2021/12/22 のログ
崩志埜 朔月 > 「助けになるから、お呼びするのです。
 その時が来たら、またお声掛けしますね。

 では、入れてしまいますね。
 熱くなっていますので、冷ましながら頂きましょう」

トポトポと粉末にお湯を注いで少女を見やる。
緊張している、というのもあるのでしょうが、
暴力沙汰を起こしたという経歴に似合わぬ振る舞い。

手足の不自由が原因とも思いましたが、お話している限りでは
どうにもそういった心根が見えるでもありません。

「――黛さん。この中だと、どの色が好きです?」

小さく光る球状の飾りを手に取って、伺います。
赤、青、緑。それに銀色。たった4つではありますが、
強いて言うならどれです? と。
あまり自分の好みというものは無いのかもしれません。
飲み物と同じく、迷わせるだけかも。

それでも、何かを決めるというきっかけになるかもしれません。
はじめの一歩を踏み出す、そんなきっかけに。

黛 薫 >  
「え、っと」

並べられた4色のオーナメントを見比べる。

樅木の緑と対照的な赤はクリスマスのイメージに
良く合いそう。透き通った青の涼しげな色合いは
雪をイメージした綿飾りに合わせやすい気がする。
葉と似た色味に見えて少し明るい緑は落ち着いた
雰囲気を演出してくれそうで、一際光を反射して
輝く銀はキラキラのイルミネーションを思わせる。

どれもが良さそうに見えて、どれかを選ばないと
いけなくて。どれでも良いのかもしれないけれど、
もしうまくいかなかったら、期待に添えなかったら
どうしよう。

マグカップから立ち昇る湯気に一度視線を逃して、
オーナメントの上で手を彷徨わせる。指先は赤を
通り過ぎて、緑に触れ、青と銀の上で迷っている。

呼吸が速くなっていく。首筋に冷や汗が浮いている。
迷って、迷って。おずおずと銀色のオーナメントを
手に取って。顔色を伺うように貴女を見やる。

崩志埜 朔月 > 酷な事をしているという、自覚はあります。

選ぶのが苦手と分かっていながら、
それを強いるような事をしているのですから。
復学の為の実績作りに手を貸すだけなら、
それこそ図面でも作って順番に、淡々と飾り付けて貰えば済む話。

ですが――
顔色を伺うようにこちらを見やる少女に満面の笑みを向けます。
大丈夫、間違ってなどいませんよ。

「銀色、素敵ですね。
 ではそれから一つずつ飾っていきましょう」

正解の無い物を前にして、自分で一つ手に取ってくれました。
浮かぶ冷や汗に申し訳なくなる気持ちはグッと抑えましょう。

あまり褒められたやり方では無いと同職の方がいれば指摘を受けるかもしれませんが、
自発的に、彼女の中でそれぞれの色を思い描いて選んでくれたのです。
お目付け役に約束した報告にも、嘘偽りなく書けるというもの。

黛 薫 >  
「……はぃ」

長く伸びた前髪の下で僅かに目を伏せ、手に取った
銀色のオーナメントを不器用な手付きで飾り付ける。
自分で付けた飾りはひとつ目。まだバランスも何も
無いのに、何度も神経質に位置を整える。

些細なきっかけで揺れ動く精神の不安定。
『好きな物を選ぶ』、たったそれだけで青ざめた
表情は、彼女の内面の浮き沈みの激しさを如実に
表していた。

まして彼女は『異能疾患』と評されたほどの異能者。
『些細なきっかけ』は容易に積み重なっていく。

小さな要因が重なるだけでも感情の揺れ動きは
加速し、振れ幅は大きくなる。……ともすれば、
衝動的な行動に及ぶほど、錯乱を起こすほどに。

もし、彼女のように不安定で良心的な者が一度
大きく踏み外してしまったら、何を思うだろう。

良心の呵責による自罰感情の刺激。
罪悪感で不安定さを増し、壊れていく精神。

震える手からはその末路が伺える。

手の半分近くを覆っているガーゼと絆創膏。
煙草の火を押し付けた火傷。袖口から覗く
手首の包帯。普段は自分に向くその感情が
何かのはずみで他者に向くこともあった。
たったそれだけ。

