2021/03/25 のログ
ご案内:「第二教室棟 教室」に藤白 真夜さんが現れました。
■藤白 真夜 >
夕焼けが差し込む、誰も居ない教室。
放課後、課題の復習や、先生方の教材のお片付けを手伝ってたら、あっという間にこんな時間。
半ば机にもたれかかるようにして、差し込む西日を気怠げに見つめて、目を細めた。
私は、夕焼けが嫌いだ。
何もかも雑に赤く染め上げるそれが、私のトラウマを想起させるからなのか、
学校やいろんな物事が終わって、どことない焦燥感が湧き上がるからなのか、
ただ赤い色を見たくないのか。
わからないけれど、なぜか気が立つのだ。
「……はぁ」
小さくため息。
感情の籠もっていない、ただの。
私はあんまり、感情の起伏が在る方ではないと、思う。
きっと、そんなものを使い果たしたのだとも、
感情を動かすほどの価値が、私に、世界に、無いのだとさえ。
……けれど。
数年前のあの日から、ずっと感じている。
罪を償わなくては、と。
(……眩しいな)
暗い瞳が、紅い光を撥ねつける。
堕ちていく日を見つめながら、思い起こした。
ただ其処に在るだけで赦されない私の罪悪感と。
夕焼けを見て感じる、何処かに帰らなくては行けないという想い。
その二つが、似ているだけのことだった。
■藤白 真夜 >
今日は頑張ったし、一息いれよう。
そう、思っただけだった。
甘い考えだと言われれば、それまでだし。確かに、私も弛んでいるとは思う。
ただ少し、椅子に座り込んだだけ。
少し机にもたれかかって……楽な姿勢になって、夕焼けを見つめただけだ。
それだけなのに、私の身体は重く沈み込んだ。
底なし沼に沈む哀れな鹿――いや、腹を空かせた狼だ。
叶わぬ身勝手な願いと共に泉に投げ込まれた手垢に汚れた銅貨だ。
それが浮かび上がることはなかった。
机に頬を押し付け、ぐったりと倒れ込む。
わからない。
ただ、働き詰めで疲れているのか。
何か、良くないものが貯まりきったのか。
元々、怠惰な人間であっただけなのか。
あまりにも簡単に、動くはずの私の身体は、重苦しく鈍麻した。
私に、そんな余裕は無い。
動かなくては。
今日も、祭祀局でやることがある。
呪物を溜め込む必要がある。
苦手な呪詛の補填もそろそろやらなきゃいけない。
診療所のアルバイトも……、――。
少しも、進んでいる気がしなかった。
ただ、『良いこと』をしていると、罪悪感が紛れるだけ。
……わからない。私は、どこまで頑張ればいいのか。
■藤白 真夜 >
『呪われている』
研究所で何度も、文字通り染み込むほどに言われた言葉。
実験や、祈祷にお祓い、悪魔祓い――。
密教の秘儀だの、新神の降霊術だの、腕自慢のエクソシストだの。
あらゆることを試したけれど、私の身体が赦されることはなかった。
単純だった。そして、都合もよくなかったのだ。
私が、『良いこと』をした分だけ、身体が軽くなる気がした。
事実、少しずつしか私が赦されることはなく。
しかし、休める時は一時もなかった。
良いことは、好きだ。
人の笑顔が、好きだ。
希望が少しずつ視えてくるのが、好きだった。
……でも、この世界は、嫌いだ。
人は……優しいけれど、信用出来ない。
異能や魔術は信じられるけれど、歪だ。
異能や魔術は、人の願いに応え、絶望に突き落としもした。
……でも、元からだ。
世界が混じろうとも、異能が芽生えようとも。
元から、世界はそういうものだ。
世界は理不尽で、絶望に満ちているものだ。
他でもない私が、その証左だ。
堕ちていく日を見て、想い起こす。
私と似ているから?
焦燥感を思い出すから?
……違う。
私はそもそも、そういう人間なんだ。
頑張って、『良いもの』になろうとしても、ふとした拍子に、目が眩む。
夕焼けが差し込んで真っ赤になっている教室を見て、理解する。
自分が血に塗れていることを、思い出すだけだ。
■藤白 真夜 >
……私は、夕焼けがきらいだ。
差し込む日が、私の光ない瞳に、刹那煌めきを落とした。
何の希望も無い暗い世界で、血に塗れながらも走り続ける。
「……ふ」
お似合いだった。
そして、……だからこそ、私には、罰が必要だ。
夜明けは遠く――仮に希望は無いとしても。
足掻き続けることが贖罪なのだとしたら、それを受け入れるのに何の抵抗も無い。
罪人に必要なのは、罰だけだ。
「……ふふっ……」
眩いほどの夕焼けを真っ向から見つめて、目が白く眩む。
思わず、笑みが零れ落ちた。
……私は、夕焼けが嫌いだ。
だからこそ、夕焼けが好き。
どうしようもない私を思い起こさせて。
その度に、私は息を吹き返すのです。
どうしようもないからこそ、私には頑張る理由があるのだと。
■藤白 真夜 >
「よいしょ」
……重い身体に鞭を打って、立ち上がります。
実際のところ、さっきからずっと気になっていたのです。
出しっぱなしのチョークを容れ物にしまって。
白ずんだ黒板を雑巾で済まで拭って。
中途半端に仕舞われていない椅子を、がたがたと机に押し込んで。
出しっぱなしの箒と使ったバケツを掃除用具入れに入れて、おしまい。
「……ふ~、すっきりしました……」
汚れたものを全部片付けて、一人。
まだ、やるべきことは沢山ある。
……暗く、どうしようもない私/世界でも。
その暗がりにあってこそ、輝くものがあるはずだから。
だから、今日も私は『良いこと』を、頑張るのです。
ご案内:「第二教室棟 教室」から藤白 真夜さんが去りました。