2021/11/13 のログ
ご案内:「図書館 閲覧室」に黛 薫さんが現れました。
黛 薫 >  
常世大図書館、閲覧室の自習用スペース。
一口に自習、勉強と言ってもそのスタイルは様々。

仲の良い生徒同士で集まって勉強すれば(図書館は
私語厳禁なのであまり会話は出来ないが)ノートを
見せ合うこともあるだろうし、逆に1人でなければ
集中出来ない生徒もいるだろう。

1人で勉強したい生徒、周りを気にせず読書に
勤しみたい生徒のために設けられた一角。
間仕切り付きの机が並ぶスペース、その端っこ。
人目を避けるかのようにフードを目深に被った
女子生徒が上の空で本に向かっていた。

(……コレも、なんか……違ぅ感じする)

机の上には積み上げられた本の山。筆記用具も
ノートもないし、本の背表紙の雰囲気も教科書
参考書の類ではない。目的を考えれば勉強だと
言い張ることも出来なくは……ないのだろうか。

黛 薫 >  
積み上げられた本は文庫本、啓発書がメイン。
改めてそのラインナップを確認し、ため息。

『選択を迫られた日〜恋と愛〜』
『その気持ち、本当に恋ですか?』
『メンヘラ女の心理 愛と執着は紙一重』
『浮気の心理 愛しているから離れていく』
『乙女ゲームは成り立たない 理想と現実の差』
……その他にも色々。

(……今のあーし、世界で1番アホな気ぃする……)

ごん、と音を立ててテーブルに突っ伏す。
真剣に悩んで真剣に考えた末に選んだ本なのに
並べてみると根本から間違っている気がする。

黛 薫 >  
(何だろ、この、なんか……ダメ男に引っかかった
必死な女みたぃなラインナップになってねぇ?)

しかし現状の悩みはそうではない。ないのだ。
強いて言うなら、自分が引っ掛ける側の悪い女に
なっているのではないか。そういう悩み事である。

常世学園に入学して以降、黛薫は孤独だった。

使える時間の全てを魔術の研鑽に当てていたから
友人の作り方なんて知らなかった。話せる相手と
言えばメッセージアプリで繋がる家族だけで……
毎日連絡を入れても返ってくるのはおざなりな
返事が一言だけ。いつしかそれも既読通知だけに
なって、黛薫からの連絡も自然消滅した。

ただでさえ孤立していたのに、非才が発覚して、
落第して、焦りから違反行為に手を出して……
そして、落第街へと逃げ延びた。

落第街ではなおさら周囲に心なんて許せなかった。
隙を見せれば食い物にされ、そのくせ警戒すれば
気に入らないと嬲られる。

強がりと嘘で塗り固めた殻にボロボロになった心を
閉じ込めて身を守り、逃げて、隠れて、苦しみから
目を逸らして生き延びて。

──最近、やっとで心を許せる相手を知った。

黛 薫 >  
そう、そこまでは良い。良いのだけれど。

(そーゆー『特別』って、何人もいてイィのか?
浮気とか、不誠実とか……思われたりすんのかな)

黛薫はコミュ障である。ぼっち体質である。
どうしようもなく人付き合いに不器用である。
『特別』『大切』の在り方が分からない程に。

いっそ自分の抱く感情が恋とか愛だと断定出来れば、
自分の行いは不実であり、いずれかを諦めなければ
ならないと苦しみながらも飲み込んだろう。

それが苦しいから『そうではない』証明を探して、
しかし肯定の確信も否定の材料も見つけられずに
こうしてうだうだと悩んでいる。

……本当は、知りたくさえないのかもしれない。
だけど『特別』のうちの1人から、はっきりと
『好き』を宣言されてしまったから。

(今のあーしも既に不誠実なのかもしんねーけぉ。
分かんねーからって言い訳したり目ぇ逸らしたり、
そーゆーのはもっとズルぃし不誠実だろーがよ……)

黛薫は、どうしようもなく不器用である。

黛 薫 >  
そもそも『好き』とはどういう気持ちだろう。
嫌いじゃないなんて単純なものではないはずだ。
少なくとも自分を受け入れてくれた、心を許せる
相手のことは『好き』だと思っている。

(……本当に?)

心を許せる相手は、今のところ2人いる。
しかし自分はその両方に『酷いこと』をした。
それを踏まえて本当に『好き』と言えるのだろうか。
都合の良い相手としか思っていないのではないか。

(もし、そーだったら。あーしって、最悪じゃん)

『特別』な相手。『大切』な相手。
その感情が自己利益から生まれるものだったら、
どちらを選ぶとか以前に自分は手を離さなければ
ならない……と、思う。傷付けたくないから。

でも。

(勝手に離れられると傷付くっつー論理を使って
引き止めたのはあーしの方なんだよなぁ……)

黛 薫 >  
どうしようもなく大切で、手放したくなくて。
そんな感情は自分本意でしかないのだろうか。

『特別』だと口にしながら全てを捧げることは
叶わなくて、別の誰かに心惹かれてしまうのは
不誠実なのだろうか。

それとも……『特別』にも色々な形があって、
個々に異なる『特別』な気持ちを向けるのは
おかしくないのだろうか。

そうであって欲しいと思う反面、そうだった場合
自分の抱く感情は相手の求めるものと噛み合って
いるのだろうか、という新たな不安が生まれる。

だから、こうして『勉強』しているのだけれど。

(この本、めちゃくちゃ主観的っつーか感情的
っつーか……単なる著者のお気持ち表明じゃ……)

キャッチーなタイトルの本なんてそんなもの。
どうにか手掛かりを見つけようと躍起になって
いるものの、空振りばかり。

黛 薫 >  
「う゛ー……」

最初のつかみの部分を読んだだけで期待が持てなく
なりそうな本の山。しかし自分の気持ちを整理する
とっかかりがあるかもしれないと律儀に後書きまで
きっちり読み切る。案の定、成果はなかった。

悩みどころが自身の内面の誠実さの問題なら、
ここまで真剣に悩んだ上に解決法を模索して
逃げを選ばない精神は不実ではない……と、
言えなくもないのだが。黛薫は変なところで
頭が固く、自分を許すことに慣れていない。

結局閉館時間ギリギリまで本を読み漁っていたが、
迷いは解決の兆しを見せるどころか深まるばかり。
重い足取りで図書館を後にするのだった。

ご案内:「図書館 閲覧室」から黛 薫さんが去りました。