2021/11/03 のログ
■シャンティ > 「そう、ねぇ……これ、は……目立つ、かし、らぁ……?」
自分の髪に、肌に手をやり苦笑いのような笑いを浮かべる。
「ん……それ、はぁ……」
女の問いかけに、一瞬顔を伏せる。困ったように、悩むように。
「風紀、委員……あぁ……それ、なら……貴女、に……なら、話し、ても……平気、か、しら……で、もぉ……私、の……安全、を……保証、して……欲しい、わぁ……?」
"何か"に怯えるように、女は訴えかける。まるで、話すこと自体が危険なように。
しかし――
「……」
人差し指を立て、一言、付け加えられると開いた口が閉じる。
「……どう、いう……こと、かし、らぁ?」
再度、同じ言葉を繰り返した。
■月夜見 真琴 >
「ああ、すまない――それは無理な相談だ」
彼女の発言に、肩を竦めてみせた。
「やつがれは言ったように、"風紀委員"として、ここには来ていない。
それゆえ残念だが、やつがれにおまえを"風紀委員"として護ってやることはできないし、
捜査活動は禁じられていてね。いまここにいるやつがれは、ただの芸術学部の女生徒だぞ。
おまえから見聞きしたことを、捜査に役立てよう、なんて点数稼ぎをしようものなら怒られてしまう。
やつがれは"おまえからは何も聞いていない"ということになる。
"安全の保証が必要"な状況であることを聞き出しておいて、後出しするようで申し訳ない気持ちもあるが。
立場も信用もない身なんだ。そこは許して欲しい」
はっはっは、と態とらしく白々しい笑いをひそやかにたててから、肩を竦めた。
そのうえで、腰を曲げ、彼女を下から覗き込むように見上げてみる。
「そんな身だからこそ聞けることもある」
彼女の問いにすぐには応えず、
「何もみずからを守る後ろ盾のない、剥き出しの有様でしか――いや、なに。
やつがれにとって、あの区画は鉱脈だ。
おもしろいものがたくさん眠っている。
ああ、もちろん、こちら側にも。だが、採れるものに違いがあるのは世の倣い。
松茸を採りに海には潜るまいよ。
直接行けない分、噂話や人づての話で推し量るしか無いわけだが――
"面白そうだったが、もしかして期待はずれ"?なんてものに今出くわしていてね。
なにかそういうものがあれば、ぜひ、おまえという、少しあの場が不似合いな娘の――
――そう、感性から、なにかおもしろいものがあるのかな、と聞いてみたくてね。
求めるものがあるから、あそこに"行っている"のでは、なかったかな?」
■シャンティ > 「……ふふ」
真琴のあまりにあまりな言葉に。しかし女は笑いを漏らす。愉快なものを見た、とでもいうように。
「あ、はぁ……真琴、ちゃん……それ、はぁ……ひど、ぉい、の……じゃ、なぁ、い? 私、の……安全、とぉ……安心、はぁ……どう、保証、され、る、の…かし、らぁ……?」
笑いながら、女は無防備に背を向ける。逃げる、という素振りでもなく。ただ、書架の一部を探り始める。その動きは、まるでどこまでも見えているかのように迷いも何もなかった。
「ふふ、はは……あ、はぁ……でも、いい、わぁ……興味、深い、オハナシ……だ、ものぉ……私、に……そん、な……こと、聞く……意味は、わか、ら、ない、け、どぉ……?」
楽しげに女はいいながら……書架の何処かから取り出してきた、簡易な椅子を二つ、置いた。
「で、もぉ……すく、なく、と、もぉ……なが、ぁぃ……オハナシ、に……なる、かも……だ、しぃ……すわ、るぅ……?」
椅子を指し示して、女は笑う。
「それ、でぇ……なん、だった、かし、らぁ……あぁ――"おもしろいもの"? それ、を……答え、る……前、にぃ…… あな、た……は、なに、を……おもしろい、と……思う、のぉ……?」
面白そうに質問を口にした。
■月夜見 真琴 >
「ではなぜ、そんな窮状に陥りながら本庁に駆け込まなかったのかね?」
それがすべてだろうとばかりに、肩を竦めて見せるのだ。
身の危険に晒されているなら、まず取るべき選択肢がある――ハンディキャップを抱える彼女なら、尚更。
反面、それをしてしまえば、"安全を保証する"側から行動の制限がかかることは自明である。
返答は期したものではなかった。では失礼、と、彼女に着席を促し、それを見てから自らも座ろうとする。
逆にそうならなければ、おそらくは立ったままで。
「また奇妙なことを聞かれたものだな」
問われると、少し考えた。
返答を、ではない。
「――わりと偏った感性をしているようだ。
おもしろい、と感じるものも、また大衆的な感性からは少しずれているほう?
