2020/07/08 のログ
■紫陽花 剱菊 >
「──────……!」
目を、見開いた。
耳朶に囁かれる、あかねの言葉に。
思い返せば、気づく点はあったはずだ。
だが、気づけなかった。彼女がそれほどまでに"血を滲ませた"のだと思う。
誰も気づかない暮夜に、明ける事のない帳を見上げて、太陽を待っていた。
……何と不甲斐ない事だ。剱菊は、己を責める他無かった。
だが、其れを顔にも、ましてや口に出す事は無い。
きっと、其れを彼女は望みはしないから。
だから……そう、せめて……。
握りが、解けた。
手元から小太刀が落ちて、床へと落ちる。
金属の音が夜を反響して屋上に響いた。
「……嗚呼……春うららの温かみにも劣る、雪間の様な己の半端さで良ければ……甘えてくれ。……否……。」
「────あかねだけだ。そう言った『特別』は嫌か?」
打ち解けた彼女を、今更攻めれようものか。
自らも、己の世界で多くの大義の為に如何なる修羅道を歩んできた。
此れを知って尚、止めれるのか────己は。
床に落ちた小太刀を拾い上げる気も、目線を向ける事も無く
深い夜に、『日ノ岡 あかね』のいる居場所に手を伸ばす様に
彼女から、顔を背けない。"向き合う為に"。
「…………。」
「──────……私は……。」
最期の、一言。彼女を"助ける"か。
"それしか"ないのか。
此の広い世界、最後まで"人"として在り続けるのか。
それは……。
「……胸襟は開けた。正直に言えば、未だ揺れている。……が……。」
「君が"良し"とするなら……御意御に……果てが天趣か、根の国か。何れにせよ、何処へなりとも、君の手を取る。」
「────……。」
最期に、口元をあかねの耳元に寄せて……。
■紫陽花 剱菊 >
顔を離し、再びあかねへと向き合った。
「……あかね。」
はっきりと、口元を動かしてその名を呼んだ。
夜の帳に近づくように
顔をゆっくりと近づけて
互いの唇が掠める距離まで、ずっと、近づける。
■日ノ岡 あかね > 「ばーか」
指先で。
唇を止める。
……笑ってはいない、少女相応の拗ねたような顔。
珍しく、目を背けたまま……あかねは呟く。
「そう言う特別扱いはとっても嬉しいけど……その、そういうのは……全部終わってからよ。手が早いんだから」
紅い頬で……珍しく、笑みを浮かべず、眉を下げながら。
あかねは、普段よりも子供っぽい声で続ける。
どこか、発音がたどたどしい……揺れる声で。
「『聞いた』なら、わかるでしょ……そういうのも、『願いを叶えて』からじゃなきゃ、私は始められないの」
目を見て、答える。
そう、これは……最初からそうなのだ。
『日ノ岡あかね』が『日ノ岡あかね』だから『日ノ岡あかね』を行う話。
『日ノ岡あかね』が『日ノ岡あかね』であるために……『日ノ岡あかね』を始める話。
この物語は……まだ終わらない。
いいや、あかねからすれば。
「私の『やりたいこと』は……まだ、始まってもいないの」
そう、『真理に挑む事』など……ただの手段。
目的ではない。
目的に至るための手段。
それ以上でもそれ以下でもない。
だからこそ。
「だから、コンギクさん」
手を握る。
ぎゅっと、幼子のように。
強く、強く。
もう、遠慮なんてしないとばかりに……硬く。
「私、片道切符にするつもりなんてないから」
成功確率は1%未満。
前回は負けた。今回も負けが濃厚。
それでも、それでも……あかねは。
■日ノ岡 あかね >
「『帰ってきたら』……また、私と最初から……『出会い直して』くれる?」
■日ノ岡 あかね > 負けるつもりなど微塵もなかった。
負けるつもりで挑む勝負など、あるはずがない。
負ける覚悟と、負け前提は全く違う。
そうして失う覚悟はある、苦しむ覚悟もある。
