2020/08/10 のログ
ご案内:「第二教室棟 教室」にヨキさんが現れました。
ヨキ > 昼下がりの美術室。
開放的で明るい自然光の差し込む部屋の片隅で、静物デッサンに励むヨキの姿がある。

モチーフとなっているのは、水が入った二リットルペットボトルや、折り畳んだ新聞紙、皺を寄せて置かれたタオルに、口を半分開いたスナック菓子の袋など。
誰でも手に入るような、ちょっとした品物ばかり。

「……………………、」

イーゼルに立てた大きな画用紙に、ひたすら向かい続ける。
数本の鉛筆を持ち換えながら、黙々と。

ご案内:「第二教室棟 教室」にキッドさんが現れました。
キッド > 学園内の牢かを歩く、煙草を咥えたろくでなし。
何を言っても、学園に籍を置く以上は学生が本分。
その身分は弁えているため、一応こうして真面目に学校には着ている。
授業態度もまぁそれなりに良いつもりではあった。
外側の窓の日差しはまだまだ暑い。暫く秋はこなさそうだ。

「…………?」

白い煙を口から吐き出し、何気なく教室の窓を見やった。
確か、美術室だった気がする。
窓から見えるのは、イーゼルに向き合う教師の姿。
キッドは芸術に興味は無かった。
ただ、人が真剣に何かに向き合う姿には"美しさ"を覚える。
その場で足を止めて、その鉛筆の行く様を碧眼が見据えていた。

ヨキ > 透けた質感、布地のごわつき、細かな文字、中身が垣間見えるアルミ袋。
それらの並べ方ひとつをとっても、奥行きや重なりが浮かび上がってくる。

廊下に佇むキッドに注意を払うこともなく、ヨキの横顔は一心にモチーフと画用紙とを見つめている。

やがて、間もなくしてスマートフォンのタイマーが小さく鳴る。

「……よし。休憩、と」

鉛筆を置き、スツールから立ってうんと伸びをする――
そこでようやく、キッドの姿に目を留めて。

「やあ、こんにちは。暑い中お疲れ様」

その場から手を振って、相手へにこやかに挨拶する。

キッド >  
指先の一つ一つ事細かに動く。
沁みついた動き、とも言うんだろうか。
手がける作品を人々は芸術と呼ぶが
キッドの目からすれば、この技術の方がより芸術的には見えた。
タイマーの音が聞こえたと思えば、此方に気づかれた。
フ、と笑みを浮かべて軽く肩を竦めた。

「御機嫌ようセンセー、随分と熱中してたみたいだな?」

美術室の扉を開け、ゆったりと入ってくる。
匂いはしないとはいえ、煙草の白い煙が美術室に漂い始めた。
キャップの奥の碧眼が、物珍し気に美術室を一望する。

「ハハ、アンタの方こそ精が出るねェ。
 一体、何を真剣に描いてたんだい?」

相手が教師だろうと、この気取った態度は崩さない。
"ろくでなしのクソガキ"と言われるなら、そう言うものだ。
口元をにやけさせたまま、イーゼルに目を向けた。

ヨキ > 室内へやって来るキッドの言葉遣いには、気にした風もなく答える。

「ああ。制限時間を決めているからね。
時間内はしっかり描いて、休憩時間にはしっかり息抜きする。
それがいい作品を仕上げるコツなのさ」

笑いながら、画用紙へ目をやる。
眼前の品物が写し取られたそのデッサンは、まだ完成ではないという。

「夏休みの間に、『デッサン教室』の配信でもしようと思っていてね。
誰でも楽しんで描けるようにはどうしたらいいか、考えておったのだ。

それで……、」

二本指を口元へやる。暗にキッドの煙草を示して、

「“それ”は、どうしても吸ってなくてはいけないものかい?
ここには生徒たちの作品も保管してあるから、あまり匂いや汚れを残したくなくてな。
何か事情があるようなら、考慮するがね」