"なにを"とあえて言われると絞りづらいものだと思うが」
"おもしろい"の範囲を、限定しようとするなんて――そう返した後に。
「こういうのはどうだろう」
だから、自分が思った正答というよりは。
相手の興味を惹きそうな解答を、いくつかの候補のなかから選りすぐる。
「"悪"」
■シャンティ > 「脅さ、れて、た……から? 怖、くて……かけ、こむ……なん、て……」
恐ろしいものに追われている。恐ろしいものが見ている。もし、裏切れば……と陳腐な三文劇にもありがちな脅迫の存在を、当然のように語る。
「あ、らぁ……だ、ってぇ……冒険、小説、が……好きな、人、にぃ……恋愛、小説、を……渡し、て……怒ら、れ、ても……いや、だ、ものぉ……? ふふ」
建前を騙る。正直なところ、女にとってはそこが噛み合おうと噛み合うまいとどうでもいいことだった。そもそも、素直に質問に応えるかどうかも、まだ決めていない。ただただ、知ってみたかっただけだ。相手が何を考えているのかを。
だからこそ――
「あ、はぁ……」
女の回答に唇が三日月を描く。薄く、奇妙に、禍々しく、無邪気に。その顔は笑顔を象った。
「……ご、めん、な、さぃ? 他意、は……ない、の、よぉ……? ただ、えぇ、えぇ……わかった、わぁ……? お答え、して、も……いい、けど、ぉ…… 多分、つま、らない、わ、よぉ……?」
■月夜見 真琴 >
気にしていない、と肩を竦めた後、彼女の返答には、
「なぜ?」
浮かんだのは疑問符だった。
「先んじて、誰かに"つまらない"と言われた?
それとも、それがごくありふれたものだから?」
その前置きに、何か気になるものがあったように。
自分の顎に手をあてて、興味深げに彼女に視線を向け――
「ああ。 続けてくれ。 なに?」
■シャンティ > 「……そう、ねぇ……」
女は、ゆったりと椅子に座って人差し指を唇に当てて考えるようにする。考えるのは――何処から話すか、ということ。
「そも、そも……悪、とは……なに、か……なん、て……詭弁、みた、ぃな……ことは……要ら、ない……わよ、ねぇ……? ふふ。実、はぁ……真琴、ちゃん。貴女、と……同じ。"おもしろそう"、と……思った、もの、がぁ……すこ、ぉし、思った、の、と……違う、感じ、に……なって、る、のよぉ……ね?」
気怠い声が、淡々と事実を述べるように言葉を紡いでいく。
「だ、か、らぁ……お、答え、はぁ……"今はないかも?" か、しらぁ……? 案外、同じ、もの、を……みて、いる、かも……しれ、ない、わ、ねぇ…?」
くすくすと女は笑った
■月夜見 真琴 >
("怖くて"などとよく言ったものだが――)
人の嘘を咎められる身ではないので、唇をうっすらと笑ませて――相手から見えるかはともかく――。
「人それぞれ」
悪とはなにか。
肩を竦めて、甘酸っぱいような声でそう言うと。
「ふむ」
笑う彼女に対して、思案顔をみせたあと、制服の裏ポケットを漁る。
取り出した一枚の紙切れのような何かに視線を向ける。
それを見せようとして――悩む。"見える"ことはないのでは、と。
「あちらで、下世話な写真が出回っているのは知っているかな?