だが……だからといって、「ハナから負けるつもりで挑む勝負」など……あるはずがない。
■日ノ岡 あかね >
「また……日ノ岡あかねと、出会ってくれますか?」
■日ノ岡 あかね > 願うように、祈るように。
日ノ岡あかねは……そう、私の紫陽花剱菊に『助け』を求める。
黒い瞳を少しだけ、潤ませて。
いつもの笑みではなく……少し不安そうな顔で。
少女は、男に静かに尋ねた。
■紫陽花 剱菊 >
止められた。
おまけに誹られた。
「…………ふふ、いじらしいな。」
思わずからかってしまった。
それほどまでに珍しくて、初めて見た少女の少女らしい一面。
今まで彼女は宵闇の帳でずっとのらりくらりとあった"余裕"の裏。
日ノ岡 あかねの、本来の少女としての側面。
でも、彼女にとってそれはまだ始まってすらいないんだ。
わかってる、わかっているよ。
強く、強く握られた。
その手は多くの血に塗れたであろう男の手。
人に手を差し伸べるより、人の手を握るよりも、多くの生命を斬り捨てた手。
そんな手を強く、遠慮なく強く握られた。
誰もきっと、そんなに縋る様に握られたことは無い。
……不謹慎かもしれないけど、自らの手もまだ、人に縋られるだけの価値があるのか、と思ってしまった。
「──────……。」
それはきっと、気の遠くなるような挑戦だ。
きっとそれは、止めるべきものだったかもしれない。
多くの人間を斬ってきた、恨まれた。"誰かの大切なものを斬り捨てた"。
そして今度は、そうなるかもしれない少女を、見届けなくてはいけない。
……よもや、此処に来てこんな気持ちを覚えるとは思わなかった。
この様な"苦しみ"を、今まで自分は人に与えてきたのだ。
それでも、そこから目を背けない。
遠くを見ない。目の前の、彼女を見据える。
その目を何処までも、見続ける。
男は、微笑んだままだ。彼女に悲しい顔を見せないように。
どんな不安も、与えないように。
受け取ったものを強く、あかねの両手と共に強く、握りしめる。
■紫陽花 剱菊 > 「嗚呼、君の全てを、見届けさせてくれ。だから……。」
■紫陽花 剱菊 > 「紫陽花 剱菊は……此の幽世の島にて、何時でも"日ノ岡 あかね"を待つ。──────"日ノ岡 あかね"が来るのを『何時までも』」
■日ノ岡 あかね > 「……ありがと、コンギクさん」
あかねは……笑う。
普段のように。
いや……普段よりも、ほんの少しだけ柔らかく。
目前でなければ分からないかもしれない程の微妙な変化。
もしかしたら、今までもあったかもしれない差異。
目を凝らさねば、見過ごすかもしれない程度の差異。
当然だ、今のあかねも、かつてのあかねも、これからのあかねも。
全部、日ノ岡あかね。
少し、今は……見える部分が増えているかもしれないだけ。
だから、あかねは……目を細め、いつものように。
猫のように笑って。
「私、いってくるわね」
立ち上がる。
いつものように、気安く、気軽に。
あかねは躊躇わない、怯まない、下がらない。
だが、それは「そういう性質だから」ではない。
「そういう覚悟を持っているから」なのだ。
日ノ岡あかねは……理性で以ってそれを選んでいる。
日ノ岡あかねは……覚悟で以ってそれを選んでいる。
それを、少なくとも一人は……紫陽花剱菊は知ってくれたはずだ。
だからこそ、あかねは。
「良かったら、時間稼ぎくらいは手伝ってね? 多分もう計画自体は風紀にも公安にもバレてるから」
しれっと、そう言って笑う。
信頼しきった顔で。安心しきった顔で。
「だけど、そっちも無茶しちゃダメよ? ……私が戻ってきた時にプータローだったら、許さないんだから……それじゃ、コンギクさん」
踵を返して。
「『またね』」
