2024/06/02 のログ
■焔城鳴火 >
教員として真っ当に、いくらかの講義をこなし、保健室を利用する学生や教員を相手にしていると、あっという間に時間が過ぎてしまう。
もちろん、仕事である以上、定時はある。
時間になればさっさと帰っても、文句を言われることはないのだが。
「授業中よりも、放課後の方が忙しいなんてね。
教員ってのは面倒で仕方ないわね」
背もたれの大きな椅子にゆったりと体を預け、アームレストに肘を立てた手で本を広げる。
はぁ、と勢いよくため息を吐き、本の中の文字を静かに目で追う。
次の訪問者が来るまで、どれだけの間があるかわからない。
千客万来となるかもしれないが、閑古鳥が鳴くかもしれない。
もちろん――鳴火にしてみれば、客が居ない方が楽でいいのだが。
それはそれとして、ただただ退屈な時間を過ごす事になるのだった。
どちらがマシなのかと鳴火に問えば、大層、不機嫌そうに眉をしかめる事だろう。
ご案内:「第二教室棟 第四保健室」に深見透悟さんが現れました。
■深見透悟 > 「おはこんはろちゃおー、めーちゃんセンセ居る―?
職員室前通り掛かったらさ、センセ宛の資料押し付けられたんで持って来たんだけどー
あ、お礼は戸棚のお薬いくつかと保健室でダラダラさせて貰えりゃいいんでお気遣いなく!」
保健室への来訪者なんてのは大抵が怪我か病気か相談事を抱えた者と相場があれど、無遠慮にドアを開け、べらべらと喋り倒す少年はいずれにも当て嵌まらなかった。
学園の制服に身を包み、背には背負い紐でテディベアを括りつけたその生徒の名前は深見透悟。自称天才魔術師にして自称幽霊というトンチキな男子生徒である。
「いやーしかし参っちゃいますなあこの学校保健室多過ぎでは?
第四って言われてもパッとどこの保健室か分からないし、結局最初に行ったのは第二だし、
いっそ全部ひっくるめて保健室のみの階層作っちゃった方が楽じゃねって思うんだけど、その辺めーちゃんセンセはどう思う?」
保健室の主の返答も待たずにべらべらと喋り倒しながら入室し、丁寧に後ろ手で扉を閉めると、手にしていたプリント束をひらひらと振って適当な置き場を探す。
彼なりに相手に対し最大限敬意を払ってはいるのだが、中々どうして理解は得られ難い。まあ、本人に理解を得られる気が無いのが全ての原因ではあるが。
■焔城鳴火 >
「――ハァ」
保健室の外から聞こえてきた足音を聞けば、おおよそ、その体格や性別なんかはわかってしまう。
当然、人間か非人間かも。
ぱたん、と本を閉じて机に置いた。
だから堂々とやってきた闖入者にも驚かない。
だが、入ってきた相手に向けるのは、冥府の炎の様に焼き尽くすような視線だ。
「――あ゛ぁ゛?」
そして口から出るのはその、小柄な体格からは想像しがたい、ドスの利いた不機嫌極まりない声だ。
「深見、あんた、いつどこで、その呼び名を聞きつけてきたわけ?
なにお前、もう一回臨死体験でもしたくてきたの?
ここは死人の来る場所じゃないんだけど?」
そう辛辣に言いながら、早く資料をよこせとばかりに右手を差し出す。
「ハッ、お前にわからなくても、必要な人間にわかれば十分でしょ。
そのために定期的に周知の知らせが通知されたり掲示されているんでしょうが。
それとふざけた事言ってると、外の焼却炉で火葬するわよ」
差し出した右手と反対の左手で、親指を立てて窓の外を示す。
この第四保健室の裏手には、医療(産業)廃棄物用の小型無煙焼却炉が設置されているのだった。
■深見透悟 > 「やだぁ、センセこわーい。それにこの体で焼却炉なんて放り込まれたら焼成されてイイ感じの陶器とかになっちゃう……
でもその場合信楽焼とか益子焼みたいに常世焼ブランドになるんかな……なんか響きがタコ焼きみたいでいまいちカッコ付かないなー……」
ドスの利いた声も、燃え盛る炎の如き視線もどこ吹く風といった様子で資料を差し出された右手へと手渡す。
資料の中身は虫歯予防週間に関するポスターやら生徒周知用のプリントやらが主だ。
「まあ俺は怪我も病気も無いから保健室にあまりご縁なんて無いし、怪我や病気で来る人にしてみりゃ幽霊が居るなんて洒落にもならんけどもさ
でもちょっと考えてみてちょ? 病院だって幽霊出るって話わんさかあるんだから、保健室に幽霊出ても不思議ではなくない?
