2020/09/26 のログ
■クロロ >
「ソイツはオレ様が呼ンだからノーカンだ」
肝が図太いどころか最早肝臓疾患レベルで太い。
内臓があったらそのうち入院コースに違いない。
当の猫は我関せず。アリスに撫でられて
ふごふご、と可愛くない声を上げている。気分は良さそうだ。
まん丸い見た目通り、大分手触りはいい。
もふもふと柔らかな毛並みは幾分か人の気持ちを落ち着かせる効果もあるらしい。
「……よくわからンが、お前が思ッたより過激なのはわかッた」
若干引き気味のしかめっ面。
無趣味の人、今すぐこの禁書庫から逃げて欲しい。
「…………」
親友がいる。だから、"大丈夫"だと、彼女は言う。
ただ、クロロは黙って自身の首を撫でた。
「そう言うからには、お前なりに、"ケジメ"はついてンだな?」
そう言うからには、そこまでして"大丈夫"だ。
気の抜けたように溜息を吐けば、口元をへの字に曲げて左手をヒラヒラ揺らす。
「別に、オレ様は気にしてねェよ。"訳アリ"なンざ、今更だし。
人様には人様の事情があンだろ?オレ様だッて、大抵"キオクソーシツ"だしな。
……胸糞悪ィ過去は百も承知だけどよ。そうやッて笑えてンの、ジューブンなンじゃね?」
「ジューブン凄いよ、お前」
手放し褒めた。
クロロは馬鹿だが、阿呆ではない。
人の心が読める訳でもないが、他人を気遣いもする。
例え語られようと気にはしないし、猫でも何でも受け止める度量はあるつもりだ。
褒められたと言わずとも、褒めるべき所は素直に褒める。
元より、この言葉に表裏は無く、思った事をそのまま口にしていた。
■アリス >
「ノーカンなら仕方ないわね………」
ノーカウントらしい。
なら仕方ない。
猫は可愛い。先程まで激しくクロロとやりあっていたとは思えない。
「冗談よ、ブリティッシュジョーク」
ああ、要出典。
イギリスの人ごめんなさい。私も同郷だから許して。
「ついてるわ」
嘘をついた。イジメられたのも、復讐したのも。
何もかも飲み込めていない。けど、けど。
今を否定してまで今更あの問題に向かい合おうとは思わない。
「記憶喪失………?」
座ったまま、相手の言葉を聞いて。
うん、と頷いて短く言葉を発した。
気遣われているな、と思ったし。
思ったより優しい人だな、と感じた。
■クロロ >
「ブリ……?」
よくわからないけど、ジョークらしい。
イギリス人ってのは、皆こうなのか?
イギリス人への誤解が広がった。猫は腹を見せていた。呑気な。
「…………」
左手で、自身の首を撫でた。
「おう、気づいたらなーンも覚えてねェ。
テメェの名前も、格好も、なーンもかも真ッ白だ。
おまけに、クソみたいな異能で不便な生活を強いられてる」
「オレ様はぶッちゃけ、全てが腹立たしくて仕方ねェ。
だが、文句言ッてもしょうがねェ。オレ様なりに、"ケジメ"は付けてる」
この内側に内包された炎は、常に怒りを燃料に燃えている。
自分に、世間に、世界に。何もかもが"気に入らない"。
どうしようもないほどの憎悪と怒りを内包した生ける炎。
だが、それを人と言う理性が押さえつけ、"クロロと言う人間"はそこにいる。
どうしよもなかろうと、その力と、己と向き合い
自分なりに折り合いをつけて生きている。
自らの"矜持"を貫きたてる、男として。
だからこそ、記憶の無い頭は馬鹿でも、阿呆では無く
そして、暗がりにいる人間だからこそ感じる機敏があった。
横目で見やる金の視線、アリスの顔を伺うようなものだった。
「別にオレ様は、前言を撤回するつもりもねェ。
だが、"嘘"だけはいただけねェな。別に、ついてねェならそれでいい」
「どーゆー風にやられてたか知らねーし、今更一々聞く気もねェよ。
そういうのは、時間がかかるモンだろーし、別に過去以外にも
生きてりゃ余計に、そう言うの付きまとうモンだろ?」
「特に、今の世界は随分と"まどろッこしい"みてェだしな。
今すぐ向き合える奴にゃ、発破かけるが、オレ様はせッかちッてワケでもねェ」
「あンま無理すンな。"親友(ダチ)"も泣くし、何よりテメェ自身が泣くハメになンぞ?」
■アリス >
「……異能が?」
