2020/08/05 のログ
ご案内:「禁書庫」に群千鳥 睡蓮さんが現れました。
■群千鳥 睡蓮 > 煩雑に煩雑を重ねた手続きを終え、
ほぼ雁字搦めの制約の上で閲覧を許可された書架を歩く。
指先が背表紙の群れをたどる。
胸躍る未知の羅列なれ、前髪の隙間から伺う視線はするどい。
「すこし早まったかもな……」
情報が足りなさすぎる。
現状は答えを捜すというよりは、知見を深めるための行動と割り切っておく。
豪華な装丁で、蚯蚓の這ったような文字の背表紙で指先が止まった。
本を引き抜く。
「著者は――」
しずかにつぶやく。そうするのが癖であるかのよう。
確認を終えると表紙を開いた。
■群千鳥 睡蓮 > "運命"に生かされたらしい彼女がいまどのような状況にあるのか。
解決法を導こうとは思わない。だが、識ろうとせねば何も始まらない。
「違反部活のことも調べなきゃかなー……」
一般生徒に出来ることは、あまりに少ない。
そうであることを望んでいた向きもあるはずなのに、僅かなもどかしさを覚える。
「……それは、"死"ととなりあわせの」
広く社会に周知された概念とは違い、
多種多様な有り様を記したそこに何らかのヒントがあるのかも。
異界言語のなかで、どうにか読める程度に此方側の世界で体系化されたもの、
すなわち睡蓮の習得している言語でもって、
求めるものに触れられそうな資料はこの一冊だけだった。
表題は"眠り"。
■群千鳥 睡蓮 > たとえば近似した一例において、"あの女生徒"がたったひとり生存した理由は、
おおよそ推測できる段階までは達している――とはおもう。
(もちろん"節穴"である可能性は無視しないものとする。)
いささかデリケートな問題であろうとは弁えているため、
現状、そのあたりを深く突っ込もうとは思わない。
識る自由もあれば、識らない選択もある。
「……なんでちがう世界にこっち側の神話体系が……
あ、うん? 細かいとこがいろいろちがうな……名詞だけじゃなくて……
――ああ、いや、いい。こういうのが知りたいんじゃない」
騒ぎ出す好奇心の手綱を握っておく。ページを手繰る。
使い慣れない言語は、読み解くのにどうしても時間がかかる。
貸与された時計を眺める。制限時間はそう長くない。
「認識のうえであいつが"生きている"のはまちがいないとして……
……なにが起こった?なんであいつなんだ?
そもそもなんで、って詳しく聞いてないな……そっちも怪しい儀式でもしてたの……」
因果――要するに、灰のなかに火の鳥が孵った事にもなんらかの必然性があるはずだ。
それが"偶然"という現象でもいい。"奇跡"でもいい。
だとしても、それをそうだと"認識"した瞬間に"世界"として把握することが可能だ。
……の、はずである。
ページを手繰る。
ご案内:「禁書庫」にシャンティ・シンさんが現れました。
■シャンティ・シン > 『かつり、こつり、かつり、こつり
禁書庫にかすかに響く音を立てて――は歩く。』
『異邦語 翻訳書の棚』
ああ――古き馴染みのこの場所は自分の足だけで記憶どおりに歩ける。
だから私はやはり、此処が好きだ。
『――の前方に少女。少女は本を手繰っている。本だけを見つめている。』
「あら……? こんな、とこ、ろ……で、立ち読み……なん、て……ふふ……
変わった、子……ね、ぇ……? 」
『――の顔に笑みが浮かぶ。――は歩く。少女との間が狭まる。』
「……なに、か……お探、し……か、しら……?」
『気だるげな声で――は話しかける』
■群千鳥 睡蓮 > 「……そもそも」
あの白雪姫はといえば、何事もなくあの後も起き上がったわけである。
王子の接吻どころか、棺をぶつけた拍子に毒林檎を吐き出して――なんてことがあったわけでもない。
人の寝姿なんて千差万別で当たり前だし、気にすることでもないのかも。