ごく狭い範囲の、やんちゃをしている連中にだけ配られているような語り草だが。
ひとくみの男女が映っている。身長180cmくらい、金髪の男。
もう片方は、150――くらいかな。女だ。愛し合っている、ように見える写真。
噂話の種。 この連中が、やつがれが興味をいだいていた者たち」
目の前にいる女が、その一味である可能性は未だ濃いのに。
あっさりと言ってのけた。ぺらぺらと、その画質の悪い写真を振りながら。
■シャンティ > 『真琴はポケットから一枚の紙を取り出す。そこに写っているのは――』
「あら――まあ。卑猥、な、もの、ねぇ? まさ、か……そう、いぅ……趣味ぃ……?」
恥ずかしがっているかのようなふりをして――趣味、などと本気でそう思ってはいなさそうな調子で、くすくすと笑う。ただ、少し驚いたのは演技ではない。界隈に広まったものでは在るが、そうはいっても其れに興味を持って真面目に調べ上げ入手に至る。そういう風紀委員がいたことに。
ぞくり、と女の心のなかで何かが蠢く。
「なぁ、ん……て……ふふ。やっぱ、りぃ……みて、いるの……同じ、もの……みた、い……ね、ぇ? それ――期待、はずれ、ちゃ、ったぁ……?」
女は迷わず、真琴が手にした写真を指差す。まるで見えているかのように。
■月夜見 真琴 >
「出歯亀する趣味はないな。少なくともやつがれは睦言を覗かれたいとは思わない」
視線は写真に。
そして彼女に。
先程から、妙だ。
魔術や異能の補助があるとはいえ、彼女の立ち振舞は盲人にしては――しかし。
「この写真そのものも、ひとつの手がかりとしては機能するが、この写真そのものではない。
これ、そしてこれが出回ること、それにまつわる"文脈"というのかな」
彼女の問いに、そう曖昧にこたえながら、写真を一端表にして互いの間に置いた。
どこか白々しい愛の構図が、薄闇のなかで無機質に存在を保つ。
「そのまえに」
頬杖をついて、徹頭徹尾気安いままで問いかける。
「おまえはこの組織にどの程度噛んでいる。
どの程度知っているか、でもいい。
やつがれは外側から話をきいていただけだが、おまえはあちらに行くことができる。
当事者たちとの接触も可能だろう――で? おまえはそこに不似合いなものも視ているはずだ。
応えられる程度でいい。応えてくれ。"脅されている"なら、大変だしな?」
慮るように、柔らかい声音を向けてから。
「おまえが誠実であればあるだけ、やつがれも誠実に応じようと思う」
■シャンティ > 「そ、ぅ……睦言、を……ねぇ……?」
くすくすくすくす、と愉快そうに笑う。
「"Peeping Tom"……たし、かに……ねぇ。問題、かも、ねぇ……?」
女自身が、まさにそのPeeping Tomなのだが其処を語る理由はない。変わらず、面白そうに笑うだけだった。
「ふふ――大胆、ねぇ……真琴、ちゃん? 私、程度、の……ふふ。一学生、がぁ……"噛む"、だ、なん、てぇ……? 随分、と……評価、する、の……ねぇ?」
気安く、甘く賭けられる言葉に。気怠く、涼しげに応える。徹頭徹尾、ゆるりとした空気のように。
「……そう、ねぇ……私、はぁ……その、人の……とこ、ろに……さらわれ、て……そう。風紀、委員……を、脅す……材料、と、して……拷問、され、てぇ…… なにか、と……引き換え、で……開放、され、た、のよぉ……? 律儀、に……約束、は……守った、みた、い……ね、ぇ? きっと……関係、ない……人、には……興味、ない、の、かもぉ?」
つらつらと。しゃあしゃあと。女は、"事情"を話しだす。それは、事実であり、事実の全てではない。予め、用意しておいた"脚本"通りの言葉。
「細か、い……こと、はぁ……知ら、ない……わ、ぁ……? だって、ぇ……"見て"も、いない、も、のぉ……?」
■月夜見 真琴 >
「誠実に応えて欲しいところだったが、こちらも要のところは伏せていいのか?」
つまらなさそうに鼻を鳴らした。
「奴らを観察対象にしているような、普段落第街にいかなさそうなやつが、
"偶々"攫われて"偶々"風紀委員の脅迫材料に使われた。
見ず知らずの相手にか?
