2021/11/02 のログ
ご案内:「禁書庫」にシャンティさんが現れました。
シャンティ > この場は、女にとっては古巣であった。かつて所属した委員。かつて従事した役割。さほど遠いときではないが、彼女にとっては遥か過去のようにも思えた。


「……ふふ。やっぱ、り……いい、わ、ねぇ……」


勝手知ったる、の彼女にとってこの場に入るのは一般生徒よりはよほど気楽な行為である。ゆえに、こうしてたまに訪れ……本の感触を楽しんでいる。


「さ、て……なに、か……いい、もの……ある、か、しらぁ……?」


くすくすと小さな笑いを響かせて、女は静かに書架を歩む。

ご案内:「禁書庫」に月夜見 真琴さんが現れました。
月夜見 真琴 >  
書庫の匂い、ともいうべきか、独特の芳香に包まれた空間に、まず在った異物。

ページを手繰る音。
ごくごく平々凡々な、静かな呼吸。
ほんの微か、甘く香るバニラ。
"先客"。

視線はそちらに向かない。
禁書庫――通常の図書室とは訳が違う代物が居並ぶ施設ではあるが、客自体は珍しくはない。
きちんと申請すれば、余程の事情がなければ入れる。記録は残るが。

「やあ」

視線は向けぬままに。
"先客"は、そうしてその姿勢のままに、古巣を歩く少女の訪いに、"先客"としての社交辞令を向けた。
ささやくような甘い声。
どこにでも、いつでもありそうな、ロケーション。

シャンティ > 小さな足音を立てていた女の歩みが止まる。口元に浮かぶ微笑の種類が、ほんの僅か、変わる。


『書庫に漂う異質。甘いバニラの香気。佇む女はただ、静かに。その場に溶け込むかのようにして、そこに"在る"。何事もないように、女に顔を向け「――」。何気ない、挨拶を向ける』

静かに、静かに。朗々と。謳い上げるような声が響く。


「あ、ら……? ふふ――ご、きげん、よぉ……?」


女は気怠い声で甘い声に応える。ただの挨拶。何処にでもあり得る日常の光景。ただ、情景だけを見ればそう見えることだろう。


「なに、か……おさ、がし、もの……? みつ、かり、そぉ……かし、らぁ……?」


正規の委員であれば、当然のような事務的な言葉。これもまた、日常の一幕のようで――

月夜見 真琴 >  
思わず手首を翳した。強めに吹いたつもりはなかったが。
――否、"知っていた"。
世界の感じ取り方が違う娘だとは、すでに。

「――ああ、おかげさまで」

手にした書物に視線を向けてから、奇態な少女の物言いに、柔らかく応えた。
ことさらに声を弾ませることをしないのは、場所が場所だから――ではない。
ぱたん、と本を閉じて、書棚に戻す音は、わかりやすく響いた。

彼女のほうを振り向いて、背表紙の群れに軽く背中を預ける。

「待っていたよ、シャンティ」

シャンティ > 『「――」、「――」女は、柔らかい甘い声でそう告げる。』


改めて、朗々と謳い――女の笑みが、やや深くなる。


「……あ、はぁ……わた、しぃ……? ふふ。貴女、がぁ……?」


気怠い声が静かに、たった二人しかいない空間に響く。


「会った、覚え、とか……ない、の……だけ、れ、どぉ……なに、か、の……間、違い……とか、では……な、くぅ?」


小さく首を傾げる。まるで心当たりがない、とでも言うように。


「も、しぃ……本当、だと、し、てぇ……何、の……御用……か、しら、ぁ……? アンケート、と、かぁ?」

月夜見 真琴 >  
「当たらずとも遠からず、かな」

さしたる大事な用でもない。
そんな気安さで、彼女の問いかけに応じる。

「そう、こちらも"はじめまして"。シャンティ・シン。
 一方的に知っているのも据わりが悪いし、隠すつもりもないので名乗れば、
 やつがれのなまえは、月夜見真琴。芸術学部で画法を学んで三年目。
 地球原住民で、本土で一年間高校に通っているから、年齢としては同い年ではないが――」