部屋の壁際を一瞥する。
確かにそこには、授業や美術部で制作された絵や立体作品の数々が仕舞われていた。

キッド >  
「"メリハリ"って奴かい?確かに、疲れた体に無理しても
 ロクな結果にならねェのは間違いねェ。フフ……。」

全く以てと頷けば、指で煙草をとれば、天井に向けて白い煙を吐きだした。
如何にも思い当たる節が多すぎる言葉だ。耳が痛い。

「へェ、随分と熱心だ。ま、俺は芸術に興味はねェが……
 随分と生徒思いってかい?どうせなら、アンタもバカンスに出ればいいのによ。」

なんて憎まれ口を叩きながら、口に戻そうとした煙草が止まる。

「…………。」

見ての通りの態度だ。
腫物として扱われるのは苦ではないし、おまけに煙草。
素行不良と言われても致し方ない部分ばかりだが
この煙草をはっきりと指摘されたのは初めてだ。
ヨキの視線に合わせて一瞥すれば、多くの作品が其処にはある。
煙事態に匂いはないが、腐っても"薬品"。
何かしらの汚れが付かないとは言い切れない。

「…………。」

ほんの少し、間を置いた。
既に口元は笑っていない。
まぁ、世間的に見れば彼の言う事が正しい。
返事を返す前に、取り出した携帯灰皿に
手に持っていた煙草を押しつぶした。

「────いいえ、未成年で煙草は良くない。"貴方"の言う事が正しいですよ。」

なんて、ちょっと申し訳なさそうに笑みを浮かべた。

ヨキ > 「そう。特にこうしてずっと同じ絵を描いていると、出来不出来が分からなくなってくる。
時には休憩を入れて、離れたところから客観視するのが大事なのさ。

何、大したことではない。この夏休みは、帰るところがなくて退屈している者も少なくないからな。
皆でお喋りをしながら、お菓子を持ち寄りながら、絵を描いたり、暇を潰したりする時間を提供したくてね。
普段の仕事から離れて、これがヨキのバカンスのようなものさ」

呑気に笑って。

けれど、キッドが煙草を灰皿へ押し込めれば、ぱちぱちと瞬きして。

「――大丈夫なのかね?」

いの一番に出た言葉は、それだった。

「知り合いに、ニコチン中毒が居ってな。
煙草の匂いはこれでもかと嗅ぎ慣れておる。

……だが、君の煙草は、“何も匂いがしなかった”。

それで、普通の煙草とは成分が違うのではないかと思ってな。

この島には、さまざまな来歴の人間が居る。
頭ごなしに否と断じることは好きではないし――君の心身を案じるのも、また教師の仕事なのでな」

キッド >  
「ハッキリ言ってしまえば、大丈夫ではないですね。」

笑みを絶やすことなく、答えた。

「匂いはしない様に、調合をお願いしました。
 これは"そう言う煙草<モノ>"です。
 先生の言うように、普通の煙草ではないですね。
 "ニコチン中毒"って言うのは、間違いじゃないですよ?」

中毒性は抜群、依存度抜群。
実際、この煙草が無ければ今の自分はいない。
先程迄の無頼無礼のキッドとは打って変わって
物腰丁寧な"少年"がそこにいる。

「ほんの少しだけなら、大丈夫です。
 それに、貴方の言う事のが正しい。
 僕に芸術品はわかりませんけど
 血肉を込めた作品を稚拙な煙で穢すのは、どうかと思いますしね。」

その"正しさ"には従順だ。
事実、守られるべきものでもあるし
彼の教師としての立場を省みれば、当然の指摘だと思う。
キャップの奥で、仕舞われていた美術品を一瞥した。

「結構、ありますね。先生の作品もあるんですか?それとも、生徒だけ?」

「確かに、僕も帰る場所はないですからね。先生はとても、生徒思いな方のようだ。
 趣味と実益を兼ねた……って言うと、少し語弊がありますかね?」

「けど、いいんですか?先生だって、ご友人の方と本当に海とか言ったりとか……
 生徒の為に使う時間って、バカンス……と言うより、プライベートに入るんですかね?」

そして、当たり前のように話を続ける。
人間が入れ替わっている訳では無いが当たり前だが
少年は"気を紛らわすのに必死だ"。

ヨキ > 「……ふむ、やはりか」

苦笑いする。

「全く、君は人が好いな。
君が吐く煙だって、君の命に違いはあるまい」

笑いながら、室内の窓をいくつか開けてゆく。
夏の風が、レースカーテンを揺らす。

「ヨキの作品は、絵が何枚か。ほとんどが生徒の作品ばかりだよ。
島外のコンクール出展を目指す者や、秋の常世祭に出す者など、様々だ」

奥に並べられた木製のスツールを、もう一つ取ってくる。

「そう、趣味と実益を兼ねている。
ヨキは生徒を見守ることが楽しみであり、また生涯を懸けた天職なのさ」

話しながら、先ほどキッドが立っていた入口前の廊下に、スツールを並べて。

「あはは。その『ニコチン中毒』の友人が、海に行くようなタチではなくてなあ。
学内で一緒に、研究やら課外授業で過ごしているという訳だ。
君の言うとおり、ほとんどプライベートだよ」