あ、呼び名に関しては完全にアドリブ。
メカちゃんセンセとどっちが良いか悩んだんだけど、メカは流石に印象全然変わっちゃうわーって思って。別にサイボーグでもガイノイドでもないっしょ、センセは。」
資料の配達も無事に成し遂げて一安心とばかりに大きく伸びをしてから改めて保健室を見回す。
来る途中で松葉杖の生徒とすれ違ったから、利用者は居たのだろうが今は他に利用者の姿はなく、うんうん良い事だ、と一人勝手にしみじみと頷いたりしたりしている。
■焔城鳴火 >
「煩い囀るな黙れ。
用事が済んだらさっさと帰りなさい、私を怒らせたいの?」
ひったくるように資料の束を奪い取ると、机の上に乱雑に広げる。
そして、仕事が増えた事にまた溜息が零れる。
「安心していいわ、クソったれの死にぞこないを成仏させる方法ならいくつか知っているから。
――一応、お前が私を怒らせる前に言っておいてやるけど。
二度と、その、呼び名を、使うな。
次に呼んだら、この場で叩きのめして焼却炉にぶち込んでやるわ」
眉間にシワどころか、こめかみに青筋を立てながら、掛けていた眼鏡をゆっくりと外す。
マジでキレる数秒前、といった具合だ。
■深見透悟 > 「御ー意。焔城センセって呼ぶよか生徒も親しみが沸くと思ったんだけどなあ……ヤなら仕方ない。
また一から考え直しか、せっかく昨夜夜なべして考えることを決意してさっき考えながら来たとこだったのに……」
焼き物の仲間入りは流石に遠慮したかったのと、教員を怒らせた挙句焼却炉で焼かれたと知れたら追い怒られが発生する可能性が無きにしも非ず。
先生に怒られるよりも同年代の友人知人に怒られる方が精神的にクるタイプの透悟はがっくりと肩を落としながらも頷いた。
「死にぞこないというか、一度ちゃんと死んでる……筈なんだけどなあ。
まあ、それはそれとして本題。事故とかで破損した人体の魔術回路の修繕って外科的手段を用いる場合って結構ある?
センセそういう方面も詳しいっしょ?切って縫ってである程度治せるようなもん?
その辺詳しい人、生徒には流石に居なくってさー当然っちゃ当然な気もするけど。」
相手がMK5でもマイペース。別に叩きのめされないという自信がある訳ではない。むしろいざという時は確実に焼却炉に放り込まれる確信すらある。
それでもよく言えば泰然自若としているのは、たとえ焼却炉に放り込まれてもすでに死んでる己には何の変化も無いのだろうという諦観にも似た心境からだ。
なお、現在の肉体が焼却炉に放り込まれたらどうなるのか、はちょっと興味が沸いたので深夜にでも自分で試してみるつもりでもいる。
まあそんな事は置いといて、この後の天気の話でもするかのように教員へと質問を投げた。
■焔城鳴火 >
「――よろしい。
どうせならもっと有意義な物に時間を使う事ね」
呆れたような息を吐きながら、眉間を指先で挟んで揉み解す。
別に本気で生徒を叩きのめすつもりはない。
彼女は医者としても格闘家としてもプロである。
素人相手に手を挙げる事は――極稀な事だ。
「死んでも成仏出来てないんだから、死にぞこないと変わらないでしょ。
――魔術回路の修繕ね。
一応、各種分野に不得意はないけど、それは超常外科の分野ね。
設備が整ってれば試したって構わないけど、成功率は保証しない。
そうね病院――よりは研究区の方が専門家がいるかしら。
モルモットになるつもりがあるなら、紹介状くらいは書いてあげるけど?」
と、そう言いながら机の上からキーボードを引っ張り出した。
■深見透悟 > 「じゅーぶん有意義な事だと思うんじゃがー」
ぷぅ、と頬膨らませて不満をアピール。
こうなったら意地でも公認の綽名を考えてやるぞ、と決意を新たに、本当に夜なべして考えてやる、と再度思う。
天才を自称するだけあって、熱意を向ける方向がよく分からない。
「そりゃそうなんだけどもぉ……でも損なってると言われるとなんか違うというか……
――ああいや、俺がどうこうって話じゃあなくってですね?