寝顔だけなら。
「……"たったひとりの生存者"ではないんだとしたら……?」
指先が記述をなぞる。あれは何と交わり赤くなったのか。
本人に聞くという選択を、浅ましい怯えから先送りにして、
情報が指の隙間にもかからずに消えていく状況に、焦りがなかったといえば嘘になる。
よほど情報が深い場所にあるか――そもそも探し方を間違えているか、だ。
「赤い靴のスノーホワイト……寓意としちゃだいぶ悪趣味になっちゃったな……、
…………」
結構時間をかけたものの、まだ読み進められたのは一割程度だ。
覚えのある神話になぞらえて、考察を書きなぐったとしか思えない。
求める知識は――あるようでいて――見当たらない、もっと読み進めれば。
――まぶたが重い。
■群千鳥 睡蓮 > 「――――ッ」
ぞっと背筋を撫でる気配に"覚醒"して、あわてて本から眼を離す。
一般女生徒が閲覧可能な"程度"の本であるのに、禁書庫においてある理由はそういうことか。
続いて聞こえてきた足音、視線の先、奇態がその様をあらわすと。
「……"毒林檎"について? 大事な人が食べちゃったんだったら大変だから」
探していたものに聞かれると、少し持って回った表現で答えた。
開いたままの"眠り"を閉じると、表紙を見せた。
「助かったよ……"と、少女は相好を崩して応じた"、とでも」
身体をそちらに向けて、肩を竦めた。
目の前に居るのに視線を感じないとは妙な話だ。
彼女の奇妙な語り口を真似て
「あなたは? ――"怯えることもなく、誰何する"わけだけど」
■シャンティ・シン > 『少女は慌てたように本から目を離す。――の方に目を向けて』
『「―――」本の表紙を見せる。タイトルは……<眠り>』
「あら……ふふ。"毒林檎"……なん、て……穏やか、では……ない、わ……ねぇ。
眠りの、"病"……? それ、とも……"呪い"……? 心配、よ……ね」
『少女は僅かな疑惑、困惑を浮かべる。――はただ、微笑む。』
『「――」少女は怯えることなく誰何する。』
ああ、いい子だわ。
「そう、ね……吃驚……させ、た……? こんな、所……です、もの――ね。 私、は……シャンティ……
シャンティ・シン……図書委員……だった、者、よ。 貴女、は……? 」
『――は気だるげな笑顔で問いかける。』
■群千鳥 睡蓮 > 「"眠るように死ぬ"ものが幸福かどうかはさておくとしても――
――"死んだように眠る"ひとは、ちょっと心配。
そのひとが、それでね……もう起きてこないんじゃないかって……ふつうに起きたんですけど……
白雪姫は"亡骸だけでも"と持ち帰った王子様が、すっ転んだ拍子に目が覚めたんだっけ」
あのひとがどちらかはわからないけど、と古びた表紙を揺らしてみせる。
「まあ、なにが出てきてもおかしくないだろう場所だ、とは思ってますし。
……声かけてくれて、実際助かりましたよ。たぶんあたしが"呪われ"かけてたから」
苦笑して、彼女の問いかけには首を横に振る。
チョーカーについた猫のチャームがかちりと音を立てる。
「よろしく、シャンティさん。 あたしは一年の群千鳥 睡蓮(むらちどり すいれん)って……
――だった? "ではいまは……そう、興味深げに目の前の謎を覗き込んだ"……とか」
"眠り"を本棚に戻す。貸与された時計を見る。時間はまだあった。
物怖じはしない性格だ――未知に対しては。
■シャンティ・シン > 『「――」古びた本を揺らしながら少女は言う。小首をかしげながらシャンティは話を聞いていた。
そして、得心のいった顔に成る。』
「そう、ね……地面に、落ち、た……拍子、に……毒林檎、を……吐き出、して……それ、で……目覚、めた……のよ、ね……
ふふ……あなた、の……大事――な、人も……そう、なら……"何か"、を……吐き、出して……いた、の……かも……?
