2020/08/23 のログ
ご案内:「禁書庫」に羽月 柊さんが現れました。
■羽月 柊 >
『臨時図書委員』
夏季休暇中、人手の足りない学園の図書館群の整理・点検として一時的に資格が発行される。
ここ『禁書庫』も例外なく、有志の場合や、単位取得の為として、
この夏休みの蔵書整理に禁書庫へ足を運ぶモノたちが居た。
人手が足りないのは監視側である教師も同じらしく、臨時的に駆り出されたのか、
書架の間をこの男も行ったり来たりを繰り返していた。
両肩に小さな白い竜を乗せ、魔導書を手に取り、
自分が扱える類なら点検・修繕・再封印を行っていく。
当然人間である自分の手に余るモノも多く、
そう言った魔導書類は分けて他の教師や専門の図書委員の所へと回す。
己が学生の頃、こうやって夏場に良く単位取得として教師から言われたモノだ。
まさか自分が大人になってこうして生徒を見守りながら手伝う日が来るとは思ってもみなかったが。
ご案内:「禁書庫」に伊伏さんが現れました。
■伊伏 >
簡単なリストを片手に足音を立てたのは、1人の生徒だった。
臨時図書委員の資格を持って早2年。単位にも影響が出るとなれば、やって損はない"アルバイト"。
そういう建前を持った、下心のあるボランティアだ。
「次はこっちか」
他に誰かいるかもしれない、という可能性は頭に入れているものの、自分の目的を達したいが為に視線はきょろきょろと忙しない。
禁書の棚にある魔術の本もそうだし、魔法薬やデッドリストの植物が載った本だって、あわよくば眼にしてみたい。
自分が興味を持つ分野の書物なら、どんなに危険でも味わってみたいのは、学ぶ側とすれば当然だと思っている。
ただ、開きっぱなしの本が落ちたりしてなければいいが、とも感じていた。
さっきから音がしてるんだけど、先に整頓してる人でもいるのか。
そう思って、次の棚を覗き込んだ。
■羽月 柊 >
傍らに書架用の小さなカートを置き、
手出し出来ない本を分類ごとに整頓して、後で纏めて持って行くつもりだった。
男は脚立に脚をかけ、上の左端から順繰りに作業を進めている。
時折生徒に呼ばれることはあるが、基本的には静かな作業で、
日頃、自分の研究所で小竜たちに囲まれた賑やかな生活とは違う。
魔導書の棚を整頓している為、少々の緊張感もあるが、
昔にやっていたことと考えれば気は楽だった。
青年が次の棚を覗き込んだ瞬間、本が一冊、棚から落ちる。
キュイ、という小動物の鳴き声がし、
薄暗い書架同士の合間に、猫のように光る眼が4つ見えた。
■伊伏 >
少し硬い落下音がした。
それと同じくらいに、覗き込んだ先で光るなにかが――4つ、4つ見える。
「ん、ん、お゛っ……???」
鈍い声が出たなと、自分でも思った。
本が落ちた瞬間、その中身が飛び出てしまったとか洒落にもならない。
ここは安全を約束された学園内の一部だが、その約束は絶対があり得ないのだ。
なので生徒は声は出せども、咄嗟に身を低くした。
それから、状況を確認する。
あの光るのは眼じゃないか?まるで猫みたいな。
そういや屋上で黒猫に会ったな。あれの仲間だったりするか?
ほんの数秒が数分に思えた一瞬だったが、本を整頓しているらしき誰かを眼の端に捉える。
首に縄ついてるタイプじゃないだろなと、しゃがみこんだまま見上げた。
脚立が目に入っていない。光る眼が気になって、仕方がない。
■羽月 柊 >
ここは禁書庫。
あまねく"力"を持った書物の管理場所。
ここでは時折、その力によって怪異すら発生し得る。
ここは学園内でも安心安全とは少し遠い場所。
『しじまを栞に、眼は逸らされる』
しゃがみ込んだ青年の前で本が勝手に開こうとしたが、
静かな低音の声が響き、本が閉じて装丁で封印された。
小さな羽ばたく音と共に、書架の間を光る眼のうち二つが青年へ近づく。
それの正体は白くてもふもふした…尾の長い小さな飛竜だった。
「たまに自分の意志で飛び出す本もあるからな…大丈夫か?」
すごい声が出たなと男も思ったようで、
咄嗟に落ちた本に封印の言葉をかけ、脚立を降りる。
パチンと指を鳴らし、小さな光球を出現させれば、
肩にもう一匹小竜を乗せた男が青年の方へとやって来た。
明かりに照らされれば、長い紫髪を揺らし、桃眼。
目元に皺があり、年齢的には中年層に入りかけのように見えた。
■伊伏 >
「えっクソカワ…」
落ち着いた声がした。男性の声だ。
本と4つの眼と、上の方にいる存在のどれを先に対処すればと身構えていた。
そんなところに真っ白くて毛並みの良い――ぬいぐるみ?が来れば、まぬけな声も出よう。
というか、出た。ぬいぐるみにしては生命力を感じるこの存在は、まさか竜なのか。
眼の前の美しい存在にぽかんとしていると、アイロンを知らなそうな白衣が視界に映る。
これもまた白だ。小さな竜の白とはまた別の、くたびれている白。
「はい、大丈夫です。ちょっと驚いただけなんで」
生徒は小さな竜を驚かさないようにそっと立ち上がり、改めて男性を見た。
背はあまり変わらなそうだが、こんないかにもな研究職といった出で立ちの大人を見た記憶が無い。
自分が取っている科目に関係してないだけかなと、記憶を遡りながら軽く会釈をして。
「ここの整頓してると、どうも物音にビビりがちで…。
俺は手伝いっつか臨時なんですが、貴方は?」
■羽月 柊 >
もふもふ小竜は青年が立ち上がるのを見ると
再び小さな羽音と共に飛び立って男の空いている肩へおさまりにいく。
禁書庫に小動物を連れ込んでも良いのかって?