外科的なアプローチ方法が多くないんなら、魔術的なアプローチの方が有用かもしれないのでは?って思ってさ。
だったら汎用性の高い魔術の開発をいっちょやってみっかーって思いましたのですわハイ。
……そもそも俺のこの体、人体より無機物の方が近いし、魔術回路刻むんなら人体ほど苦労しないからさー」
ステイステイ、とキーボードを取り出すのを見て制止を掛ける。
仮に研究区でモルモットになったとしても、天才故の突飛な理論と発想の下構築された透悟の身体は、悪い冗談としか思われないことは本人にも想像に難くなかった。
それこそ、もっと有意義なことに時間を使うべき、であるとすら思う。
■焔城鳴火 >
「それを有意義だと思っているなら、脳神経内科を受診するのを推奨するわ」
引っ張りだしたキーボードを放り投げ、学生の方を見ながら腕を組んだ。
「外科的にやれない事はないけどね。
どちらかと言えば、医学よりも魔術の分野なのは間違いないわ。
損傷した魔術回路を治療する魔術?
ハッ、そんなもの開発したら、そこそこに重用されるんじゃない?
ま、魔術は私の専門外だから、精々、自称天才らしい結果をだしてみることね」
どことなく嘲笑するような態度だが、口調はともかく、字面の意味合いを考えれば、応援しているようにも受け取れなくはないだろう。
■深見透悟 > 「有意義じゃよう……
ほら、俺も死んでるとは言え一応年頃の男子なわけで、思春期としては女の子の事考えてる方が健全だし自然じゃない?」
女の子……子?と自分で言っておきながら首を捻る。
それでも即座に前言は撤回しなかった。して良いものか分からなかった。
「やっぱり魔術的にも普及されてるわけじゃないのか。
医学的にも魔術的にも体系立てられれば将来的に義肢や義体に応用できると思うんだけどなあ。
んまあ、その為には人体について今まで以上に造詣を深めなきゃならないわけで……
……てなことで、センセ! 何か良い資料知らない?闇雲に図書館の本ひっくり返すのは片付けに時間食うし図書委員には怒られるしで効率悪いだろうし……」
まるで一度やって怒られたかのように口にするが、実際怒られている。
あわや図書館出禁の憂き目にあいかけたので、同じ轍は踏むわけにはいかない、とばかりに両手を合わせて「お知恵を拝借いたしたい」のポーズ。
■焔城鳴火 >
「――ま、思春期男子としては健全か。
その興味はせめて同年代の女子に向ける事ね。
私に絡んできても、出てくるのは拳か足くらいだから」
などと、言うだけで実際に手足を出す事はないのだが。
なお、もし年齢に関する事を口にしていたら、暴力以外で悲惨な目に遭わされていた事だろう。
「研究は盛んよ、魔術を医術に応用するなんて古くからおこなわれているし。
ま、あんたには確かに知識も経験も足りていないわね」
そう言いながら机の上の本をいくつか指でなぞり。
「人体を学ぶなら、生物学と解剖学が基礎の基礎。
この辺りから読んでみたら?
お前にはお似合いでしょ」
雑に投げ渡された二冊の本は、『セミでもわかる生物学』という、表紙で二足歩行のセミが反復横跳びしている参考書(?)と、『猿でもわかる解剖学』という、表紙で猿がブレイクダンスをしている参考書(?)だった。
■深見透悟 > 「えぇー、焔城センセだって全然俺ら生徒からキャッキャ言われてても不思議じゃないと思うんですけどぅー
ほら、センセってば小柄な割にしっかりオトナな女性って感じでギャップにグッとくるというか。
隠れ人気あると思うんだよねえ……センセがそういう事言うから表立って来ないだけで」
ギャップが具体的にどういう方面なのか言及は避けたが、健全な思春期としては体型面においてを推したい透悟である。ナイストランジスタグラマー。言葉にしたら殴られそうだから言わないが。
「研究されてる、ってのはそうだろなーとは思う。
けど、あっちこっちから技術や理論、概念が流れ込んで来て大渋滞起こしてるとこですんなり進むとも思わないんだよねぇ……。
10年かけて研究した事が昨日流れついた理論で引っ繰り返る、とかざらにありそうだし。」
俺だったらちゃぶ台ひっくり返して不貞寝決め込むもん、と腕を組んでしかめっ面。
魔術師としての術式研究や開発も似た様なものだろと言われてしまえばそれまでだが。
「生物学と解剖学……ぉわっとと…さんきゅーセンセ。
お礼に帰る前に何かお手伝いしてったげる。虫歯ポスター貼るの手伝おっかー?」
投げ渡された本をあたふたと受け止めてから、ニパッと笑みを浮かべ。
その後、手伝いを申し出ながらどうせ人手要るでしょ、と先刻自分で運んで来た資料へと一瞥を送った。
■焔城鳴火 >
「お前が何を考えてるか、大体わかるわよ。
ハァ、まあ、思春期男子なんてそんなものでしょうね。
余計な言葉を口にしなかった事だけは、まあ褒めてやらないでもないわ」
そう言って、冷ややかな視線を送る。
もし思ったままに言葉にしていたら、手足が出なくとも内心点に影響が出ていたかもしれない。
「医学もそうだけど、学問で有る以上、日進月歩である事は間違いないわ。
ちなみに、大変容以前の医学と今の医学はまるで別物よ。
もちろん、基礎の基礎は共通してるけど、お前の言う通り、それまでの研鑽のほとんどがひっくり返った。
当時の衝撃は想像も出来ないわね」
実際に今の世界の学問は、かなり早いサイクルでそれまでの常識をひっくり返され続けている。
だからこそ、常に最新の情報を吸収し受け入れる柔軟さが求められるのである。
「ハッ、そんな無駄な時間を使うくらいなら、一秒でも多く研究に使えば?
