2020/06/17 のログ
■北条 御影 > ―すこし、急ぎ過ぎただろうか?
特に悪気があったわけでもない。
彼女のことは知らないわけではないが、過去の傷まで話し合える程に深い仲になれたことはない。
「あー…すみません。確かにちょっと変な感じですよね。
いえ、別にありすちゃんをどうこうとか、そういうことじゃないんです。
ただ単に、私の問題でして」
ばつが悪そうに頬をかき、立ち上がったありすの身体は何だか心なしか先ほどより大きく思えた。
成程、と心の中で一人頷く。
「―落ち着いて落ち着いて。さっきも言いましたけど、別にありすちゃんがどうこうなんてことは思ってないんですよ?
こんな可愛らしい女の子をからかって遊ぶような趣味はありませんし」
どうどう、両掌を地面に向け、何度か軽く押し下げるような動きを取った。
どう言葉を選んだものか。
「ただ単に、記録に残るものが欲しかっただけなんです。
私の…何でしょう、サガみたいなもので。記憶より、記録に残しておきたいんですよ」
どうにも要領を得ないふわふわとした回答に終始する。
それでも、決して害意を持って彼女に近づいたわけではないのでは事実だ。
「ただ、それがありすちゃんの「何か」を刺激してしまったのなら…それは、ごめんなさい」
これ以上の説明をしても到底信じてもらえるようなものでもない。
だから、ただ今見せられる誠意として、深々と頭を下げた
■城之内 ありす > 立ち上がった時、視線が、いつもより少しだけ高かった。
しまった、と、すぐに反省する。
御影がすぐに謝ってきたこともあって、怒りよりも後悔のほうが大きかった。
すとん、と椅子に座ったありすはもう、普段通りの大きさに戻っているだろう。
「ううん……私のほうこそごめんね、大きな声だしちゃって。その、写真って、あんまり良い思い出なかったからさ。」
御影のジェスチャーはまるで猛獣を相手しているみたいに見えて…ちょっとだけ、おかしかった。
心を落ち着けて、その言葉を最後まで聞いて…頭を下げる姿を見たら、何だか逆に、申し訳ない気がしてきた。
「いいの、大丈夫……でも、一つだけ聞かせて。
御影さん……私のこと、ホントに友達だと思ってくれるの?」
ありすにとって御影は、初めて声を掛けてきたクラスメイト。
けれど、もしかしたら、この質問を、過去にもしているかもしれない。
………もしそうだとしても、ありすは、それを思い出せない。
「私、ホントに友達居ないの…だから、御影さんが、私をからかってるんじゃなければ…私も、友達になりたいから。」
自分も同じように、スマートフォンを取り出す。
「撮りましょ、記念写真。」
■北条 御影 > 「―それは、本当に思ってますよ」
先ほどまで表情に張り付いていた浮ついた言葉が消え、
まっすぐにありすの瞳を見つめて告げる。
これは、嘘ではない。
例え自分のことが記憶から消えてしまおうとも、御影は出会った人皆友達でありたいと心から思っている。
否、願っている。一方的な思い出だけで終わらせるのが嫌だから、こうして写真を撮りたいと願うのだ。
「―ありがと、ありすちゃん。
私が友達いないのも、ホントですよ。一方的な片思いばっかりで…だから、ありすちゃんとは両想いになっておきたいんです」
スマートフォンのカメラを起動し、もう一歩、歩み寄る。
彼我の距離はどんどんと縮まって行き―
「それじゃ、撮りますよ!出会いの記念に―」
気づけば肩が触れ合う程の近さで横並び。
目の前にスマートフォンを突き出し、インカメラでちょうど二人がフレームインするように角度を調整。
背景はいつもの教室。
特別フォトジェニックな景色を背負っているわけでもなく、
エモーショナルな―エモい経緯があるわけでもないけれど。
それでも、この写真は御影にとっては特別だ。
そして隣の少女にとっても、自分との繋がりを保つための起点となればいいと願い、シャッターを切る。
■城之内 ありす > 御影の表情が変わったことに、ありすも気付いていた。
その意味までは分からない。
こんなに明るくて押しの強い御影が『片思い』ばかりなのは、何故なんだろう。
「……ううん、お礼言いたいのは私の方。」
肩と肩が触れ合って、二人で同じレンズを見る。
笑顔なんてずっと作っていなかったから、写真写りはきっと最悪だ。
そんなことを思いながらも…ぎこちなく、でも確かに、笑みをつくる。
「ちょっと待って、そのまま…!」
自分もスマートフォンを同じようにかざして…シャッターを切った。
並んだ2人の女の子。鮮やかな赤い髪の御影と、黒髪のありす。
その写真を確認して……ふふ、と、小さく、笑う。
「サボリの証拠、残っちゃったわ。」
久しぶりに、楽しいと、そう思った。
だから、ありすは少しだけ、勇気を振り絞って、
「……友達なら、連絡先とか、聞いてもいい?」
■北条 御影 > 「ふふ、見つかったら大変ですね」
教師にタイムスタンプと写真を見られればひと悶着ありそうな写真が出来上がる。
そんな曰くのあるものだからこそ、二人だけの秘密として、価値があがるというもので。
内緒にしましょうね、なんて付け加えて笑い合う。
「―えぇ、勿論ですよ。いつでも電話してくださいね!
