2019/02/14 のログ
ご案内:「屋上」にアリスさんが現れました。
■アリス >
私、アリス・アンダーソン!
去年の四月から常世学園に通っている一年生!
試験だね。試験期間、だね………
私は今、屋上で死んだ目になって近代異能史のラスト暗記にチャレンジしている。
この近代異能史、とにかく日本の異能犯罪事件の話が多くて覚えるのがしんどい。
祖国の分の異能事件なら覚えてるかと言われるとそうでもないけど。
大きな溜息をついて屋上のベンチで教科書とにらめっこ継続中。
■アリス >
何年ごろに誰という集団が何をしたとか。
そういうのが一切頭に入ってこない。
基本的に暗記と理解の勝負だと思うんだけど。
日本語の教科書読めてえらいね! 100点!!
くらいのノリで採点してほしい………
むしろ生きてるってすごいね! ノーベル生きてる賞!!
くらいのノリで褒められたい………
邪念を振り払って教科書に集中する。
パパとママに落とした授業の話はしたくない。
■アリス >
……こうして見れば。大変容以降の歴史は血とその贖いの歴史だった。
異能と魔術を恐れた人間の行動。ザ・ラプソディー。
ロストサイン、フェニーチェ、レコンキスタ。
門、復活、異能者の持つ歪みと心。
歪み。
誰もが持っていて、誰もが見てみぬフリをするもの。
私も今でこそ友達と談笑しているけど。
ぼっち時代が長かった上に今でもメンタルはヘボい。
ええい、誰も歪まずに生きられないんなら私も歪んだまんまでいい!!
と、割り切るには私は子供で。
教科書を片手で持ち上げて教科書と体の間にカイロを錬成した。
あったかい。あ、思考が途切れた。
ご案内:「屋上」に人見瞳さんが現れました。
■人見瞳 > 四階分の階段を一気に駆け上がり、だだっ広い空中庭園へと続く重たいドアを勢いよく開け放つ。
「おっけ。ついたよ屋上!」
耳に押し当てた電話の相手はもう一人の私。この寒空の下、元気に白い吐息を吐いているはずの。
地上にいるときより広く見える空にぽつんと浮かぶ小さな点へと手を振った。
「……あれ?」
「どうした? トラブル発生か?」
「や。ちゃうねんけど。人がいる。待ち合わせかな?」
「気にするな。もうバッテリーが持たない。さっさと降ろすぞ」
「はいはーい」
屋上に羽根を休めたドローンのバッテリーパックを詰め替えて、システムを再起動する。
これであと12時間は飛べるはず。機械仕掛けの小鳥ちゃんは再び空へと舞い上がる。
「一丁あがり。いってらっしゃい!」
「ああ、よくやった。こちらでも確認できたよ」
■アリス >
…………。
ドローン? のバッテリーを交換している? のかな?
電話をしているみたいで。その電話もドローン関係みたいで。
ああいうの、調査のために飛ばしているにしたって楽しそうだなぁと思う。
「お邪魔だったら降りるけど?」
そう声をかけてみる。
人が少ないから真冬の屋上にいるだけで邪魔になるくらいなら…
■人見瞳 > 「いやぁそれほどでも……何? 褒めてない? そっかー。はいはーい。またねー」
通話を終えると同時に声がかかった。
「いいのいいの。私の用事はもう済んだから」
冷たい風がびゅうびゅうと吹きわたっているのに、こんな場所にいるなんてよっぽどの理由があるに違いない。
ここにいないといけない理由か、暖かい部屋の中にいられない理由のどちらかが。
「………あ。そっか、そういうこと。なるほどなー……」
すぐにピンと来ましたとも。
■アリス >
「そう? それならいいんだけど」
目の前の女性を見てから、教科書を畳んで片手に持つ。
綺麗な人だけど、どこか親しみやすい印象を受ける喋り方。
「え? 何が? どういうこと?」
疑問符を速射しながら相手が何を察したのか聞いて見る。
■人見瞳 > 「んーん。別に。好きなだけいていいと思うけど、風邪だけはひかない様にね」
ひとりぼっちの女の子に興味が湧いて、すぐ隣に腰かける。
こんな底冷えのする様な寒さの中で、じゃあねと立ち去るなんてできませんとも。
