2022/07/18 のログ
ご案内:「空き教室」にレオンさんが現れました。
レオン >  
俺、レオン・ゼッファーは異邦人である。
いわゆる異世界人というやつだ。
異邦人たるもの、この世界の勉強は欠かせない。
一般常識に欠けていると、何かと困るからだ。

というわけで図書室で『算数と国語と道徳』という
初等教育お得セットみたいな本があったので借りてみた。

この世界の言語を理解し、算数と国語と道徳を同時に学べる。
投げた石が四匹の鳥を一度に落とすに等しい成果が得られるだろう。

空き教室の適当な机に着席。

レオン >  
さて、早速勉強を始めよう。
おっと、その前に窓を開ける。
涼しい風が吹いてくる。

雨が遠いのか、夏がまだ本腰を入れていないのか。

一人で部屋にいるのに空調を効かせるというのもなんだかな。
勿体ない気がする。
というわけで窓を開けて勉強開始だ。

算数と国語と道徳 >  
ひろしくんは70円のパンをひとつ、50円のミカンをひとつ買います。
お金を出して買える日はまだいいほうです。
ひろしくんは貧しさとひもじさのあまり、パンを盗むことすらあります。
さて、ひろしくんは誰に裁かれ、誰に許されるべきなのでしょう。

レオン >  
「んん!?」

算数要素どこいった!?
あと国語はともかく道徳要素強すぎないか!?

う、うううん………
環境が悪い……と言い切るにも問題がある気がするな…
そもそもこれの答えってなんだ?
そもそもひろしくんは誰かに許しを乞うているのか?

とにかく読み進めてみよう。

算数と国語と道徳 >  
ひろしくんは70円のパンを盗んで走る夕暮れの街で、
奴隷商人に買われていく美しい少女を見かけます。
彼女の瞳に光も涙もなく、何も映さない緋の瞳が遠くを見ていました。
馬車の上で人形のように佇む彼女を見るひろしくん。

ひろしくんの汚れた手では誰かを守ることもできず、
彼女には信仰も救済も与えられません。
どうして神様は彼らだけ救ってくれないのでしょう。

レオン >  
おいちょっと待て。
悪化した。事態が悪化したぞ。

神様がどうとかの前に露悪的すぎるだろ!!
なんだこの世界観は!! パンが円で買える場所じゃないだろ!!

答えは出ない。出せるわけもない。
そもそも算数要素無いだろ。国語とヘビー道徳だろ。
常世学園は恐ろしいな!!
図書室にこんな本を置いてあるのか!!

頼む………ひろしくん…………!!
彼女をなんとかしてやってくれ…………!!
できるならハッピーエンドも拾ってくれ…………っ

算数と国語と道徳 >  
ひろしくんは忍び込んで盗んだ一本の刀剣を
重そうに持ちながら金持ちの屋敷を目指します。
彼女にただ、一度だけでいい。笑って欲しいだけ。
それだけの凶行でした。

ひろしくんは神を呪います。
どうして自分にこの武器を鮮やかに使いこなすだけの力を与えなかったのか。
どうして世界を歪んだまま良しとしているのか。

それはそうとひろしくんが盗んだ刀剣はいくらでしょう。

レオン >  
わかるか!!?
ノーヒントだろ!! 算数要素が!! ノーヒントだろ!!

そして重いよ!!
凶行って書いてるしハッピーエンドを放棄してるだろ!!

これじゃ算数っていうか惨数だよ……
これじゃ国語っていうか酷語だよ……
これじゃ道徳っていうか冒涜だよ……

答えなんか出るわけもなく読み進める。

算数と国語と道徳 >  
幾人かの命を奪った果てにひろしくんは少女の元へたどり着きます。
しかし少女はもう壊された後でした。
光を映さない彼女の瞳。

ひろしくんは叫びながら彼女にトドメを刺しました。
自分が何を求め、何をしているかもわからないまま。
彼女に安息を与える意図すら無い刃を振るいました。

でも、最後に彼女は。
異国の言葉でありがとうと言いました。
それはどうしてでしょう?

レオン >  
だから!! わかるか!!?!?
これ本当どうなるんだ!?
ひろしくんはどうなってしまうんだ!?

圧倒的バッドエンドの真っ只中。
答えなんか出るわけもない。
ただ、血走った目つきで本を読み進める。

あと算数要素本格的に放り投げやがったな。忘れてないからな。

算数と国語と道徳 >  
ひろしくんは慟哭します。
汚れた手で掴めるものなんてあるはずもなく。
神に見放された身で救えるものなんてありませんでした。

さて、

レオン >  
その時、空き教室のドアが勢いよく開かれた。
先程この本を借りた図書委員だ。

曰く、
『イタズラがメインの違反部活である“超迷惑”という組織に勝手に入れられた本だった』
『その本は回収していきます』
とのこと。

嵐のように算数と国語と道徳は図書委員が手に取り。
そのまま去っていった。

セミの鳴き声と夏の風が手前勝手に教室に入り込んできた。

レオン > 「ひろしくんは!?」
レオン >  
その叫び声は虚しく空き教室に残響したのだった。

ご案内:「空き教室」からレオンさんが去りました。