<白雪姫>、では……林檎、だった……けれ、ど――ひょっと、したら……目に、見えない……"何か"……かも、しれな、い……わ、ね。」
『そこまでいって、シャンティは辺りの棚に目を向けるように首を回してみせる。右前方の棚の上から、ぐるりと左前方まで。』
「"呪われ"、かけて、まで……こん、な……ところ、に……来る、なん……て――ひょっとし、て……心、当たり……で、も?
こん、な……<異界>、の……外様、の……本、に……頼る、なん、て……?」
『興味深げな表情を浮かべて、シャンティは少女を見る。』
彼女には、どんな事情があるのか。そこにはどんな思いがあるのか。是非、みたい……
『「――」興味深げに目の前の謎を覗き込んだ。未知に対する好奇心が、そこにはあった。』
「あ、ら……ふふ。私、に……興味? いい、わぁ……で、も……あまり、面白、く……は、ない、わ……よ?
ちょっと、事故、に……あって……しば、らく……お仕事――でき……な、く……なって――やめ、ちゃった……っていう、だけ」
相手を伺う。感情の色をもっと見てみたい。
この少女は平静でなかなか見えてこない……だけれど、それがいい。
■群千鳥 睡蓮 > 「……"視えざる毒林檎を排出する機能"によって目覚めることができているんだとしたら、
そのひとは、毒林檎を喰らってはいる……、ってことになるよな……
てことは林檎の――いやちがうな、"王子様"のほうも探さなきゃいけない……?」
会話をしている最中に考え込んでしまうのは、昔からの疾患――悪癖だ。
指が唇を叩く。問いかけを向けられると、思考が中断できる程度ではある。
「……"ココなら、もしかしたら"って――ちょっと浅はかだったかな。
本人に聞くほうがいいんだろうね……それで呪われかけてちゃ世話ない。
ああ、でも――」
少し恥じ入るように、顔をそむけた。
蘇り、灰より生まれ出た不死鳥の故を問う時、"人智"の及ばない先を異界との交差点に求めた。
短絡的な手段だったとは思う――が、そちらを振り向いた。
「シャンティさんに会うために此処に来たんだ」
そういう 『運命』だった。と弁えて。
言った後に、道化のように肩を竦めて両の掌を振った。
「……"臆面もなくそう言って、少女は自分の失敗を誤魔化した"。
――なるほどね。 事故にあっても、『読書はやめられない』と……?」
僅かに腰を折り、顔を覗き込む。
大胆な好奇心が、そこにある。この奇縁は、ここに来なければ結ばれないものだった。
ならば目の前の少女を識りたいと願うのもまた必然。
「シャンティさんには、世界がどう"視えて"いるのかな」
■シャンティ・シン > 『「――」少女は考え込みながら思考を口にする。指が唇を叩く。』
あらあら、真面目に考え込んでいて……感情より、思考のほうが先立っているわね。
もっと焦っても、もっと苦しんでもいいのに……
「ふふ……どう、かしら……それ、は……相手、が、<白雪姫>、なら……よ、ね……? ひょっと、した、ら……"毒林檎"を"消化"し、て……しまった――なん、て……そん、な……こと、も……ある、か……も? そも、そも……"眠り"……な、ら……<白雪姫>、じゃ……なく、て……<茨姫>――かも……しれ、ない……わ、よね、ぇ……?」
それは"眠り"に纏わるもう一つのお伽噺。
どちらにも共通することが有るとすれば、それは魔の力を奮う、何者かがいたことだけだ。
ああ、それと。救いの手は王子様、ということか。
なるほど。"王子様"を探すのは悪くない発想かもしれない。シャンティは独りごちる。
『「――」少女は恥じ入ったような顔を改め、シャンティに振り向きそう口にする。』
ぞくり、とする。嗚呼――そう。それを『運命』、と貴女は言うのね。
それならば、これは貴女だけではなく私の『物語』。読者から登場人物になれ、と貴女は言うのね。
嗚呼――嗚呼――面白い子。
「えぇ……そう。私は、読む、こと……だけ、は――やめ、られな、かった、わ……ふふ。
事故で、しばらく……何も、よめな、かった……時、は――本当に……気が、狂い……そう、だった、の、よ?」
『睡蓮は僅かに腰を折り、シャンティの顔を覗き込む。其の目には好奇心がありありと浮かんでいた。
そして、視線にわずか数ミリのズレが生じる。』
あら、急に動かれるとこうなっちゃうのよね。
心で思いながら視線をずらす。
「私……? ふふ、私に、は……世界、は――『物語』の、よう、に……"視えて"、いる……わ?
