2021/03/17 のログ
ご案内:「図書館 閲覧室」に藤白 真夜さんが現れました。
藤白 真夜 >  
「……よし!」

どさ。
図書室の長机に積み上げられる書物。
何度も同じことをやっているように見えて、違うのです。
新しいことを始めるにはうってつけの芽生えの季節だと思い込んでいるから……
もしくは、春の陽気に当てられたから、とも言うかもしれませんが――、
今回積み上がっているのは、簡単な魔術の教科書のようなもの、でした。

(……実のところ、新しいことじゃないんですけどね)

この島に来てからの私の目的は、単純でした。
できるだけ、良い人になる。
それだけです。
ならば、人を救えるようになろうと、私は真っ先に治癒魔術の習得を始めました。
結果は……、

「――願う」

両手で何かを受け止めるように差し出した手のひらの間から、かすかに煌めく光が零れ落ちて。
小さく軌跡を描きながら光の粒子が持ち上がったかと思えば、輪を描きます。

「我が許に、御身の加護を与えたまえ……!」

詠唱とともに、輪を描いた光がふと収束すれば。
小さな魔法陣が浮かび上がり。
全身の血流に、確かに魔力の流れを感じれば、そのまま詠唱と共に治癒の魔術が形を成して――、

……しーん。

そう、何も起きません。
個人的には結構うまくできたのではと思う魔法陣も、テレビの電源を切ったかのようにぶつりと消し飛びました。

「……はぁ」

わかっては、いたのです。
実のところ、別に魔術は新しいことでもなんでもなく。
私の魔術はてんでダメなのでした。

藤白 真夜 >  
「……最近良いことあったし、もしかしてとか思っちゃったのが悪いかなぁ……」

べしゃり、と広げた本の上に倒れ伏して。

……魔術とは。
計算式や、学問のようだと、私は思いました。
精密な仕掛けがあり、方程式があり、積み上げられた歴史があり……。
望めば望むだけの成果を上げ、それ以上でもそれ以下でもない。
書物や呪文に落とし込めるようであり、秘した狂人じみた研究の末に驚くほどの奇跡を湧き起こし得る……。
そんな、ロマンとリアリズムの板挟みのような、そんなモノだと。

この島での魔術は、とてもわかりやすいカタチに落とし込められていました。人によっては、貶めるというのかも、というくらい。
魔術以外に興味の無い人間が、工房に引きこもり何百年も研鑽を重ね――とかそういうものではなくなったのは、私のような人間にとってはうれしくもあった、はずなのですが。

(……できないんですよね)

ここで教えられる魔術は、本当に学問と変わりません。
体質の問題はあれ、ある程度は使える道具のようなものだと。
けれど、私の場合は魔力の流れがおかしいとか変だとかで、全くうまくいかないのです。
……先生曰く、異能の問題だとか。

いかに、ここが異能学園都市でも、魔術を教えていても、私とそっくりの異能を持っている人間向け参考書、なんてそう転がっていないのです。

「……、……なんで異能ってあるんだろう」

別に、異能が嫌なわけではなくて。
事実、私の『価値』は、ほとんど異能にあります。
異能に助けられたことも、数え切れません。
それでも、治癒魔術を修めて、生活委員会の保護課に入れたら……と考えなかったと言ったら嘘になってしまいます。

藤白 真夜 >  
「……。いけません……!ため息はつきすぎるとよくないんです。……よし」

ぺちぺち。
目を覚ますように量のほっぺをぺちんと叩けば。
落ち込んだ気分を紛らわせるように目前の魔術書に目を落とします。
……魔術書というか教科書レベルなのですが。

(……そもそも。魔術にしても、いくつか分化しちゃってるんですよね。学校でも授業によって教えること違ったり……)

長い歴史の間で変わっていったのか。
秘されていくうちに枝分かれしたのか。
それとも、未だに秘匿されているのか。
あらゆる術式が、呪文が、詠唱が、魔法陣が、触媒が。
私が諦め悪く治癒魔術にかじりついているのも、それが原因です。
なにかひょっこりでてこないかな、という、希望的観測。
けれど、それを捨て得ないのも、魔術の奥底の深み故、でした。

