2023/01/25 のログ
ご案内:「図書館 休憩室」に黛 薫さんが現れました。
黛 薫 >  
ある瞬間、前触れなく限界が訪れることがある。
定期診断でかかりつけ医の先生にそう話したところ、
それは限界が来たのではなくとっくに限界を過ぎて
無理をしてしまっているのだと教えられた。

曰く『まだ大丈夫』は既に限界で、それを超えた
活動は無茶や過重労働に当たるらしい。例えるなら
限界は糸が張り詰めた状態。糸が切れてしまって
急に何も出来なくなるのは鬱症状なのだという。

自分を労ること。休むのは悪くないということ。
周りを頼って良いということ。それに慣れるまで
時間がかかっても構わないということ。

復学して以来、何度も諭す言葉をもらった。
しかし、人はそう簡単に変われないもので。

(……やっちまった)

休憩室の片隅、椅子の背もたれに体重を預けて
ぴくりとも動かない少女。頭の中では自罰感情と
反省がぐるぐると渦巻いている。

黛 薫 >  
彼女、黛薫は図書委員である。
主な業務は図書館内の清掃と私服警備員。

特異な使い魔を従えており、清掃能力は極めて優秀。
ただし異能疾患と評されるデメリットの強い異能と
それに起因する精神不安を抱え、フルタイム勤務は
難しい。委員会活動も社会復帰支援を兼ねている。

今日はその精神問題が悪い方に転んだ日だった。
長い前髪とパーカーのフードで隠れた顔は生白く、
暖房を鑑みても異常な量の汗をかいて浅い呼吸を
繰り返している。

(また、失敗)(また)(何回目?)(迷惑を、かけ……)

不安が別の不安を呼び覚まして思考が定まらない。

黛 薫 >  
無理をするのが当たり前だから負担に気付けない。
思考がオーバーヒートして、初めて壊れかけていた
事実を知る。脳が焼けるほどの焦燥の熱と、自我を
守ろうと早鐘を打つ鼓動の警鐘。食い違って回る
思考の歯車が軋む音。頭が砕けそうに痛む。

どうにかそれらをやり過ごした後に残るのは疲労と
虚脱感。冷え切って消えてしまいたい程の自己嫌悪。

「……はぁ」

控えめにため息を溢し、一緒に込み上げた吐き気を
飲み込む。不安の燃料がなくなるまでやりすごせば
ひとまず落ち着きを取り戻せる。情動の元となる
気力を使い果たしているだけなので、本当はあまり
頼るべき方法ではないのだが……。

黛 薫 >  

厳しい見方をするなら、黛薫は社会生活に不適。
本人の意向からお情けで仕事を用意してもらい、
その立場に甘んじているに過ぎない。

(んでも、今回は頑張った方だと思……ぃ、たぃ)

そのお陰と言うのは甘え過ぎかもしれないが、
精神に不調を来した際の対応は事前に話し合って
決めてある。担当の風紀委員、生活委員に連絡を
届け、速やかに休憩スペースに退避。

「……今日は自壊も軽め、と」

不調が酷い日は染み付いた自傷癖が精神不安に
伴う魔力の不安定化と結び付いて傷が出来る。
今日は元々あった傷が開くくらいで済んでおり、
規定通りの行動を取れたのも併せて彼女にしては
上出来な対応と言える。

黛 薫 >  
「安定して働けねー分の成果は上げたぃよなぁ」

復学支援の関係で風紀と生活委員の2名が常に
対応出来る形で備えてくれているので、最低でも
3人分の成果を出せないとお荷物な気がする。

実のところ、開館時間内に立ち入り制限を行わず
書架の清掃を行える黛薫は替えの利かない人材。

所属は図書委員だが、生活委員美化保全課寄りの
業務が多いのもあって、仮に引き抜けるものなら
引き抜きたいという話もあるのだとか。

「……がんばろ。いぁ今日はもー無理だけぉ……」

自己評価の低さから社交辞令と受け取ってしまう
本人ばかりが知らない評価。

黛 薫 >  
ひとまず、事前に取り決められた時間分の休養を
終えて、パニック症状が残っていないことを確認。
どの区画まで清掃を終えたかだけ報告して帰宅する。

本日の就業時間は予定されていた時間の半分未満。
それでいて清掃を済ませた区画は一般の清掃員が
フルタイムで働いてカバーできる範囲を優に超える。

素質だけ見れば『優秀な魔術師』には程遠く、
支援が不可欠な不安要素を持つ彼女ではあるが、
人材としては徐々に評価されつつあるのだった。

ご案内:「図書館 休憩室」から黛 薫さんが去りました。