貴女、は? 睡蓮、さん?」
『くすくす、と忍び笑いのような笑いを交えつつシャンティは問い返した。今度は視線のズレは生じていない。』
■群千鳥 睡蓮 > 「林檎を飲み込んでいたら、もうちょっと――生きた感じに眠ってくれると思うんだけどね。
いばら姫……眠り姫、"眠れる森の"……だっけ。
継母、もしくは実の母親に含まされた毒りんごではなくて、
だめだとわかっていても手を伸ばして針に呪われたのだとしたら……
……眠り姫が犯した禁忌についても、調べなきゃならないわけだ、いずれにしても……
"姫君はなにかに呪われて/病に侵されていて、王子様の救いを(受動的に)待っている"」
物事をざっくり簡潔にとらえるならこうだ。"病/毒"か"呪い"だ。
そもそも――とそこまで言って、唇に指をあてたまま、んー、と唸って天井に目を向けた。
高いなあ、と思って。
「そのお姫様、たぶん歩き回って呪いの解法――"王子様"探してるっていうか、
普段からして"王子様"っぽいひとなんだけど。
その場合ってあたしはなんになるんだろうな……小人?
――能動的に動き出したもんだから、毒りんごを食べた上で、
さらに針に指を刺されそうな"王子様お姫様"って、
物語の類型に照らし合わせるなら、どうやって接したもんかな……?」
そして概ね、現実は美しい物語の完成度から外れているのだ。
そこで初めて、苦悩や苦悶の感情が覗く――どうしたらいいかわからないとか。そういう悩み。
じぶんにはなにができる。どうすればそのひとを導ける、一緒にいられる……とか、そういう煩悶。
いじましい感情だ。少し恥ずかしくなって顔をそむけた。
――視線だけそちらを向ける。"読まれて"いないか? そんな疑問。
「眼以外で、世界を認識する機能を得た。耳? ……いや、耳がいい、って感じもしないな。
なにか――、そう……"あたしはどこからともなく、古びた手帳を取り出して"、」
ひらく。
「"そこに、――『世界を物語として認識する在り方』が、ひとりでに記される"――わけだ。
つまり要するに……? そういうひとなんだ、シャンティさんは。
いまもつぎのページがめくられるとき、どきどきして、はらはらして、しょうがない?
どこにどんなことが書いてあるのか、予想して、期待して――そうだよな、そうだもん」
あたしもそうだ、と。本を読む時の"わくわく"だけは共有した。
そして、問いかけられると、眼を瞬かせてから。
すぐに応じようとして迷う。そして、ひとつ前置きをした。
世界は、どう見えているのか。
「"その答えは"」
手帳を閉じた。
相手に予想をさせるような。あるいは、予想がついているのかもしれない。
それは、次のページに書いてある答え。
「"夢を視るように"。
――シャンティさんは? 夢はみるの? あたしは、本は読むよ」
■シャンティ・シン > 『「――」少女の考察は続く。指はまた唇に。』
これはクセ、ね。ふふ……『物語』を『現実』に当てはめよう、なんて。おかしなおかしな発想だけれど。
でも、そうね。それは私みたいな人間の性なのよね。親近感が湧くわ。
さて、では彼女自身が口にした"小人"、であるなら。<茨姫>なら"農民"辺りになるのだろうか。
それは"導き手"。解決を促す"王子様"を引っ張り出す役どころ。
そして、"小人"の方であれば"姫"自身も導くことに成る。
さて、彼女は"導き手"であろうか? 本当に?
