2020/09/19 のログ
クロロ >  
まず正面の本。タイトルは『異邦人でもわかる日常の常識!』
所謂異邦人向けの現代常識が綴られた本だ。
この世界は幾度幾人の人種が訪れる為
そう言った異邦人の為に、わかりやすく日常知識が添えられている。
クロロは恐らく異邦人では無いが、記憶喪失の自分にはありがたい一冊だ。

左右の本。名は知らない。
恐らく"理解してはいけない"タイトルだ。
その名を呼ぶ事により、本来人が"理解しえない"知識を手にし
恐らく怪異か、或いは狂気に苛まれる事に成るだろう。
ただの魔術師には手に負えない。此れが理解出来る人間は
同じくして"狂気"を身に宿す人間か、"普通じゃない"人間だ。

「            」

そしてクロロは、後者であった。
煌々と輝く金の瞳が、綴られた文字たちを読み解いていく。
そのタイトルさえ理解し得なければ、深淵の知識を読み解く事も出来ない。
それを理解していたクロロは、意図も容易く深淵を覗き込んだ。
その危険性を理解していても、魔術師の性、探求心は止められない。

クロロ >  
「……にしても」

面倒くさそうに、眉を顰めた。

「随分と面倒くさいなぁ……」

一般常識。この世界の常識。
随分とまぁしがらみだらけの秩序だと思った。
恐らく、一度混沌と化した世界に秩序を齎すための者。
理解はする。それを守りはする。だが、何とも言い難い納得のしづらさ。
これは、クロロの根底が無法者に起因するのだろう。

「これなら、コッチの二冊のがまだ楽だぜ」

"        "の魔導書。
二冊で意味を成す、深淵の知識。
魔術の知識は実に複雑だが、規則的だ。
一つの"スジ"、即ちルールを護ればそれだけでいい。
溜息を吐きながら、視線は再び知識の探究を始める。
時間は有限だ。特にクロロは、許可を得て此処に来ているわけではない。
見回りが来る前に、適当に切り上げる時間も見極めなければならなかった。

クロロ >  
「コッチはこンなモンか……」

ただ"覚えればいい"常識は、楽なものだ。
記憶喪失の自分に必要な分は頭に入れた。
勿論、これが全てでは無いだろう。
真ん中の本を閉じれば、懐へと入れておいた。

「……さァて」

残るはこの二冊。
"        "の兄弟に目を通す。
二冊の本から僅かに漏れるのは紫の瘴気。
霧のように床下を漂うそれは、普通の人間なら倦怠感を感じさせるには十分な"毒"だ。
生憎クロロの体は、"普通"ではない。毒は通じない。
これは、ある種の"警告"だ。
魔導書が言っている。『踏み入るべからず』

「            」

"        "を口にする。
それでも尚、その先を、暗闇を金色は覗き込む。
淀みから一つ一つ、知識を救い出す。
それは背徳感、冒涜的だ。得も知れぬ不快感を催してくる。
『人は、何かを得るために何か棄てねばならない』と言う。
この、禁書、封じられた知識を得るのはまさにそれだ。
己<クロロ>自身を淀みに貶め、救い上げなければいけない。
一種の精神汚染、とも言うべきか。
確かに己は差し出す。だが、飽く迄"穴を埋めれる範囲"だけだ。
必要以上に踏み込めば、それで終わり。綱渡りだ。
額に滲む脂汗を、禁書に落ちないよう腕で拭った。

クロロ >  
「              」

また、それを口にした。人には理解しえない、言葉。
理解してはいけない。だが、クロロは理解出来る。
記憶に残っていた深淵の魔術の知識。
遥か外なる、『人ならざる者』達と更新し、その力を行使する技。
この二冊もまた、その一つに違いない。
クロロには、それが分かる。
脳裏に聞こえるこの、声なき声、不協和音の合唱。
凄まじく、不快だ。思わず顔を顰めた。
息が、切れる。滴る汗が、止まらない。

「…………ッ」

徐に目を閉じ、目頭を指先で抑えた。
大した時間を使った覚えもないのに、強い疲労感だ。

「……こりゃ、時間かかりそうだな……」

とりあえず、一息入れよう。
目を開き、天井を見上げた。

クロロ >  
「……さて、と」

休憩は終わりだ。
再び底を、覗き込むとしよう。
時が過ぎるのを忘れる程、魔術師は深い深い闇へと──────。

ご案内:「禁書庫」からクロロさんが去りました。