2020/09/20 のログ
綿津見くらげ > 微かに薬臭いその空間は、確かに病室の様にも見える。
部屋を見渡すと、天井の四隅にカメラが仕掛けられていることに気づくだろう。
風菜の推察通り、部屋の中の患者、あるいは実験対象を観察するような、研究施設の様にも思える。

ひとつだけある部屋の扉を開ければ、薄暗い廊下に出るだろう。
その廊下には、同じようなドアがいくつも並んでいる。
大体の部屋は空室の様だが、そのうちのいくつかは中から明かりがうっすらと漏れ出ている

雨見風菜 > 基本的に他人の夢の中では、その相手が夢の主である。
故に、その夢の世界を大きく改竄するような好き勝手は出来ない。
だが、もともと異物である自分が立てる物音を消すくらいは出来る。

「さて、ドアに鍵がかかっていないか物理式であることを祈りましょうか」

そう独り言ちながら、手近な明かり漏れるドアの隙間を観察する。
ドアの奥の部屋の様子を見ながら、くらげらしき姿を探す。
ついでに、ドアノブの辺りにデッドロックが出ていないかも見る。

綿津見くらげ > ドアには小さな小窓がついており、中の様子をある程度伺える。
中を覗けば、暗く何も見えない部屋や、
部屋の奥にベッドがおいてあり、その上に人影がうっすら見える物、
奥に人が何人か立っており、くぐもった呟き声が微かに聞こえる物など……

そして廊下を進んでいけば、奥の部屋に一際明るい部屋があるのが見える。
ドアは鍵がかかっており、簡単には開かない様だ。

中を覗けば、部屋の中には黒髪の少女の姿。
少女は、ベッド、というよりは手術台の様なものに寝かされて、
手足と体幹を拘束されて身動きが封じられている。

髪の色、目の色が違うことを覗けば、
それは綿津見くらげに瓜二つな少女であった。

雨見風菜 > 「くらげさん……髪の色が違う?
 異能の発現前、もしくは……」

先入観は禁物だと言われていたが、風菜はそのくらげに瓜二つの少女をくらげと判断してしまう。
とはいえ、風菜も所詮は小娘。
一般人である彼女に、初めて潜った他人の夢の中で完ぺきを求めるには酷である。

「とりあえずは鍵ですね。
 サムターンや閂なら異能でなんとかなるんですが……」

言って、『糸』を使い、ドアの隙間に通して向こう側を探る。

綿津見くらげ > 金属製の扉は重く、鍵もちょっとやそっとでは開きそうもない構造だ。
しかしこれは夢。
何かの拍子に開いたり、やりようによっては開錠する手段も有るかもしれない。

部屋から何か声が聞こえる。
スピーカー越しのその声は、
はっきりとは聞き取れないが、男性の物の様だ。

すると、部屋の奥、もうひとつの扉が開く。
中から、仄暗い青色、不定形の何かが、
ズルズルと湿った音を立てながら、部屋の中の少女へと這いよって行く。

雨見風菜 > 『糸』では無理と判断し、『触手』をドア越しに発生させる。
一番の問題はパワー不足。
『触手』は見た目に反してパワーが弱く、スチール缶も潰せない。
期待はしていないがとりあえず解錠を任せ、中の様子を見る。

「あれは……?」

部屋の中のくらげらしき少女に這い寄る、不定形のなにか。
『液体収納』で収納できるだろうが、完全に射程圏外だ。
異能での射程延長もできないため、『触手』が解錠できるのに一抹の望みを託しながら眺めるしか出来ない。

綿津見くらげ > ゆっくりと這いよる何かは、
少女の腰の上に跨る様に覆い被さり……

少女は恐怖のあまり、声も出ない様だ。
目を見開き、涙を流し、身体を硬直させるばかり。

不定形のそれは、身体を変形させ、
いくつもの触手を伸ばした様な姿に。

そしてそれは少女の口の中に触手をこじ入れて、
身体の内部へと侵入していく。
ほかの触手も、少女を捕食するかのように身体にとりつき、
いたるところから少女の内側へと侵入していき……

突如、バツンとブレーカーが落ちるような異音。
同時に部屋も、廊下も、非常灯で照らされた様に真っ赤に染まる。

『……誰……匿……
 …禁じ……
 …………除………』
そして、廊下の奥から何かが迫りくる気配。
ヒタヒタと音をたてて、風菜の方へとまっすぐ歩み寄ってくる……!