あっけらかんと笑いながら――さて、と腰に手を当てて。

「お出で。ヨキは『大丈夫』な君と話がしたいんだ」

ヨキが指し示す先。美術室を出てすぐの廊下に、スツールが二つ。
美術室から廊下へと、真っ直ぐに風が通り抜けてゆく。

キッド >  
「御冗談を。だからって、人のものを穢すのも良くないでしょ?
 僕一人が我慢して済む問題なら、それが"正しい"。」

それこそきっぱりと答えた。
正しさに従うの人間だ。

「それに、人が良い生徒は、校内に凶器も煙草も持ち歩きませんよ。」

なんて、困ったように笑った。
自嘲とも言えるだろう。
ばつが悪そうに、頬を掻いた。

「成る程。なら、此れは皆の夢の結晶って言う所……ですかね?」

余りそう言うものに触れてこなかったが
聞けばより一層煙草を消したのが正解だと思えてきた。
徐に額を拭う。滲む脂汗は、暑いだけじゃない。

「……成る程、それは確かに"プライベート"だ。」

天職ともくれば、本当に文字通り
教師が生き甲斐の人なんだろう。
なんだか、自分の知ってる大人とは違う
妙な眩しさを感じて、思わず肩を竦めてしまった。

ヨキの動向を碧眼が追っていると、思わぬ申し出に目を丸くする。

「…………。」

「『大丈夫』、か……。」

今の自分が"そうではない"とでもいうのか。
いや、その通りだ。"こんな自分"を隠してる時点で
何一つ、人して大丈夫じゃない。
歪なのは、今更じゃないか。
小さく首を振れば、胸を押さえた。

指し示される先に廊下に出れば、ヨキへと一礼、会釈だ。
そのままスツールの上に座れば、ジャケットの裏側から
煙草を取り出し、咥え、慣れた手つきでライターで火をつけた。

「────全く、"人が良い"のはどっちだよ?」

呆れた声が、白い煙と共に吐き出された。

ヨキ > 「ヨキも正しいものが好きだ。秩序が好きだ。
だからと言って。誰かが我慢を強いられるなら、それは無用な犠牲だ。

ヨキは出来うる限り、誰もが気楽で居られる世界であって欲しい。
たとえ決して叶わなくとも――知恵を絞り出すことなら、出来るからな。

それに、大事な剣を没収されて、不安な気持ちに駆られてならない異邦人の生徒も知っておるでな。
君のその銃だって、何かヨキの与り知らないエピソードがあるやも知れんだろう?」

にっこりと笑う。

「夢の結晶。いいね。そんなところだ。
ここで作品の制作に打ち込んでいる者たちは――出会ってしまったのだよ、“そういうもの”に。
描くことが楽しいから描く。何かを作っていないと、息が詰まって死んでしまうから作る。
事情は人さまざまだが、そこに懸ける熱意はみな同じだとも」

招いた通りにキッドが廊下までやってくると、鷹揚に笑って頷く。

「……身一つで大らかに深呼吸も出来ぬ身では、さぞ苦労も多かろう。
語らなくともよい。ヨキはただ、君が気楽に、安心して、気軽に話せる環境を作りたい。

ふふ、お人好し、とはよく言われるよ。
この気質が災いして、欺かれたり、陥れられることも少なくなかった。

だがそれでも、ヨキは君ら生徒への気遣いを止めることが出来ない。
“我慢”の奥にこそ苦しみがあることを、知っているから」

キッド >  
「別に、望んで演(や)ってる事さ。
 風紀委員の爪弾き者、"ろくでなしのクソガキ、キッド"さ。」

先程とは打って変わって、最初に出会った通りの無頼漢だ。
フン、と鼻を鳴らせば深呼吸代わりに煙草を深く吸い上げた。

「…………熱意、ね。」

煙草を口から離せば、ヨキにかからない様に静かに煙を吐きだす。
目深にかぶったキャップの奥、碧眼がじっとヨキを見据えている。
随分と神妙は表情だ。

「……アンタ、さっき俺にこう言ったよな?
 『俺が気楽に安心して』……だったか?」

「気が合うな、センセー。俺も同意見だが、誰かが我慢しを強いられる環境を作るのは
 紛れもなく、その正しさに従えないクズ共さ。そう言う連中は"裁かれて当然"と思わないかい?」