日ノ岡あかねは、猫が尻尾を揺らすように、後ろ髪を揺らして去っていく。
相変わらず……足音一つさせずに。
■紫陽花 剱菊 >
「……うむ。」
小さく、強く頷いた。
何時もよりも柔らかな微笑みを見届けて。
一人の女性としての彼女を受け止めて
腕の中から去っていく彼女を、あかねの熱を名残惜しんだ。
「……火急だな。否、出来る限りは手助けさせて貰うが……。」
彼女の組織の規模も大きくなり始める。
公安も風紀も、前科者の行動を、再度危険を日の目に当てる事は出来ないだろう。
<毒があれば別だが、知らない事が幸せだ。>
あの少女の言葉は、今でも胸に残っている。
"その覚悟の下、公安としての刃として、彼女を殺す心算だった"。
"だが、其処に残ったのは、一人の人間。紫陽花 剱菊である"。
此れもまた、自らがとった道なれば、後悔はない。
「ふ……君こそ、失敗してくださるなよ?此処迄来て、其の様な詰まらぬ幕引きにはなってくださるな。」
その信頼に沿うべくして、彼女にだからこそ叩いてやった軽口。
薫風に揺れる少女の後ろ髪、夜に彷徨う黒猫の背中を見据えて。
「『いってらっしゃい』」
見送った。
夜の向こう側に、少女の姿を見送った。
─────嗚呼、しかし、しかしな。
此れを知ったら、きっとあかねは怒るだろうか?
自らは何時も、先陣を駆けるべくいつも『赴く側』であった。
それが今、『待つ側』に成り代わったのだ。
…………辛いのだ。誰かを送り届け、"待つ"と言うのも。
「……冴やかけ、己の沙汰に空も笑っているわ……。」
独り言ちた、嘲り。
何時までも、待つと約束した。
決して分かち難い此の絆を胸に、風と共に
一人の人間が去っていく。
残された小太刀は、ただ静かに消え行くのみ。
ご案内:「第三教室棟 屋上」から日ノ岡 あかねさんが去りました。
ご案内:「第三教室棟 屋上」から紫陽花 剱菊さんが去りました。
ご案内:「第三教室棟 ロビー」に藤巳陽菜さんが現れました。
■藤巳陽菜 > 大きめのサイズのビニール傘を尻尾の先にかけてぷらぷらとさせながらロビーで本を読んでいる。
『まとめて作れるお手軽おかず!』『冷凍しとけるカンタンレシピ!』いわゆる料理の作り方の本。
レパートリーがマンネリになってしまうのを防ぐのにこういった本はとてもありがたい。
「…雨止まないわね。」
今日も今日とて降る雨はまるで弱まる気配を見せない。
■藤巳陽菜 > 急いで帰る用事もないのでゆっくりと本を眺める。
一般的な食材を一般的な量使った一般的なメニューが載っている。
その多くは陽菜が作ったことがあるメニュー。
本によって使ってる材料は多少違うけれどだいたい同じ…
「…今日は何作ろうかしら。」
スマホに届いている異邦人街のスーパーの広告と本のページを合わせてみていく。
■藤巳陽菜 > 本日の日付のチラシを見れば肉が安く、卵が安く、名前を知らない野菜も安い。
この材料から導き出される料理は…料理は…。
た、【卵と鶏肉をいい感じの味付けで煮たやつ】
……やっぱり今日もそこに行きついてしまうのか。
折角料理の本を読んだのにと…一瞬頭を抱えるものの味付けもいい感じだし作るの簡単だしおいしいし…
やはり、【いい感じの味付けで煮たやつ】に行きついてしまう…。
ご案内:「第三教室棟 ロビー」に藤巳陽菜さんが現れました。
■藤巳陽菜 > むむむ…チラシを何度見てもいいアイディアは浮かんでこない。
そして、運よく或いは運悪く一つの事実の気がついてしまう。
「明後日からテストなのでは?」
試験が始まるのは7月10日今日は7月8日。
通りで普段より通る生徒が少ないわけだ!!
ビニールの袋に包んだ鞄に見ていた本を入れるとそのままダッシュで家へと向かう!今回あんまり勉強してない!