感謝するくらいなら、成果を出してみなさいよ。
それが使えるようなら、少しくらいは褒めてやるわ」
ふん、と小ばかにするように鼻で笑うが。
強めの言葉の中にははっきりと、期待が混ぜ込まれているのだった。
■深見透悟 > 「まだ何考えてるか分かんない奴に“そう思われる”よりは往なし易い分マシっしょー?
ふはは、焔城センセに褒められたって今度クラスで自慢したろ」
到底自慢できるような事ではないが、無駄に得意げに宣った。
ついでに進級が危ぶまれようが卒業が危ぶまれようが気にする性質では無いし、卒業したところで行くアテも無いため自主的に留年するつもりだけれど、それはそれ。
「でしょー? 地道に積み上げてきた物が夢物語みたいな理論でひっくり返されるなんて悪夢そのものだったろーなあ。
……けど逆に言えば、今のこの世界の研究の土台って一見荒唐無稽に見える理屈も通る可能性が昔よりある、って事じゃん?
それって頭を上手く使えれば誰だって奇跡めいた事が起こせるっつーことだしめっちゃ面白いと思うんだけどなー」
まあ現実はそう簡単じゃない事も透悟は知っている。
簡単じゃないからこそ、先陣を切って行かなければならない事がある。それが、天才を自負する自分の責務である、と半ば本気で考える。
「無駄な時間じゃないやい。
成果は出すよ、俺は天っっっっ才だから。出さなきゃなんない。
それはそれとして、いち学生として先生のアシストをするのも務めの内だし、センセだって仕事さっさと終わらせたいっしょ?」
ならさっさとやっちゃいましょーや、と参考書(?)を小脇に抱え、目の前の保健医をせっつく透悟だった。
■焔城鳴火 >
「ふぅん、確かに、少しは見所があるわね。
ま、精々妙なやつらに目を付けられないよう、気を付けなさい」
最先端を歩もうとすれば、それだけ危険も多い。
それだけ、あらゆる分野で技術競争――技術闘争は激しくなっている。
天才を自負するこの少年が、面倒に巻き込まれない事を、それとなく気にかけている辺り。
どうにも面倒見の良さが隠せていないのだった。
「ああはいはい、どうせ言っても煩いだけだろうから、これでも持って、掲示板に貼ってきなさい。
念のために言っておくけど、いちいち報告に戻ってきたら、蹴りだすから戻ってくるんじゃないわよ。
こっちだって仕事があるんだから、邪魔をするって事は――覚悟はあるわよね?」
掲示用のプリントの束をクリップで纏め、投げつける。
じろり、と不機嫌そうな視線でねめつけた後、手をひらひらとさせて、シッシと追い払うような仕草をするのだった。
■深見透悟 > 「それは重々肝に銘じておく。
何かあった時に俺だけで済むなら良いけど、それでも周りに迷惑掛かっちまうだろーし、それは本意じゃないし」
魔術面に関しては天才を自負していても、それ以外に関しては凡人も良いところだ。
その辺りも弁えた上でも天才を自称するのはある意味で覚悟の表れなのだろう。
「最初からそう言ってくれりゃ良いのにねえ?
どのみち帰りがけに貼ってくつもりだったし、もうちょっとセンセの顔見てたかったけど行ってきまーす。
んじゃセンセ、お仕事がんばってねーぃ」
投げつけられたプリント束も、器用に受け止めて脇に抱えていた参考書(?)とまとめて手に持ち。
不機嫌そうな視線へと軽口と笑みを返してから、鼻歌交じりに保健室を後にしたのだった。
ご案内:「第二教室棟 第四保健室」から焔城鳴火さんが去りました。
ご案内:「第二教室棟 第四保健室」から深見透悟さんが去りました。