自分は異能が代償とモーションがない強力で便利なものだったから。
つい、勘違いしてしまうけど。
世の中には異能で苦しんでいる人もいる。
……本当は、異能で人生を殴り壊した私もそうなのかも知れない。
「ケジメ………」
そう言えるのは、区切りをつける力があるからだよ。
流されるままいじめられて。
初めて得た力で相手をいじめ返して。
何も区切れてない。前の問題を前に置き去りにしたまま人生を生きてる。
私は何にも折り合いをつけられない女。
友情に飢えて友達を作り。
自分がそうしたいから毎日ゲームに興じてる。
「……本当は、ケジメなんてついてない」
「いじめていた人、いっぱい異能で傷つけたけど今でも憎い」
「でも、もう二度と会うこともないし」
「ケジメのつけようがないの」
「無理は……しないようにする。ありがとう、クロロ」
「あなた、優しいのね」
猫を撫でながら、言った。
■クロロ >
徐に翳した右手が、音を立てて燃え広がった。
紅蓮の炎を灯す右手。正確には燃えたのではない。"戻った"。
この人の体を模した正体は、燃え盛る紅蓮の炎。
禁書庫を明るく照らし、闇を払う炎が其処に燃え盛っていた。
気だるそうにそれを一瞥すれば、ボッ、と音を立てて右手に戻った。
「見ての通りだよ。オレ様炎だからな、一つ術挟まねェと
触れるモン全部焼いちまうからな。普通に生活すると不便極まりねェだろ?」
最早それは、呪いに等しき異能だ。
まともな生活さえ、ままならない。
そうだ、生活出来る為の力があった。
その為に色々やった。自分なりの努力だ。
だが、それを語る事もひけらかす事も無い。
自分は自分、アリスはアリスだ。
他人の人生と自分の人生を比べるのは、"スジ"が通らない。
何処となく暗い顔をするアリスをただ、見ていた。
「…………」
それは、同情すべき過去なんだろう。
ただ、同情した所で彼女に何にもならないのは知っている。
徐に伸ばした左手。未だ魔術は効いている。
伸ばした指先が、思い切り頬を突く事になる。
「別に、それだけじゃねェだろ。ケジメの付け方。
お前は虐めてた連中がムカつくからボコボコにした。
それでもまだ、気がすまねェ。オレ様はそれを否定しねェ」
他ならぬ自分がそうだから、などと言いはしない。
ふ、と軽く口元を緩めれば、暗い天井を見上げた。
「ソイツと今すぐ折り合いつけろ、だなンて言わねェよ。
ただ、その憎しみもなンもかもお前のモンだ。見ないフリすンのも
一種の生き方だろうけどな、どーせ、ソイツもテメェン中にあるモンだぜ?」
「ソイツが何時か、吹きだしたら、それこそ目もあてらンねェよ。
お前にゃキッツい言い方だろうが、ソイツと向き合う必要はあるンだよ」
クロロは知っている。
どんな理由であろうと、どんな出自であろうと
その消えない"憎しみ"がどれほど危険なのかを。
瞬く間に燃え広がる燎原の火。
放っておけば、確実それは周りにも燃え広がる事をクロロ自信は知っている。
彼女の抱える問題の根深さは理解する。
だが、言わなければいけない事だ。どうせ初対面、自分が言った方が楽だ。
それに……。
「……何も、一人で向き合えとは言わねェよ。ダチもいンだろ?
辛いンなら、オレ様も手伝ッてやるしな。"無理しない"ッつーのは、そう言う事だ」
「こンな場所みてェに、何時までも暗い場所にいてもしょうがねェが
此処にいる本(チシキ)だッて、時たま向き合う必要のある劇薬だ。……まァ、なンだ」
「そう焦ンなよ。まだまだ、人生長いしな。今のままじゃ、楽しくない事もあンじゃね?」
「何時か、ちゃンと過去も笑い飛ばせるくらいになンねェと、ダチも心配するぜ」
「オレ様、美人は笑顔のが良く似合うと思うからな。後、優しかねェよ、オレ様は」
「ただ、オレ様なりの"スジ"通して生きてるだけだ」
カカ、と愉快そうな笑い声を漏らした。
この炎憎しみを薪にするが、は篝火が如く、誰かの道標と成り得るもの。
それだけではない、長く長く、ただ迷える暗がりを照らし
温もりとしてそこにあるのもまた、炎の役割だ。
■アリス >
人の体の形に燃え盛る紅。
触れれば人間性をも燃やし尽くさんばかりの、火。
炎。それが、彼の本質……?