ご案内:「第三教室棟 ロビー」から藤巳陽菜さんが去りました。
ご案内:「第三教室棟 屋上」に園刃 華霧さんが現れました。
ご案内:「第三教室棟 屋上」に幌川 最中さんが現れました。
■園刃 華霧 >
「さ、テ……」
気合を入れる、というわけでもないが一息、息をつく。
あの相手なら、まあ呼べば来るだろうことは間違いないが……
ガラにもないことをすると変に緊張する。
「あトは、いつ来るカ、だナ……」
自販機に左肩を預け……屋上への入り口を見つめる。
実はすでに来ていて隠れている、なんて可能性も考えて
ちょっと見回りはした。
したが……油断ならない気もしている。
さて、どうくるかな?
■幌川 最中 >
・掃除用具入れに隠れる
→図体がでかくて隠れきれなかった。
・サプライズにバースデーケーキを用意する(別にバースデーじゃない)
→思ったより忙しくてそういう準備ができなかった。残念。
・なんとなく読めていたから他の委員も連れて行く
→読めているから余計に華霧ちゃんはそういうことしたくないよな、と思った。
よって、幌川は普通に、いつも通りに。
違反部活謹製の甘ったるいタバコと一緒に屋上にきて、気安く片手を上げる。
「よ、華霧ちゃん。いい加減俺にコクりたくなった?」
■園刃 華霧 >
「アー……ま、告白って意味じゃまチがっちゃナいかモな?」
いつものノリで相手は登場した
それに……一人だ
誰かと来る可能性も、まあ考えていなくもなかった
だが……一人だった
あーあー、やっぱ一人だったかあ……
「ナー、幌川先輩。
アンタと……関わっテから、ドんくラいだったケかね」
付き合ってから、なんて言い方はしない
してやらない
なんか乗らされた気分になるから
■幌川 最中 >
「えっマジでコクんの!!?!?
華霧ちゃん俺は絶対やめといたほうがいいと思うよ俺とか。
本当に俺みたいなやつじゃなくて、ちゃんともっといい男をさ。
俺はいい男だけど、華霧ちゃんはちょ~~~~っとレディとしては未熟というかね、」
この直感は嘘偽りを語りはしない。
ただ、「絶対そういう話じゃないな」ということだけを延々と告げる。
だというのに、茶番をやめようとはしない。
だって華霧ちゃんがだぜ。こんなに真面目に話してるってことは。
……ふざけるのは、今日は俺の仕事ってことだろ?
「どんくらいて。
華霧ちゃんが赤ちゃんの頃から今まで成長をちゃあんと見てきて、
最初は二足歩行もままならなかったのに……、…………。」
どうやら俺は、冗談が下手らしい。
「実家にいた頃から知ってるよ」
実家。「いろいろなごたごた」のある前。
小綺麗な学生街を歩いていなかった頃。目につく人物だったのは、よく覚えている。
■園刃 華霧 >
「自分で言うノか、幌川先輩サンよ。
・・・
知ってルよ、アンタがイイ男、なンてことモ。
・・
アタシが、未熟ダ、なンてのモさ」
思うことは色々ある
わざわざこうやってふざける相手には、特に色々
アタシには何もなかった
何もないまま、無理やり手に入れてきた人生
熟す、なんてのは一体いつのことなんだろうね
「幌川先輩、ジョークに切レがなイな。
不調か?」
ヒヒ、と一回からかって
「実家、ナ。ハん、そンなもン……アタシには、無かっタさ。
だいぶ、脳が劣化しテないカ?
まア、住めバ都、ゴミ屋敷も実家、ってカ?」
鼻で笑い飛ばす
笑い飛ばしたのは、相手なのか、それとも――
「しカし、ソーか。
けっコー長いナ。ソれ……
やッパ、長いな……」
相変わらず、自販機にもたれ掛かったまま
溜息をつくように反芻する。
「アタシがクソガキだった頃かラだ。
や、今も大しテ変わってナいか」
自嘲気味に言葉にした
■幌川 最中 >
「俺もねえ。ちょっとキてんのさ。
……危うく俺も人生で3回目の、やっちゃいけないミスをするところだった。
理央ちゃんの話だって聞いてるだろ。……あれは、俺のミスだった。
そりゃあ、10年に2回の大イベント。ジョークなんて言ってられんさ」
冗談のように笑おうとするも、その笑いもから回る。
ポケットからライターを引っ張り出してから、葉巻に火を灯す。
甘ったるい香り。本来、学生の手にあってはいけないもの。
煙を息いっぱいに吐き出してから、呟く。
「3人目になりそうな後輩を前にして、俺が平然としてられると思う?