嘘としても、つまらん。 "つまらない"。 嘘をつくのはいいが、つまらないのはよせ」
コツン、と曲げた指の関節で、静かにデスクを叩いた。
「脚色するなら、もう少し"面白い"方向で頼むよ」
溜め息を、ひとつ。
■シャンティ > 「あ、らぁ……心外、ねぇ……嘘、なん、て……つい、て……ない、わ、よぉ……?」
此方も肩をすくめる。女の言葉通り、言ったことが"実際あったこと"であるのは間違いない。ただ、そこに欠けているピースがいくつもある。ただ、それだけのことだ。そして、相手はどちらかというとそちらに重きを置いているのも分かっている。分かった上で、あえて、口にする。嘘は、言っていない。
「そも、そもぉ……"偶"?"見ず知らず"? ふふ。私……いった、かし、らぁ……? 思い、込み……は、だめ、よぉ……?」
くすくすと女は笑う。
「そう、ねぇ……で、もぉ……らち、が……あか、ない……のも、よく、な、い……わ、ねぇ……」
人差し指を唇に当てて、女は考える。
「ねぇ、真琴、ちゃん……? 貴女、は……風紀、とし、て……では、なく、私に、それを……尋ね、て……どう、したい、のぉ……?」
■月夜見 真琴 >
言葉を受け取る。
術中かもしれない。
月夜見真琴は頭脳にも、直勘にも、秀でている自負がない。
ご丁寧にもヒントをくださった相手の言葉で、だいたいはわかった――気がする。
彼女の告げた言葉は、おそらく、"そこに居た風紀委員が見た事実"なのだ。
肝心な部分を伏せた"演劇"だった。
――問題は、しかしその事実、ではない。
「すこし話が戻るが」
問いかけには、欠伸をする猫のように伸びをした。
「やつがれはもとより、おまえと話しているんだ。
おまえからアンケートを取っている。意識調査、というほうがより直感的にわかりやすいだろう?
お互い、同じものを見ている――らしい、というのは、そもそも副次的な要素というか、偶然だ。
まあ、そんな気はしていた、というのは、後からならいくらでも言えることだろうから、そういうことにしておいてくれ」
飲み物がないのがなかなかつらく感じる程度に喋った。
一息をついてから、あらためて彼女をみつめる。
「それをたずねてどうしたいの、という問いかけには、そもそもこたえられない」
頬杖をついた手の指が、とんとん、と細顎を叩いた。
「おまえがその時、なにを考えて、どういうきもちで、なにを求めて、なにを期待して、"そこにいたのか"。
やつがれは、そもそもそれを聞きたいんだよ――やつがれはいま、"おまえ"と話しているんだ。
おまえが、どういうものを"おもしろい"と思う人間なのか。そういうことだ。
囚われた風紀委員のことを憂慮したり、のさばる違反部活のことをどうこうしたいなら、
やつがれはそもそもこんなところには来ていない――これで解答の代わりになるかな?」
そういい切ってから、うつむいた。
「そう、"期待"。
とどのつまり、そこに帰結する話か――奴らが毒を呑んだのには気づいたか?」
■シャンティ > 「流石、に……やさし、すぎ、た……かし、ら、ねぇ……? ふふ。それ、ともぉ……貴女、式の、誘導……?」
くすくすと笑う。どちらでもいいことだ。そもそも隠すつもりはなかった。ただ、普通にくれてやるのでは芸がない。それだけのことであった。
それよりも、肝心なことは……眼の前の相手の、解。
「あぁ――そう、ね、そう……そこ、はぁ……私、の……読み、落とし……か、しらぁ……」
小首をかしげて考えるようにする。
「えぇ、えぇ……いい、わぁ……これ、は、お詫び、も……かね、て……かつて、の……敏腕、風紀、委員……に、敬意、を……こめ、て」
