2020/08/23 のログ
■御白 夕花 >
まぁ、そうなるよね……と苦笑いしつつ。
「えっと、私もあんまり詳しくないですが……まず"占星術"っていう魔術的な概念があって。
その中に黄道十二星座と呼ばれる、太陽の通り道にある12個の星座があるんです。
たぶん、その本なら一覧が載ってるんじゃないでしょうか?」
手元の本で調べれば、黄道に重なる星座は全部で13個あることが分かる。
へびつかい座……そういうのもあるのか。
「自分が生まれた日と重なるのがその人の星座ってことになって、それで運勢が分かったりするらしくて」
専門外の分野だから噛み砕いて説明するのが難しい。
とにかく、生まれた日によって星座が決まることだけ伝わればいいよね。
「ちなみにナナちゃんは何月何日生まれとかって……覚えてますか?」
おずおずと訊ねてみる。
■227番 > 「せんせいじゅつ……12の、星座」
太陽の通り道にある星座。
すごい。動きを覚えて見比べてるのだろうか……?
とにかく、そういう物があることは分かった。
「生まれた日……運勢?」
その概念もよく分かってないが……続く言葉に。
「わからない……」
日付の概念も少しずつ理解してきている。
逆に言えば、つい最近までは日付というものも知らなかった。
■御白 夕花 >
「まぁ、そうですよね……
誰かナナちゃんが生まれた日を知っている人がいればいいんですが」
生年月日なんて言われても分からないだろうな、とは思っていた。
それ以上に、名前のことも含めて記憶がないのかもしれない───とも。
他人のような気がしない、という気持ちがさらに募っていく。
「……実は私も、自分の生まれた日が分からないんですよ」
ナナちゃんを腕に抱えたまま、ぽつりとそんな事を漏らした。
■227番 > 「……居るかどうかも、わからない」
いるかも知れないが、昔の自分を知っている人は、今の所誰も居ない。
居ないはず。なにか引っかかるが……。
「ゆーかも?」
少し寂しそうな声が聞こえた。
今夕花はどんな顔をしている?
気になって振り返りたかったが、この状態では出来ない。
■御白 夕花 >
「はい。当時のものは何も……何も残っていなくて」
記録も、記憶も、覚えている人も。
私が"認識番号046"になる前は何者だったのかを知る術はもうない。
研究所の話をするわけにもいかないから、それ以上は語らずに身体を寄せる。
「この名前を付けてもらったのが去年の今ごろで、星座もその日に合わせてるんです。
だから、ナナちゃんも何か記念日……思い出に残るような日があれば、それを誕生日にするのもいいかもしれませんね」
ないなら決めてしまえばいいんだ、と笑顔を作って。
できるだけ明るい調子で言った。
■227番 > 「……私も、似たような、もの」
こちらは、記録はまだ残ってるかもしれないが。
それを探すためにも、勉強をしているという側面がある。
ない可能性も、もちろんある。
「名前を、貰った日……。わかった……考えてみる」
いろんな呼ばれ方をしているが、未だ自分は227である。
だから、まだ自分にその日は来ていない。
思い当たるのは……路地裏であの人に会ったあの日。
だが、その日付は、わからない。
表に出てきた日も候補になる。これなら、保護者に聞けばわかるかもしれない。
とりあえず、すぐには決まらないようだ。
■御白 夕花 >
「決まったら教えてくださいねっ。
私、テレビの星占いは毎日チェックしてますから」
いくら境遇の似た者同士とはいえ、私とナナちゃんは出会ってまだ日が浅い。
大事な日なんだから、もっと身近な人と決めるのがいいよね。
だいぶ話が逸れてきた。スピカの話に戻ろう。
「さてと、そんなスピカですが……別名は真珠星(しんじゅぼし)ですね。
真珠っていうのは、貝から獲れる宝石……綺麗な丸い石のことです」
図鑑に載っている写真だとスピカは青白く、あんまり真珠っぽくはない。
スマホで真珠を検索して、その画像を見せてあげた。
■227番 > 「うん。決まったら」
うなずいて、本に意識を戻す。
「……真珠。かい?はわからないけど……きれい、かも」
スマホの画像を見て一言。
宝石の概念も知らない。見ることがなかったからだが。
まぁ、宝石のことは後回しだ。星のほうが気になる。
「真珠……」
真珠ぽくない。同じ感想だ。
ちなみにスピカは"麦の穂"のラテン語と書かれている。
もちろん、読んでピンと来るわけはないが。
■御白 夕花 >
アラビア語の次はラテン語ときた。もっと共用語で統一してほしい。
そんなボヤきはさておき、検索画面からそのまま麦の画像を調べて表示する。
「麦っていうのは植物で……パンとかを作るのに必要な、小麦粉の材料ですね。
この画像の……ここ。この尖ってる部分を麦穂っていうらしいです」
星の姿とは似ても似つかない麦の穂の写真。
広義的に言えば麦に限らず、尖ったものという意味らしい。
本によれば、おとめ座のモチーフになった女性が麦穂を持っていたからとかなんとか。
うーん、回りくどい!