教職として認められた時に成人の人間と同等の知能を証明したので良いらしいです。
実際彼らが居る居ないでこの男のスペックは大きく変わる。
ところでちょっと聞こえたクソカワって何だろうな…。
「そうか、問題が無いなら良かった。
俺も今回は臨時だ。生徒の頃に手伝っていたことがあってな。
"今月から"教師をしている羽月(はづき)だ。」
落ちている本を拾い上げて表面を軽く払った。
見た記憶が無い。
まぁそうだろう…何せ、この男は教職に成りたてだったのだ。
■伊伏 >
生徒の記憶を遡る眼が途切れ、納得を得た。
今月から教師に着任したと答えられれば、ほんの少し背筋を伸ばす。
素行は悪くならないように振る舞っている。当然の事だ。
とはいえ内心では『よりによって教師とカチあったか』と、今日びは禁書を覗く事を諦める。
「羽月先生ですか。俺は3年の伊伏、伊伏カオルです。
OBで教師に着いたって人、なーんか久しぶりに聞いたなあ」
名乗り返しながらも、視線はそっと羽月から小さな竜を追う。
いやでも、先公じゃなかった先生の前だ。仕事はしておかねばならない。
小さな竜への好奇心を振り切って、自分が持っていたリストをチラっと確認する。
それから羽月が対応していたであろうカートを覗き込み、タイトルを読む。
「…あ。【蠱毒至る道】がありますけど、状態はどうでしたか?」
■羽月 柊 >
「まぁ、学園を卒業して外に馴染めず戻って来るにしても、
教職に就くのは稀だろうな。苦労することが目に見えて分かっている分。
島職員としては多いだろうが…。」
この島では教師だからと言って偉いという訳ではない。
生徒会や、各委員会の上のモノ相手には教師すら容易には立ち入れない。
あくまでも生徒を指導し、導き、その知識を共有する為の存在。
それが常世学園、ひいては常世島の教師である。
「…【蠱毒至る道】か。そっちのカートは俺でも手が出せん部類のモノだ。
"留め具"が緩んでいるモノも多い。
君に出来る本があるなら任せても良いが。
確かその本には蟲毒化した怪異が直に文字として封印されているらしいが…。
装丁の箔が少し欠けていたな。」
■伊伏 >
「箔がですか。パッと見、留め具は緩んでなさそうですね」
丁重に扱いながら本を観察し、箔の欠けを数える。
「俺もそこまで封のし直しは得意じゃあ無いんですよ。まあまあ出来るってくらいで…。
【蠱毒至る道】は専門に任せた方が良さそうだ。確認のチェックだけいれとこ」
胸ポケットからペンを外し、リストに書き込む。
他にないかなとカート内にザッと眼を通して、また少し書き込みを続ける。
そのうちの中で、自分が得意な魔術で対応できる本だけを数冊出し、封をし始めた。
指先に灯る青白い炎は異能だ。燃やすではなく、そこに留まる熱でメンテナンスを行う。
要は、本の"中身"が熱や火に封されるものであれば良いのだ。
滞りなく対処した本を元の隙間に戻し、別の本を棚から取る。
「火と熱処理でメンテナンスしてやれる本なら、俺が担当できます。
本自体の直しなんかは、もろに無理ですけどね。他に危なそうなのありますか?」
■羽月 柊 >
「モノによっては装丁の箔も封印に入ることがあるからな。
まぁそこまで厳重なモノはそう無いとは思うが…専門外の本には迂闊に手を出さないに限る。」
もしカオルに魔力が見えるか感じられるのなら、
男の再封印作業は傍らの小竜二匹、
または手にはめられている数々の装飾品から、魔力を捻出しているのが分かるかもしれない。
『闇落ちる月の記憶、桜と舞う血の宴』
そうして、先ほど本を閉じたように、
それぞれの魔導書に対応した言霊や音を紡ぎ、再封印を施していく。
「火と熱…か。
なら……この辺りはどうだ。【焔に眠る蛇】。
こちらでも出来るが、君がやる方が成績に入るだろう。」
カオルの言葉を聞き、眼を通しておいた書架から一冊の赤い本を出してきて渡すだろう。
■伊伏 >
羽月の言霊が、静かな書庫に響く。
音として能力を操る人なのかと、その傍らで作業をしていた。
赤い本を差し出されると、それを受け取る。
タイトルを眺めながら禁書との相性を感知しつつ、頷く。
