2020/06/26 のログ
ご案内:「体育館」にアイノさんが現れました。
アイノ > この学園に来てから、彼女の能力は飛躍的に成長を遂げた。
幼いころにバス事故を避けた時には体中の穴という穴から血が出たどころか、脳にまで出血が見られたものだが、現在はおおよその行動ならばノーダメージ。

たくさんの物体を。または、巨大な物体を動かす時に頭痛がする程度にまで身体を慣らし、抑え込んだ。

人によっては異能を恐れ、隠し、できるだけ使わないようにする、といったスタンスの生徒もいるが、彼女は真逆だ。
使いこなし、完璧に制圧することが現時点での目標だ。
手足のように、己の指のように。 繊細に、僅かな動きを全てにおいてできるように。


バスケットボールをドリブルする、珍しくポニーテールにした少女。
今度の体育で扱うことになったので、こっそり自主練。

アイノ > 「よっ。」

右にフェイクを入れて、左側からカットインに行くと見せかけて、そのまま両方の手でシュート。
流石に漫画のように片手で届かせることはできないけれども。リング上で二回跳ねて、ボールがネットを通過する。

「……はい、戻っといでー。」

念動力でボールが手に吸い付くように戻ってくる。
一人での練習も、このように簡単だ。

では、念動力をボールに使ったらどうなるのか。
ボールを手に反対方向を向けば、ハーフコートラインよりもずっと奥。
相手側のフリースローラインから、びゅ、っとシュートを放ち、ポニーテールが揺れる。


長い、長い滞空時間。
ゆっくりと数秒時間が過ぎて。
コントロールされたボールが反対側のゴールを射抜く。超長距離射程3P。

「はい、戻っといでー。」

体育館の反対側で地面を跳ねるボールが、また吸い付けられるように少女の手元に戻る。
トンデモバスケも、トンデモ野球も、トンデモサッカーも、彼女にかかれば思いのままだ。

アイノ > ……ふー。
一人、しこたま運動をして汗をかいたまま、ぺたん、と体育館の床に座る。
ボールを転がしながら、タンクトップとショートパンツと言った露出の激しい恰好。
なんか最近メスガキ需要があって配信チャンネルの視聴者が増えた。
は? 何? 罵倒されたいの? って煽ったらなんか喜ばれた。怖い。


なぜ一人か。理由はいくつか。
一つはまず、クラスには真っ当に相手ができる子が少ないからだ。

そしてもう一つは。

「………どうすりゃいいんだろーな。」
彼女なりに、悩みはあるのだ。

アイノ > 彼女は能力と共に生きていくと決めた。
それを無視することはできないし、今更能力をなくしたからって元の生活に戻れるはずもない。

「………何すればいいのかなあ。」
進路、と言えばありきたりな悩みだ。
生き方、と言い換えてもいい。

日常生活をただ送るには、便利を通り越して身に余る能力だ。
彼女はこの能力があるからこそ、一般的なスポーツ選手などの夢は断たれている。
どんなに身体を鍛えようと、"何か"しているのではないか、と疑われるに決まってるのだから、どうにもならない。

かといって、世の中に念動力を生かした仕事があるとも思えない。


ずっとずっと、自分が能力をコントロールしきれなかったから。
自分が完璧でなかったから。
だから故郷を追われたのだと言い聞かせるように、思い込むようにしてきた。
でも、もう流石に夢想に逃げ続けているほど子供ではない。
どれだけコントロールしきっても、今更故郷の地は、やはり踏めない。

アイノ > 「……はー、やめやめ!
 私ならなんでもやってけるだろ!」

自分のふわふわとした不安をかなぐり捨てるように、ポニーテールの髪留めを外して体育館に大の字に寝そべる。
己の能力に対しての強い自信を口にしつつも、その表情はさえないまま。


「………他の人は、何になろうと思ってんのかな。」

思う。今度は出会ったら問うてみよう。
己の能力とようやく向き合い始めた夏の始まり。

まだ少女は少女のままだ。

ご案内:「体育館」からアイノさんが去りました。