……理央ちゃん、いま入院中だぜ。で、華霧ちゃん」
笑わない。笑える話をするつもりはなかった。
それに、相手の覚悟を笑うつもりもなかったがゆえに。
「本題、聞かせてもらっていいかな」
吐息一つ、
「カワイイ娘が嫁に行くってなって、父親が笑ってはられんだろ」
■園刃 華霧 > 「あノ鉄面皮が、撃たレたヤつか。
ハ、幌川先輩、前に前線でル、なンて話もしてタな。
……いたのカ」
あのときのことを思い出す
二人で語った話はなんだったか
あの時の事件は……
何処からともなく、煙草を取り出し……
パチリ、と指を鳴らせば一瞬の業火
器用に先っぽにだけ火を灯して……咥える
「……まっず……」
煙を吐き出し、文句を一言
だが、それは必要だと思った
「アーあ、叶わンなー幌川先輩。
うン……アタシ、な……ほら、コレ」
自販機から、身を離す。
そこには、普段なら風紀の腕章がはめられていたはずだ
しかし、そこにあったのは――
林檎に噛み付いて絡みつく蛇
日ノ岡あかねの部隊の証
■幌川 最中 >
「ん、んんー……」
どう言おうか、と悩んだ。
自分が何を言う権利もない。が、華霧がわざわざ自分に言いに来たのなら。
それを聞かされているのだから、言う権利もあるだろう。
勝手に一人で、なんとか納得を作り込んでから溜息をつく。
「似合わんな」
一言だけ、静かに呟いた。
『トゥルーサイト』。くだんの違反部活の摘発に関わっていた。
そして、そこで初めて1度目の取りこぼしをした。
「なあなあ」でやってきたことが、間違いだと思い知らされた。
当然、言葉は厳しくなる。当たり前だ。
これは、まるで。――あの日の、再現じゃないか。
『トゥルーサイトに潜入することになってさ』
「それは公安の仕事だろ」
『へへへ。……これは、『自発的な風紀活動』の一環だよ』
「……俺は、勧めんけどな」
『いーんだよ。俺が勝手にやるんだから。多分、あれ、危ないぜ』
沈黙が二人の間に落ちる。
あんなに前は軽かったはずの空気が、こんなにどんよりと重たい。
「似合わねえなあ、華霧ちゃん」
二度目の言葉だった。
良いも悪いも言いはしない。自己責任。それでも。
こういう文句の一つは、きっと誰も彼女に言ってやりはしないだろう。
だから。
「ウェディングドレス着らんなくなるかもわからんぞ」
■園刃 華霧 >
「ソーだナ。そウかもシれン。
こンなモン、アタシには似合わンのかも、ナ」
肩をすくめて答える。
わからない。
正解なんて無い
でも、ひょっとすれば相手の言い分のほうが正しいのかもしれない
「デもサ……アタシは、馬鹿ダかンな……
こウいう生き方シか、デきナいんだワ。
……悪ィな、幌川先輩」
嗤う
それは、いつもの笑いとは違う
なんともいえない笑い
「そウだナ……アンタの墓の前に線香置く前に、
アタシが貰う側にナっちまうカもナ。
ほんと、悪いナ」
それはかつて与太話のように、しかし真面目に話した話
あの時、問われたのは――
「死ぬのは 怖くないのか」
しかし結局今も、その答えは変わらないままだ
「ウェディングドレス、ねエ……
は、そモそも、ソんなモん着る予定ないンだけド」
もちろん、それだけの意味ではないことはわかっている。
わかってはいるが、こういう返し方しか出来ないのが自分だ
■幌川 最中 >
「それ」が似合うやつがいるかいないかで言えば、
きっと、幌川は誰にも「似合わん」と言い続けるほかに選択肢がない。
