2020/07/24 のログ
ご案内:「図書館 閲覧室」に日月 輝さんが現れました。
日月 輝 > 常世学園のカリキュラムには魔術学なんてものがある。
魔術。大変容以降に詳らかにされた魔的なる術。
今では解析され、解体され、半ば技術のようにもなっているもの。
とは言え別にあたしは魔術を使おうだなんて思ってない。だから複雑な科目はとってない。
テスト、大変になるし。

「へーえこんなものまで魔術なんだ。ややこしいのね」

ただ、知らずに魔術になってしまうもの。
ただ、徒疎かにしてはならないもの。
そういった知識は必要だと思うから基礎は取っている。
例えば、特殊な足取りが呪術的な意味合いを持つだとか
例えば、特殊な食べ合わせが魔術的な意味合いを持つだとか。
例えば、特殊な文様の組み合わせが秘術的な意味合いを持つだとか。

知っているなら避けられる。
知っているから、先日は口頭詠唱を用いるバカの顎を砕いてやれた。
知らなかったなら、そうはならない。

図書館の一角。
回廊状に上階が巡らされて天井が高い所に見える席で頁を捲る。
空調の効いた館内は考えごとをするのに丁度良い。

日月 輝 > 2冊目の本を開く。
これも魔術学の基礎のもの。今度は道具に関する諸々が記載されている。
魔術は術者の精神面や力量が左右されるもので、結果が安定しないとかなんとか。
だから魔術を道具に鋳込むようにして、安定させるとかなんとか。

「これ半分カタログみたいになってない……?」

開かれた頁には現代の魔術道具の一例が載っていた。御丁寧にメーカー名と値段まで。
洗濯機、冷蔵庫、大型二輪、携帯ラジオ、虫よけ、その他いろいろ。
家電製品の類は災害時でも使えるとして、その有用性を示している。
難点は魔術使いが定期的に魔力を補給しないといけないことだけど、
翻れば、それだけ魔術がこの世に浸透してきた証でもあるのかもしれない。
扶桑百貨店に行けばきっと取り扱いも豊富なことでしょう。

他にもこの島独特の気候の説明に付随して、夏には魔術研究科が耐熱護符を配布したりもしている。
そんな情報も書いてある。

「……あとで貰いにいこ」

知っているなら避けられる。猛暑だって、可愛く無い恰好だって。
次の本を取ろうと椅子から立ち上がって床を蹴る。
あたしの身体は無重力空間であるかのように吹き抜けた空間を飛び上がって2Fへ上がる。

日月 輝 > 3冊目の本を開く。
やっぱりこれも魔術学の本。今度は呪いや儀式に関わるあれこれが一冊目よりも踏み込まれている。
呪い。
お呪い。
比較的軽率に触れることが出来る一方、人を呪わば穴二つとの古人の言が残る程のもの。
儀式的な要素を多分に含み"午前2時に旧校舎の2Fに在る女子トイレの2番目の個室云々"
なんて例も載っている。手順を踏む事で成立させる呪いみたい。

「……でも夜中にわざわざ学校のトイレ、偶発的に行く……?」

何処の実例だか解るわけ無いので試す訳にもいかないけれど、謎が残るわ。
あたしは御行儀悪く転落防止の欄干に、御行儀良く座って首を傾げる。それはもう悩まし気に。

「で、今度は名。名称。……魔術使いって大変ねえ。初歩の本でも法則と様式だらけ」
「きちんと全て修めようだなんて思ったら、それこそ一生が終わってしまうんじゃない?」

頁を捲ると名前の大事さが記されている。名は体を現すとの言葉はまやかしではないのだと。
とある魔術使いの一派などは、本名を徹底的に秘匿するのだと云う。
これは名前を知られることはリスクである。との理念に基づくそうで、軽率に名前を他者に教えるべきではないと結ばれている。

「名前を知られてはいけない。名前を喚んではいけない。そうは言ってもねえ……」
「今風に言うならSNSアカウントに本名を使うな。とか、そういう感じかしら」

日月 輝 > 4冊目の本を開く。
またもやこれも魔術学の本──だけれど、少しだけ毛色が違う。
それは学術的区分で"魔眼"と称されるもの。

「ふぅーん」

視線を介在するもの。
詠唱も無く術式も無く道具も無く生じる高位魔術。
曰く、北欧の一派に使うものがあり、本来は指を差すものであると云う。

「ああ、それで人を指で差すと失礼とか。そういう感じなのかな」

頁を捲る。言葉の通りにそれもまた一つであると記されている。
視るだけで他者を石化せしめる存在が、勇者に倒される逸話が一例として載ってもいた。

──ふと、目隠しを外す。

「あたしのは魔術じゃあないけど、まあ似たようなもんかな」

4つの瞳が図書館の照明を見上げる。
紫、青、緑、そして黒。
右に三つ、左に一つ。弓のように撓めると、視界の隅で何かが落ちる音がした。
見ると、私に視られて墜落した何某かの虫だった。今は、小さな床の染みになっている。

「おっといけない」

階下のテーブルを見て肩を竦める。全くどうして、不便なこと。
困ってしまうわ。なんてごちて、また別の本でも探そうかと思った。

ご案内:「図書館 閲覧室」から日月 輝さんが去りました。