「あら、あら……貴女、自身が……"王子様"、という線、は……ない、の……かし、ら……? "王子様"は、"美しい姫君"、を……"識って"――初め、て……動い、て……そし、て……目覚め、に……導い、た。たと、え……"ソレ"、が……異常、な行動、だ、と……して、も……ね?」
"呪われ"るようなことまでして、動いているのであればソレは異常行動。そういう路線だってあるのではないか。
勘ぐれば、見えない毒林檎は彼女自身がもたらしたもの、という可能性もあるが……それは、今回はなさそうでも有る。
かといって、王、のような役割でもあるまい。
『睡蓮に浮かぶのは……苦悩、苦悶、煩悶。そして羞恥。
どうしよう、どうすれば、どうしたら。それらが全て恥ずかしい。
睡蓮は顔を背け、視線だけをシャンティに向ける。疑惑の眼差し。』
嗚呼――それ。それよ。それが見たかった。それを、もっと見せて。
貴女の"気持ち"をもっと見せて。貴女の"心"を。貴女の『物語』を。
嗚呼――世界はなんて美しい。
『睡蓮は虚空から手帳を取り出す。それは彼女の異能。「――」口に出して、自ら確認するように。』
「あら……ふふ、ノゾキ、見……? イケナイ子、ねえ……睡蓮、さん?
貴女は、何を……見た、の……かし、ら?」
『くすくすと、忍び笑いを続けるシャンティ。』
嗚呼――嗚呼――似たようで、違う。睡蓮は、そういう『世界』を持つ少女、だ。
ならば……確かにこれは『運命』。神、なんてものは信じていないけれど。この時ばかりは神に感謝してもいい、と思った。
『睡蓮は目を瞬かせ、そして答える。「――」一拍置いて「――」。睡蓮は問いかけてくる。』
夢。
かつて、見ていた覚えは有る。夢を見る少女のよう、という言葉があるが、そういう意味での夢も有った。
ここ
けれど、今は――『世界』の全ては『 本 』にある。夢を見ることも無くなった。
「えぇ……そう、ね。私、も……『本』は、読む……わ。
夢……は、そう……ねぇ。ここの、ところは……ね?」
『ゆっくりとシャンティは手をのばす。睡蓮の姿を追って、手をのばす。』
「だから…貴女も、是非……『読み』、たい、わ……?
読ませて、もらって、も……?」
『くすくす、と笑う。』
■群千鳥 睡蓮 > 「あたしが……?」
唇をふたたび指でなぞる――考えている時は、考えている、という仕草をしてしまう。
"視える"ことがなくても、わかりやすい人間だ。ひとかわ剥いてしまえば。
男性の能動性を示すその登場人物は、たしか、
《眠り姫》のさらに原典まで遡れば、姫君を眠ったまま身籠らせたことさえあるという。
時に死姦のような行為にさえ及んでも、姫君を現世に引き戻し蘇生させる"役割"。
「姫君に望まれない行為でもって、目覚めさせたいか?といえば……
……どうかな……、それはお姫様の人生だもん……あたしは前もって訊くかな。
"目覚めたいですか"って――……ああそうか、答えてくれないお姫様にどうするかって話か」
ある意味では欲望の発露。
その欲望は"お姫様を識った"ことで初めて萌芽する我執である。
至高聖所、眠りの淵、死の寝台から引きずり下ろす汚穢にまみれた行為。
掌で唇を覆う。思考ではなく、自分の感情に自問する。
「――どうだろ、"ヤっちゃう"かな……
たぶん、そのときにならないと……わからない……
……って、ちょっと、読まないで……! 恥ずかしいから……!」
自分を『読んだ』彼女に、あわてて顔を上げて静止する。
姫君を前にした王子は、果たして冷静にしていられたのか。
