2020/08/13 のログ
ご案内:「第三教室棟 屋上」にヨキさんが現れました。
■ヨキ > 夕方。日が傾き、やや気温が下がりはしたもののまだまだ蒸し暑い時刻。
ヨキがつなぎの袖を腰で結び、Tシャツの裾をぱたぱたと仰ぎながらベンチに座っている。
首に巻いたタオルで汗を拭い、隣に置いた小さなビニル袋を漁る。
中に入っているのは、凍らせて溶けかけたペットボトルの麦茶と、お気に入りのカップアイス。
よく冷えた麦茶が喉を流れ込み、ああ、と長い呻き声を漏らす。
「美味い……」
■ヨキ > ペットボトルの蓋を閉め、お次はアイスを取り出す。
昔ながらの、ピンク色をしたかき氷。
蓋を開けると、購入してからの持ち運びで程よい硬さになっていた。
平べったい木のスプーンで、さくさくと表面を耕すように突き崩す。
そうして一口。
顔をくしゃくしゃにして、冷たさを味わう。
「…………。これ……」
これである。
これが夏なんである。
暑いからこそ、美味いものがあるのだ。
ご案内:「第三教室棟 屋上」にジャムさんが現れました。
■ジャム > 異邦人の野性的な第六感は、ある状況下に置いて非常に鋭敏になる。
麻薬探知犬並の探知力を発揮するようになる。
例えば。
ひぐらしが鳴く頃な時間帯。誰かの口元で「しゃりっ」と涼しげにかき氷が口の音に消えていく音だとか。
たまたま学校近くを夕涼みの散歩に来ていた半獣人は即座にびくんと両耳が跳ね上がる。どこだどこだと周囲を見渡しながらフェンスを登り、空調のダクトをよじ登り、屋外に設置された室外機から室外機へ忍者のように飛び移り。
やがて見知った、随分前に美術準備室でお茶した記憶も久しい相手が屋上のベンチでかき氷を味わっている様子を転落防止柵の上から発見するなり、壁から壁へ三角飛びして屋上へ。
「ヨキせんせー!久しぶり!」
フロアに着地するなり大きく手を揺らして笑顔で近づいて。
「あのー。そのかき氷、……一口ください!」
ベンチに座る彼の前にしゃがみこんで。
犬がおねだりするみたいに、両手を胸の前に曲げて。
図々しくピンク色のかき氷を所望し。
■ヨキ > 「ぬおっ」
思わぬ場所から見知った顔の生徒が現れると、さすがのヨキも声が出る。
「はは……びっくりした! ジャム君ではないか。
いやはや、どこから現れるか油断ならぬものだな。
よしよし、久しぶり。
相も変わらず元気そうでよかったよ。
ヨキもこの通り、毎日楽しんでおる」
かき氷をねだられると、快く笑って。
「あ。さては、こやつを嗅ぎ付けてきおったな?
ふふ、抜け目のない娘だのう」
断る素振りもなく、木べらで多めの一口を掬う。
しゃがんだジャムの口元へ運んで。
「ほれ、あーん」
■ジャム > 「えへー。おどかしてごめんなさい。
今日も、
お墓の土のなかから人が蘇っちゃいそうなぐらい暑かったけどー。ヨキせんせも元気そうで良かった!絵の具といっしょに溶けてなくて良かったー!」
たたっと小走りに寄っては、非礼を詫びるようにぺこりとお辞儀。つなぎの裾を腰で結んで、シャツはためかせる様子に目元緩め。
「へへへ。僕の鼻はかき氷の匂いも嗅ぎ分けられるんだー!
わーいわーい!ぁー……」
得意そうに獣耳をぴこぴこ跳ねさせると、ちろりと悪戯っ気に舌覗かせ。
木べらで夏の輝きたるかき氷が取り分けられると、はたはた揺さぶられる尻尾。
小さな白い歯が並ぶ、桃色の舌と濡れた喉奥晒しながら瞳を伏せつつ首を近づけ。
かぷ……っ……。
「ん……!ふ、……あぁぁぁぁぁ……。
冷たーい、甘いー、嬉しい、……美味しいよう……」
目元がとろけ。緩んだ頬に丸い頬紅が現れる。
うっとりと自分の両頬に手を当てて微笑む。
「夏って感じ……!ひとくちありがと、ヨキせんせ……」
■ヨキ > 「本当に、毎日毎日暑いものだ。
これで冬になると寒い寒いと震えるのだから、生き物とは難儀なものよのう。
ふふ、ヨキは頑丈が取り柄だからな。太陽くらいで溶けはしないさ」
ふふん、と笑う。
日焼け止めを施しているらしい肌は変わらず色白だが、頬は熱を孕んでほんのりと赤い。
かき氷を食べて幸せそうなジャムの様子に、楽しそうに笑う。
「あはは! 何とも魔性の食べ物であることだ。
ジャム君を一口で骨抜きだ」
座っている場所を少しずらし、隣に一人分のスペースを空ける。
「こちらへ座るといい。かき氷、半分こしよう。
汗臭くないといいのだが」
かき氷を自分でも一口、二口と味わいつつ、上半身のそこここをささやかに気にする。
無香料の制汗剤でセーブしているとはいえ、獣人の前では隠しようもないことだ。
ほんのりと香るのは、柑橘にわずかな花が交じった、さわやかな夏用の香水。
■ジャム > 「ふふ。僕、ワンパンでやられたー!