「うわぉ! なにこれちょっと冷たすぎない?」
ウインドブレーカーの前を閉じてガードを固めても、お尻の方はどうにもならない。
ぺらっぺらの布一枚を隔てて容赦なく染みわたる冷たさに飛び上がりそうになるのを我慢して、膝の頭をすり合わせる。
「話してごらんよ。独り言みたいな感じでいいからさ。こう見えて、話を聞くのは得意なんだ」
「そういうのってさー、ひとりで抱え込むんじゃなくて全部ぶちまけちゃった方がいいと思うんだよね」
「ここはひとつ騙されたと思って。ね。何があったの?」
いきなりは口を開いてくれないかもしれないけれど、話してくれるまで側にいるつもり。
SNSのアプリを立ち上げて私にショートメッセージを送る。
■アリス >
ベンチに座ろうとした彼女に驚く。
自分もスカートから直は寒い。
「あー……なんか敷いたほうがいいよ、こういうの」
断熱材の上に衝撃吸収材を重ねたものを錬成してベンチに置く。
卵を上から落としても割れないっていうもちもち触感がたまらない。
「えーと………」
抱え込む? 悩みみたいな?
何があったの? えっ……ひょっとして私…
深刻な悩みを抱えて真冬の屋上にいると勘違いされてる!?
ああ、いや。
私も今の私を見たらそう勘違いする。
絶対する。だって寒いし。こんな中、屋上で勉強とか自殺のタイミングを図ってると思われても仕方ない。
冷や汗を流して、どんな返しをしたらいいか悩む。
■人見瞳 > そうこうしている内に屋上のドアが開いて、もう一人の私が現れる。
背丈も顔も髪型も同じ。着ているものもスクールバッグの中身もほとんど同じ二人目の私が。
「こっちこっち! 急いでって言ったじゃんさー」
「はぁ………はぁっ……無茶、言うんじゃないわよ……これでも急いで、来たんだから……」
「やっぱ体力つけないとダメだねー。身体の方もパパッとビルドアップできたらよかったのに」
「それよりこれ、あんたに頼まれたやつ……」
まだ息の切れている私が熱々のおしるこ缶を三つ取りだす。
私にふたつ渡して、残るひとつを両手で挟んで転がしている。
「ふぅ……隣いいかしら?」
「どうぞどうぞ。はいこれ飲んで。温まるからさ。………もしかして別のがよかった?」
「次はあんたが行きなさいよ……」
二人の私が両側からはさむ感じで腰かけて、二人同時におしるこを開ける。
■アリス >
屋上のドアが開いて、新しい登場人物が姿を見せる。
ここからが驚きポイント。なんと、隣の少女と瓜二つ。
「………!?」
驚きに目を見張りながら、両側に座る同一存在を交互に見る。
ああ、そうか。
双子。そう、双子なんだ。
一卵性双生児というのは、他人では見分けがつかないほど似ることがあるという。
「……双子なの? 私、アリス・アンダーソン」
「二人の名前を聞かせてくれるかしら?」
誤解を解くにしてもその後。
とりあえず名乗ってみた。
■人見瞳 > 「アリスちゃんだって! かわいい名前だねー。君のこともっと知りたいな」
「ちゃんと名乗りなさいよ。あたしの名前は人見瞳。よろしくお願いするわ、アリス」
「そして私も人見瞳っていうんだ。わー奇遇だねー」
おバカ、とアリスの肩越しに叩かれる。
「あたしたちは元々ひとりの人間なの。それがこうなってるっていうことは……わかるでしょう?」
「それよりほら、おしるこ冷めちゃうよ。いらないなら私がもらっちゃおうかな」
またSNSのアプリを立ち上げて別の私にメッセージを飛ばす。
「そうだ。こっちから聞く感じでいってみようよ。ずばり何て言われたのさ?」
「そこから? いきなり核心に切り込んだわね……」
もう一人の私が呆れ顔でおしるこを口にする。
■アリス >
名前を褒められるとない胸を張って。
「ふふん、アリスって名前はパパにもらったの! 私、自分の名前が好きなの」
「ふーん、ヒトミ・ヒトミ………」
「そっちもヒトミ・ヒトミ…?」
混乱しながらお汁粉を飲む。
あったかい。あたたまる。でも、同じ名前の双子?
