2022/07/09 のログ
ご案内:「第一教室棟 教室」に清水千里さんが現れました。
清水千里 >  
「こんにちは、諸君。そして、夏休み前の奇跡論特別講義へようこそ。まず初めに自己紹介をしておこう。

 私の名前は清水千里。

 この特別講義は普段私の講義を受けていない人間が対象であるから、君たちに会うのは初めてということになるが、
 もしかしたら私の顔や名前を知っている人間がいるかもしれないから経歴を簡単に説明しておこう。

 私は5年前までアメリカのミスカトニック大学で数学講師をしていた。
 それからこの学園で諸君らと同じように4年間学び、今年からここで教鞭を執るようになった。

 それにしても、この学園は実にあらゆる点で自由が保障されている。
 君らも見ての通り、私はまだ20代の前半だ。普通の教育研究機関では、私のような人間は一番苦労する。

 つまるところ、ミスカトニックがそうだったのだ。
 若い人間はしばしば若いというだけで疑念を抱かれ、過小評価される。
 恐らく君らの中にもそういう人間がいるとは思うが――」

清水千里 >  
「それはさておくとして、今日の講義の内容を説明しよう。

 私は奇跡論という分野を専門にしている。知らない、それとも聞いたことはないか? 

 奇跡論とは、大変容以降、いや、本当はそれ以前からあったのだが、
 文明社会に発現するようになった異能や魔術といった超常的な現象を、科学的手法によって研究する学問だ。

 然しだからと言って、この講義を受けたからといって他者より優れた魔術師になれる訳ではないことに注意してほしい。
 私が諸君に今日ここで講義する内容は、諸君らの価値を高めるためにあるのではない。

 ――むしろその逆であることを理解するようになるだろう。

 そうしてこの短い講義が終われば、君たちは自分の能力を超えるものが目の前に現れた時、
 すなわち事態に直面した時、何を考えるべきか、そして何をするべきかについて理解できるようになるだろう。」

清水千里 >  
「21世紀まで、魔術師は世界中にいたが、彼らは日の目を見ることはなかった。その理由はなぜか。
 魔術の秘奥が国家権力の元に検閲されたり、魔術師が異端審問にかけられたり?

 ――たしかにそういうこともあったが、しかしそれらは真の理由ではない。
 ほんの最近まで、世界の多くの場所で医学的探究が目的であろうと遺体の解剖は道徳的犯罪行為だったし、
 地動説を頑として主張したジョルダーノ・ブルーノは火刑に処され、
 進化論を提唱したダーウィンは異端として告発された。

 しかし今やガレノスの四体液説は否定され、
 ケプラーの法則は子どもでも知る当然の真理になり、
 進化論はあらゆる学際分野を呑み込んで進化学という一つの大きな潮流を形成した。
 
 つまるところ、人類の歴史のほとんどの時期においては、それはありふれたことであり、
 科学と魔術はほとんどイコールだったのだ。」

清水千里 >  
「ではなぜ今日に至るまで科学に比して魔術はこのような地位に貶められているのか? 
 君たちは魔術協会を知っているかな? そう、つまるところそれが答えなのだ。

 魔術師は科学者のように、真理を世に出すことを望まなかった。
 それは彼らの血縁と家系という文明社会のごくわずかな極点にのみ集約されていた。

 そのような伝承的技能こそが今日魔術と呼ばれるものだ。
 だからこそ、魔術の理論は何十世紀にもわたってほとんど進歩することがなかった。

 職人が人から技を盗み、体で覚えるのと似たようなものだ。そこに技はあっても理屈はない。
 だからこそ『魔法は才ある術者を必要とする』と言われていたし、
 多くの魔術師は特殊な才覚を持つ者のみが魔法を起こせると考えていた。

 『何故?』や『どのようにして?』の答えが確立する事はなかった。
 ――そう、君らが今持っている異能や魔術、それも同じことなのだ。」

清水千里 >  
「その事実は、諸君らを不愉快にさせるかもしれない。

 『その逆』と言ったのはそういうことで、奇跡論の進展は諸君らの持つ能力が他の誰でも使えるようになり、
 誰でも諸君らの持つ能力の発動を阻止できるようになることを意味する。

 しかし、私はかつての科学の進歩がそうだったように、
 それこそが世の中を人類社会を豊かにすることになると信じているのだ。

 私が諸君らに言いたいのは、奇跡論とは「奇跡」ではないということなのだ。
 それは新しい分野の科学であり、想像もつかないほど数多くの未知が、
 まるで口火を待つ爆薬のようにそこに横たわっている。
 仮に適切な知識が到達すればそれらは全く異なる種類の物理的活動、
 つまり激しい知識創造をいきなりはじめ、元の状態に戻ることはなくなる。
 その環境は自然法則に内在するあらゆる種類の複雑性や普遍性、リーチを示すと共に、
 現在典型的なものから将来典型的になり得るものへと変化するだろう。

 そして我々はその口火となりえるのだ。我々はそうなるだろう。

 さて、講義を始めようか?――」

ご案内:「第一教室棟 教室」から清水千里さんが去りました。
ご案内:「第一教室棟 教室」に清水千里さんが現れました。
ご案内:「第一教室棟 教室」から清水千里さんが去りました。