この世界ってすごいよー。偉い魔法使いの人に魔法使ってもらわなくても、氷を作れたり保存できたり!
僕のお小遣いでも買えるぐらい安く氷菓子が買えるし!」
からから笑い声を立てて。元居た世界じゃ高級品だった氷菓子が手軽に入手できる素晴らしさを身振り手振り、ついでに尻尾を振って言い表し。
「やったー!ヨキせんせのお隣さんー!
半分こ!半分こ!
……ううんー、ヨキせんせの身体いい匂いだよ。
果物とお花の匂いー……?
果物の入った籠の匂い……、本にはさまったしおりの、押し花の匂い……?」
相手の申し出に子供の顔で喜び。
ぽふんと彼の隣へ。シャツの襟元からほのかに香る彼自身の匂いと香水の香に、すんすんすんすん。小鼻を揺らしながら少し顔を胸板に近づけつつ。匂いから連想されるものをいくつも浮かべ。
そのまま相手の顔を覗き込むと、にー、笑いかけ。
ぁー……、と再び楽しげに唇開いて。舌を伸ばしてかき氷を載せてもらおうと。
■ヨキ > 「なるほど、君の世界では氷が貴重だったのだな。
エアコンやこたつなんて、それこそ魔法の道具のようだろう?
誰もが居心地よく暮らせるようにという、この世界の頑張りの賜物だ」
ジャムの尻尾がぱたぱた動くと、釣られて明るく笑う。
いい匂い、という評価には、ふっと吹き出して。
「ふふ。鼻のいい君にそう言ってもらえるなら、身だしなみを整える甲斐もある。
そんなに近付いてくると、もっと暑くしてやるぞ」
言いつつ、父親が小さい子どもへそうするように、腕の中へジャムを包み込む。
近くなった顔にこちらからも笑い掛け、掬ったかき氷を相手の舌へと。
「やれやれ、暑い暑い。かき氷が美味いわい」
囁くようにわざとらしく嘯きながら、かき氷を木べらで崩して自分の口へ。
ヨキの腕に触れると、汗ばんだためにわずかに冷えていることがわかる。
■ジャム > 「僕もっと頑張って勉強したら、冷蔵庫とか作れるようになるかな!もし作れるようになってー、そのまま元の世界に戻る事があったらー。みんなが夏を涼しく過ごせるように冷蔵庫もエアコンも作りたいな!」
今も取り込む数学を極めたら、それこそ魔法のように空調器具や家電が作成できるようになる。
そんな誤解を抱いたまま、口だけでっかい夢を描いてみせ。
「あはっ!暑ぃぃいい!
んーっ!でもかき氷美味しいよー!
あはははっ、でもやっぱり暑いー!
お返しだぞー!暑い暑いカウンター!」
じゃれあうように彼の腕に埋もれる。
うむ。暑い!でも楽しいし、かき氷はその分美味しい。
負けず嫌いを大げさに装いつつ。少し冷えを感じる腕の両肘に両手を伸ばして包み。そのまま、肩へ。首の後ろに抱きついて密着。灼熱のハグ返し。昼間の熱気に加えて子供っぽい高い体温が、雌獣の柔らかい触れ心地が衣服ごしに彼へ。
■ヨキ > 「なるよ。いっぱいいっぱい勉強して、便利に暮らせる方法をたくさん編み出してごらん。
それを持ち帰ったら、今度は君が先生になってみんなに教えていくんだよ。
そうするとどんどん知恵が広がって、いずれ冷蔵庫やエアコンより凄いものが作れるようになるかも?」
その顔に、揶揄いの色はない。
ジャムがそう育ってゆくことを、心から期待している顔だ。
「ふふ。君の身体はこれまた温かいのう……これは冬にやるべきだったかな?
あははッ、重い重い。やられた!」
朗らかに笑いながら、かき氷を零さないようごろりと横になる。
長身の体幹はしっかりとジャムを支えていて、“やられた”が冗句に過ぎないことはすぐに判る。
「普段はヨキが見下ろしてばかりだからな。
たまには君が上になるのもよかろう。
……ああ、かき氷がそろそろ溶けるな。
残りは君にやろう」
半分氷水のようになったかき氷のカップに木べらを添えて、ジャムに差し出す。
空はマジックアワーの頃合いに差し掛かる。
街並みが夕焼け色に染まり、この屋上をも一色に染めてゆく。
「ふふ。ここから見上げる君は、ヨキにとっても新鮮だ」
間近にあるジャムの顔を見ながら、楽しげに呟く。
■ジャム > 「それじゃあー……、寒い冬でもみんながポカポカあったかくなる魔法の塔を作るよ!