正解がない。それでも、間違っていたとしてもそれを掲げたのなら。
それを背負うという覚悟を決めなければ、あんな沈みかけの船には乗らないだろう。
沈みかけじゃない。
もう、あの船は一度沈んでいる。
沈んだ沈没船を引き上げて、もう一度それで航海しようと言っているのだ。
正解なはずがない。
「……華霧ちゃんさあ。
一個俺、言っとくけどもね。俺は怒ってはいない。
怒ってはいないけど、一個だけ聞く。あかねちゃんと何を話したかは知らんけども」
沈黙。
「……『それ』以外に、手段はなかったんだな。
『そう』しないと、華霧ちゃんが『楽しく』はできねえってことだよな?」
心配そうに、そう呟いてから。
困ったように眉を下げて、肩を軽く竦めた。
■園刃 華霧 >
「…………」
困った顔をする相手を見つめ
しばらく沈黙する
こういう相手だから
話そうと思った
こういう相手だから
言わなければならないと思った
「アタシもサ。色々、考えタんだわ。
馬鹿なリにサ?」
ぽつぽつと
いつもの饒舌とは違い
言葉が すぐに出ない
「アタシは、幌川先輩が知ってノとーリ、ロクデナシさ。
何でもかンでも、アレやコレやと、盗ンで奪っテぶっ壊シて……
そンで生きテきた。
此処に来テよーヤく落ち着イた、と思ったンだけどサ。
……ヤッパ、ダメだったンだわ」
再度……煙草を咥える
息を大きく吸い――
はぁ……と、ため息のように
大量の紫煙を吐き出す
「なにヤっててモ『退屈』ナ、アタシに……
気がつイちまッタんダ」
■幌川 最中 >
「悪ァーったな、華霧ちゃん」
へらりと笑った。肩を竦めて、情けない笑顔を浮かべて。
少しだけ泣きそうだったかもしれないが、いつものことだ。
考えて、『退屈』に気付いてしまったのなら。
真剣に、自分のやりたいことに向き合ったのならば。
「……情けねえもんだなあ。アッハハハハハ。
別に誰がどうだのとは言うつもりはなかったつもりなんだが。
そうかあ、俺は、…………、」
『楽しく』してやれなかったな。情けない。
暇潰しの一つでも提供できたらとは思ったが。ああ、これはまるで悪霊だ。
理央ちゃんといい、あかねちゃんといい、華霧ちゃんといい。
誰もが、俺を置いていく。
わかってる、つもりなんだがなあ。
「……華霧ちゃん、一個だけ噂、教えるよ。
誰にも言うんじゃねえぞ。根も葉もない、しょうもない噂だからな」
「 」
笑って、「後悔すんなよ」と付け足した。
■園刃 華霧 >
「幌川先輩は、悪くナいサ。
もし、悪いってンなら、結局馬鹿ガキなマまのアタシさ。」
まあ、もう治すつもりもないんだけどな
と、付け加える
結局の所、自分は何処まで言っても自分勝手、
ワガママ放題のロクデナシなのだろう
自分の命すら賭けることに迷いがない、特級の馬鹿だ
「せっかくサ。幌川先輩にハ、色々世話ンなったノにな。
ほんと、悪ィ。」
謝る
人生の上で、本気で謝罪したことは一体どれだけあったことか
「ハ……冥土の土産ってカ?
ま……ありガたく、貰っておクよ。
あア、後悔のナいよウにはスるさ。せいぜいナ」
ひひひ、といつものようないたずらっぽい笑みを浮かべる。
「あ、ソーだ。
前、聞いテたな。
『おっぱい触らせてくれるかお尻触らせてくれるか火貸してくれるか小銭貸してくれる?』なンて。
火も小銭も、足りテそーダし……」
――触ってク?
吹き抜ける風の中、そんな言葉が運ばれた