2020/06/23 のログ
ご案内:「第三教室棟 屋上」にルリエルさんが現れました。
ルリエル > 昼下がりの屋上。
今日は朝から曇り気味の空模様。今も灰色の雲が立ち込め、日光を遮っている。
雨を感じさせる厚い雲ではないが湿度は高く、四方を海に囲まれた常世島はどこもかしこも蒸す日和。
快適を求める生徒や先生の多くはクーラーの効いた室内や店舗に逃げ込み、屋上には人影はほとんど見られない。

あまりにも蒸し暑い午後の屋上、そこに一切れの雲が、床面の上50cmほどの位置を保って浮かんでいた。
まるで空から1つ千切れて落ちてきたかのよう。
しかしその雲は灰色ではなく、銀色の光をほのかに放っている。遠目に見れば白くも見えるだろう。

当然、これは空に浮かぶ雲とは別のもの。ルリエルの異能によって生成された《天使の雲》である。
大きさは大人ひとりがすっぽりと収まってしまうくらい、でも2人は無理、といった程度。
そして実のところ、中には成人女性ひとりがすっぽりと収まっている。

「……………………………Zzz………」

雲の創造主であるルリエル、ただいまお昼寝中。
しかし外から雲の中の人影を見通すことはできない。
真綿のようにしっかりとした繊維でできた雲はルリエルの体重を支え、視線を遮り、そして蒸し暑さをも遮断している。

ご案内:「第三教室棟 屋上」に矢那瀬陽介さんが現れました。
矢那瀬陽介 > 重たい鉄扉を開いて屋上に入る少年は学生服の前を開き額に汗を浮かぶ姿だ。
第二ボタンまで開いたシャツを仰いで覗き込み忌みしげに双眸眇める。
まったく運動してない肌が濡れたように汗ばんでいる為。
人工的な冷風を好まぬ性質故に、せめて高所特有の風で涼もうとやってきた屋上とて湿度は変わらない。
吹き付ける潮孕む風は涼ませるどころか生ぬるくベタついて、思わず前髪を掻き上げながた溜息を零した。

「やっぱ、図書室でも行くべきだったかな……あれ?」

そしてようやく気づいた。頭上を覆う曇天の雲より小さく低い塊が、屋上に浮かんでいる様に。
黒瞳に映るのは銀の煌めき。自然にない現象。
それにゆるり、ゆるり、と近づいたのは好奇心と、そこから溢れる冷気に誘われたから。
まだ中にいる女性は見えぬまま、そろり、と銀雲に触れて。

「なにこれ。冷たい」

心地よい感触にゆっくりと手を埋めていった。

ルリエル > 屋上にふわふわと浮かんでいる巨大な雲の塊。
さすがに周辺を広く冷やすほどではないが、触れるほどに近づけばたしかにそれが冷気を孕んでいることがわかるだろう。
まるで綿の中に雪でも詰まっているかのよう。

触ればしっとりとした感触を返しつつも、雲を構成する綿状のナニカは適度な弾力を返してくる。
しかし少し力をいれて手指を押し込めば、繊維が裂けるように広がり、ずぶずぶと飲み込んでいくだろう。
真綿のような弾力、しかしどこか綿飴のように脆弱、されどその2つとも微妙に違う不思議な感触。
そして陽介が深く手を突っ込めば突っ込むほど、ひんやりした冷感も強くなってくる。

しかし。15cmも突っ込んだあたりで突然、冷感のなかに突如として暖かい感触が生じる。

「…………………………んっ………」

布に包まれた、柔らかく暖かいナニか。綿雲の中からわずかに漏れ聞こえる甲高い嬌声。
軽やかに浮遊するこの雲のなかにヒトが、それも成人女性が包まれて眠っていると、陽介は勘付けるだろうか?
なおルリエルはこの程度の接触じゃまだ起きる気配はない……。

矢那瀬陽介 > 冷たい冷たい、凍てつく冬を思わす冷気に、熱いものに触れたように手をひいてはまた伸ばし。
恐る恐る触れたところで返ってくるのは弾力。強く押したとて飲み込まれるのみ。
次第次第に大胆になり、ぴったりと火照る頬を近づけて、熱茹だる肌を癒やす冷気を至福と受け止める。

