2021/03/18 のログ
■藤白 真夜 >
「じ、実のところ、何度か読んでいるので少し覚えてしまっていまして……。
実物を見ながら試行錯誤すれば何か気づかないかなという、あがきなんですけど」
図書館で声を上げてしまったことも、驚いてしまったことも。
魔術が使えないというのも恥ずかしいこと言っちゃったと思いながら、ひっそり気恥ずかしそうに頬を染めて、もじもじ。
少し落ち着いて相手を見やれば。
白をイメージしたけれど、このひとの本質は、蒼だと思い直す。
私のことなど何もかも見透かしてしまいそうな、蒼い瞳が。
(い、いやいや。またなんかじーっと見てるって思われちゃ失礼だし……!)
……けれど。ふと、彼女の持つ本に目が行けば。
やっぱり、私からすれば気が遠くなるほど高度な魔術書であるのもそうだけれど。
「……治癒の魔術の、……」
見ているモノがぽつり、と口からこぼれた。
――ああ。この人は、きっとすごいひとだ。
あんな魔術書を読むなら、それだけの使い手だろうし。
こんなところでうじうじしている見知らぬ人に、助けを差し伸べて。
しかもめちゃくちゃ綺麗だし。
彼我の差にこっそり落ち込みながらも、こうなれば恥は掻き捨てとばかりに。
「……といっても、本当に、初歩の初歩が、できなくて。
体質とか、異能との相性が……というのが問題なのだそうで。
……わからないというか、どうしようもないのかな、って……思って、しまって。
……あ、あはは、ご、ごめんなさい。こんなこと、会ってすぐに言われても困ってしまうかと、思うのですが」
やはり、どうしても我慢できずに、あの魔術書に目がいく。
見ているようで、見ていない瞳で。
「……私、治癒術士になりたかったの、で……」
■セレネ > 「机上の勉強と実物の経験とでは全く違うという事も往々にしてあり得ますからね。
その考えは実に素晴らしい事だと思います。」
教えられる学問や魔術書では、殆ど一定の事しか覚えられない。
実物でしか分からないという事もあり得るので彼女のその考え方は己としては好感が持てるやり方だと感じた。
相手は恥ずかしそうにしているけれど、己は微笑まし気に眺めて。
「――おや、分かりましたか。」
己の蒼をじっと見つめる赤がふと下がった。
そうして紡がれた言葉に蒼を細めては、自然と少しばかり口角も上がって。
「…魔力自体は、あるようですが。
成程…体質が…不思議なもののようですね?」
彼女の身体をよく視てみれば。
彼女自身には魔力がある。だが、それが何故か放出されずに消えているように見える。
治癒術士になりたかったと話す相手の言葉に思わず蒼を細めた。
だがその赤色は、魔術書を見ているようで見ていないような気がして。
■藤白 真夜 >
「あはは……何度か先生にも診てもらったんですけど、魔力が在るのに流れないとか、結局よくわからなくて」
(このひと、やっぱりすごいなあ。見るだけで、わかるのかな。……なら、この人に見てもらえば……)
……この人の前で、基礎を失敗しても、余計に惨めなだけかもと、思ったけれど。
こっそりと落ち込んでいたのを、ふるふると何かを払いのけるように頭を振る。
嫉妬や過去に、意味なんて無い。
私はただ、私を見つめなければいけないのだから。
「あ、あの。とても、治癒術の得意な方とお見受けして、私の術式を一度見てもらってもいいでしょうか……!」
言うが早いか、やはり両手で何かを受け止めるように、構えれば。
小さく、ゆっくり、けれど確実に。
基礎を忠実に辿った魔法陣を作り上げて、
――魔力を流し込んで――、
何も、起きない。
「……。……あ、あはは。や、やっぱり、何度やっても、こうなってしまって」
仮に。
魔力の流れが見えるのならば、魔法陣に流れ込む魔力がぷつりと途絶えるのが見てとれるだろうし。
もしも。
霊的なモノも同時に見ようとしたのならば。視えてしまう。
その瞬間にだけ……小さな赤い手が無数に湧き出し、身体に魔力を引きずり込むのが。
「……ど、どうでしょうか……?原因とか、わかります?」