「成績を気にしてもらえるのは助かりますね~。
ギリギリ単位が足りなくて留年すんのは、ちと苦しいんで」
異能で火を灯し、それを風の魔術で薄く広げていく。
繊細な扱いになるのだろう。蛇を炎で安眠させ終えるまで、伊伏は少し黙った。
数分にも満たない時間だったが、青白く宙を舐める炎の衣が禁書に収束し、フッと消える。
「…あー、緊張する。これも完了っと。
そういや羽月先生は、その二匹の小さな竜が魔法や異能になるんですか?」
完全な感知とまではいかないが、魔力の流れは分かったようだ。
白い小さな竜に熱い視線が注がれているのはともかく、疑問をぶつける際には、ハシバミ色の眼が羽月をとらえる。
■羽月 柊 >
比較的扱いが楽な魔術は指を鳴らすだけで済ませたりもしている。
大きな音では無いし、男の声も低い故に、そう邪魔にはならないだろう。
「学園には留年する生徒はごまんと居るがな。
4年制と言ってはいるが、日数や単位の足りないモノは確定としても、
取り巻く状況や環境によっても変わる。」
棚の中から青年が扱いやすいだろうと思しき魔導書を選定して、
カートの中身を整理し、区切りで彼の方に寄せてやる。
「同じぐらいの本を抜き出してきた。
【不死鳥の記録】から【聖火たりえる教え】までの分をやってみると良い。
出来ない分は無理せずにこちらに回してくれ。
…俺か、俺は元来"無能力"でな。
この子らや魔石の魔力を借りれるように細工をして、"理屈"で扱う魔術を使っている。」
時折そのもふもふした彼らと会話をするようなやり取りもしている辺り、言葉も通じているらしい。
カオルが出来ない分の本を男が再封印する際、
紅い一角を持つ小竜から、馴染み良い火の魔力を感じるだろう。
■伊伏 >
本を受け取ると、ありがとうございますと軽く笑…える量でも無かった。
見繕ってもらった分はしっかりこなしておこう。
羽月には伊伏がへらっと笑った後に本の重さで表情が崩れた、という顔になったぐらいに映るはずだ。多分。
「知らないものを学べるのは、めちゃくちゃ楽しいんですけどね。
学生ってだけだと、やっぱり不自由な部分はあるからなぁ~…っつか、うん?」
「えっ、やっぱりその2匹は生きた本物?竜?
紅い角の子から火の匂いがするもんで、てっきり具現化なのかなとか思ってたんですが」
声が若干うわずってるかもしれない。
「"無"ったって、他から力を借りれるようにすんのも結構な技術……」
勉学の中で触れることもあるし、鱗や爪くらいは手にした事はある。
が、伊伏は生きた竜を初めて間近にする。テンションがおブチ上がりになっているのだ。
大きな声は出ないものの、作業をする手は止る程度に。
■羽月 柊 >
そんなに量が多かっただろうか。
まぁ割り当てた分を済ませれば、担当教師に見せた時に評価が貰えるだろうとは思う。
「不自由、か。
まぁ余程の無茶でなければ、正規学生は大方何をするにも反対はされんがな。
己の力に驕ったり、落第街の連中やらと大っぴらに付き合ったりせん限り。」
という男もまた魔術師であり、清濁併せ呑む存在でもあるが。
もう一匹の蒼い二角の方からは氷の魔力を時折感じる。
炎と氷を主に再封印に使い、そうでない本は簡単なモノならば自己で、
無理ならば他へ任せるためにカートに分けていく。
「あぁ、彼らは小さいが竜だとも。
俺は竜やドラゴンを研究するのが元々の生業でな。
その為にこの学園で"無能力"ながらそうした技術を学んだ。
この子らは俺の護衛、大切な相棒たちだ。
教師になる前には、学園に竜の端素材を卸していたりしていたんだがな。」
一切の否定なくカオルからの問いを肯定した。
小竜たちは青年の言葉を分かっているのか、ちょっとふんぞり返っている。ドヤァである。
もふもふした尻尾がゆらゆらと男の背を撫でていた。
■伊伏 >
「大体は、じゃないですか。何をするでも。
なんかこう、大人の監視下じゃないと出来ない事もあるのが俺らですから。
生徒って立場もそうだけど、俺は18歳で大人認定はギリ受けれないわけですし」
そこに甘えてる部分もありますけどね、とへらへら笑う。
