2022/07/30 のログ
紅李華 >  
 
「そーなのっ!?
 太好了! さだはるは甘いのすきじゃない、覚えた!
 嗯、りょーやくくちににがし?
 さだはるの身体にひつよーそうなの、合わせたの」

 これでもお医者さんだもん。
 さだはる、あんまりけんこーじゃなさそうだし。

「嗯、すこし?
 これ、人家がやった!」

 ぽんぽん。
 ずーっと手を挙げてたからつかれちゃったけど。

「――ンーッ!
 很好吃!
 哥哥のおべんと、おいしーよ!」

 けーきはせれねのほーがおいしーけど。
 りょーりは哥哥がやっぱりおいしー!

 ――嫌悪に皮肉を向けられても、どこ吹く風。
 好き嫌いの一つが知れたら、それを無邪気に喜ぶありさま。
 その上、普段の様子から生薬の調合も即席で、東山教諭に合わせたという。
 髪の事を訊かれれば、自分で結んだと、巨大な団子を両手で自慢げに叩いた。
 兄が作ったという弁当を食べて、本当に美味しそうにはしゃいで、全身の身振りで美味しさを表現していた。
 

東山 正治 >  
「覚えてどうすんだ。通い妻でも何でもねーんだろから覚えても仕方ねーだろ?」

今回だってたまたま気が乗った程度だ。
次があるなんて期待されても困る。
ハァ、と漏れたため息にその気持ちは籠っていた。

東山は勿論健康体とは言い難い。
公私で言えば公の割合が多く
特に教員と公安の二足わらじは睡眠不足の原因だ。
おまけにタバコ、とてもじゃないが健康になる気兼ねは微塵も感じられない。

「ふぅん。あ、そ。自分の身の世話位自分で出来るようになりな。
 誰も彼もが世話してくれるワケじゃねェし、女ならヘンなのにかこつけられても知らないよ」

「オタクは少し、人を疑う事を覚えなよ。
 この世に善意100%なんてのはねェ。バカが下心ありきだ」

「俺みたいにね?」

美人かどうかはこの際どうでもいい。
案外"異性だから"なんて面倒事は起きる。
特に"コレ"は警戒心が薄すぎる。諫めておかなければ後で面倒だ。
くつくつと喉を鳴らしながら笑いつつ、炒飯に舌鼓。
不味くはないし、寧ろ美味いが三口目以降からペースが落ちるのは歳のせいか。

紅李華 >  
 
「さだはるの事、知れたからうれしーの!
 へん、かなー?」

 なかよくなりたいから、なんでもしれたらうれしーもん。

「――好、好、好っ!
 えへー、しんぱい、してくれるのー?」

 きっと、言っとかないとめんどー、とかそういうの。
 でも、いってもらえるだけでも、うれしーの、さだはるはわかるのかなー?

「じゃー、さだはるはー。
 あくいなんぱーせんと?
 やっぱり、人家のこときらいだから、ひゃくぱーせんと?」

 あ、いまちょっとおいしそーなかおした!
 んふー、やっぱり哥哥におねがいしてよかった!

「阿、はい。
 とちゅーでのむと、ちょーどいいよー」

 おちゃ!
 おいしくはないけど、おなかがつかれたり、もたれたりするの、ふせげるのだー。

 ――箸が重くなったころに、お茶を勧める。
 独特の苦みがあるが、味が濃く油の多い中華料理には、ちょうどよく箸休めになるだろう。
 

東山 正治 >  
「…………」

軽く目を閉じ、失笑のような吐息が漏れた。
思わず背もたれに思い切りのけぞり、首を振った。

「……いーや?おかしくはない。
 よっぽど悪い事じゃなければ、ね」

良し悪しはあれど、未知こそ恐怖とはよく言う。
逆に言えば知る事こそ安心感を得るためのものだ。
それを"違う"と否定できる人間がどこにいるのか。

東山は紅 李華の事が嫌いだ。
彼女に限らず、この世を肯定する異能者が
のうのうと申し訳なさもなく闊歩する異邦者が嫌いだ。
だが、"それはそれ"。"これはこれ"。
人間的な好き嫌いがあるからと言って、道徳的なものまで否定しない。
それ以外は教師としても、元弁護士としても公平性は持つが故に"人間"であった。