(とはいっても、私みたいに初歩で詰まってるんじゃどうにもならなさそうなんですけど……)

魔力を熾して。
魔法陣を展開して。
魔力を流し込んで――魔術と為す。

まずその初期の段階で、私はダメなのでした。

(魔力はあるらしいし、……魔法陣がダメなのかなぁ……。魔法陣も、そもそも足元にとか、展開する場所にとか、色々あるし……)

ご案内:「図書館 閲覧室」にセレネさんが現れました。
セレネ > 絶賛お悩み中の彼女の傍に、高度な魔術専門書を抱えてウキウキとした表情で閲覧スペースに歩む人影一つ。
読みたかった魔術書がようやっと棚に並べられていて心は上機嫌だ。

空いている席は少し向こう側。
だからかチラリと視界の端に映った書物が魔術書だった事に興味を示し足を止めた。

「…おや、魔術のお勉強ですか?」

一緒ですね、と少し笑みを浮かべてお勉強中の黒髪の彼女へ向け問いかけよう。

魔術については人一倍興味が深い己だから、そういった勉学に励んでいる人はつい目についてしまう悪い癖。
ゆるりと首を傾げ、相手が嫌がらないのであれば読んでいる魔術書の中身を読もうと蒼を走らせるであろうこと。

藤白 真夜 >  
(う~ん……。魔法陣は道でもあり、魔術の回路たるモノとのパス……。……私の魔力の流れの問題……?)

食い入るように書を眺め……。
その実全然進まず……。
実際のところ、私がダメダメなだけなのでは……?という重たい思考に繋がりつつあった私は、ご本に夢中で。
ふとかけられた声に、

「ぴゃっ!?」

びくぅーっ!とカラダを小さく跳ねさせて応えてしまうのでした。
実際、声をかけてくれる友達もそんなに居ないので余計にというかなんというか。

「は、はいっ!……い、いえ、勉強などと言えるほどでないのですが……。
 私、魔術がからきしダメなので、あはは……」

顔を上げれば、一目見ただけで『白』をイメージさせる女の人に、

(う、うわぁー……すごい美人のひとだー……)

と、内心こっそり緊張していたり、見惚れていたりで。
本の中身を覗かれるなど気にする余裕もなく。
……実際のところ、中身も、魔術の初歩中の初歩に基本の、面白みの無さそうなものであって。
一通り、相手の容姿に感心し終えたら、

(う、うわーっ!すごい難しいの読んでらっしゃる……!)

と別な意味でも驚いて。
……実のところ、私は頭でっかちなので、実技は終わっていても知識だけはちょこっとあるほうだったり、するつもりなので。

セレネ > 肩を小さく跳ねて驚かせてしまった事に蒼を瞬かせて驚きつつ、
すみませんね、と申し訳なさそうに苦笑を浮かべて謝罪をして。

「一人で魔術書を読んでいるだけでも充分勉強と言えると思いますけれどねぇ、私は。
あら…苦手なのです?それはまた大変そうですね。」

髪の色も、目の色も。
己とは正反対だという印象を受けつつ。
どこか惹かれるようで、忌避したいような、そんな矛盾した感覚を受けるのは
目の前の彼女の特殊な体質のせいでもあるのだろうか。
これでも一柱であるから。

相手が読んでいた魔術書の内容は基礎のものであった。
まさか相手が己を見て緊張していたり見惚れているとは露知らず、
基礎や初歩をしっかり学ぶ子なのだろうなという印象を受けて。

「…何か分からない事があればお教えしますけれど…手助けは必要でしょうか?」

何だか悩んでいるようにも見えて、己が何かしら力になれればと思いそんな提案をしつつ。
因みに己が抱えている魔術書はこの世界に主に普及されている治癒魔術の陣についての書物だ。
表紙を表にして抱えているので、相手にも分かるだろう。