崩志埜 朔月 > 心はさざ波のようなもの。
風が吹けば波も立ち、凪げば静まります。

楽しんでもらうのが最良ですが……

あまり不躾にならぬよう、時折伺う表情は青ざめて。
問題があればすぐに止めに入るという旨は監視役から聞かされている。
しかし、制止が入るという事は復学への道を遠ざける事でもある。
少々強引に事を運んでしまった弊害ではありますが、
向ける言葉を猶更慎重に選ばなくてはいけませんね。

いくつか手に取っていた飾りをツリーに吊るし終えて一息。
息が詰まったというほどでも無く、
屈んだままの姿勢に疲れたというのが一番の原因です。

一区切りつきましたし、と淹れたままだった紅茶と一緒に
頂いたシュトレンに小さく口に含み

「美味しい……」

思わず感想が。

「とても紅茶に合います。
 ありがとうございます、黛さん」

黛 薫 >  
ひとつ、またひとつと飾りを取り付けては、
バランスが悪くないか、偏っていないかと
気にするように、先に飾ったオーナメントの
位置を整える。

慎重を通り越して神経質な作業は指先の不自由さも
相まって遅々として進まない。素より装飾に携わる
心得があるでもなし、いくら気にしても仕上がりが
大きく変わったりもしないのだが。

「気に入ってもらぇたなら、良かった、です」

気付けば自身の分のシュトレンだけではなく
折角淹れてもらったミルクティも手付かずで。
両手でカップを包むように慎重に持ち上げて、
零さないようにゆっくりと口に運ぶ。

「んん……」

かなり危うい手付きだったが何とか零さずに紅茶を
味わって。油断したお陰で一口齧ったシュトレンの
切れ端は膝の上に落っことしてしまった。

崩志埜 朔月 > ゆっくりと、出来栄えを確認しながら黙々と。
ひとつひとつを取り付ける速度は決して早くないが、
神経質すぎる程に調整を繰り返しながら作業を進める少女を見る。

顔色が良いとは言えないけれども、
もみの木に向き合う姿は真剣さがあって。
手抜きやいい加減さが感じられない、こだわりが随所に見られた。

……やはり黛さんに飾りつけをお願いして良かったですね。

「えぇ、気に入りましたとも。
 後で買ったお店を教えて頂きたいくらいです」

膝元に零れたシュトレンのひとかけら。
取ってあげようと思って手を伸ばしかけたけれども、
それを除くくらいの事はご自身でしたいものでしょうか。

ひとまず危うげに手に収まったカップを見守りましょう。

黛 薫 >  
「じゃ後でお店の名前書ぃて……あ、いぁ。
 まだ文字書けるほど慣れてなぃんだった。
 えっと、スマホでお店のページ出すんで、
 メモとか取ってもらぇれば」

自力で拾ったシュトレンは皿の上に戻して、
また集中が切れるまでは飾り付けに専念する。

神経質で妥協が苦手な性格のお陰で、仮に身体が
十全に動いたとしても余人の2倍か3倍の時間を
かけそうな作業。そこに全身の不自由さが加わり、
想定より遥かに時間をかけてようやくひと段落。

賑やかなオーナメントに彩り豊かな電飾。
サンタやトナカイの人形に白い綿の雪化粧。

単体だと部屋の雰囲気から浮いていた樅の木は
もっと目立つようにクリスマスの装飾が施され、
しかしイベントの一環として違和感なく部屋に
溶け込むインテリアに昇華された。

「あの……1番上、お願ぃしてもイィっすか」

最後の仕上げ、ツリーの天辺の星飾り。

短時間なら自力で立ち上がれなくもないけれど、
長時間の作業でそろそろ集中力も切れつつある。
仕上げでうっかり転んで倒したりしようものなら
心が折れるのは目に見えていた。

