2020/06/19 のログ
ご案内:「第三教室棟 教室」に百鬼 ヒルコさんが現れました。
百鬼 ヒルコ > とうに授業は終わり、開け放たれた教室には先生の姿も生徒の姿もない。斜陽が眼を刺す勢いで差し込めば、和装の少女は眼を細くして机に向いた体をぐっと伸ばす。

「シケ香る 朝顔の君 深窓の 百合の花こそ 輝かしかな」

窓の外をふと一瞥すると、野球の大会が近いとかで練習をする野球部の生徒が見えた。微笑ましく肘をついて見つめながら、目線を机の上に戻す。
居残り、という名目で出された宿題が目の前にはあった。
和装の少女は絶賛、折檻中だった。

百鬼 ヒルコ > 「いけずやわぁ。こないな問いを用意して。あてはちぃとズルしただけや」

授業中、異能の力を使って小テストの問題をイカサマして解こうとしたことがバレ、あれよあれよと教師に怒られたのが2時間前のこと。
犯行現場(きょうしつ)に戻って再度テストを受けたのが一時間前。解放されたと思って意気揚々と寮に戻ろうとしたら居残りを命じられたのは15分前。
正直、少女はこっそり帰ってもバレないんじゃないかと思っていた。どうせこの時間は放課後ライフを満喫中の学生らでごった返しているのだし、己一人が消えたところでさしたる支障もないのではないかと思っていた。
にも拘わらずこうして素直に居残りをしているが、せめてこの面倒臭い追加の課題を終わらせてから帰ってもいいのではないかと思い机に向かう事数分。異能の力を使って閃くことがないかと思ったが今日はツキの回りが悪い。
……やはり帰ってしまおうか。面倒。

「しょうもない、あほらしいわぁ、めんどいわぁ」

あてがナニしたと仰りますの。日差しの眩しさを紛らわすように和装の少女は机の上に頭を転がした。

百鬼 ヒルコ > 実態を知る同学年や理解の深い先生において、百鬼ヒルコという生徒は決して素行が良い人物とは言われない。
黙っていれば美人なのにとか、お偉いトコの娘さんなのにとか、家業を継げるから馬鹿なのではとか、それはそれはかなり辛辣な物言いがこってり絞られている間にも聞こえてきたことは記憶に新しい。
温厚な性格でこのような喋り方とくればさぞ己こそ強者だという在り方すら叶いそうだのに、紐解けば己はこのような人である。
ある程度付き合いがある者は口をそろえて言う。ヒルコはアホだと。

「……みんなしてあてをいじめて楽しんどります~。センセ、これはもうアカンやつでは」

くぐもった声が机の上を反響する。この教室の中には言葉のキャッチボールを交わしてくれる人はいない。

百鬼 ヒルコ > 「……うだうだ言うてもしゃあないなぁ」

あーあ、と落胆しながら問題に目を向ける。……1分経ってまた机の上に頭を載せる。シャーペンは机の端っこをすんでのところで回転を止め、眼を閉じた己の眼には瞼の裏がチカチカとした太陽の光をシャットアウトする。嗚呼きっと、己のこうした所作にも趣があると誉めてくれる人はいるに違いない。己の在り方が割れてない人に限るのだろうけれど。

ご案内:「第三教室棟 教室」に矢那瀬陽介さんが現れました。
矢那瀬陽介 > 茜色差す放課後の閑散とした教室の開き戸がゆっくりと開く。
学生服の襟の爪を外した少年が肩に担いだ学生鞄を揺らしながら従容とした歩みで入っていく。
そして自分の席の机の中身に腕を突っ込みながら。

「ぁ……」

初めて教室にもうひとり居たことに気づいた。
長い前髪が目元まで垂れる風体が斜陽に染まるのを机に腕を突っ込んだまま見詰め。
やがて意を決したように自分の席から離れて彼女の席の前の席に腰を下ろした。

「やぁ、どうしたの?もう授業も終わってみんな部活か街に出てるのに。
 お勉強好きなの?」

百鬼 ヒルコ > す、と目を見開くと共に金色の眼は輝いたように太陽の光を映し出していた。

「あらまあまあ。兄(あに)さんこそ、どないしたんや。こないなとこでおべんきょ?」

したらなんとも運の悪い。この教室には素行不良の学生しかおらんえ。
半ば呆けたような反応と共に目の前に着席した生徒を目を細めて意地悪げな笑みを浮かべつつ、不敵に笑う。

