2020/06/15 のログ
■ヨキ > 「具体的に何をすればよいか、か。
そうだな、それが知りたくなるのは当然だ。
たとえば……この常世島には、『部活』や『委員会』という集団がある。
君が身に着けた、剣術や武術。
それらの技術が役立つような組織に身を置き、そこのルールに従って活動する。
それで、君の剣術の腕が『街にとって有益である』と保証できれば――
返還を申し出ることも可能になるやも知れん」
シュルヴェステルに似た、どこか芝居がかった言葉の選び。
冷静に、相手の目を見ながら、ひとつひとつ言葉を並べてゆく。
すべてが異なる、というシュルヴェステルの言に、ゆったりと応える。
「……安心したまえ。
君の考えはきちんと筋道が立っていて、きちんと会話が出来ているよ。
たしかに言葉は魔術で与えられたものかも知れないが、それを発するための『考え方』は君自身のものだから」
■シュルヴェステル > 「『部活』、『委員会』」
ぼそり、と口の中で転がすように言葉を咀嚼する。
「詳細を」と聞く前に、ヨキは欲しいものを全て用意していた。
自分の上から注がれる真剣な視線から、少しも逸らしはしない。
「……それは、首肯できない。
剣は『誰か』のために振るものではない。
己の身を護るための牙だ。それに、この街の人間が所持しているものと同じだ。
彼らの手にある超常と、私の剣は同一であるはずだ」
だから、返して欲しいのだと繰り返す。
そして同時に、部活や委員会の助力はしないときっぱり告げる。
故に、交渉は既に決裂しており、異邦人の申し出が認められることはないだろう。
「であらば、返却を要求する」
異能や魔術が目に見えない「牙」であるのならば、
見えるだけで自分の剣も同じではないのか、と青年は諦めることなくヨキに視線を注ぎ続ける。
「街にとって有益でなければ、奪われ続けるのか」
■ヨキ > シュルヴェステルの断固とした意志に、どこか感心の交じった眼差しで頷く。
「なるほど。君の言う『超常』――異能の力と、君の剣は同じ、と。
全く一理ある。
己の身を護るために剣を振るわねばならなかった暮らしは……さぞ過酷であったろうな」
腕を組み、片手を口元に添えて少し考える。
「……では、異能と同じと言うなら、言葉を変えよう。
『有益である』ではなく、『有害ではない』と」
言葉を続ける。
「この学園では、みな己が持つ力――『異能』のために苦しんでいる者が大勢居る。
それを制御するために学ぶ場が、この常世学園だ。
君は己の身を護るために剣を抜いた。
だがこの学園では、『基本的に』君の身を害しようとする者は存在しないはずなんだ。
事情を説明し、君の身を保護しようとした生活委員を含めて、な。
それならば、ヨキが求める条件は『剣を持ちながらにして抜かぬこと』だ。
君の身を害さない者に向けて剣を抜くことは、制御不可能な異能と何ら変わりない。
言葉で伝えること。他者を信頼すること。
それらの『剣を抜く以外に自分の身を護る方法』を、身に着けてはもらえまいかね?」
■シュルヴェステル > 「私にとっては――善き、暮らしであった」
なにかを変えたいとあらば、自らに実力がなければ変えられない。
逆説、会話などという小難しい過程を飛ばして結論に辿り着くことができる世界。
懐旧じみた、少しばかり寂しそうな視線を窓の外に向ける。
はじめてヨキの視線から逃げるように見た空には、鳥が数羽連なって飛んでいた。
「……『有害ではない』」
復唱した。
端的な言葉であり、自分の行いを示す言葉でもあった。
であるからして。中立的で端的な物言いを再度求めるかのように。
「それは、誰が決めるものなのだろうか」
『君の身を害しようとする者は存在しない』。
『君の身を害さない者に向けて剣を抜くことは、制御不可能な異能と何ら変わりない』。
よくわかる言葉だった。異世界の者に対して、実にわかりやすかった。
だからこそ、異邦人の青年はちらりと視線を戻して、問いかける。
「私が『害された』と感じれば、――言葉が通じないと断じたらば」
首を横に振る。
「それを身につけることがこの世界から抜け出す一歩になるのならば、努力は惜しまない。
が、もし、それが叶わないと断じた折には、恐らく私は剣を抜くだろう。
