2022/09/27 のログ
ご案内:「第二教室棟 教室」に黛薫さんが現れました。
黛薫 >  
先人に曰く、この世界の人々は未だに紙とペンに
勝る記録媒体を作れていないという。

説得力のある話だ、と黛薫は思う。
自分の手の中にある紙のレポートがその論拠。

確かに電子機器は設定された文字なら書くよりも
早く打ち込める。しかしながら、描くという行為
そのものに意味があり、都度調整を加える必要が
ある魔術文字には向いていない。

もちろんタブレット式の端末があれば紙と同様の
記述も可能だが、それは単なる代替でしかない。
電子技術と魔術の融和を研究テーマとする黛薫には
馴染み深い話であると同時に、いずれ克するべき
難題でもある。

黛薫 >  
そんな遥か先を見据えた話はさておいて。
本日教室棟を訪れたのはもっと地に足着いた理由。

「あの、先生……これ、先週のレポート……」

講義終わりの教室に滑り込み、オンデマンドで
受講していた先週のレポートを提出。ネットで
受けられるタイプの講義は大抵デジタル形式の
レポートに対応しているのだが……魔術関連の
講義ではそうもいかないことが多々ある。

例えば実際に魔術式、ないし魔法円を記述する
タイプのレポートは、実際に起動すれば簡単に
評価が出来る。しかし写しをデジタル媒体で
送信すると読み解く手間がかかってしまう。
故にこうして紙で提出される場合が多い。

別に提出の日付をずらして職員室まで持ってきても
構わないと言われてはいるが、少しでも学園生活に
慣れておきたい彼女はリハビリを兼ねて講義の後に
提出を行なっている。

黛薫 >  
提出のついでに、教室の様子を伺ってみる。

殆どの学生は講義が終わってすぐに出ていったが、
一部教室に残ってノートを広げている者もいる。
どうやら次の時間割ではこの教室に入る授業が
無いらしく、居座って勉強する学生が一定の数
いる様子。

先生の片付けがのんびりしているのもあってか、
今更板書をし始めている生徒もいるし、弁当を
広げている生徒も。今日の予定がこの講義で
終わったグループがそのまま屯して自由時間の
予定について話していたりもした。

少し時間が経つと、部屋を出て行く生徒の数は
落ち着いた。むしろ入室する生徒の方が多い。

この時間、この教室が使われていないことを
知っていて自習や友人との待ち合わせに使う
学生や、先の講義での忘れ物を取りに来る子。

黛薫にとって馴染みのなかった、知らなかった
学生らしい時間の使い方をする生徒たち。

黛薫 >  
多感な時期を落第街で潰す羽目になった黛薫から
見れば、それはそれで興味深く勉強になるのだが。

(いつ出てったらイィかな……)

偶々教室の入口近くで合流してしまった学生の
集団に尻込みして退室出来なくなってしまった。

もっとも、普段ならレポートの提出を終えたら
逃げるように去っていたため、足止めを食った
お陰で初めて教室の様子を見ることが出来たと
前向きに捉えることもできる。

気まぐれに教室を見渡し、ふと知り合いの姿を
探してみたり。考えてみれば学園の知り合いが
どんな講義を受講しているかは殆ど知らない。

魔法、魔術関連の講義を受けていたらしい人から
一緒に受けられたら良いね、と言われたことなら
あるが……リモートで受講している都合上、結局
顔を合わせる機会が得られずにいる。

黛薫 >  
例えば、余程親しい仲なら互いが受ける講義の
時間割を把握していたりするのだろうか。

あまり想像出来ないが、講義が終わるや否や
友人と合流するために教室を訪れた学生たちが
1人や2人では済まないところを見るに、案外
よくある話なのかもしれない。

(……そーゆー時間の使ぃ方、かぁ)

物思いに耽っているうちに、入口近くで集まって
会話に花を咲かせていた学生たちのグループは
何処かに連れ立っていったらしい。

次に人の波が来る前にと、急ぎ足で教室を出た
黛薫は何となく教室内を振り返ってみた。

黛薫 >  
同じ時間、同じ空間にいるのに、遠い。

すぐ側の喧騒の中に自分はいないという実感。
ただ近くにいるというだけでは『独り』のまま
何も変わらないのだと……そう思った。

(……すーぐナイーブになんのな、あーし)

授業終了からやや時間を置いた教室棟の廊下は
人の姿も疎で少ない。単に視線から逃れられる
安堵以上に、自分にとって『慣れた』場所に
帰ってきたような感覚がある。思わずため息。

日陰者とて日向に憧れはするけれど。
長く日に当たれないからこそ日陰者なのだと
思い知らざるを得ないのだった。

ご案内:「第二教室棟 教室」から黛薫さんが去りました。