2020/07/16 のログ
日ノ岡 あかね > 「……『話し合い』の時に文句言うだけ言ってた人とか、後で手伝う~とかいってた人達も全然手伝ってくれないしー」

見えないところで何かしてくれてるのかもしれない。
だが、あかねの見えないところで頑張られたってあかねには見えないのだからそれまでだ。
見えるところで文句を言うけど、功労は見えないところでしますといわれても全く困る。
毎日毎日、寝る間も惜しんで『トゥルーバイツ』をやってるあかねからすれば心底遺憾だ。

「あとから自分で来て自分で選んで自分でやってるカギリちゃんが一番頑張ってくれてんだから……笑えるわー、笑えないー」

一度、考え出すと本当に色々出てくる。
あかね自身も驚く程だった。
まぁ、それくらいにショックだったのかもしれない。
他人事のように、自分の精神を俯瞰した。

「……私、ダッサ」

酷い話だった。

ご案内:「第二教室棟 廊下」に月神 詠さんが現れました。
月神 詠 > 部活を終え、いざ帰ろうかと思ったら、忘れ物をしていたことに気付いた。
教室まで取りに来たところ、窓際の最後列にある席に誰かが座っている。
制服姿、つまりは生徒のようだが……本来その席を使っているクラスメイトではない。
不思議に思いつつも教室の戸を開け、中へ入った。
からから、と引き戸の開く音がするだろう。

日ノ岡 あかね > 机に横向きに突っ伏して、セミロングのウェーブをだらしなく海藻のように広げている。
戸が引かれ、いい加減時間が経ってから……その本来、自分の席ではない席に座っている女……日ノ岡あかねは気怠そうに顔を向けた。

「……あー、もしかして、この席の子? ごめんなさいね、借りてたわ」

へらへらと笑う。
机に身を預けて転がったまま。

月神 詠 >  
「あっ、いえ。私(わたくし)の席はこちらですが……」

声をかけられて一瞬どきりとしたが、落ち着いて自分の席に向かう。
最前列、中央。教室で最も注目を集める位置に彼女の席はあった。
忘れ物───運動着の入った袋が横にかかっていることを認めてから、見知らぬ女生徒の方へ振り向く。
腰まであるグレーのロングヘアーが動きに合わせて背中を撫で、群青色の和柄が描かれた髪飾りが揺れた。

「私は月神 詠(ありあ)と申します。
 あなた様は……このクラスのどなたかと待ち合わせでしょうか?」

同じ学年の生徒の顔と名前は概ね記憶していると自負している。
窓から差し込む夕日が生み出す逆光によって顔はよく見えないが、少なくとも同じクラスの人間ではなく。
それでいて見覚えのあるような……なんとも曖昧な感覚があった。

日ノ岡 あかね > 「いいえー、ただ入り込んで勝手に休んでただけー。私はあかね。日ノ岡あかね。よろしくねー、アリアちゃん」

寝転がったまま、片手を振って答える。
ヒラヒラと振った片手は夕日に照らされて、蝶のように影を揺らした。

「退いたほうがいいなら退くわよ、アリアちゃんが来た以上、他の人も来るかもしれないって事だし」

よいしょ、と掛け声を掛けながら上体を起こして、広がった髪を手櫛で直す。
鏡がないので適当だが、それでも幾分マシになった。
日頃から、髪の手入れをあかねは細かくしている方だった。

月神 詠 >  
「日ノ岡、あかね様……はい、よろしくお願いいたします」

ひらりと揺れる手に一礼を返しつつ、その名前にもうっすらと聞き覚えがあった。
一年生の時、そんな名前の生徒が隣のクラスにいたような気がする。
いつからか全く姿を見かけなくなり、何かと噂されていたが……
当時はあまり他人に意識を向けている余裕がなかったため、それ以上のことは分からない。