崩志埜 朔月 > 「ありがとうございます。
 ……初めて見るお店ですね」

一息入れて、改めて飾りつけの作業に向き合います。

元より日暮れから始まった作業でしたが、
黛さんの思い描く綺麗な飾りつけをなるべく阻害しないよう
あまり私が手を付けるという事を多くはせずに。
ただ、真摯に向き合う姿をしっかりと目に焼き付けます。

十全に動ける人が、あるいは自分一人が片手間に飾り付けたとしても、
ここまでしっかりと装飾を施せたか自信が無い程の仕上がりで。
用意こそすれど、全てを使うとは思っていなかったのですが…
しっかり使い切ってくれましたね。

「私がですか? ……任されました!
 では傾いていないか、見ていてくださいね」

ツリーの天辺に少し大きめの星飾りを刺します。
存外安定せずに、背伸びをしながら黛さんに見て頂きながらの最後の仕上げ。

「……完成、ですね」

少女から問題なしのサインを受け取ると、
ふぅ、と息をついてソファに着地。

休み休み飲んでいた紅茶はすっかり冷えてしまいましたが、
温まった部屋とやり切った達成感の中では丁度いいくらいに感じてしまいます。

黛 薫 >  
「お疲れさまっす。……それと、ありがとです」

なるべく手を付けず見守る役割が主だとしても
これは貴女がいたから成し得た作業。ツリーの
飾り付けはあくまで『2人の』成果だったから、
感謝と労いの言葉を貴女にも。

ツリーの飾り付けでオーナメントのみならず
集中力も使い切ってしまったので言葉の方を
飾る余裕は残っていなかったが許してほしい。

お陰で素っ気ない言葉になってしまったけれど、
共有した時間があるからきっと伝わってくれる。

正直なところ、集中が切れた現状では今度こそ
零さずにカップを持ち上げる自信がなかったので。
風情には欠けるが、鞄から取り出したストローを
使わせてもらった。紅茶は冷めてしまったけれど
ストローを使っても火傷しないのはありがたい。

崩志埜 朔月 > 「お疲れ様です、黛さん。
いえ、お礼を言うのは私の方です。
本当は私がしなければいけない作業を手伝って頂いたのですから」

復学のための『お手伝い』としてお誘いした事でしたが、
実際、彼女の手伝いが無ければ片手間に済ませたそこそこの物がこの部屋にはあったでしょう。

素っ気ない言葉に素の彼女を感じられ、頬が緩む。
いつか、緊張や壁も無くこのくらいの気軽さでお話ができるでしょうか。

ストローを取り出す少女の姿を見守りながら、
左手の時計を見やる。

「すっかり遅い時間になってしまいましたね……
 この後は直接お住まいに戻られますか?」

お送りしましょうか、と言いかけてそれを許可するのは彼女では無いと思い至る。
しびれを切らさず付き合ってくれた監視役の風紀委員につつがなく終わりましたよ、とメールを一通。

黛 薫 >  
「ん……まぁ、そーなのかも、ですけぉ。
 あーしだって助けてもらってるし……」

手伝いでもあり、復学の為の実績作りでもあり。
そういう意味ではWin-Winなのかもしれないが、
変わらず感謝は譲らないあたりが黛薫の性格。

「そっすね、今日は先生の手伝いだけやったら
 帰ってイィって話になってたはずなんで」

本人が答えた直後にお目付け役の風紀委員からも
返信が来た。後はもう直帰で問題ないとのこと。

元々はバスで帰る予定だったが、ここまで時間が
かかるのは想定外。別に1日で終わらせなくても
数日に分けても良かったのだし。

最終的に担当者からの承認を得て、堅磐寮まで
送ってもらう形に収まった。集中が切れて眠気に
襲われていたのもあり、車内での会話はあまり
弾まなかったかもしれないが……黛薫のことを
知る一助にはなったはずだ。

ご案内:「相談室」から崩志埜 朔月さんが去りました。
ご案内:「相談室」から黛 薫さんが去りました。