ふ、と鼻で笑い飛ばせば口元が不敵に歪んだ。
正しさを、秩序を好むと言った目の前の相手は言った。
腰に添えられた銀色の拳銃を、軽く指先で小突いてやった。

「俺もね、"そうしなきゃ死んじまう"位の熱意を持ってる事がある。」

「世の秩序を乱す悪党を"裁く事"さ。
 俺の撃った弾丸で、悪党が死のうが関係ない。
 全部秩序の為、人様の為さ。」

「それが、どんな小さな"悪"であれ、秩序って言うのは、そういうもんじゃないのかい?」

「どうなんだ、センセー?」

そう、好むと口にした。
だからこそ、問いかける。
己の思う"秩序"、"正しさ"。
学び舎には大層不釣り合いな話題だが、キッドには関係ない。
返答なんて、期待しちゃいない。答えないならそれでもいい。
キャップの奥の視線の冷ややかさが、それを語る。

ヨキ > 「キッド君、か。
ほう、風紀委員であったのだな。
それはそれは、改めてご苦労様であることだ」

笑みを深めるキッドに反して、ヨキの穏やかな笑顔は変わらない。

「……君がその煙草を手放せなくなったのも、“正しさに従えないクズ共”の所為か?」

開け放した窓を背に、廊下の壁に凭れ掛かって座る。
膝の上で十指を絡め、リラックスした体勢で言葉を続ける。

「“悪”を“正義”が裁くことは、しかるべき措置だ。
そうでなくては、社会は成り立たないからね。

秩序のため、人様のため。それは全く結構。

だが個人の声高な正義は、むしろ島の秩序を壊乱する。
風紀委員である君が従うのは、“君自身の正義”ではなく、“風紀委員の看板”と、“常世島の法”なのだから」

首を緩く傾いで、キッドと目を合わせる。
造られたようにかたちの整った瞼は、地球をはるかに超えた異邦の顔立ちだ。

「風紀委員の威を借りて銃を撃つなら、まずはその“切っ掛け”を知りたいところだね。
如何にして君が銃を取り、風紀委員を目指すに至ったのか。

ヨキが君の煙草を否定しなかったように――事情を知らねば、是も非も答えられはせんよ」

キッド >  
「…………。」

思ったよりも真面目な返答だった。
少しだけ、目を見開いた。
こんな物騒な話にまともに取り合うのか、この人は。
だからこそ、この『初めて』に"訝しげ"に目を細めた。
有体に言えば、"警戒心"だ。16歳、子どもなりの"怯え"ともとれる。

「……訂正すんなら、風紀にいるのは"都合がいい"からだ。
 "便利"だからな、組織ってのは。別に、連中が抜けろといわれりゃ何時でも抜ける。
 "爪弾き者"だから、後腐れもないしな。俺は初めから、『自分の正義』しか信じちゃいない。」

ただ利用しているだけに過ぎないと言い放った。
初めから、キッドは己の信じる正義の為に戦っている。
合わせられた視線。キッドの視線は、ヨキを睨みつけた。

「……大体、『風紀委員の看板』だの言うが、連中に護るほどの大義があんのかい?
 『第一級監視対象<クズども>』と和気藹々するような連中と?
 『トゥルーバイツ』の時も、日和見を決め込んだ連中の看板が?」

声音が荒くなっていく。
積み重なっていた不信感を叩きつけるように吐き出した。
白い煙が千々れに口から漏れていく。
強く煙草を噛み締めた。ありありと、その"依存度"を示す様に。

「…………コイツは、ただの"薬"だよ。
 煙草として吸えるようにした"精神安定剤"。
 初めてチャカ弾いた時に、その"代金"としてついてきたモンだ。」

「────俺の両親は、まさしく"正しさに従えないクズ"さ。
 ソイツ等のせいっていうなら、その通りさ。文句あんのか?アァ?」