「あてはべんきょは嫌いも嫌いよ。センセがそうせえそうせえ言(ゆ)うから仕方なくやっとるんよ
 あんさんの未来の為なんや~とか頑張らなアカンで~とか。けったいやと思わへん?」

未だ目の前のプリントは白紙のままだった。

矢那瀬陽介 > 京都訛りの聞き慣れぬ言葉にきょとんと瞬き一つ。

「ん?違うよ。先生から教室に教科書を置くな!って注意されたから取りに来ただけ。
 でも俺の席に教科書が入ってなくてガサゴソしてたら君が見えたんだ。」

向けられる笑みに小首を傾げる。その表情ではない。
特徴的な人なのに、同じ教室で一度も見たことがない女学生だったから。
1年と2年の教室を間違ったと気づかない少年は彼女の言葉を聞きながらその机の上に肘をついて。
手に顎を乗せながら置かれたプリントを茫洋と見る。

「もしかして居残り?
 静かに座ってたから最初は気づかなかったし、夕日に照らされて中々絵になってたなーって思ったのに」

此度は此方が口端を吊り上げ悪戯っぽく笑ってしまう。

「でも君が言いたいことが分かる。
 未来は自分で切り開くもので、こんなプリントを埋めても何もならないよね」

百鬼 ヒルコ > 「置き勉しとるの? アカンなアカンよ」

 ちっちっち。女生徒は指を軽く振って大仰なリアクションを取って見せる。

「もっとセンセを欺かな。上手く隠せば、ええことあるよ」

 ロッカーに、机の下に、テープを巻いたり。隠し場所は幾らでも見つかるよぉと悪い知恵を働かせる。こんな先輩になったらアカンよ。
 ……こないなヒト同級生におったかなあと頭ン中をぐーるぐると巡らせながら。

「恥ずかしゅうて、顔から火ィが噴きそう。あてが阿呆や、って周りが言うんよ」

わざとらしく顔を隠す動作をしてみせながら、ウインクを挟みつつ顔を露わにする。それはそれは晴れやかな笑顔を浮かべていた。

「でも褒められた気ィがして、悪い気ィはせえへんわ。兄さん褒め上手やねぇ。
 せやろせやろ、高々日毎の百の数字に、ナニ見出しとんねんって思うわ。兄さんはハナシが分かるわぁ」

矢那瀬陽介 > 「ん?そういう君は置き勉してないの。
 しっかり勉強して居残りの方が恥ずかしいような……」

手においた頭が少し傾げられて、しかし続く言葉に閃いたように真っ直ぐになる。

「なるほど!見つからなければ良いんだね。頭良いジャン!」

にっ、と薄く開いた唇から白い歯列を覗かせる。
その表情は恥じらう演技に少し陰りを見せて」

「あ、そうか。頭が良いなら居残りしなくていいもんね……
 大丈夫?」

大仰な仕草に少し身を乗り出し案じるも、返されるウィンクに、あは、と明朗な笑みが零れ出た。

「君面白いね。
 ね、ね。名前は何ていうの?俺はヤナセヨウスケっていうんだ」

百鬼 ヒルコ > 「せやろか。あては普通に授業を受けて、普通に居残りをする生徒やで」

普通にしていたら居残りなんてイベントも発生しなかろうが。こうして拘束されている時点でうまく立ち回れる人材でもあるまいに。

「兄さんはバレんよう気張りィやぁ。あてはとうに見透かされ、お陀仏、お釈迦、南無阿弥陀仏や」

けらけらと楽しそうに笑い立て、続けて彼の名乗りに乗じてそうかそうかと言葉を続ける。

「あては百鬼(ナキリ)ヒルコどす。二年のヒルコと申します。どうぞよろしゅう頼みます。
 兄さんは……そう、陽介はんね。どうぞどうぞ、よろしゅうお頼み申します」

矢那瀬陽介 > 「それは普通ではないんじゃないかなー、はは」

微笑みながらも眉だけは苦々しく下げてしまう。
続く言葉にも幾度か瞬きを落として。

「なんか凄い演技っぽい喋り方するね、君。
 でも、兄さん『は』ってことはヒルコちゃんは何かバレたから居残りしてるの?
 俺はてっきり赤点で残らされてるかと思ったのに」