気怠げに。しかし、はっきりと。女は言葉を口にする。
「私、は……人の、輝き、を……"物語"、の……流れ、を……その、結末、を……いつ、だって……求め、て、いる、わぁ……? 悪、は……悪を、成し……正義、は……正義、を……成し。心、を……命、を……燃や、し……行き、つく……先を……真実、の……物語、を……」
何処か陶酔するような響きを持って、気怠げな語が紡がれる。
「毒……そう、ねぇ……毒、という……な、ら……それ、は……毒、で、しょう、ね。甘美、だか、ら……こそ、人は、毒を、気づか、ずに……煽っ、て……しま、う……の、よ、ねぇ……かな、しい……わ、ね?」
小さな吐息をついた
■月夜見 真琴 >
敏腕、と言われれば、わずかに眉根を顰めた。
皮肉にもなろう世辞も、普段なら受け流せるが、成程。
それなりに近いと、こうなるのか――そう考えながらも、その表情の変遷も"視られて"いるものとしてわきまえる。
「概ね、理解はできるところだ。共感も――やつがれの感性と相違しているところもあるけれど」
言葉を尽くすのが無粋な部分でもあろう。
しかし、唇は僅かに、今度は喜悦の色を見せた。
想像――否、期待に近いこたえが返ってきたのだから。
「正義と悪の対立という部分に、やつがれは重きを置いてはいないがね」
好みの問題。そちらも、観る分には食べられるくちだと、いい添えておいた。
「彼らにとって、それは戦果であり、前進になるはずだった」
"歓楽街にうろついているような女"を捕まえて、乱暴しようというたくらみとは、わけが違う。
落第街で鳴らすほどの腕前を持ち、見目もよく、女としての価値も高い風紀委員。
それをおそらくは罠に嵌め、捕らえ、思うままにし、好きに使える状況を芝居を打ってまで作り上げた。
奪われた仲間を奪還する、マイナスをゼロに近づける行為とは違う。
「大きな勝利だ」
風紀委員会、という、彼女が言う"悪と正義"のいずれかに属しているであろう"敵"をやり込めたのだ。
「それこそが毒だった。
ガス抜きの相手には困らないだろうが、おそらくこの写真。
情報を流すにはな、普段から常に情報を、虚実を織り交ぜながら発信し続けてこそだ。
成程これで印象の上書きをされる違反部活もいるかもしれない。
しかし頭目の姿を晒し、あろうことか唐突に脇が甘くなったという不審な状況は明らかに異質だ。
"次"をせっついた奴がいるんだろう。それなりに発言権のある――おそらくは新顔、かな?
あちら側では、風紀とは逆で、戦闘員の困窮が問題かもな――"即戦力"か。
こいつらは、今までは無駄な殺しは極力避けていた。 必要なものはやっていたかもしれないが。
――しかしここ最近、"いなくなる"やつがあっちで増えてるそうだ。
"居たものが居なくなる"ということには、どれだけ細心の注意を払って証拠を隠滅しても、必ず気取られる。
まあ、それがわたし――いや、やつがれたちの仕事でもあったからなんだが。
少しずつ制御ができなくなってきている。ブレてきているように見えるのは、やつがれの目の曇りだろうか。
"ボスは慎重"――本人がそのつもりであっても。
周囲が、"ボスは臆病"だと認識した時点で、瓦解は始まるだろう。
組織の内側だけじゃない。外側も――だ。
正直、放っておけば自滅するのではないか、とも思っているのだがね。
なにやら捕まった風紀委員は潜入捜査をしているようだ。
"彼女に全部任せておこう"――なにせ潜入は"自己責任"だから。
人間の味を知った野生動物は、時として人間ばかり食うようになるという。
血に餓えた獣たちは、次第に求めだすんだ。
"次は"?
"その次は"?
"その次の次は?"