「もっとこう、読んで字の如くみたいな星ないですかね……」
神話まで一つ一つ紐解いていたら日が暮れてしまいそうだ。
■227番 > 「……星座から、名前がついてる」
なるほど、そういうパターンもあるのか。
星座のイラストをみて、納得する。
スピカ。おとめ座の穂の星。覚えた。
覚えたので、次に行こう。
「……気になる星、ある。北極星。ゆーか、知ってる?」
しかし一等星のページにその星はない。
あれは二等星だから。
■御白 夕花 >
意外なことにナナちゃんの方から星の名前が出てきた。
それは有名と言えば有名な、北の夜空にいつでも輝いている星。
「はい、北極星なら知ってますよ。確かポラリスって言うんでしたよね。
動かない星だから、目印代わりになるっていう……」
一等星でないことも知っている。
ヴィランコードを決める時、一等星の一覧には載ってなかったから。
けれど、この本になら二等星だって載ってるはずだ。
前回教えた索引を使って探してもらうと、『ポラリス』とは別に『北極星』の項目もあった。
───北極星。またの名を"ポーラスター(Polar star)"という。
天の北極と呼ばれる不動の星は、しかして長い年月を経れば移り変わっていく。
ポラリスという星は、北極星を襲名した星の一つに過ぎない。
■227番 > 「そう、ポラリス」
ずっと気になっていた星。
前読んだ時は気にもしていなかった二等星。
星を見ていたら、教えてもらった一つの星。
そうだ、索引があった、とそのページにたどり着いて。
読み仮名が全部ついているわけではないので、とりあえず読み上げて貰った。
「ポーラ、スター」
"君の名前の───はポーラとも読めるね。"
"そして──────が意味しているのは星だ。"
脳裏をよぎるは誰かの言葉。
「うぅ……っ」
ずきりと頭が痛み、思わず手で抑える。
■御白 夕花 >
本に書かれていたことをそのまま読み上げながら、私自身はじめて知った事実に感心していた。
ナナちゃんが興味を示さなかったら知らないままだったかもしれない。
知りたい事は知られたかな? とナナちゃんの様子を見ようとして───
「っ、ナナちゃん!? 大丈夫ですか!?」
苦しげに頭を押さえるのを見て、肩を支えながら体を少し傾けて顔を覗き込もうと。
■227番 > 「……大丈、夫」
苦痛に表情は歪んでいるが、平静を保っている。
少し予想していたのだ。きっとなにかがあると。
だから、取り乱すことはなかった。
「ゆーか」
自ら深呼吸して痛みも落ち着かせる。
それよりも、気になっていることを聞く。
「ポーラとも、読める、名前、知ってる?」
こちらも体を少し傾けて、上目遣いがちに見る。
■御白 夕花 >
とても大丈夫そうには見えない。
けれど、本人が落ち着いているのに私がそれ以上に慌ててもいけない。
持ち前の並列思考で容態を観察しながら、彼女の声に耳を傾ける。
「ポーラとも読める名前……ですか?
ナナちゃん、ひょっとして自分の名前について何か───」
さっきの反応を見る限り、いい兆候とは言い切れない。
けれど、せっかく掴みかけた記憶の手がかりだ。
掴ませてあげたい。そう思って、持てる手段を総動員して調べる。
「ポーラスターの綴りはPolarですが……人名だとPaulaと書いて、パウラとも読むらしいです」
「小さい」という意味のラテン語が由来なところは星の名前と少し似ている。
とはいえ、スマホで調べた程度の浅い知識。役に立つかは分からない。
検索結果をメモ用紙に書き取りながら伝えていく。
■227番 > 頭を抑えている以外は特に変わった容態は見当たらない。
冷静に深呼吸しており、表情も落ち着いている。
「そう、ポーラとも、よめる、違う名前」
調べる様子を、じっと見る。
わからなくても、仕方ない。
これだけでも、十分な手がかりだから。
今日のところはここまで、でも──
「パウ、ラ?」
見つけてくれた名前を復唱する。
「パウラ。そっか」
ああ、嬉しい。ここで見つけれられるとは、思わなかった。
「──思い、出した」
■御白 夕花 >
「思い出したって、まさか……?」
駄目でもともと。きっと、お互いそんな気持ちだったと思う。
淡い期待が、少しずつ確信に変わっていく。
パウラ。それがナナちゃんの───
■227番 > 頭痛が引いていく。
封じられていた記憶が一つ、繋がった。
"君の名前のパウラはポーラとも読めるね。"
"そしてエストレーヤが意味しているのは星だ。"
ファミリーネームも、一緒に引き出された。
「うん。名前……パウラ。パウラ・エストレーヤ」
