2021/11/24 のログ
ご案内:「第三教室棟 教室」に藤白 真夜さんが現れました。
藤白 真夜 >  
 ふと。
 目が醒めた。

(……あれ?)

 気づくと、そこは誰も居ない教室だった。
 時は夕暮れ。あまり好きじゃない夕日の、褪せるような陽が差し込んでいた。
 なにも、おかしなことはない。
 ただ、“今”に繋がるモノが無かった。

 ――今日一日の記憶が、無い。

(……最近、増えちゃったなあ……)

 流石に、教室で疲れて寝惚けていただけ……とは思いたくはなかったんですけれど、それすら否定出来ないありさま。
 実はちょくちょくと過去に覚えのある現象だったけれど、最近は特に多かった。

(また誰かに心配かけないようにしなきゃ。
 ……でもその分、体調は良くなってるような……?
 や、やっぱり噂の寝落ちというのをしてしまったのでは……!?)

 あわててぺたぺたと顔を触ってみたりしつつ、ごそごそと一応の嗜みと持ち歩いている鏡を覗き込んでみても。

 そこにはありきたりな、どこか眩んだようにとぼけた私の顔が写っているだけ。……やっぱり、鏡はあんまり好きになれない。
 鞄の奥に仕舞い込んで、なげやりに机に体を預けた。

藤白 真夜 >  
 確か、以前にも同じようなコトがあった気がする。

 私は、夕日があんまり好きじゃないのです。
 誰も居ない教室を真っ赤に染め上げる夕日は、やっぱりどこか、雑な気がした。間違えて塗り潰した絵のようで。
 物悲しくなるのも良くない。
 一人であることは好きだけど、その“場所”自体が寂しくなるのは、嫌だった。
 なのに、

「――、」

 私は、声も無く驚いていた。

 何故か、胸が高鳴っている。
 
 記憶の断絶という非日常を乗り越えて、当たり前の日常が戻ってきたように。
 私の“ナカミ”は、何かを楽しいと感じていた。

「……???」

 勿論、困惑した。
 確かに何かを感じているのに、それに理由も説得力も根拠も、何もなかった。
 それが何なのか、何にそう思っているのかすらわからないから、ソレを反芻することも、検証することも出来ない。

藤白 真夜 >  
 それは……どこか、悔しかった。

 私は、そんなにいつも楽しい! と思って生きていける人間ではない。
 私の抱えた何かを何処かに下ろすまで、手放しで楽しんで良いとも思えない。
 ……そもそも、そんなに楽しいと思えることも無かったし――この間の底下通りは楽しかったけれど……。
 そんな、楽しむのが下手な私が、ただ、教室に座っているだけで、ワクワクしていただなんて。

「……むう」

 独り。悔しそうな声をもらしてみる。
 ……誰もいない教室に響く声は、ちっとも楽しそうじゃなかった。

「……はあ」

 今度は、溜め息。
 これは、あんまり変わらない。たまにやることだし。

 ……うん。
 どうやら、今回は私が“負けた”らしい。
 私のささやかな抵抗はすぐに消えた。
 
 負け惜しみじみた先入観や、よくわからない感情を捨てて。

 独りの教室でこっそりと、胸に手をあててみる。
 目を閉じて静かに。
 自らのうちに、答えを探す。

藤白 真夜 >  
 すぐに。
 目を閉じたことは失敗だとわかる。
 ぱちり、と目を開いて。

 赤く、どこか物悲しい無人の教室を見つめた。

「……あ」

 何のことはない。
 私はただ、夕日に染まる誰もいない学び舎を、“良い”と思っていただけだったのだ。

「――……。」

 それは、私にとってすごく納得の行く答えで。
 同時に、だからこそ……理不尽で不可解な感覚を残した。

 ……私はこんなに、すぐ物の好みが変わる人間だっただろうか。

 誰も居ない教室を眺める。
 遠くに、吹奏楽の音色が聞こえた。
 火の鳥か、剣の舞か、月の光か。曲は覚えているのに曲名はとんと思い出せなかったけれど。

「……ふわぁ……」

 聴くとも無く佇むうちに、あくびがこぼれた。誰もいないけど、ちゃんとてのひらを重ねて。
 
 窓から覗く遠景は、赤く霞んでよく見えない。
 
 ……何も明瞭としない。
 目も、耳も、頭の中まで。
 そんな中、微睡むように佇む。

(――もしかして)

 よく寝た感覚があるのに、まだ眠たい気がする。
 体調が凄く良いのに、どこか気怠い。

(……こういう感覚が、佳かったのかな)

 土曜日の二度寝のような誘惑を、なんとか振り切る。
 ……元から、ぼーっとするのは好きじゃなかったのだから。

藤白 真夜 >  
 ぽてり。
 机に突っ伏した。
 
 いや、実は全く誘惑に勝てていなかったのです。

(……なんでこんなに眠いんだろう……。
 カラダの調子は、良いのに――)

 誘うような眠気は、抗い難く。
 いけないと思う私も何処かにあったのに、やはり抵抗は容易く途切れた。
 普段の私ならもう少し、頑張ったはずなのですが。
 今はどこか。
 この名前も知らない郷愁のような、覚えのない愛着のような、知りもしない不思議な感覚に溺れたまま。
 遅めのお昼寝に堕ちるのが、良い気がしていたのです――。

ご案内:「第三教室棟 教室」から藤白 真夜さんが去りました。