2022/10/15 のログ
ご案内:「第一教室棟 教室」に清水千里さんが現れました。
清水千里 >  
ある日の午前中、講義室の一角にて――


「――即ち、奇跡論とは、古来よりごく少数の魔術師のみに秘伝の知識として継承されてきた『魔術』や、
個人に対する神の恩寵<ギフト>としてのみ発現すると思われてきた『異能』など、
超常的能力に対する言語論的・認識論的転回、概念工学的試みと言い換えてもいいものだ。
19世紀以降諸学問分野でこのようなコペルニクス的転回が次々起こったが、魔術や異能研究とて例外ではなかった。
すなわち、それまで別の機序をとる力として思われてきた電気力と磁力が、
マクスウェル方程式の下に電磁気力として統一できるものだと発見されたように、
それまで固定的な概念として見られていた魔術と異能は、
「実は同じ原理の下違った形をとって発生する一つの自然現象」なのではないか――」

「ゲーテルは論理実証主義の金字塔たるヒルベルト・プログラムに深刻な転倒をもたらし、
内在的に無矛盾的な公理の存在に深刻な疑念を投げかけたし、
フェルディナン・ソシュールによる言語ゲーム論はわれわれのもつ自然な言語観というものがいかにあてにならないものか教え、
ダーウィンの進化論の実証的研究はキリスト教的な固定化された種の概念を根底から覆したし、
ハイゼンベルクによる不確定性原理の発見は古典物理学の根本原理が実際にはマクロな世界においてしか成り立たないことを証明した」

「むろんこの手の『学問的革命』についてあげればきりがないが
――ひとつ重要なのは、これら学問的革命によって、それまで非科学の領域に追いやられてきた魔術や異能研究が、
その壁ごと『科学的領域』の方から打ち崩され、
従来の数学とか、物理学とか、生物学の領域で矛盾なく理解できるようになったということだ。
実際、これは本当に革命的なことだったのだ」

清水千里 >  
「それでは、それらを科学的領域の知識で説明しようとする奇跡論はいったい何を明らかにしようとしているのか、
ということについて、老いた魔法使いから説明することにしよう。

全ての奇跡論研究者は、大なり小なり、ある一つの理論について明らかにしようとしている。
それはTheory of Everything<万物の理論>
――私はGrand Unified Theory of Complexityという呼び方のほうが好きだが、人気がないようだ――

『大統一理論』は、物理学で使われるそれと全く意を同にする。
すなわちそれが意味するのは、この宇宙に存在するすべての自然現象は、おそらくその起源と進化を含めて、
非常に複雑ではあるものの、私たちが自然に思うほど大規模で複雑ではなく、おそらく驚くほど単純であり、
それはちょうど、限られた数のエンコードされたプログラムが、実際には驚くほど多くの動作を実行できるように、
その理解には、追加の、人間の知性に理解しがたい、数学不可能な概念を必要とすることは全くないということなのだ。

じきに魔術や異能は、大統一理論のもとで理解される単なる自然現象に過ぎないものとなるだろう。
――君たちにとっては、これはとてもつまらないもののように思えるかもしれない。

しかしこれは私はとても面白いことだと思う。なぜなら、魔術や異能をはじめ、
宇宙では想像もつかないほど数多くの環境が,何十億年ものあいだ,全く何もせずに……まるで口火を待つ爆薬のように、
じっと待ち構えていて、そうした環境のほとんどが、適切な知識が到達すれば全く異なる種類の物理的活動、
つまり激しい知識創造をいきなりはじめ、元の状態に戻ることはなくなる。
その環境は、自然法則に内在するあらゆる種類の複雑性や普遍性、リーチを示すと共に、
現在典型的なものから将来典型的になり得るものへと変化する。だれもが魔術や異能を行使し、
しかも安全に行使できるようになるのだ。
望みさえすれば,我々がその口火になることも可能になるだろう」

清水千里 >  
「では、ここから私は、諸君を奇跡論の寄り難解な分野に誘うこととしよう――

君たちは講義が始まってから目の前の機械が何なのか気になっていただろう。
今から君たちにはこの機械を動かしてもらおうと思うが、その前にこれが何の機会であるのか解説しておく必要がある。

現代の奇跡論の研究者は奇跡論においてEVEというエネルギー体形を想定している。
Elan-Vital Energy,略してEVEだ。EVEが本当に存在するものかどうかは定かではない。

しかし仕方のないことだ、エーテル、フロギストン、原子と言った概念も、当時本当に存在するか定かではなかった。
にもかかわらず研究者がこのような曖昧な概念を利用するのは、それが最も『よい説明』だと考えられるからだ
――君たちにはこの『よい説明』という概念を大切にしてもらいたい。
科学者が理解できない世界を探究するとき、必要なのは権威に頼らず、
自分たちがいつでも間違う可能性を認め誤りを修正しようとする態度だ。
科学はこの態度を系統的に追及することによって進歩してきた。

――いかに都合の良い概念に思えたとしても、「細部を変更すると説明自体が成り立たなくなるような説明」でない限り、
その説明はよい説明として尊重されるべきなのだ。
当初都合がよすぎると批判された中性子だって、本当にあったのだから」

清水千里 >  
「話を戻そう。EVEはすべての生体から放出されるエネルギーであり――
超常的な自然現象を発生させる物体からも放出される。
これをアスペクト放射というが、アスペクト放射は密集したEVEであり、密集したEVEは強い現実歪曲効果を持つ。
――一般に、高い空間認識能力をもつ生命体や強力な魔術、異能ほど、そこから放出されるEVE、
即ちアスペクト放射も強い。

さて、君たちの目の前にある装置はEVEの測定装置だ。
既にデモタイプを起動してあるので、ヘッドセットを装着してみなさい」


「――よろしい。いま君たちがヘッドセットを通して視ているものは、
放出されるEVE、アスペクト放射の強さを可視光処理して理解しやすくしたものだ。
君たちの放出するEVEエネルギーを中心として、部屋全体が鮮やかなグラデーションを描いているのが分かるだろう。
放出されるEVEが強いほど、すなわち強力な魔術師や異能者は、
可視光処理された視界ではアスペクト放射の色は白に近づくことになる。
さて、ここで私は小さな魔術を行使する事にしよう」


「――変化が起きたのが分かったかな? 
私の周囲のアスペクト放射が強くなり、そしてなにより――周囲のアスペクト放射が弱くなった。
これがAetheric Resonance,エーテル共鳴と呼ばれる現象で、これはEVE自体が重みをもつことで発生する。
宇宙の重力場を想像してみればわかりやすいだろう
――君たちの放出する小さなEVE、すなわち地球の引力は、
今私の極めて強いEVE、即ち太陽の引力によって歪められている、
このため君たちの持つアスペクト放射は弱められたわけだ。

しかしまずは、ある生命体のアスペクト放射は別の生命体の強力なアスペクト放射によって、
その放射パターンに大きな影響を受けることを理解するので十分だ。
そしてこれこそが、強いEVEをもつ強力な魔術師や異能者にとって力の制御が難しくなる大きな原因の一つとなる……」


「おっと、そろそろ時間のようだ。今日の講義はここで終わりとしよう、
次の講義ではアスペクト放射のさらなる分析を行い、奇跡論的現象に対する理解を深めていくことにする……」

ご案内:「第一教室棟 教室」から清水千里さんが去りました。