「これって……異能だよね。ファンタジー世界の仙人でも来たのかな。
 いいなぁ、冷たくて柔らかくてこの季節はずっと側に置いておきたい。
 俺も欲しいなぁ。」

瞼閉ざしてそんな独り言を零す内。ついに指先が何かに触れた。
ぴったりと押し付けた耳から聞こえる艶声に、長い睫毛重ねていた瞼をぱちりと開いた。

「……まさか、中に誰かいるの?
 閉じ込められてるんじゃないよね」

肩まで埋めて触れた何かを確かめる。衣服の生地、柔い肌
……そして起きないならば胸丘の膨らみを五指で掴んでしまうやもしれない。

ルリエル > あ……さすがにそこまで冷たくはないですよ?
内部はまるで冷房を24度に設定してしばらく置いた個室のような、冒涜的なまでにヒンヤリとしてカラリとした快適空間である。
もちろん、暑い外気に茹だっていた体でいきなりこの冷気に触れれば、凍えるような寒さを感じることもあるかもしれないが。

だからこそ、中ですやすやと寝息を立てる女体の体温もまた大きなコントラストとして感じられるだろう。
外から這入って来た見知らぬ誰かの手が、雲の中を訝しげにまさぐり、ルリエルの体にも容赦なく触れてくる。
面と向かった状態であれば常識人ならまず触れてこないであろう、あんな部位やこんな部位にも……。

「………ん、ぁ………な、なぁに、もう…………」

だが、さすがにこうも丹念に触れられれば、ルリエルも目が覚める。
外に誰かがいて雲の中に手を突っ込んでいる、という現状をすぐに察知すると、ルリエルは無言でその手をぎゅっと掴んだ。
雲の内部を見通せない陽介からすれば、まったく唐突に腕を締め上げられたように感じるだろう。大した力じゃないけれど。

「………………………あら、あら。ずいぶん大胆に女子にお触りしてくる男子がいたものですね……。
 ………触っていいなんて許可を出した覚えはありませんが……?」

ぽんっ。綿の塊の中から女性の顔だけが突き出してくる。
髪はウェービーな銀、肌は雲と同じくらいに真っ白、されど頬や唇は鮮烈な紅を帯びている。
少しばかり苛立ったような口調で下手人に問いかけてくるが、表情はさほど引き締まっておらず、どこかまだ寝ぼけ眼。
顔だけ女性で体は雲の塊、そういう妖怪もいるかもしれない。

矢那瀬陽介 > 膨らみをただ揉む手はその正体を知って五本の指で優しく撫でてゆく。

「なんかすごく柔らかい……これってもしかして。
 ぉっ!?」

ほんのり目元を染めた顔を跳ね上げさせ。顎を擡げて声の方を見遣る。
美麗な見た目と反して頭だけ雲から突き出した奇妙なる様相に
問われても暫くはきょとん、と幾度も瞬きを繰り返して固まってしまった。

「……えっと。まずはごめんなさい。声が聞こえたからこのヒンヤリした雲に閉じ込められてると思ったんだ。
 無事で良かった。
 これはお姉さんの能力なんだよね」

追従に返すのはあはっ、と明朗な笑い声に交えた嬉々とした声。
彼女よりは幾許か火照り薄い目元を掻きながら小さく頭を下げて。

「そしてご馳走様。とっても良いもの触らせて貰いました」

片目を瞑る戯れをしながら掴まれた手をゆっくりと引いてしまおうとした。

ルリエル > 「あら………あら………ふぅん………?」

目をぱちくりと瞬きながら、男子生徒と思しき相手の顔や体つきをまじまじと眺め返す。
雲の中では未だ陽介の手首を握ったまま。ぎゅ、ぎゅ、と軽く力を込めてくるのは、筋肉量でも確かめているのか。
そして、少年の目の前で「ふわぁ…」とひとつ大きなアクビをする……真っ白な奥歯に細い舌根まで丸見えにして。

「……ああ、そうなのですね。心配をかけてしまったのですね? それはごめんなさいねぇ……。
 ええ、これは私の《権能》……もとい《異能》の雲です。こうしていつでもどこでもお昼寝をするためだけの能力。
 なんせ私は《天使》ですから……ええ……。
 天使の体に遠慮なく触るなんて、ただのニンゲンには勿体ない幸甚でしょう……ふふふふ……」

なおも顔だけを雲から出した奇妙な姿勢のまま、天使と名乗る妙齢女性はやや不器用な笑みを少年に向ける。
そして、ちょっとした仕返しとばかりに手首を2,3回ぎゅーっと強く締め付けてから、離した。

「………あなたはここの生徒さん? ……いえ、校舎の屋上に来てるからきっとそうなのでしょうけれど。
 私はルリエル、養護教諭をやってますの。今日は非番ですけれど」

笑みに自然さが戻り、前髪をふわりと揺らしながら首を傾げ、天使はその名を名乗った。

矢那瀬陽介 > 「お昼寝するための能力……重宝しそうだね。俺は最近不眠症だから。
 イテテ、ごめんね。天使さん。でも天使さんも誰かが来るかもしれない場所で寝ていたのが悪かったんだから。
 だから、天使様の体を触った罰はこれくらいで許してね」