落第街という言葉には、さすがにあんなとこにノコノコと行きませんよというポーズをとる。
そんな怖いところに素面で行く方が悪いのだ。多少は偽って行かねば。
ふと、手が止まっている事に自分で気づき、禁書を一冊処理して、次の判断を行う。
羽月の手際の良さは、ここの生徒だったというのもあるのだろうか。年季も手伝ってそうだが。
「だからまあ、自分のケツは自分で持ってろよって、堂々と送られるとこが良いなと思いますよ、大人は。
その子らみたいな可愛い相棒にも、ちょっと憧れたりしますしね。マジでクソカワだな……」
余計な感情が入り乱れている。
見てくれ、禁書の棚にある全ての本たちよ。あれが小竜のドヤ顔だ。
一生ブラッシングをさせてもらいたくなるような気持ちになるではないか。
そこまでの感情の吐露をするわけにはいかないので、漏れる言葉だけで収めたい。
またひとつ、本の封を終える。
次の本は自分の熱量だけで補うものではないなと判断し、カートへ戻して見送った。
■羽月 柊 >
「この学園だと大人というよりは、どちらかといえば上の地位にいる同じ生徒だな。
下手をすれば君より学年が下なのに年齢は君より遥かに…というのも珍しくはない。
俺とて風紀委員やら生徒会相手に睨まれたらおしまいだとも。
大人が大人面出来きれない場所でもある…この島はな。」
愛らしい少女のような少年が、『鉄火の支配者』と落第街で畏れられている。
もう男とそう年齢も変わらないような男が、風紀委員としてずっと島にいる。
己の出自故に、ずっと一年生を続けている合成獣もいる。
己の歩んだ数奇な道故に、今ここに教師としている男もいる。
千差万別、十人十色。
今日も常世島のどこかで物語は産声を上げ、
誰かの言葉が祝福され、何者かによって死はもたらされる。
そんな日常の一部分。そんな出逢いの現在。
「この子らは使い魔という訳ではないが、
魔術の講習には使い魔を得られるモノもあるだろう。
興味があるなら、そちらの科目を取ってみても良いかもしれんな。」
話ながら言霊を落とし、男の作業は順調に進んでいく。
傍らを連れる分、確かにいかつさは無くした所が多いのがこの小竜たちだ。
人間社会に彼らが馴染むには、親しみやすさは必要になる故に。
■伊伏 >
「そりゃそうなんですけど、大人が大人をやめる場所でも無いからなぁ……」
むしろ大人として生徒に居た方が都合がいいんじゃないかと、たまに思う。
羽月の言っている事も、この島特有の運営方法も、理解はしている。
ただそれでも、ごねたいのだ。子供に"帰れない"と同じで、大人になるのに"飛び級"は無い。
「ああ~、そういやありましたね。使い魔というか契約・召喚にまつわる科目。
貸し借りの間柄も悪くはないですね。でも対等も捨てがたい…」
そう言いながら、黒い本を風でグッと抑えつけた。
そこへ熱の風でがんじがらめにし、タグを取り出して結ぶ。
【一時的封のみ。内部にほつれ有り】
渡された分の禁書の封をする作業がひと段落すると、伊伏は大人しくなった本のみ棚へと戻す。
「俺、そろそろ戻りますね。バイトもあるんで。
担当に先生がまだ作業してる事も伝えておきますよ」
リストを傍らに、そう挨拶し。
ご案内:「禁書庫」から伊伏さんが去りました。
■羽月 柊 >
「生きた年月だけはどうもならんからな。
まぁ…世の中には、若返る異能もあるらしいがな…。」
それとて過ごした時そのものを無かったことに出来る訳じゃあない。
自分がそうして歩んだ道のりも。
故に、
「何かを傍に置くのなら、良く考えると良い。
相性というモノは何事にもある。
君が欲するならば、どこかに君に応えてくれる何かしらがいるだろう。」
己の歩んだ道筋から、そう言葉をかける。
これが教師足り得る行動なのかは、まだ分からない。
割り当てた分の作業を終えたカオルを傍目に、まだ作業は続いていた。
「あぁ、…ありがとう。
もう少しすれば纏めてそちらに行くと伝えてくれ。
……またどこかでな。」
そう声をかけ、また男は書架の間へと。
ご案内:「禁書庫」から羽月 柊さんが去りました。