そんな私は、どこか申し訳無さそうに、少しはにかみながら。
■セレネ > 「魔力は電流のようなものですし、少しでも邪魔になる物があるのならそれによって途切れてしまう可能性もありますからねぇ。」
相手の思いはどうあれ、己は彼女が惨めだとは微塵も思わない。
彼女の努力を、思いを、無駄にしてはいけない。
未来の魔術師になるかもしれない、治癒術士になるかもしれない彼女は、それだけでダイヤモンドの原石だ。
「――えぇ、勿論良いですよ。」
真っ直ぐな思いには答えねばなるまい。
己の知識、異能が役立つなら存分に使わねばなるまい。
相手が両手を構え、紡ぐ魔力に蒼を凝らして注視。
やや蒼が淡く光るだろうが、集中している彼女には分からないかも。
――己の目は、魔力も霊も共に視えてしまう。
同時に視ようと意識する事もなく、自然と二つ同時に視えてしまうのだ。
だからか。相手の違和感に気付いた。
「…魔力が貴女の身体に引き込まれているような。そんな感じがしますね。」
繋がった回路を無理に引き剥がしているような。そんな風に視えてしまって。
申し訳なさそうにはにかむ相手に、やや険しい表情を向けそんな事を述べる。
■藤白 真夜 >
「……ひきこまれる……?」
そう表現した人は、初めてだった。
何度か、診てもらったことはあっても、途絶えるとか、消えるとか、そんな表現。
じゃあ――、
そこまで考えて、相手の視線に気付く。
玲瓏に輝く蒼い瞳と表情に。
……どこか、すごく悲しくなって。
「……やっぱり、何かあるんですね」
どこか困ったように、笑みを浮かべる。
勤め先の祭祀局でも、何度か見た種類の表情だった。
恐怖や警戒に見えないあたり、やっぱり、この人は優しい、良い人だ。
「診てくださって、ありがとうございます。
……私、もう行きますね」
席を立ち、頭を下げて、お礼を。
少しだけ距離を取れば、やはり余計に際立つ。
私と、あなたの、正反対の、有り様が。
この人からは離れるほうが、私には正しいのだろうと。
そして、
「私、藤白 真夜と言います。まことのよるで、まや、です」
あなたの心地よい薔薇の香りが届かない、距離。
きっと、この間こそが、私には相応しい。
なぜなら、
「いつか……、……いつの日か。
あなたと同じくらいの、治癒術士に、なれれば。
……なんて、それは高望みですけど。
あなたのお言葉、覚えておきますね」
私の血の香りが混ざらないから。
月と夜が、近しいようで、明暗を別つように。
離れた今だからこそ、笑顔を浮かべて。
■セレネ > 「このような体質の方は、初めて視ますね。
…そうであればこの魔力の行方は…。」
様々に思案を巡らせる。
それでも、このパターンは己にとっては初めてだ。
だからこそどうなっているのかが気になるものの…詳しくは聞けないのが悔しい所。
蒼く輝く瞳は、彼女の赤に気付いて潜め。
「いいえ。…何か力になれたなら良いのですが。」
やっぱり、と告げた相手は過去にも似たような経験があるのかもしれないと推測出来た。
しかし彼女はそれ以上告げず丁寧な礼を告げてくれた。
己は特に何もしていないというのに。
「――私はセレネと申します。貴女のお力になれたなら、幸いです。」
互いに名を告げ、外見と名を覚える。
彼女が放っていた血の匂いは、良くも悪くも印象付けた。
代わり、己のローズの香りも相手への印象付けに一役買ったかもしれない。
尤も己の方は無自覚なのだが。
「私は大した技術は持っておりませんよ。
…貴女の努力が報われる事を願っておきますね。」
祈る先はない。
だから、己が出来る事は願うのみだ。
笑みを浮かべる相手に、己も同じように笑みを浮かべて。
ご案内:「図書館 閲覧室」から藤白 真夜さんが去りました。
■セレネ > 彼女が立ち去った後。
少しばかり後ろ髪を引かれるようにしながらも、己は抱えた魔術書を手に空いている席へと移動して。
この世界で使われている治癒魔術の術式についての勉学に励むのだった――。
ご案内:「図書館 閲覧室」からセレネさんが去りました。