作って、王様に差し出して、お金持ちになってー。
お城つとめの魔法使いの人たち雇って、お菓子のなる木を作る!」
広がる夢の末はいきなりお金目的になったり世俗的になったり、かと思ったら最後は子供っぽくコロコロ。転がっていくお話。ちょうど同じように、ベンチの上で彼の上に戯れながらもつれて。
「ヨキせんせに勝ったー!ジャムー、ウィン!
へへ。冬になったら呼んでよ。せんせのこと、ちゃんとあっためてあげる!むぎゅー。
――あれあれ。もうこんなに溶けちゃうんだね。うん、ありがと!」
余裕のある声音と大勢で冗談めいているとわかりながらも、
わかっているからこそ彼の配慮による自分の勝利を喜び。
木べら添えられたかき氷、お礼を言って受け取り。
相手の胸板の上にねそべるよな格好でぱくぱく。あっという間にたいらげてしまう。空になったカップは後で捨てておこう。ベンチの脇へそっと置き。
――そのうちに、昼と夜の境が見えてくる。茜色が群青色に。移ろう空の幕間に瞳を細め。
「えへへ。……そかな。そう言ってもらえたら、なんかちょっと嬉しい。
……ねえねえ、せんせ。僕ともっと、新鮮なこと、しない?
せんせからしたら、僕は……、全然子供かもしれないけど。
それでも……。せんせが喜ぶことぐらい、僕にだって出来るよ……?」
楽しげな呟きにほんのり、空の色とは別に赤らむ頬。
少し恥ずかしそうに俯き加減になりつつ、相手の長身の腰元にまたがるような格好になり。
片手の手先を胸元に添え。もう片手を、少しずつ下腹部に近づかせながら淡い声音で誘って。
■ヨキ > 「あははは、素敵な夢だ。お菓子のなる気が出来る頃には、ヨキも君の世界へ遊びに行けるといいな。
とっておきのお菓子をご馳走しておくれよ」
身体が触れ合う距離で語り合うと、声も自然と落ち着いて。
低く静かな男の声が、さががら睦み合うようにジャムへと囁かれる。
「それなら、冬には毛布になってもらおうかな。
職員室で仕事をしているときなど、気持ちよくて眠りこけてしまうやも知れん。
人肌ほど心地よいぬくもりはないからな」
声を発するたび、呼吸をするたび、胸板は呼気に小さく震え、上下する。
心臓の鼓動があり、脈があり、体温がある。
こちらを見下ろすジャムの表情に、目を細めて笑う。
「――ふふ。今は“まだ”駄目さ」
自らの下半身へ延びようとするジャムの手に、左手で触れる。
長い指先が、ジャムの手を焦らすように、しかし制することなく手の甲を擽った。
右手は己の腹の上に置かれ、組み敷かれているにも関わらず無防備に寛いでいる。
「“新鮮なこと”は、君が卒業するその日まで取っておいて。
そうしたらヨキの悦びも、今よりもっともっと大きくなるから。
……卒業式まで我慢出来たら、ヨキの“とっておき”をご馳走してあげる」
気の長い話だ。けれど、嘘を吐いている様子はない。
紺碧の瞳が、揺れ惑うことなくジャムの瞳をじっと見ている。
■ジャム > 「それならー、ヨキせんせの枕にもなるよ!
せんせの安眠枕。それでー、僕の尻尾で悪い夢も追い払っちゃう!」
毛布であり、枕。多機能型異世界人誕生の瞬間であった。
輪に羽根がついたドリームキャッチャーのかわりに、黒尻尾をくるりと巻いて見せて豊富なオプションをアピールし。
伸ばした手先が相手の生命の流れを伝えてくる。
胸板は豊かな大地。脈は、その地下を流れる清い流れ。
そんな事を連想しながらも、返される言葉に小さく笑む。
「うん、そっか。……じゃあ僕が卒業する日まで楽しみにするね!せんせのとっておき、待ってる」
下肢へと進める手先の動きを止めると、こくんと頷く。
手と手先が触れ合うところにある熱を夕闇の中に感じながら、見合わせる瞳。瞬きひとつすると、目元を緩ませ。
「ねえねえ、ヨキせんせ。
そろそろ夜になるから、僕は家のほうへ戻るけど……。
ちょっとだけ、お散歩していかない?
付き合ってくれたら、せんせのために僕の故郷の歌、歌ってあげるよー?」
昼と夜との短い間奏が終わるまでややあってから、
ベンチの脇に置いたカップを拾いながらそう告げる。
帰り道が同じなら、夕涼みの延長を相手と過ごそうという心算で。
彼が頷くのなら、自分が元居た世界で家族から教えられた、羊飼いたちの歌をお披露目しようと。
首を振るなら、この場で別れようと。
どちらにせよ、「今日はありがと。おやすみなさい、せんせ!」と別れ際には笑顔で手を振るものと――