「いえ、お構いなく。忘れ物を取りに来ただけですので……
 そちらの席の方は帰宅部ですので、本日はお戻りになられないかと」

勝手に使っていい理由にはならないだろうが、問題行為というわけでもないので煩いことは言わない。
それよりも、身を起こす前の彼女の様子の方が気がかりだった。

「随分と疲れた様子でいらしたように窺えましたが、大丈夫ですか?
 ご気分が優れないようでしたら、保健室まで同伴いたしますが……」

髪が乱れるほどに突っ伏していたのだから、気にするなという方が難しい。
差し出がましいとは思いつつ、そんな提案をする。

日ノ岡 あかね > 「大丈夫よぉ、本当に少し休んでただけだから。人付き合いとかでちょっと疲れちゃっただけ」

冗談めかしながら笑う。
実際、顔色などが悪いわけでもない。
見た目には、あかねは健常者だった。

「アリアちゃんはそう言う事ない? なんか、思わぬ事が諍いの元になったりとか……勘違いの元になったりとか……同じ言葉を使っている筈なのに、全然通じなかった事とか……ない?」

小首を傾げて、あかねは笑う。
背にした窓越しの夕日は、どこまでも紅かった。

月神 詠 > 確かに、やや疲れた顔をしている以外は問題なさそうだ。
体調不良でないと分かって安堵する一方、続く言葉には浮かない表情のまま。

「……そう、ですね。どちらも身に覚えがございます。
 お恥ずかしいことに、片方は私の方に非があるのですが」

あかね色に差す西日の眩しさに目を細めながら、自重気味に微笑む。
良かれと思ってやった事が余計に事態を悪化させてしまったり。
他人との感覚に"ずれ"を感じた経験は、詠にもあった。

「どなたかと諍いになってしまわれたのですか?」

そう訊ねてくるということは彼女もそうなのだろうか、なんて安直な考えで。
忘れ物は手に取らないまま、二、三歩ほど歩み寄る。

日ノ岡 あかね > 「色々な人とねー、現在進行形でね」

ケラケラとあかねは何でもないように笑う。
片手を軽く広げて肩を竦めながら。

「あと、最近いい感じになってる人がいるんだけど……割と何というか、こう……手が早い人で困ってるのよねー、恋に恋してる感じで、私のこと見てるんだか見てないんだかって感じで」

実際、見てくれているとは思う。
頑張ってくれているとは思う。
だが……あかねにも言葉にできないズレがある。
それも多分、致命的なズレが。

「まぁ、色々悩み多き年頃って感じ。アリアちゃんもそういうアレとかコレとかない? 友達とか、クラスの男の子とか、色々」

気安い感じで、あかねは問いかける。
相変わらず、夕日はあかねと詠を照らしていた。

月神 詠 >  
「まあ……あかね様も苦労されていらっしゃるのですね」

なんとも曖昧な物言いに、こちらも曖昧な相槌しか返せない。
こうして言葉を交わしてみても、彼女が進んで揉め事を起こすような人物とは思えないが……

「色恋に関しては経験が無いのでなんとも……
 ですが、言わんとすることは少しだけ分かる気がいたします。
 その方はもしかすると、あなた様を大切にしようと思うあまり、
 あなた様を想う己にばかり目が向いてしまっているのかもしれませんね」

大切な人に相応しい自分であろうと。その人を守れるだけの強い自分であろうと。
肝心のその人の気持ちを置いてけぼりにしてしまっているのではないか。
詠がそのことに気付いたのは、取り返しがつかない結果を招いた後だった。

「……他ならぬ、私がそうでしたから。
 ある人物から"それは驕りだ"と怒られてしまいましたが」

もっとも、人となりも知らない彼女の意中の人がそうとは限らない。
出過ぎたことを言いましたね、と申し訳なさそうに言葉を結んだ。

日ノ岡 あかね > 「想う自分ばかりに目が向いちゃう、か……」

自分ばかりに。それはしかし、あかねも他人の事を言えるとは思えない。
あかねだって、自分自身の為に動いている。
まぁ、義理と責任を出来る限り優先してはいるが、それだってどこまで出来ているかはわからない。
見えないものは見えない。わからないものはわからない。
無自覚を自覚するまでには多大な時間が必要になる。
それはきっと……誰にとってもそうなのだろう。