「炎……? クロロ自身が………?」
表情を暗くした。
自分が彼と同じ異能だったらどうしよう。
そう思ってしまったから。
努力しないとパパとママに触れられない。
考えれば、考えるほど暗くな痛っ、今、小突いた!?
レディーの頬を! 突っついたぁ!!
天井を見上げるクロロ、その言葉を紡ぐ口元に目を向けた。
「向き合う………?」
現実から逃げてこの学園に来た。
いじめられてたことを話した相手なんて、片手の指で数えられるほどしかいない。
自分は……このままでいいのだろうか…
「クロロ」
自分も手伝う、と彼は言った。
初対面で。本当に……どうしようもない話を聞かされて…
そう言えるのは。強いな、と思った。
私は口の端を両手の人差し指で持ち上げて。
「じゃあ笑う」
「そのほうが美人に見えるだろーし?」
彼は知っているんだ。火の使い方を。
そして、火は一人で扱うものでないことも。
よくわかっているんだ。だから。
私は笑ってみようと思った。この火を…誰かと眺めてみようとも。
■クロロ >
「ヘッ、だから無理して笑ッてもしょうがねェだろ。
ま……とりあえずはいいか。まだまだガキ臭ェけどな」
とりあえずは、上等だ。
くつくつと喉を鳴らしながら、楽しそうに笑っていた。
ついでにふごふご、猫も鳴いていた。
「そうやッて、前向いてた方がお似合いだぜ。アリス」
向き合うのも、省みるのも必要な事だが
結局生きてる限りは進むしかない。
道を戻った所で、何にもならない。
道は結局、先にしかない事を知っている。
だから、ガムシャラだろうとクロロは前に進む。
それが、クロロなりの"矜持"の一つだ。
アリスの足元にいた猫が、なーぅ、と不細工な声を上げた。
何処となく、禁書庫の空気が変わった。
「長居し過ぎたな……本探ししに来たのに、結局収穫ゼロだぜ」
やれやれ、とため息交じりに溜息を吐いた。
「そろそろ帰るぞ。お前まで帰れなくなッたら、世話ねェしな」
自分一人ならまだしも、彼女を此れ以上置いてはいけない。
腐っても此処は禁書庫。立ち入りが禁止されるのは、それなりの理由がある。
此れ以上長居すると、余計な連中に絡まれるだろうが、今ならきっと帰れもする。
「アリス」
少女の名を呼び、僅かに振り返る。
「もし、まだメンドクセェ連中に絡まれたりしたら、今度はオレ様が相手をしてやる。
今のお前はダチもいるし、一人じゃねェンだ。ヤバくなッたら、ダチでもオレ様でも思い出しな」
縁の強さこそ、時折人を道に引き戻す楔となる。
きっと彼女は、今でもずっと足元に暗がりが広がっているのだろう。
すぐに解決できる問題じゃないのは、わかっている。
だからこそ、今は……。
「──────"行こうぜ"」
この炎が、その暗がりを照らす。
左手を差し出し、静かに微笑んでみせた。
後は、猫の示す方へと帰るだけだ。
■アリス >
「ガキってゆーな」
べー、と舌を出して。
その後に笑って見て。結構、笑えるなって。変なこと考えて。
「ん……ありがと、クロロ」
前に進みながら前を見てこなかったから。
彼の言葉にどうしようもなく焦がれるのかも知れない。
焦燥感に。憧れに。焼け付くような感情に。
焦がれる。
猫がブチャカワな鳴き声を上げると、どことなく周囲の違和感が消えた。
「あ、時間使わせちゃったかしら…?」
ごめん、と言って立ち上がる。
スカートから埃を払って。
「ええ、そろそろ帰りたいわね」
そう言って困ったように笑って。
また帰ってからパパとママに言えないことが増えてしまった。
それから続いた言葉は。
彼らしくなかった。
彼らしくない言葉を、彼が言ったことが。
どうしようもなく、嬉しかった。
「わかった、頼らせてねクロロ」
そう言って彼の手を握って猫の後ろをついていく。
行こう。って、クロロは言ったから。
私は、行くんだ。前に。前に。
ご案内:「禁書庫」からクロロさんが去りました。
ご案内:「禁書庫」からアリスさんが去りました。