苦痛が残っていた表情は、元の少女のものに戻り。
にこりとほほえみを浮かべる。
「でも、ゆーかは、ナナって、呼んで?」
■御白 夕花 >
「パウラ・エストレーヤ……」
彼女が口にした名前を反復して呟く。
エストレーヤもどこかの国の言葉で何かを意味しているのだろうか。
そんな風にぼんやり考えていたら、これまで通りに呼んで欲しいと言われて。
「……はい、これからもナナちゃんって呼ばせてもらいますねっ」
覗き込むような体勢のまま、こっちも笑顔を返す。
元は227なんて番号でも、ナナちゃんの方が呼び慣れていてしっくりきてしまった。
きっと、私が本名を思い出しても"御白 夕花"のままなんだろう。
今の私達には、それでいいと思う。
「でも良かったです。ナナちゃんが自分のことを思い出せて。
こんな私でも少しは役に立てたでしょうか」
やった事と言えばスマホで検索しただけだけれど。
■227番 > 「うん。ありがと、ゆーか」
名前を思い出しても、大きく変わることはない。
それだけじゃない。
きっと他の記憶を取り戻しても、227番…ニーナ、ナナ……
色々な形で呼ばれてきた自分の記憶が消えでもしない限りは。
"わたし"は"わたし"なのだ。
「ゆーかのおかげ。名前だけ、じゃなくて。
としょかんに、これたのも。いろんな星、しれたのも」
もっと誇ってくれていい、と言う気持ちだが。
それを表現することはまだできない。
「ゆーかも、自分のこと、探すんだったら。わたしも、手伝いたい」
■御白 夕花 >
「えへへ……ど、どういたしまして」
お礼を言われるのには慣れてない。
もしかしたら今すっごく顔が赤いかも。そうだったら恥ずかしいな……
「知らない事の方が多くて、私もいい勉強になりました。
もちろん、これからも一緒に星を見たり、星について知っていきたいと思ってますよ」
そう笑顔で答えつつ、自分のことについてはどうだろう。
研究所に入れられる以前、私がどんな人間だったのか……知りたくないと言えば嘘になる。
本当の誕生日も、私を産んでくれた親のことも───
「……手がかりが見つかったら、その時はお願いするかもしれません」
曖昧な笑みを浮かべて、ナナちゃんの手をそっと握った。
■227番 > 「うん。わたしも、もっと、星、知りたい」
もともと名前のために調べていたわけではない。
純粋に星が好きだから、なのだ。
だから、まだまだ興味は尽きない。
「……わかった。それまで、一緒に勉強、する」
自分みたいに、何かたどり着くかも知れない。
知ってしまうことが、良いことなのかはわからないが……。
きっと興味はあるだろう。私達は、どこか似ているのだから。
そっと手を握り返す。
■御白 夕花 >
そうして私達は、日が沈むまで図書館で星の本を読み耽った。
帰る頃にはすっかり夜で、昼間の暑さが嘘みたいにひんやりとした風が肌を撫でる。
寒くはない。繋いだ手から伝わる温かさがあるから。
遅くなりすぎないように少し急ぎ足での帰り道。ふと夜空を見上げた。
北極星は月や街の明かりが邪魔をして、肉眼では見つけられなかったけれど。
きっと今も、同じ場所から私達を見守ってくれているはずだ───
ご案内:「図書館 閲覧室」から御白 夕花さんが去りました。
ご案内:「図書館 閲覧室」から227番さんが去りました。
ご案内:「図書館 閲覧室」にくらげさんが現れました。
■くらげ > 書架に囲まれた席に本を並べ、学習中の女子学生。
彼女の名は綿津見くらげ。
前期の殆どを、熱を出して入院していた彼女は、
当然夏期休暇中に大量の課題や補修をこなさなければならなかった。
学生の学習の場と言えば図書館。
空調も利いて適度に涼しく静かなここは、集中して学習するのには最適。
「…………飽きた。」
が、彼女の集中力はクソザコである。
今日の目標の1/3もこなせず、早くも飽きが来た。
席を立つと、ふわふわと中空に浮かぶ。
これは彼女の異能、と言っても宙に浮いてゆっくり漂う程度の力。
そのまま中を漂い、何か面白い本でも無いかと書架の間をさまよい始めるのであった。
■くらげ > 面白そうな本を見つけて手に取ると、宙に浮かんだまま読み始める。
読みふけることしばらく……
「………うぅ……あぅぅ……。」
食い入る様に本を読みながら、真っ青な顔でふるふる小刻みに震える少女。
やめておけばいいのに、ホラー小説なんぞに手を出すからそうなる。
きっと今夜、夢に出てきてうなされる事だろう。
「………ま、まぁまぁ、かな……。」
誰が見てるでも聞いてるでも無いのに、強がりを呟いて本を棚に戻した。