雨見風菜 > 「くらげさん……」

くらげらしき少女が、くらげ自信だと確定したわけではないのに。
風菜はそのさまを、悲痛な面持ちで見つめるしか出来ない。

そして、ブレーカーが落ちるような音で周辺が真っ赤に染まる。

「!!」

『糸』を一度切断、『触手』も仕舞って、自分を透明にし、匂いも消して『糸』を使って天井に張り付く。
通路の奥からやってくる『何か』は今のところ判然としないが、果たしてこれでごまかせるだろうか……?
唯一消せない体温を恨めしく思いながら、緊急脱出するために魔術を準備しながら様子を見る。

綿津見くらげ > 歩み寄ってくる何かは、次第にその姿が明らかになる。

つぶれたカエルの様な身体に、べったりと湿った皮膚。
補足長い四本の脚で這いまわる。
頭部らしき部分には怪しく光る二つの眼、
そして横にばっくりと開いた大口。

『……誰ダ……誰ダ……誰ダ……』
不気味な低いくぐもった声。。
明らかに風菜を探している様だ。
風菜が張り付いているあたりの真下で歩みを止め、
周囲をギョロギョロと見渡し、臭いを嗅ぎまわっている.

雨見風菜 > 様子を見る。
一般的な……島の外に住む少女なら、見た目だけで悲鳴を上げそうなものだが。
常世島で生活し、異邦人を見慣れている風菜にとってはそれほどの異形ではない。
まあ、気色悪い、と言った感想は出るが。

(『糸』で締め上げるわけにもいきませんしね)

風菜の異能は、戦闘には全く向いていない。
眼下の異形を締め吊るし上げる事はできるだろうが。
それをすれば侵入者が居たことが知られる。
それに、相手の体重に『糸』が耐えられるのかとも考えてしまう。

綿津見くらげ > 『……………。』
不気味な音を立てて息を漏らし、あたりを伺う異形だが、
しかし風菜の姿を見つけだすことはできず。

扉の向こうにはまだ、
少女が何かに取り込まれ、喰われ続けている。

『秘匿セヨ……秘匿セヨ……秘匿セヨ……』
ぶつぶつとつぶやき始めると、
さらに同じような姿形の異形たちが、
廊下の床や壁から何匹も何匹も湧き出してくる。

それらは大口を開けると、
この夢の空間そのものを、喰い始めた。

真っ黒な虚無が夢に広がり、満たしていく。
それに飲み込まれる前に、この世界から離れた方が良さそうだ。

雨見風菜 > (夢の空間を食べて……!?
 これは、一体……!?)

あまりにも、ここが『夢の世界』であることを前提にしたその振る舞いに驚きながらも、自分ごと喰われてしまう前に脱出するため魔術を発動した。
天井からは現れなかったため、風菜のいた辺りは脱出まで食べられることはなかったのが幸いした。

──

「……戻って、来れましたか」

教室の中で。
す、と目を覚ます風菜。
くらげが寝息を立てているのを確認し、今体験したことを反芻する。

(『夢の世界』であることを自覚して、自分から食べだした。
 それはつまり、くらげさん自身が見られたくなかった……違う。
 くらげさんの夢に、入れる何者かが居た……?)

通常なら、夢の世界であることは夢の主以外は知る由もない。
それを知覚出来る時点で夢の世界の住民ではないのは間違いないだろう。
そしてそれがくらげ本人の振る舞いであるならば、そんな迂遠なことをせず虚無の空間に放り出せば良いのだから。

綿津見くらげ > 夢が虚無に飲まれていく最中、
風菜はその世界から脱出する。

「………う……あ……うぅ……」
目を覚ますと、そこには悪夢にうなされるくらげの姿。
寝始めたころの安らかな寝息は何処へやら。

夢の中の少女は誰だったのだろうか。
おそらくは、くらげ本人か、深く関係のある誰かか。
そしてあれは何をされていたのか。
彼女の夢を喰らい、その情報を『秘匿』しようとしていたのは何者か。