欲望は激情と等しいなら、心は土壇場でこそ不随意の行動を示すものだ。
「――あたしのはそういうんじゃないよ。
"視た"まましか書けない、わからない。間違ったことを書いてしまうこともある。
そうすれば暫くは消える。だから、これに記すためにはあんたのことも識る必要がある。
ここに書いたのは、あたしが"視た"ままの……"シャンティ・シン(あなた)"。
ただ確かなのは――あたしの"夢(せかい)"のなかには、あんたが」
登場人物として。
「あんたはあたしの『物語』を読むという、『物語』のなかに」
居ることだ。認識していることだ。
かつては手帳の記述を増やせばいいと思っていた。
いまは――違う。もっと深くまで識りたい。相手のことを。人のことを。心を。
唇の前に、手帳を翳して見た。そこには、胸の奥には、シャンティ・シンという存在が在る。
みずからの世界にとらえる――……他者に認識されれば、"傍観者"ではいられない。
「……ん」
手を伸ばされれば、
「"そのてのひらの向かう先に、少女はひとさしゆびをたてて"」
「"それが、天井を指したものではないことは、"」
「"光を映さない瞳を覗き込む、少女の視線が物語っている"」
「……あんまりお薦めはしないけど、"覗き見"しちゃったらしいからね。
あんたがそうしたいなら止めないことにする。 ただし、言ったからね?」
そもそも、そういう場所だからね。
ここは禁書庫だ。
表情は神妙に、真っ直ぐ見つめた――そうでなければ、彼女が人を深く識れぬなら。
「"本書にはショッキングな内容が含まれています"」
■シャンティ・シン > 『物語』は『現実』ではない。荒唐無稽なものばかりである。
だからといって、そこに『真実』がない、と言えるだろうか? 答えは、否、だ。
古今東西、様々な『物語』は無数の示唆を投げかけてくる。
――人は欲望で人を害せる
――人は欲望で人を救える
この矛盾した人のあり方も、まさに『物語』の示唆するところであり……現実だ。
欲望は人を人たらしめるもの、と言ってもいい。
<白雪姫>の"王子様"は「死体でもいいから」「美しい姫を貰い受け」「目覚めさせた」。
無論、手痛いしっぺ返しを食らったものだって居る。それも、現実だ。
「ふふ……それ、なら……貴女、が……その、人……の、"王子様"、に……なる、時……も、あるか、も……しれ、ないわ、ねぇ……? 一度……自分、に……聞いて、みて、も……いい、かも――しれない、わ、よぉ……? 貴女、の……"欲"、は……なん、です……かって…… そこに、は……『本』には、ない……『物語』が……眠って、いる……か、も?」
『くすくす、くすくす、と忍び笑いを続けるシャンティ。楽しそうな表情を浮かべている。』
「読まれた」ことに慌てる彼女。また別種の羞恥が浮かぶ。
嗚呼――可愛い、可愛い……
『そして、改めて「――」。』
睡蓮。彼女は、私を傍観者に置くつもりがない、と宣言する。
舞台から降り、舞台裏に眠っていた自分に。傍観者を決め込んだ自分に。
表に"居る"、と宣言してきた。
私に……再び、『演じろ』と……この子は、いうの?
幕を下ろした劇の役者に。
言葉遣いの変化は、その本気度だ。
本性を以て私に相対している。彼女の……気持ち。
「あら、あら……困った、わねぇ…… 私は、『世界』を、読んで……いれ、ば……十分、だった、のに……?」
『伸ばした手を降ろさぬまま、シャンティは笑い続ける。』
「ふふ……私も、貴女、も……同じ。私、も……"取り……扱い、注意"……の、"禁書"よ?