「アリアちゃん、悩み相談上手じゃない……とってもいい答えよ、それ?」

クスクスとあかねは笑う。
とても、嬉しそうに。

「ためになる話だったわ、ありがと」

月神 詠 >  
「そんな、お礼を言われるほどのものでは……
 たまたま私にとっても耳の痛い話だったというだけですよ」

両手をぱたぱた、首も一緒に横に振る。
他人事に思えなかったとはいえ、情けない失敗談を語ってしまった。
盛大な自爆と言ってもいいだろう。

「ですが、何かの参考になったのでしたら幸いです。
 大切な人との喧嘩別れは寂しいものですから」

叶うなら、もう一度その相手と話をするべきだろう。
お互いの認識のずれに向き合わないことには噛み合うこともない。
自分のようにはならないでほしいという思いを込めて微笑んだ。

日ノ岡 あかね > 「喧嘩したつもりもないんだけどね、ふふ」

まぁ、向こうがどう思っているかはわからない。
ただ、あかねからすれば……なんというか、もうちょっとしっかりしてほしいだけだ。
こうしていられる時間も、長いわけではないのだから。

「とはいえ、話が必要な事は確かだしね、アリアちゃんからの教訓……次に生かそうと思うわ」

そういって、立ち上がる。
長い事居座ってしまったが、ここは元々あかねの教室ではない。

「あ、そうだ、アリアちゃん、一つだけお願いがあるんだけど……いいかしら?」

月神 詠 >  
「次にお話しする時は、惚気話を期待しておりますよ」

冗談を言うような性格でもないのだが、あなたの語り口が移ったのだろうか。
立ち上がるのを見て自分も目的を思い出し、先ほど確認した運動着袋を取り上げる。

「お願い、でございますか?
 私で叶うことでしたら、内容にもよりますが……」

短いやりとりの中でいくらか気を許したらしい。
みなまで言わず、とはいかなくとも前向きに聞く姿勢のようだ。

日ノ岡 あかね > 「これ、一緒に撮ってくれない?」

そういって取り出したのは、古びたポラロイドカメラ。
今の常世島の技術水準からすれば……酷く時代遅れな代物だった。

「今凝ってるのよね」

にこりと笑う。
あかねの体格からすると、厳ついポラロイドカメラはいくらか不釣り合いだった。

月神 詠 >  
「それは……カメラ、でしょうか? 随分と大きな……」

あなたの取り出したポラロイドカメラを見て目を丸くする。
詠の家も大概な時代錯誤ぶりなので、機種の新旧にはてんで疎い。
……そういえば、廊下の掲示板に昼間は無かった写真が貼られていたような。
注意して見ていなかったので、どんな写真かは覚えていないが。

「そのくらいでしたら構いませんが……私はどうすれば?」

撮影係か、被写体か。あるいは風景探しだろうか?
いずれにせよ指示があれば要領良くこなすことはできるだろう。

日ノ岡 あかね > 「立っててくれるだけで十分よ」

そういって、隣まで近寄って、体を寄せて。

「えいっ」

夕日をバックに、二人の顔を一緒に写す。
相変わらずの自撮り風。
吐き出された写真がゆっくりと解像され、あかねと詠の写った写真が出来上がる。

「うん。いい感じ。それじゃ、はいこれ」

その写真を詠に手渡すと、あかねは一歩身を離して遠ざかる。
そして、笑いながら、カメラをしまって。

「じゃ、私は用事も済んだから……これで! またね、アリアちゃん」

そのまま、踵を返して去っていく。
足音一つさせず、猫のように何処へなりと。
教室には……相変わらずの真っ赤な夕日が、煌々と差し込んでいた。

ご案内:「第二教室棟 廊下」から日ノ岡 あかねさんが去りました。
月神 詠 >  
小首を傾げていると、不意に距離を詰められて。
こちらが何か言う前にシャッター音が鳴り、写真屋を通さずに現像されていく様に目を見張る。
そこには夕日に照らされた二人の姿が映し出されていた。

「えっ、これを私に?」

てっきり自分で持ち帰るものだとばかり思っていたので驚く。
しかし有無を言わさず踵を返されてしまい、茫然と立ち尽くすほかなかった。

「ええと、はい。お気を付けてお帰りくださいね、あかね様」

嵐のように去っていく背中に小さく手を振って見送る。
貰った写真を曲げないように持ちつつ、遅れて自分も教室を後にするのだった。

ご案内:「第二教室棟 廊下」から月神 詠さんが去りました。