幾つかの謎が残る、綿津見くらげの悪夢であった。

「う、うむぅ…………も、もう食べられない………。」
……悪夢は食われてしまい、今はほかの夢を見ているのだろうか。
口から涎を垂らしながら、古典的な寝言を漏らすくらげ。

「………はっ……。
 ……………。
 ………おはよう………。」
一瞬体をびくんと跳ねさせる。
ジャーキングと呼ばれる現象である。
そして、薄っすらと目を開いて辺りを見渡し……
風菜の姿に気づくと、目覚めの挨拶を。

雨見風菜 > くらげの寝顔を眺めながら考える。

獏、と居う想像上の動物がいることは風菜も知っている。
だが、くらげの悪夢の中で見た異形は、それとは似ても似つかない。
況して、明白に、夢の世界の中から夢の世界を食っていた以上、外部からの線はなくなる。
また、壁や床から複数の個体が出てきた以上、風菜のような他人の夢に潜り込んだのとも違う。

(ならば考えられるのは、くらげさんと一緒に夢を見る存在。
 精神に寄生している存在……?)

そこまで考えたところで、くらげがびくんと動く。
風菜もビクリと反応し、様子を見れば元気そうに起床の挨拶をしてくるではないか。

「ええ、おはようございます、くらげさん」

綿津見くらげ > 風菜の推測は、真実に近い。
くらげの精神に救う何者か。
それが、あの夢を外部から、そして何よりもくらげ本人から秘匿しているのである。

「…………。
 ……美味しい……夢だった……。
 大量の、スシ。
 テンプラ。
 そしてスキヤキ。」
なぜ外人が好みそうなものばかり……。
悪夢の事は、すっかりと忘れてしまっている様子。

「風菜。
 どうだったか?
 夢。
 私の。」
そして、風菜に夢の感想を聞いてきた。

雨見風菜 > 「あら、そうだったんですか。
 それはいい夢だったんですね」

(もし、そうであるのならば。
 くらげさん本人に伝えるのはリスクが高い……?)

夢の内容を覚えていない。
それはつまり、あの夢を喰らった何者かがくらげ本人にも覚えてほしくないのだとしたら。

「ええ、美味しそうに食べておられましたね」

無邪気な子供に向けるような笑顔で、嘘を吐いた。

「そういえば、今回は良夢でしたが、悪夢とは……一体どんな悪夢を見るんですか?」

綿津見くらげ > 「惜しい。
 夢なのが。」
思い起こす、夢のビジョン。
食べきれない程の極上の和牛。


「………。
 わからない。
 覚えておらん。
 いつも。」
ただ「いつもの悪い夢だった」という感覚が残るだけで、
いつもその内容を忘れてしまうのだ。

それはつまり、毎回あのような光景が繰り広げられ、
そして毎回あの異形に夢を喰われているということなのだろうか。

雨見風菜 > 「ありますよね、時たまそういう夢が。
 一番いいのを食べるときに限ってそこで目覚ましが鳴っちゃったりとか」

無難に話を合わせる。
風菜自身、そういう夢を見たことがある。
ただ、こちらは映画の展開の途中を始めとした、食い物とは関係ない夢では有るが。

「そうですか。
 ……入院されていた病院って、どこでしたっけ」

くらげは、確か入院していたから今学期からの編入だったはずだ。
どこの病院だったか、覚えているはず。

綿津見くらげ > 「うむ?
 病院?」
妙なことを聞くものだ、
と首を傾げるくらげ。

「常世総合病院。
 だが。
 どうした?
 それが。」
学園付属の総合病院。
身近で、かつ高度な医療も受けられる、大病院だ。

そこに、前期まるまる入院していたのだ
……と、彼女は語る、

雨見風菜 > 常世総合病院。
風菜でも知っている、実在する病院。
風菜は知らぬことだが、知り合いが数名、現在も入院中の病院だ。
だが、あの悪夢の光景は、それとはかけ離れた施設だった。

「……いえ、ふと気になっただけです。
 前期丸々とは、大変でしたね」

(入院とあの悪夢は、無関係、ですかね……?)

