2022/10/04 のログ
ご案内:「第一教室棟 職員室」に小鳥遊 日和さんが現れました。
小鳥遊 日和 > 職員室に来て端末を開く。
メールボックスは、通常業務の数倍のメールで埋め尽くされていた。
「うん、まあ…この季節だからね……。」

カレンダーを見る。 時は10月…そろそろ一年の終わりに差し掛かっている。
急激に増えたメールの正体は、10月末に行われるハロウィンの”要員”スカウトだった。
とどのつまりはコスプレ要員である。 各衣装や特撮、映像関連からアート…
様々な部が自分たちの衣装を着せる相手を探している。 自分もその例外ではないというわけだ。
普段(女装も含む)コスプレをしているのが功を奏したのだろう。
たしか少し前にはハーピーをやって、ちょっとした騒ぎにもなったはずだし。

「まあ、生徒たちが喜んでくれるならね…。」
自分の人気を、自分が教える蘚苔学にも分けてあげたい。
そんな思いを一人でつぶやきながら、メールを開封していく。

小鳥遊 日和 > 一通目のメールを開く。
「サ研……。 サバト研究会ね。」
通称サ研。 黒魔術研究会内の分科会として発足した研究会と聞く。
黒魔術を歴史的に紐解いて現代魔術と比較をし、云々…というのがコンセプトらしい。

『小鳥遊先生へ
 来たるハロウィンでは、小鳥遊先生に我が会渾身の衣装を着ていただきたいです。
 今回のテーマは、ずばり【魔女】です! 会のテーマにも、季節のイベントにも合った
 よい衣装かと思います。』

眼で文章を追い、小さくうなずきながら、内容を想起する。
確かに彼らのいうように、魔女というのはシンプルでいいかもしれない。
ローブや帽子、小道具ぐらいあれば十分だろうけど。

『髪の毛は黒髪ロングで、女子制服をベースに金色の縁取りをした豪奢な衣装です。
 武器は弓で、この弓はかつて一緒に戦っていた仲間の形見であるとともに
 変身アイテムでもあります。なお、ハロウィン後半ではパワーアップフォームを計画しております。』

「女の子向け番組の企画書かな!? あと魔女じゃなくて魔法少女だね!」
端末に突っ込むしかなかった。とりあえず読み進める。

『小鳥遊先生が女子生徒風の衣装を身にまとうということで、
 新たな客層を開拓できるのではと思う次第です。』

「あっ、先生に直接接続するタイプの設定なんだね?!
 先生仲間が死んじゃったことなんて一度もないし弓も使えないけど…。」
魔術とは、現実を書き換える物理法則とは異なるルールとされている。
急に現実に設定を接続しようとするところに、魔術の真髄を見た。

「これ以上読むと脳が破壊されるから、やめておこう…。」
速攻で返信ボタンを押してお断りのメールを送付する。
こんなテンションのメールが、大小様々な部活や組織から大量に届くのだ。
ハロウィンが終わるまでは激闘の毎日である。

小鳥遊 日和 > 次のメールを開く。
「次は~…。 ホラー映画研究会かあ! うん、これはいいね!」
思わずガッツポーズだ。 この行事はホラー映画でも定番なわけだし、
きっとここならいいアイデアを出してくれるだろう。

『小鳥遊先生へ
 歴史あるホラー研究会では、近年のハロウィンの娯楽化を憂いております。
 起源は古く、ケルトのドルイドたちが定めた祝祭が…』

「ち、ちゃんとしてる…!ちゃんとしてるよ!! 嬉しい…!」
目頭が熱くなった。 こんなに真面目にやっている生徒たちがいるなんて。
でも、ここからとんでもないことを言い始めるかもしれない。警戒しながら読み進める。

『……という神聖な行事であるからして、歴史あることを示したいのです。
 先生には、原点回帰したモチーフの衣装を纏って頂きたい。
 お願いしたいのは【吸血鬼】になります。』

「なるほどね、吸血鬼…」
ヴァンパイアは古くからお話のモチーフにもされていて、
ハロウィンの衣装としても鉄板だ。なにもおかしくない。
ウキウキしながら次の段落に目をやった。

『とはいえ、ただ古いものをそのまま出しても理解はされません。
 古いものをリスペクトすべきですが、理解してもらうにはわかりやすさも必要です。
 ここは我々の考案した『アメスク吸血鬼』の衣装で…』

「アメスクきゅっ……アメスク吸血鬼!?
 なんで!? えっ、ねえ…なんでぇ…!!」
端末に問いかけることしかできなかった。 古くからの伝統とはなんだったのか。
ヴァンパイアの上からぶちまけられるアメスク成分で何もかもめちゃくちゃだ。
クラシック感が完膚なきまでに破壊されている。

「こ、これもNGね…。」
げっそりした顔でお返事を書く。 
飲み物を口にして一息ついてから、次のメールを開いた。

小鳥遊 日和 > 「みんな、言いたいことは立派なんだけどなあ」
腕を組んで唸ってから、次のメールを開く。

「ロボットレース研究部…?」
嫌な予感がする。 メールを開く。

『小鳥遊先生へ ハロウィンの衣装はお決まりでしょうか!
 ぜひロレ研にご協力いただきたいです!』

「ロレ研って略すんだねえ…。 なんかイマイチ語呂がよくないな。」
つらつらと読み進める。

『ロボットレース研究部では、人間とロボットの未来を示すべく、
 ハロウィンでもグイグイアピールしていこうと思っています。
 そこで、お願いしたいのは【レースクイーン】……ではありません!』

「ありません!? そこでフェイント入れる必要ある?!」
まさか文章にフェイントを掛けてくるとは思わなかった。

『お願いしたいのは【人型ロボット】です。
 メカニカルなスーツと耳の部分にメカパーツを取り付けることで完成します。』

ちょっと安堵する。 まあわかりわかりやすいといえばわかりやすい。

『この人型ロボットをサブパイロットとしてレース用ロボットに乗せることで、
 処理演算能力を向上させ、よりエキサイティングなレースができる設定です』

「先生のメールは設定開陳の場所じゃないよ!?」
さっきからイラスト依頼サイトの依頼文みたいなやつが飛んでくる。
先生のメールボックスはそういうやつじゃないです!
「ああもう、NGNG…。」
つらつらと返信でお断りを告げる。