2020/09/20 のログ
ご案内:「禁書庫」にジーン・L・Jさんが現れました。
ジーン・L・J > 満月が空の頂点に達する頃、静寂に包まれているはずの禁書庫には雑音が満ちていた。
鎖で雁字搦めにされた禁書の一つが、自らを縛るそれを食い破るかのようにひとりでに暴れ、金属音と衝突音を響かせているのだ。

ジーン・L・J > しばらく後、異常を察知した図書委員が戦闘準備状態の生徒を数名禁書庫に送り込んだ。
眠っていた禁書が目覚め、災厄を巻き起こしたことは何度かある、それの再来が最大の懸念である。
バキン!と太い鎖が屈服の声を上げ、解き放たれた禁書が床に落ちる。それに剣や杖、それぞれの武器を向ける図書委員。
ひとりでに開いた禁書のページがぱらぱらとめくられ、一人の人物の似姿のページを示す。そこから、ぬるりと抜け出すようにそれは現れた。
濡羽色のショートヘア、人形めいた純白の肌と同じ色の目元を隠す包帯、身を包む仕立ての良いスーツは漆黒。その怪異を構成する色のほとんどは黒か白で、まるでモノクロ世界の住民だ。血のように紅い口紅とピンヒールがそうでないことを示している。

ジーン・L・J > 放つ気配はまるで獣のそれ、今にも飛びかかってくるような剣呑な空気に駆けつけた生徒達は背中がじっとりと濡れるのを感じた。
動くな、とその内の一人がそれに命じる。正体不明の禁書、しかも自律型だ。どんな行動を取るかわからない。
ゆっくりと開いたそれの口からは

ジーン・L・J > 「オイオイオイ、勘弁してくれないか、囲んで突きつけるなら花束のほうが嬉しいな。」
ジーン・L・J > ひどく明るい声で場にそぐわぬ軽口が飛び出した。

「それに、初対面の美少女には笑顔を向けるもんだろう?まるでライオンのいる檻に閉じ込められたみたいな顔じゃあないか。」
その原因である怪異は笑う、そのままいくつか冗句を並べ立てるが、それに笑う者はこの場に居ない。

ジーン・L・J > むしろ言葉を重ねるほど、裏に隠された呪詛や術式が場を満たしているのではないかと緊張感が高まるばかり。
場を和ませる、表面上はそう見える行為を諦め、禁書より現れた怪異はため息をつく。
「あのさぁ、一人で喋り続けるの辛いんだけど?目覚めたばかりの美少女を取り囲んで君たちはなにがしたいのかな?」
そもそもどうして自分がここに封じられていて、そこから脱出しただけでこんな扱いを受けるのかわからない、と続けて呟く。友好的に接するのを止め、問いただすような声色。
ここに来た目的を思い出した図書委員の一人が説明を始める、常世島、財団、学園のこと、他者を害する意志がなければ生徒や島民として暮らせること、その他最低限のことをマニュアル通りに。

ジーン・L・J > 「他者、ってのは人間のことかな、あー、つまり、人類含む《大変容》以後に現れた友好的な知的存在全般のこと?」
首肯を受けて「それなら」とブックワゴンに腰掛ける。「心配は要らない、私は狩人だ。狩るのは獣だけ、人間は対象外さ。ああ、デートの相手だったら逆だけどね。」
笑う口元、だが目は包帯の奥に隠されているためどこか胡散臭い。図書委員達はとてもそうは見えない服装と職業の取り合わせに、異邦人である可能性を考えながら、マニュアル通りこの怪異を入学課へ引き渡すこととなった。

ジーン・L・J > 「ああ、それとさ」
禁書庫から出る際に怪異はまた声を上げた。一瞬図書委員達に緊張が走る。
「今何年?どれぐらい昼寝してたか知りたくってさ。」
一瞬の逡巡の後、図書委員の一人が西暦を答えると、怪異はわぁお、と小さく呟いた。
「禁煙記録更新だな、これ以上伸ばしたくないから煙草、吸っていい?」
どこから取り出したのか、窮極門とパッケージに書かれたくしゃくしゃの煙草の箱を軽く振る。
その提案は、それが本当に煙草なのか、破壊的な魔術発動の鍵ではないかと危惧され素気なく却下される。
「あー、ニコチンもカフェインもないとか、ここは地獄かい?昔から神様にはたくさん祈ってきたのにあんまりじゃないかこれは。」ぶつくさと小声で文句を言いながら、自身が現れた禁書を小脇に抱えて、怪異は禁書庫から連行されていった。

ジーン・L・J > こうして、ジーン・L・ジェットブラック、入学課でそう名乗った禁書は常世学園の新入生となった。
ご案内:「禁書庫」からジーン・L・Jさんが去りました。