2022/10/18 のログ
■イェリン >
「そうね、せっかく学べる場にいるのだもの」
「何に使うのか、なんて思いつかない事も多いけれど無駄にはならないし」
遠い目をするアリシアを見て、遥か遠くの故郷を思う。
学んで、身に着けて、何れは彼らの役に立てる為。
自販機云々では済まされない親切を受けてきたのだから。
「概念を創り出す……」
オウム返し。
己の専門が魔術、それも独自の物だから言わんとする事は分かる。
それを一瞬でこなし、その上で錬成をもこなす事の異常さ。
缶の上で踊る指は、理論づくの魔術よりもよっぽど不可思議な事をして見せた。
「凄いわね……便利だし、なんだってできそう」
「お姉さん、というと家族みんな一緒の異能が使えるのかしら」
■アリシア >
「私は一般常識に疎い……」
「そのことを補強しながら、勉強できたら良いと思っている」
まずは自動販売機の使い方を覚えたぞ!
と誇らしげに言って。
「ああ、ワン姉様は私とほぼ同じことができるな」
「スリイ姉様は体は弱く……培養槽の中から出られないが、異能の出力はとても高かった」
「シックス姉様は砂を創り出して自在に使うのがとても上手かった」
それからしばらく沈黙して。
「すまない、言ってはならないことだったようだ」
「どうにか忘れてほしい」
■イェリン >
「それなら、これからが楽しみね」
「ここにいるだけで色んな人が居るし、色んな事が起こるもの」
また、一人の常世学園生が自動販売機の使い方をマスターした。
こうして脈々と教え教わり、受け継がれていくこともあるのかもしれない。
「えぇ、分かったわ」
「貴方に自慢の家族がいるって事だけ覚えていれば十分だもの」
他言無用ね、と口元に伸ばした人差し指を当てて。
お口にチャック。子供っぽいジェスチャーだけれども、分かりやすいくらいで丁度いい。
術式、ルーツ、その他もろもろ。
異能や魔術問わず、それらは人によっては只管に隠匿される事が多い。
「私もここに来て二年目だし知らないこともあるけれど、何かあったら頼って貰って大丈夫」
「お金に困ったらアルバイト先にも来てほしいくらい」
人手不足なのよ、と小さく笑って。
■アリシア >
「これからか……なるほど、興味深い」
未来のことを想うこと。
それは私のような思考が幼体の者には必要なことだ。
「ああ、ああ……感謝する、イェリン」
「どうにも喋っているうちに見境がなくなってしまう」
自分も口にチャックをするモーションをしてコクコクと二回頷いた。
「助かる、イェリン。ついては……携帯デバイスに通じる連絡先を教えて欲しい」
深刻な表情で。
「……携帯デバイスの使い方は勉強中だ、なんとかしてみせる」
■イェリン >
「えぇ」
連絡先を、と言われて取り出したデバイス。
自分の物とずいぶん異なるデザインの物だけれど、何度か繰り返している内に最低限の事は分かるようになってきた所。
見せてもらった画面から連絡先を確認――
「アリシア・アンダーソン……これでどうかしら」
連絡先のリストの一番上、登録された相手にメッセージを送る。
『よろしくね』狼のマークの動くスタンプ。
「届いたかしら?」
■アリシア >
「!」
なんと、相手は画面を見ただけで自分の連絡先を確認し、
その上でメッセージを送ってくるという離れ業をして見せた。
なんという技術力……カルチャーパワーの差を感じざるを得ない…!!
「ああ、届いている! ありがとう、イェリン」
こちらもメッセージを送ろうとして。
数秒、躊躇して。
『ありがとう』とウサギが手を振る初期スタンプを送った。
「本当に何から何までありがたい……」
そう言って私は笑顔を見せた。
その日は異邦人街の家に帰って。
ずっと、ずっと。狼のマークのスタンプを見ていた。
■イェリン >
自信満々に、内心おっかなびっくりに送ったメッセージが無事届いた事に胸をなでおろして。
「どういたしまして」
これも、先人に倣った言葉。
ただ自分に教えてくれた人は大した事じゃないものと言っていたけれど、そこまでは真似できない。
ありがとう、嬉しそうに言ってくれるだけでお釣りが出るほどに心は温かく。
「それじゃ、またね。アリシアさん」
笑顔に微笑みを返して、小さく手を振る。
異邦人街へと帰る小さな背中を見送って。
少しだけ温くなったメロンソーダは普通に飲むよりもずっと甘く感じた。
ご案内:「第三教室棟 ロビー」からアリシアさんが去りました。
ご案内:「第三教室棟 ロビー」からイェリンさんが去りました。