細い指達に湿られて大袈裟に痛みを訴えながら、学生服の上からでも靭やかな筋肉纏う腕を引き抜いていく。
その後は側の欄干に背と肘を預けながら頭だけある雲、もとい銀髪の人に眦下げた眼眸を向けて言葉に耳を傾けた。

「そうだよ。俺はここの生徒。今は昼休み中で涼みに屋上に来たんだ。
 俺の名前はヤナセヨウスケ。よろしくね」

海風に揺れる長い髪へと視線を流しつつに。
女教師の貌から睡みが消えてゆくのを見守ってから
弧を描く唇を動かし尋ねる。

「天使ってもっと超常とした存在だと思ってたけれど。
 結構俺たちと変わらないんだね。天使でも眠る必要があったなんて知らなかった」

ルリエル > 「ヤナセヨウスケ……ヨウスケ君ね。よろしく。
 ……涼むだけならもっと適した場所がありそうですけれど。自習室とか、図書館とか、喫茶店とか。
 でもまぁここは風が吹いて景色もいいですし、ジメジメが気にならなければ良い場所なのかもしれませんね」

そうルリエルが口にするや否や、びゅう、とひときわ強い海風が駆け抜けていく。やはり時候柄、むわりと湿った風だ。
雲から突き出したルリエルの銀髪も盛大にたなびく。
彼女を覆う雲もいくつかちぎれ飛んでいくが、吹き散らされたり風下に流される気配はない。

「……んー……。
 まぁ、私達――といってもこの島に来たのは私一人ですが――あなた達の思い描く天使に近い存在……だと思います。
 翼も一応ありますし、ニンゲンのように眠ったり肉を食べたりトイレに行ったり、というムダもありませんでした。
 …それだけじゃつまらない、と仲間内で合議していろいろするようになって、私が『休憩担当』になった、みたいな……。
 ……ふふ、説明が難しいですね。っと、いつまでもこんな体勢では失礼ですね」

そう言うとようやくルリエルは雲の毛布に包まった体勢を解きにかかった。
くるり、と体を中空で360度ロールさせると、いままでの弾力が嘘のように雲が八方に散り、夏の風のなかに消えていく。
中から出てきたのは、陽介に匹敵する長身の女性。シャツにジーパンというラフな格好で豊満な肢体を覆っている。
ぐっと両腕を上げてひとつ背伸びをすると、まっすぐに立った姿勢で改めて男子生徒と向き合う。

「まぁ、ええ。ニンゲンに近くなったけど、まだニンゲンとは少し違う、ここで言うところの《異邦人》のひとり。
 そう捉えてくださって問題はありませんよ。……ところでヨウスケはニンゲン? 異邦人?
 ……何か異能を持ってたりするのでしょうか?」

そう問いかける妙齢女性の表情は唇の端が釣り上がり、鮮緑の瞳も見開いてまじまじと少年の顔を見つめている。
興味津々といった雰囲気。

矢那瀬陽介 > 「クーラーにはあまり当たりたくないんだ。
 どーしても体が茹だってしまいそうになったら当たるけれど。
 できるだけ自然の大気と風で涼みたかったのさ」

眺めるのは四方を囲む曇天に暗い海……ではなく風にちぎれてはぐれる銀の雲達。
彼女の方に体を向けながらもそれがどうしても気になって。

「……それだけにルリエル先生の、あの雲は、すごく…うらやま
 あ!また飛んでいった。勿体ない!」

仕舞いには欄干から身を乗り出して掴もうとして、全て逃げられる。
どこかしら虚しそうに薄く俯きつつも再び彼女に意識傾け。

「言いたいこと、なんとなく。分かるかも。
 ムダといった行動がないと退屈だったんでしょ?
 だからルリエル先生も眠たくはないけれど眠るフリをしていた
 ってことかな。
 おっ」

興味は転々と。ついに幻視の如き雲が払われ晒される肢体に小さく声をあげた。
室内着に近い様相とて、寧ろそれが彼女の肉体を強調させるのだから。
体を横にそらし、伸びをする間にちらちらと伺いつつ。

「俺は人間だよ。一応、異能を持ってるよ。
 物体を回転できるんだ」

翡翠の眼眸受けて赤い目元を擦りつつ、胸ポケットに指したボールペンを手に取る。
長く節榑立つ指先に乗せたそれは、何も触れずとも回り始め。
ついにはその形状も捉え難いほど回転し始めた。