貴殿の言がすべて正しいのであれば、抜く機会はない。逆説これは発生しないことになる」
「して、」
視線でヨキへと問いかける。
自分の没収されていた細剣を返還してもらうことは叶うのか、と。
■ヨキ > 「そうか。だとすれば、今の状況はさぞ歯がゆく、腹立たしいだろうな。
……このヨキもまた、この島へは右や左の概念も知らぬまま辿り着いた身だ」
シュルヴェステルの短い述懐に、ヨキもまた遠い過去を織り交ぜた。
「誰が決めるか。それはこの島で君と交わり、君の姿を見かける全員だ。
教師。学生。委員会。その他街に居る、全員が。
何も、君を監視しようとしている訳ではない。
君が他の人間――たとえば(傍らの教師へ目配せして、)ヨキたちを、敵ではないかと警戒しているのと同じで。
もしも周囲の人間が帯剣している君を見かければ、『むやみに斬られやしないか』と及び腰になるものなのさ。
この世界の者たちは、君ほどには長い刃物を見慣れていないものでね。
……万が一にも、これから先。
君が『剣を抜いていい機会』があるとすれば――」
目線がひととき、鋭くなる。それはまるで、忠告めいて。
「『素手では太刀打ち出来ぬ相手に遭遇したとき』だ。
相手が君へ『敵意を持って』『武器や異能を』振るってきたとき。
そのときだけは、『正統な防衛を行った』として『有害な行為ではない』と看做されるだろう。
『この学園の周りや、学生街では』、そんな騒動は起こらないはずだからね。
それが君に可能だと言うなら――
――生活委員会に掛け合ってみるといい。
我々異邦人の身元は、君が斬った相手が所属していた生活委員会が担っている。
剣を預かっているのは、委員会街に居る彼らだろう」
■シュルヴェステル > 右や左の概念も知らぬまま辿り着いた身。
それを聞いて、そこで初めて――年相応らしい驚いたような表情を浮かべた。
「……それは、失礼をした」
短いながらも、謝罪の言葉がヨキへと向けられる。
そして、すぐに。述べられる言葉言葉を聞きながら、少しだけ目を細める。
「……、」
及び腰になる、と。長い刃物を見慣れていない、と言われれば。
青年は少しだけ口を開けてから、また言葉を飲み込むように閉ざす。
訓戒めいた言葉は、暫しの沈黙によって咀嚼とし、喉を通す。
「それであらば、可能といえる。
なにも、目につくもの全てを斬りつけて歩きたいというわけではない。
ただ、……私も、手元に自分のものを置いておきたいだけだ。
……セイカツイインカイ。承知した。委員会街、か。調べてみよう」
嘘ではないが、真実ではない言葉。
――私も、目に見えぬ超常持つものたちに。
むやみに傷つけられやしないかと、おそれているだけなのだ。
言葉は、飲み干されて残らない。
「承知した。教示、感謝する」
そう言って、青年は静かに背を向ける。
傍らで話を聞いていた教員が、ヨキへと薄いファイルを差し出す。
「彼は、どうにも扱いづらい。助け舟を出してくれて助かった」と。
「会話を彼は、こちらに来た当初から拒んでいたらしくてね」と。
そのファイルは、人を傷つけた「動物のような」異邦人に関する記録であった。
ご案内:「第三教室棟 職員室」からシュルヴェステルさんが去りました。
■ヨキ > 「気にするな。君がそうと気付けないほどには人間として成長できた、というのがヨキの誇りだよ」
相手からの謝罪に、小さな笑みを返す。
「ああ。もしも埒が明かぬときには、改めてヨキに相談してくれ。
そのときにはまた、何らかの助け舟も出せよう。
――そうでなくとも、君とはまた語り合いたいものだな」
その場を辞するシュルヴェステルへ、こちらも挨拶を返す。
立ち去ったのち――教員から示されたファイルへ、目を落とし。
動物のような。
その一文に、興味深そうに目を細めた。
「…………、ほう? これは――
恐らく、しばらくは万事解決という訳にはゆくまいな。
――獣の恨みと恐れほど、根深いものはない。
ご苦労だったな。
水分でも摂って、少し休みたまえ」
ファイルを閉じ、教員へ返す。
労いの微笑みを最後に、ヨキもまた自分の席へと戻ってゆく。
ご案内:「第三教室棟 職員室」からヨキさんが去りました。