「心配?冗談。李華ちゃんがメンドー起きると、尻ぬぐいがイヤなの」

「俺は、死んでもお前を助けたくないワケ。
 だから精々健康的に生きてもらわないとな」

彼が教師であり、人間でいようと思うからこその言葉だ。
東山自身は、『この世界』にとって"害悪"である自覚はある。
それを隠すこともせず、ひけらかす悪意がせめてもの抵抗だ。
その中で教師であり続ける、有体に言ってしまえば一線を越えない。

それもまた、『東山正治』という人間の全てではあるのだ。

半身を起こせば肩を竦めつつ、お茶を口に含んだ。

「……へェ」

確かに心なしか、胃が軽い。
口の油が洗い流された気分だ。

「悪くない」

そのまま箸を進めればあっという間になくなってしまった。
案外食えるものだな、と我ながら思ってしまった。

「……ご馳走様」

両手を合わせ、感謝の意思は忘れない。

紅李華 >  
 
「――对」

 そっか。
 さだはるのことばから、いっぱい、嫌いが聞こえてくる。
 けど、ふしぎ。
 それが「こわくない」し、「いやじゃない」。

「对对!
 けんこーにいきるよ!
 だって、おいしゃさんだもーん」

 えっへん。
 あ、でもおさとーへらさないとダメっていわれたよーな――いっかー!
 没事儿! 没事儿!

「阿ー!
 さだはる、たべるのはやいー!」

 もー、それにすぐかえろうとする!
 さだはるに「ぷれぜんと」あるのに。

「――等等!
 あのね、これ!
 さだはるにちょーざいしたの。
 さだはる『しんでも人家にたすけられたくない』でしょー?
 だから、『せーぜーけんこーてきに生きて』ね!」

 ――自分よりも早く食べ終え、さっさと席を立とうとする東山教諭に、慌てて、少し大きめの薬袋を自分の机から持ってくる。
 中には、東山教諭の健康状態に合わせて調剤された、一月分ほどの漢方薬が包まれている。
 飲めば、暑さバテしづらく、疲れが取れやすくなるだろう。
 東山教諭の、短い睡眠時間でもだ。
 とはいえ――受け取ってもらえるかは微妙なところだろうが
 

東山 正治 >  
「はいはい……」

それこそあしらうような態度だった。
何時もと変わらないヘラヘラとした態度のまま席を立ちあがる。
急いだつもりはないが食べるのは早い方。
食事以外に時間を割きたい性分だ。

「…………」

そして、机に置かれた薬袋にはそれこそ妙薬を口にした苦い顔をした。

「悪いけどいらないね。俺は長生きする気ないの。
 ま、俺以外の健康オタクにでもあげたら?それじゃ」

まさしく"余計なお世話"だ。
好きで不健康でいる人間なんだ、こっちは。
自分の体の事はよく知っている。
薬袋を一瞥して、振り返ることなく手で別れの挨拶して部屋を出た。

残された薬袋はまるで、"隔り"のように残ったままだっただろう。

ご案内:「第一教室棟 保健室」から東山 正治さんが去りました。
紅李華 >  
 
「――对」

 うん、そうだろーなってわかってた。
 でも、それでもやりたかった。

「拜拜、さだはる!
 ――再见!」

 さっさと出ていっちゃうさだはる。
 でも、つめたい、とか、こわい、とか。
 そういうふーには、やっぱり感じない。

「いーもん。
 じゃー、人家がさだはるが長生きするよーにしちゃうもん」

 笑嘻嘻。
 こんどは、どーやってお薬のんでもらおーかな?

 ――残された李華は、その薬袋に『隔たり』を感じた様子なんてなく。
 楽しそうに薬袋を抱いて、大好きな兄のお弁当を、幸せそうに食べるのだった。
 

ご案内:「第一教室棟 保健室」から紅李華さんが去りました。