまうとバランスが取れないのだった。
 

東山 正治 >  
「そりゃどうも」

そう、関係ない。
相手がどう思ってくれるなんてどうでもいい。
未来永劫、この飄々とした悪意は埋めようがないと。

「失敗しても文句言うなよ……?」

とはいえ、そんな女のおしゃれに強い訳じゃない。
とりあえず応用で縛ってみれば行けるだろうか。
一旦ヘアゴムを取り外し、再びフリーになる髪。
本当に伸びっぱなしだ。それから枝のように。

「李華ちゃんさぁ、いい加減切りなよ。その内踏んでこけるよ?」

そもそも根本的に邪魔なら切っておくべきだと思うというか、そのほうが相手の場合手間がない気もする。
おしゃれ?知ったことかよ。とりあえず今度は軽めに櫛で解き
均等になるように髪を束ねて右と左。左右にきゅっとヘアゴムで止めた。
バランスは……まぁ、ぱっとみ悪くないように見える。
さじ加減だ、細かいことなんて知らない。

「これでいいかい?」

とりあえず手を離した。満足か、と。
そうして話題をそらして、敢えて答えはしなかった。
"それ"を答えてしまったら、歯止めが利かない。
きっと自分が自分でなくなる。"今更"だってさ。
だから東山は何も答えない。理性の悪意が押しとどめる、お互いのためだ、と。

紅李華 >  
 
「やだー、きらないー」

 たくさん、きりなさいーって言われるけど。
 きったらなくなっちゃうから、きりたくない。
 それにまだやくそく、叶ってないもん。

 さだはるが、ふたつにしてくれた。
 うん、首も痛くない!

「んっ、謝謝――んん、ありがとーさだはる!」

 くるん。
 後ろをむいて、えがお!

「ねーさだはる!
 またね、たまにでいーから、結んでほしい!
 ――だめ?」

 だめって言われるの、わかる。
 でも。
 やっぱり、拜拜よりも再见のほうがいいから。
 

東山 正治 >  
「おいおい、本当にガキじゃないんだからさぁ……」

まったくもって子供っぽい。
とはいえ、そこまでして切りたくないのであれば何かこだわりがあるらしい。
そうであるなら強く言っても無駄だと思うが……。

「(科学者って奴は、皆こんなんなのかねぇ……)」

癖が強いというか、アクが強いというか。
まったく、嫌なことをちょっと思い出してしまった。
どうにもこういうのには縁があるというのか。いやな話だ。

やれやれと思っている矢先、まさかのおねだり。
これには思わず苦笑せざるを得なかった。

「イヤだね、シャルちゃんにでもしてもらいな」

わかりきった答えだ。
誰が好き好んで化け物の肌なんて触るものかよ。
ひらひらと手を振って拒絶の意思を示せばくるりと踵を返した。
目的のものは既に手に入れたし十分だ。
たとえ女であっても鳥肌が立つのでノーサンキューだ。

「ま、気が向いたらしてやるよ」

懐に収めておいたジッポライターを弄びながら
魑魅魍魎の巣を後にした。

紅李華 >  
 
「那倒是――」

 やっぱりだめだった。
 それは、そう。
 嫌いなひとに、さわりたくなんて――

「――真的吗!?」

 びっくりした!
 じょーだんでも言ってくれない。
 そー思ってた。

「嘻嘻――さだはる、だいすき!」

 さだはるは本人を見てくれない。
 でも、やっぱりさだはるはいいひとだった!

「――再见、さだはる!」

 おっきい背中。
 いっぱい手をふって、お見おくり。

 ――それから、李華は授業の準備をする。
 李華の東山への態度に、周囲は驚きを隠そうともしていなかったが、李華は一つも気にしない。
 この日一日、李華は東山に結んでもらった髪を嬉しそうに弄びながら、鼻歌を鳴らして過ごすのだった。

 

ご案内:「第一教室棟 職員室」から東山 正治さんが去りました。
ご案内:「第一教室棟 職員室」から紅李華さんが去りました。