腕を組み、とん、とん、と。
指で組まれた腕を叩く。音らしい音は鳴らない。
彼女にはそれすら聞き取れるのかもしれないな、と考えながら。

「ところで、足を止めてくれるなら有り難いが、いいのかな?
 おまえのほうに用事があるなら、終わるのを待つのもやぶさかではないよ」

シャンティ > 『「――」話しながら、女は組んだ腕を指で叩く。音にもならない音が、静寂の空間に消えていく。』


「ふふ――そ、う。名乗、って、くれ、る、の、ねぇ……手間が、省け、る……わぁ…… はじ、め……まし、てぇ……月夜見真琴、さん……?」


女は大仰に丁寧に礼をする。どこか、演劇めいた仕草であった。


「ん……そう、ねぇ……私、は……特、に……? 此処、に……いる、こと、が……目的、だ、からぁ……いい、わ、よぉ……オハナシ……い、え……アンケート? 聞いて、もぉ」


続く言葉に、くすりと笑いながら応える。


「もっと、もぉ……答え、られ、る……か、は……わか、らない、け、どぉ……私、ぃ……流行、とか……疎い、しぃ……? ふふ。で、もぉ……今ど、き……"奴""吾"、なん、て……めず、らしい……言葉、使う、人……だしぃ……もっと、古風、な……もの、か、しらぁ……? あ、ら……もっと、駄目、か、もぉ……?」

月夜見 真琴 >  
「流行――書籍の――と頭につくなら、やつがれも疎いな。
 推薦してくれるなら、それを読もうと思う。
 ところで口調というものは、だれかから伝染るものだとは思わないかな。
 意識的にしろ、無意識にしろ。
 おまえだって、だれか、あるいはなにかから受け取って、その口調を象っただろう?
 だれかとの出会いや関わりが、知らず識らず、我々の血肉になっている。
 あらゆる出会いは大切にしたいものだな。 そう、別れも。いまこのときも、さて――」

珍しいことに、あまり指摘されない一人称について言及されれば、
どこか得意げに、しかし浅薄にそれを語ってみせたが、それは本題ではない。
切り替えるように、両の手を、破裂音のしない程度に静かに合わせて話題の区切りとした。

「この島は広いからな」

と、視線が動く――それが彼女に気取られるかはわからないが。
周囲を見渡すようにだ。
この狭い狭い書庫を中心としても、この島は狭いくせに広すぎる。

「どうしてあんな危険な区画におまえのような娘が向かったのか」

ぼやくように切り出した。

「それが気になってな。どうして?」

昨晩の夕食でも、なんとなく聞いてみるかのように。

シャンティ > 「……」

朗々と謳うこともなく、静かに語りを受け取る。まるで意見を拝聴します、とでもいうように。

「そう、ねぇ……血肉……たし、かに……それは、そう、ねぇ……ふふ。素敵、な……ご意見、だ、わぁ……ふふ。」

静かに口を開いて気怠い声を漏らす。


『女は周囲に目線をやり、切り出す「――」』


人差し指を唇に当て、しばし考えるようする。


「? どう、いう……こと、か、しらぁ……?」


しばしの沈黙の後。首を傾げながら女はそう応えた。


「区画……? 危険……? 未開拓、区……なん、て……行った、覚え、も……ない、わぁ……?」

ごくごく自然に。当然のように応える。

月夜見 真琴 >  
「ああ、大丈夫だ。そっちの話ではないから」

手を振り――見えないだろうが、一歩を彼女に近づいた。
そう問われても、嫌な素振りは見せない。
むしろ申し訳無さそうに続けた。

「おまえの身なりはどうしても目立つよ。
 人の出入り、というものは、案外事細かに管理されているものだ。
 ここに入るのに、いちいち申請が必要なような手続きでなくとも。
 目撃証言、下世話な奴らのファインダーが。
 いちおうあそこも、この島の一部ということにはなっているから」

もう一歩を近づいた。
声をより小さくして。

「いい忘れていたが、やつがれは風紀委員だ。
 けれども、いまは風紀委員ではなくただの生徒としてここにいる。
 アンケート……意識調査。
 "なぜか"厳つい者たちに丁重に送迎されていたという、盲目の娘に。
 禁書の類のなさそうな場所に、当たり前のように行って、何事もなく戻ってきたおまえに。
 いろいろと、話を聞きたいと思ったんだ」

唇のまえに人差し指をたてた。
偶然見つけた、特徴的な姿。記憶への引っ掛かり。
それを、自分の手柄とも、彼女の迂闊とも思わない。
それが何を意味するのか、決まるのはこれからだ。

「"お探しものは見つかりそうか"、とね」