凝っと、同じ机に向かう前髪隠れた金色眼を覗き込む。
のも束の間、2年という言葉に驚いたように机から肘をあげて。

「ぇ、ぇ……嘘。ここ2年の教室?
 ぁ、だから俺の机に荷物入ってなかったのか。
 俺もナムアミダブツ、だ……ヒルコさんね、よろしく。
 俺は間違って2年の教室に入ってきたおっちょこちょいな1年です」

先ほどの意趣返しに片目を瞑る挨拶を返して苦々しく笑った。

百鬼 ヒルコ > 「あてはこれでも演劇部。台詞回しも頑張っとおけど。……なんや素人はんに突かれちゃ甲斐性無いなぁ」

演技っぽい、という言葉は言葉とは裏腹に刺さる所に刺さったらしい。和装の生徒はクスクスを嗤う。

「中間試験はギリセーフ。で、でもでもあてはミニテストでアウトを食らって大目玉。期末はヤバいとおろおろしとる、阿呆な生徒や」

ケタケタ、カラカラ。続けられた言葉、彼が一年坊主ということを理解した生徒はああなるほどと、合点がいったように何度もうなずいた。

「ああ、どうりでみィひん顔や思うた。あての頭もついに来るトコまで来たかぁと大笑いしようと思うたけど取り消しや。
 そそっかしげな陽介はん。兄さんは暫く忘れそうにないわぁ。オモシロ一年坊主としてな、あてがネタにしたるさかい」

矢那瀬陽介 > 笑い声の変化の機微に気づいた少年は静かな声で物語る。

「そりゃそうだよ。ここは舞台の上じゃないもの。ヒルコさんを舞台から見ればそりゃ劇の中に引き込まれるけれど。
 ここは現実だからツッコミを入れちゃう
 ――でも俺はヒルコさんの喋り方好きだよ」

そういっていつまでも笑い絶えない彼女と白紙のプリントを交互に見据え乍。
胸ポケットに刺したシャープペンシルを手に取る。

「アウトっていうのがミニテストの赤点ならば、このプリント解くだけで居残りは終わりだよね?
 良ければ俺も手伝おうか?
 その代わりに間違って2年の教室に入ってきたことは他の人に言わないで欲しいな」

百鬼 ヒルコ > 「浮世に非ずは、げにこともなし。
 そうかぁそうかぁ。あては兄さんにそう映って見えるんやねぇ」

なるほどなあ、と頬杖を突く姿は一片の曇りもなく、プリントではない方角へと向いていた。
即ち現実逃避である。

「ほんまにか。この難問を解けると言うか?」

中身は至って普通の基礎学力の範囲内である。にも拘わらずまるで天才でも目にしたかのような呆けたリアクションをしていた。

「言わへん言わへん。この地獄から解放されんならあては約束を守るから。
 一緒に解いてぇな、一生のお願いや」

 人生に一度の願いをこんなどうでもいいことに消費する。和装の少女に躊躇いは無かった。気持ちも大して籠っていなかった。しかしてシャープペンシルを取った手をつかみ取るように懇願していた。

矢那瀬陽介 > 「なんか元気ないね。
 俺は褒めたつもりで言ってたんだよ?みんな同じ喋り方じゃ面白くないじゃない」

薄く小首を傾げるは一瞬。
物憂げ古典の言葉で呟く人が一転して嬉々と拝み倒すのに驚き隠せない。

「ゃ……全部解くって意味じゃあないよ?大変そうだから手伝うってことで……」

きょとん、と見張るまなこは其れこそ黒豆の粒にも等しく丸く。プリントに向けていたシャーペンも思わず反射的に自分の方へと引き寄せる。

「……でも、女の子に頼られて何も出来ないんじゃ男が廃るよね。
 できるだけやってみる」

指先でプロペラのように高速回転するシャーペンを握り直し。
黒瞳が凛と据わってプリントに注視した。

※ダイス4以上で成功
[1d6→6=6]