それ、を……外に、出す……の? 貴女……責任、とって……くれる、の……かし、ら……?
私? 私、は……"禁書"、も……ふふ、怖く、ない……わ? 元、図書委員……です、もの。」
『悪戯っぽい笑みを浮かべて、歩みを進め睡蓮の前に立つ。
伸ばした手は睡蓮に触れるように……』
■群千鳥 睡蓮 > ――"物語"は、彼我の間だけに綴られて。
■群千鳥 睡蓮 > ふれた掌に、そっと暖かな掌を重ねた。
夢を見る心地で、やさしく包む。
群千鳥睡蓮は単純に、わかりやすい人間である。
「……要するに、"どうしたいか"って話なんでしょ……?」
王子様として在りたいのか。お姫様にどうしたいのか。
どう生きたいのかどうかだ。
"自らの欲望に問え"。在り方を定義するのは自分だ。
欲得を棄て、悟りを開いたら、現世に居場所なんてないはずだと。
「"それで十分"って要するに――自分でそう思いたかったわけでしょ」
肩を竦めた。自分もそうだ。
お姫様を前にして、"これで十分"って納得できるかといえば。
……そうでもないのかもな、若いから。少し渇いた喉が溜息を落とす。
「"問いかけは簡潔に"」
彼女の手を、そっと離させれば、ふたたび指先を立てた。
「――――"もっと読みたい?"」
だったら、外に出なきゃ。面白い物語は、幾らでも転がってるんだから。
かちり。
金属音のあと、小さい鳩の鳴き声がする。
貸与された懐中時計を見ると、鳩が鳴いていた。
「時間みたい。 ……次は、どこで会えるかな?」
ポケットにそれを落とし、行かなきゃ、って歩き出しながら。
「"少女の胸には、次に会ったら、お礼をすることになると思う。
――そんな予感が芽生えていた"……とかね」
■シャンティ・シン > ――見える
――読める
――聞こえる
睡蓮、という少女の断片。
いいえ、これは…… 嗚呼――ぞくぞくする……
私には、この『本』を閉じることができない。たとえ、その先に何があろうとも。
こんな情熱は『』に逢った時以来。
こんな情動は『 』が幕を下ろすまでの間以来。
「ふふ……そう、とも……いう、か、も……しれない、わ、ねぇ……? 貴女、随分と……ふふ、お悩み、だった、し……? けれど、追って、いるの、は……『事象』だ、け。『本読み』の……悪い、クセ……ねぇ? あら――そう、いえば……私、も……そう、なる……の、よね。貴女に、言わせ、れば…… あら、あら……」
『自らの手を見ながら、気だるさに少しだけの高揚を乗せてシャンティは喋る。表情には満足と好奇心。』
貴女は私を――かつての『大道具』から『役者』へと引き出した。
魔性を世に解き放ってしまった。
『「――」睡蓮の手が離される。「――」。』
嗚呼――そんなの勿論決まっているでしょう? 貴女ならきっと分かっていて問いかけている。
世界はこんなにも美しくて――世界はこんなにも醜い――
そんなもの……もっと"読みたい"に決まっている。
なんて、ずるい問いかけだろう。
「えぇ……勿論……もっと、もっと……"読みたい"……わ。 ふふ……でも、ね。私、貴女……の、見立て、通り――"視えない"の、よ? きちん、と……責任、もって……ふふ、時に、は……手を、引っ張っ……て、ね?」
『くすくすとした笑いを閉じ、ほのかな笑みだけを浮かべて睡蓮に応える。浮かぶ表情は先程とはまた別種の悪戯っぽい顔。
そこにあるのは――』
これが、友情、というものかしら? それとも別の感情? 嗚呼――自分の感情に悩まされるなんて、いい体験だわ。
この気持は……いいえ。"読まない"で、おきましょう。