メッセージだって、夜中でも朝でも大歓迎ですから!」
待ってました、言わんばかりに満面の笑みで手早く連絡先交換に移る御影。
精いっぱい勇気をだしたありすからすれば拍子抜けかもしれないが―
「はい、これでOKです!」
ぴろん、と可愛らしい電子音と共に、ありすのアプリ内に御影からのスタンプが届く。
何処か間の抜けた動物のキャラクターが手を振っている。
そして御影のアプリには、システムメッセージが一通。
『ありす さんと 友達になりました』
無機質なただの定型文。
それでも、御影はそれを見て笑みを隠しきれない。
大切な宝物を手に入れたかのような、子供っぽいにんまりとした幸せそうな顔だった。
■城之内 ありす > 「怒られる時は一緒だからね?」
もちろん御影がそれを教師に密告するなんて思っていないし、自分もそんなつもりはない。
だからそれは、ちょっとした冗談。
けれど、御影と2人で怒られるならそれでもいいか、なんて、勝手に思っていた。
「やった!」
御影の返事に、小さく、けれど声を上げてしまうありす。
送られて来たスタンプに、それなりに有名なねずみのキャラのスタンプが返された。
御影は勿論知る由も無いだろうが、ありすはこの島に来る時にスマホを買い替えて、全てのデータを消している。
だからこの瞬間、『友達』に登録されているのはたった1人。
御影の名前だけがそこにあって、ありすはそれを見て…久々に、心の底から嬉しい気持ちになっていた。
「そんなこと言ったら、宿題教えてって電話しちゃうけど?
私、数学ホント駄目なんだもの。」
まだ表情は硬いけれど、その声は随分と明るく。
■北条 御影 > 「ふふん、任せてくださいよ。
勉強は実はそんなに苦手じゃないんですから!」
えへん、と無い胸を張って楽しそうに笑ったところで、
丁度授業終了の鐘が鳴る。
やがて移動教室から生徒たちがぞろぞろと戻ってくることだろう。
だから、これで二人だけの時間は終わりだ。
友達として語り合えた時間もまた、終わり。
「おっと、そんなに話し込んでましたか。
それじゃ、先生に怒られる前に私は一旦お手洗いにでも行ってきましょうかね」
ぱん、と気分を切り替えるように手を叩くと教室の出口に向かって歩き出す。
戸に手を掛け、廊下へと踏み出す前に一度だけ振り返る。
「―宿題、教えてあげますから。きっとメッセージくださいね。
私と、ありすちゃんとの、約束です」
ぴ、と小指を立てて、笑顔を浮かべる。
この約束の意味も、この笑顔の意味も、きっとありすに伝わることは無いだろう。
だけども、やらないよりはきっと良い。
自分勝手な願掛けのようなものだけれども、
何もせず、ただ忘れられるのは嫌だったから。
ある教師の言葉と優しさで、無為に忘れ去られていく日々から一歩進む決意をした御影ではあったが、
その分、諦観に心を委ねることで隠していた己の弱さが、
久々の「友人」との別れにじくじくと疼き出す。
『あぁ、この約束が叶いますように。
どうかもう
この子を、私を、一人にはしないで。』
そう祈りながら、御影は教室を立ち去った。
ご案内:「第二教室棟 教室」から北条 御影さんが去りました。
■城之内 ありす > 「御影さん頼りになるー!」
この学園に来て、一番楽しい時間だったかもしれない。
自分から壁を作っているのだから、友達など出来るはずがない。
御影が『友達になりに来てくれた』のは、奇跡のようなものだった。
けれど、鐘の音が聞こえて、そんな時間の終わりを告げる。
「うん、約束ね……大丈夫よ、絶っ対送るから。」
小さな約束だけれど、ありすにとってそれは大きな意味を持つ約束。
初めての友達との、初めての約束。
「………………。」
御影が去っていって、教室が喧騒に包まれる。
ありすは静かにスマートフォンを手に取って…写真を見た。
初めての友達との、ツーショット。幸せそうな笑みの御影と、ぎこちなく笑う自分。
思わず、笑みがこぼれてしまう。
体育にも出ず、一人でスマートフォンを見ながらにやにやしている姿は、周囲からは異様に映るだろう。
けれど、そんなこと、どうでもよかった。
『私に、友達ができた。』
たったそれだけで、世界が明るくなったような気がした。
ご案内:「第二教室棟 教室」から城之内 ありすさんが去りました。