前期の間、其処の入院患者とは無関係だった風菜は知らない。
そこに彼女のカルテが存在しないことを……。

綿津見くらげ > 風菜はその病院に立ち入った事があるだろうか。
いや、たとえ無いとしても、
あのような不穏な風景が病院内にはあるはずもないだろう。
それに、あそこで行われていた行為は、とても医療とはいいがたい。
では、あの光景は一体何なのだろうか?
くらげの心に刻まれたトラウマなのだとしたら、
それはいつ、何処の物なのだろうか。

「通院している。
 定期的に。
 今も。」
退院後も、彼女はそこへ通っているのだという。
前期一杯入院するほどの大病を患っていたとするならば、
しばらくの病院通いは別に不自然ではない。

ただし。
風菜は預かり知らぬ事実ではあるが、
その病院に彼女のカルテは無い、つまり受診歴は皆無なのだ。
では、くらげは定期的に何処へ、何をされに……?

雨見風菜 > (あれは先ず間違いなく常世病院ではない、んですが)

そもそも窓のない部屋、というのが病院施設としては異常だ。
精神病棟でさえ、鉄格子が嵌っているが窓は有るのだ。
そして、室内に調度品が一切ない部屋。

「なるほど、通院しておられるんですね。
 ところで、どういったご病気なんです?」

何かが引っかかる。
何かを見落としている。
そんな気がしてならない。
だが、神ならぬ人である風菜に、その違和感の元はわからない。

綿津見くらげ > 「犬に噛まれてな。
 熱を出して。
 寝込んでいた。」
ありえなくは無い、話だろうか?
咬傷からの感染症は、確かに時に致死的になり得るものだ。

 
「何故だか。
 新しい能力に目覚めた。
 退院してから。」
そう語る少女。
飲みかけのペットボトルの蓋を開けると、
その中から水がふわふわと宙に浮かぶ。
液体を操る能力、それが新しく得た能力である。

雨見風菜 > 「犬に噛まれて……何処をですか?」

普通、犬に噛まれての発熱では学期一つ潰すほど入院はしないはずでは、と居う疑念が風菜に発言をさせた。
致死的なものであれば、それだけ入院はするだろうが。
それも、異能が新たに発現するくらいの重症だ、考えられなくはない。

だが果たして後遺症が残るようなものなのか?

綿津見くらげ > 「太腿。
 見るか。」
そういうと、スカートをすらりとたくしあげ……

「見えない。
 私には。
 後ろだから。」
白く細い脚の肌が露わに。
太腿の、尻に近い当たりに、傷跡がある。

……あると少女は思い込んでいる。
その肌は、実際には傷跡ひとつない、美しいままであった。

雨見風菜 > 「……そうですね。
 ありがとうございます、くらげさん」

洗脳か、何なのか。
くらげの言う傷跡なんて無かった。
だが、ここで否定をして時間を浪費する必要もあるまい。

(間違いなく、くらげさんは入院ではないでしょうね。
 ……果たして、私が何処まで行けるのでしょうか。
 私でくらげさんの抱える問題の解決に繋げられるのでしょうか)

そう確信するほどに、くらげの夢も、認識も異常だった。
そして、それを看過するほど風菜は鈍感でもない。

「……っと、放課後からまた寝たから結構な時間になっちゃってますね。
 帰りましょうか、くらげさん」

綿津見くらげ > 何かしらの、不穏な状況がこの少女を取り巻いているのは確かな様だ。
それは何のために、誰によるものなのか。
それはまだ混沌の中……


「………?」
何か腑に落ちない表情の風菜に首を傾げながら、
スカートを下す。

ふと外を見れば、西日もそろそろ沈む頃合い。

「うむ。
 そうだな。
 帰るか。」
あくびを一つすると、荷物を鞄に片付け、帰り支度。

雨見風菜 >  

そうして、風菜の初の他人の夢への潜り込みは、
くらげを取り巻く状況への疑念として芽吹いた。
果たしてこれが、何事もなく解決に向かうのか、騒動に繋がっていくのかは誰も知らない……

 

ご案内:「第三教室棟 教室」から綿津見くらげさんが去りました。
ご案内:「第三教室棟 教室」から雨見風菜さんが去りました。