「ふふ……再会? そう、ね……前、だった、ら……図書館、で……と。そう、言う……ところ、だった……けれ、ど。 貴女には、希望……ある、かし……ら? あいに、く……私、場所、は……あまり……知ら、ない……の、よ……ねぇ」
『小首をかしげて指を頬に当てる仕草。悩んで見せる形になる。』
■群千鳥 睡蓮 > 閉じないんだ。物好きだな。
……自分のことを知ってもらう、というのは、
嬉しいことで、恐いことだ。そういう、汚い部分を識られるのは。
仕方がないと思っていても、嫌われたくないと思う相手は存在する。
「"読んでる"でしょ」
どうにも"読めて"しまうらしいから、そういう機微も伝わってしまっているんだろうと。
拗ねたように唇を尖らせた――彼女が何を以て外に出ることを忌避していたかは見えぬなれ、
それが"許されない"ほど、"世界"の懐は浅くない、というのが睡蓮の考えだ。
――"魔性"はお互い様。
「悩み、悩みか――そうかも、悩んでたのかも。
ぶつかったり、直接聞くのがなんか恐くて。
危ない本に、"冴えたやりかた"がたったひとつでも書いてあればいいな、と。
だめだな、"本に頼ろう"なんて考えがちょっと浅かった。恥ずかし……
……そーだよ、ひとりだけ、欲望に目ぇぎらつかせて生きようとさせないで」
本は読み解くもの、楽しむもの、そして向き合うもの――食らうもの。
結局相談できずにすがったものの、心を軽くしてくれたのは目の前の女性だ。
とはいえ、一方的に欲望を溢れさせるのも癪なので――"読みたい"を引き出した。
「そう言うと思ってた」
信じていたよ。
「"そう、あたしは唇を綻ばせた"」
まちがいなく。
彼女の微笑みに呼応して、笑ったはずだ。
夢見るように。
「感謝してるよ……実際ほんとに戻ってこれなくなりそうだったし。
なんとなくすっきりしたわ――お礼としてでもなんでも、もちろん付き合うよ。
勉強とかで忙しいけど、本の虫になるのも遊びに行くのもすきだしな――……図書館。
……味ってわかる? 味覚、舌識……わからなくても」
その物語は読めるんだろうか、と、ではまず"その手をとって"。
「"陽だまりの下では、美味しいお菓子が食べれるんだ"」
数多の物語の交差点となっている場所。
ラ・ソレイユ。先日は少女の涙がそこに落ちた。
先ずはそこ。そして、これからもある。
いくらでも。
「いまから行く? ……なんて、ね」
とりあえず、行かなければ怒られちゃう。さっきからせっつくように作り物の鳩が鳴いてた。
ここの閲覧許可をくださったあの先生にも、感謝しなきゃ。
"そうやって心から笑って、みずからの夢のなかに包括した存在とともに"
"彼女の読む物語のなかに、鏡写しのように包括されながら"。
ご案内:「禁書庫」から群千鳥 睡蓮さんが去りました。
■シャンティ・シン > 「……勿論。『本読み』、は……そこ、に……本が、ある……な、ら……"読む"、もの……よ? 」
返す答えは当然のもの。貴女もそれを承知の上で付き合っているのでしょう?
それなら、応えるまでもないのだけれど……求められたのなら、答えてあげないと、ね?
これは、私を掻き回していった貴女へのせめてものお返し。
「ふふ、流石に……味、は……わかる、わ、よぉ……? これ、でも……料理、でき、る……方、だ、もの……ふふ。 家、じゃ……ない、と……少し、自身、ない……けれ、ど……ね?」
『「"陽だまりの下では、美味しいお菓子が食べれるんだ"」睡蓮は手をとってそういった。
「いまから行く? ……なんて、ね」と、続ける。』
嗚呼――素敵なお誘いね。図書館に籠もりきりだから、たまには陽だまりの中に出るのもいいかもしれない。
手を引かれて……
其の先の物語は、まだ『本』には描かれていない。
ご案内:「禁書庫」からシャンティ・シンさんが去りました。