って………
「そ、そういうこと! 二重身(ダブル)の異能!」
「自分の存在を二つに分けられる、発現率0.0001%の特異な異能ね!」
異能学の勉強しておいてよかった。
それにしても、レアな異能の人というのはいるものなんだなぁ。
「何て言われたって………バレンタインデーにフラれたとか思ってない…?」
説明が難しい。いや難しくない。
私がぼっち根性発揮してただけなんて説明しづらいだけで。
■人見瞳 > そうこうしている内に屋上のドアが開いて、もう一人の私が現れる。
背丈も顔も髪型も同じ。着ているものもスクールバッグの中身もほとんど同じ三人目の私が。
「お、お待たせ…しました……」
「めっちゃ早かったねー。ここ座って!」
「たまたまこの近くにいたから……あなたがミス・アンダーソンですね」
どうぞ、と三人目の私がコンポタの細長い缶を差し出す。
三人がけのベンチに四人目が座り、ぎゅうぎゅう詰めのおしくらまんじゅうが始まって。
「あんたも暇じゃないんでしょ。パシらされてんじゃないわよ」
「そうは言うけど、人生の一大イベントだよこれ。こんな大事な用事ほかにある?」
「あまり長居はできませんけど、すこしのあいだだけなら……」
三人目の私がコンポタを口にしながらアリスの様子をそれとなく観察している。
「そうそう。やっぱり「ごめん。君の気持ちに応えることはできない」とかそういう?」
「そこは「他に……好きな人がいるんだ」じゃないかしら」
「「あー……悪ぃな。カミさんいんだよ俺。学生結婚ってやつ。言ってなかったけか」という可能性も……」
果たして正解やいかに?
■アリス >
頭が真っ白になった。
三重身(トリプル)? そんな異能あったっけなぁ。
異能学はあくまで、普遍的な異能を語っていることが多い。
異能史の勉強が表向きの事件しか扱わないように。
イレギュラーには対応していないわけで。
「あ、あのね! 別にフラれてないから!!」
「ただ人が多いところが苦手だから寒さを我慢して屋上で勉強してただけで!!」
「フラれ女と思われるのは承服しかねるから!!」
半ば叫ぶように誤解を解いて。
それにしても、同じ顔同じ声同じ格好の人間が三人。
ちょっと……いや、かなりびっくりする。
■人見瞳 > 三人の私がアリスを挟んで顔を見合わせる。
私会議にアリスが巻き込まれてるみたいなビジュアルになりました。
「……って言ってるみたいだけど」
「強がってない?」
「大丈夫。言いふらしたりはしませんから……」
少しも寒くないわ、とか強がってるように聞こえなくもなく。
本人の話だけでは真相にたどりつけない?
「フラれ女って自分で言っちゃうくらいだし、けっこう平気そうよね」
「アリス・ザ・ハートブレイク。君のコールサインはハートブレイクワンだ」
「でも、身体を冷やすのは良くないと思います。場所を変えませんか?」
「そうしよっか? 積もる話もあるだろうし」
「生脚には辛い季節になりました……」
おしくらまんじゅうしていたって寒いものは寒いのです。
■アリス >
ムキー、と両手を振り上げて。
「誰がハートブレイクワンよ! だから違うってばぁ!!」
「強がってもいないし、第一……っくち!」
くしゃみ。やっぱり寒い。
屋上での勉強は、これくらいにしておこう。
「……ヒトミ。あなたの異能はよーくわかったわ。でも私を誤解したままじゃ帰せないわ!!」
「食堂に行きましょう、話すことはたーっぷりあるんだからね!」
そのまま先に歩いて、屋上を後にする。
私が彼女と、彼女の異能について心の底から驚くのは。
もうちょっと後の話になる。