とどのつまり。
風紀委員ひとりに勝っただけ――その事実への認識が正常にされた場合、いよいよまずい。
"次"の期待に応えられなくなった時が、破局の瞬間だ」
顔をあげた。
「おまえもそうなのか?」
■シャンティ > 「正直、ね。そこ、は……つまら、ない……こだわ、り。不要、な……おま、け。でも、ね……悪、は……それ、だけ……では、悪、に……なら、ない。観測、され、て、こそ。そし、て……悪、ある、ところ、に……正義、が、いない、と……バランス、が、悪い、わぁ……? 滅ぶ、こと、も……でき、なく……なる、もの」
益体もない、と女自身も思う。思うが、それは彼女にとって譲れない一線。彼女を支える矜持の一つ。それなくして、彼女の生はもはや成り立たない。何事にも"幕引き"は必要なのだ。もちろん、全てを他者に強要するつもりもないが。
「あ、は……ふふ、あは、ふふ……あは、ははは……ぁ……」
滔々と語られる言の葉を読み通し、女は笑う。
「期待……そう、期待、ね、ぇ……私、はぁ……下地、を……整え、て……場を、つく、って……ただ、"物語"、を……読む。名作、も……駄作、も……作品、は、作品。読む、には……読む、わ。ええ――でも。思った、のと……違う。そう、思う……の、は。期待、して、いた……と、いえる、の、かし、ら……ね、ぇ?」
ため息ともなんともつかない、奇妙な吐息をつく。
■月夜見 真琴 >
出し抜けに腕が伸びた。
少女の胸ぐらを掴み、椅子から立たせ、自分のほうに引き寄せた。
同時に自分もまた椅子を蹴るようにして立ち上がり、顔を近づける。
「ではなんだ。
おまえは、その"物語"を読みたいがために。
"悪"に肩入れしてみせて、"正義"を煽るような真似をさせるために、
知らない仲ではない凛霞を騙して、いまこうしてのうのうとここで笑っているのか?」
静かに、感情を抑えた声で問いかける。
逃すまいとするように。
華奢な腕には不似合いな腕力で。
彼女の顔を、間近から見据える。
「それを、"物語"とやらを。
あの違反部活の連中や、その対抗する連中が。
心と命を燃やし?もがき苦しみ、そして望まぬ最期を迎えるのだとしても――
おまえはそれを見たいから、やっていたと。そういうのか?」
■シャンティ > 「……」
胸ぐらを捕まれ、無抵抗に引き寄せられる。力の入っていないその女の顔から、普段の薄笑いも、なにもかも消え失せる。そこにあるのは、ただの虚無。
「ええ。そう。みたいから。したいから。」
淡々と、気怠い声が漏れる。
「罰する?誅する?風紀、として、ではない、なら。」
■月夜見 真琴 >
「もっと見たい?」
■シャンティ > 「………」
虚無の顔のまま、女はその言葉を受ける。
「正気? いいえ。本気、ね?」
自問自答のような、自己解決をしたような。一人問答を口にする。
「仮、に……どち、ら、で、も……ふふ。大し、た……役者、ね、ぇ……」
掴まれたまま、天を仰ぎ見る。
「それ、なら……たと、え……地獄、の、門……だ、ろう、と……私、は……開け、なけ、れば……いけ、ない、わ……ねぇ」
女の顔に、奇妙な笑みが浮かぶ。
■シャンティ >
「えぇ……みたい、わ?」
■月夜見 真琴 >
彼女のいらえを、そのままの睨み顔で受け止めると。
肩を震わせて、笑い声がもれないように自分の口を手のひらで覆った。
息苦しさに顔を赤くしながら、やがて落ち着いて、顔を横にむけて大きく息を吐いた。
「――ふう。
莫迦を言え。野次馬根性だよ。
やつがれが役者だった時期なんて、とっくに終わっているんだから」
彼女を解放した。彼女の椅子は、そのままだ。
座ろうとして、おっと、と倒れた椅子をもとに戻す。
「やつがれは別に、筋書きに拘りなんてなくてな。
しかし、本気でやってる"悪"が好きなのは、確かだ。
さりとて、現状のように、ただ低いレートで駆け引きを繰り返していても――
命を燃やし、心を燃やし、正義と悪が決着するために必要な舞台は――?」
座り直すと、最初の柔らかな様子を剥ぎ取った、ずいぶんと上機嫌な笑顔がその顔にのぼる。
どこか獰猛な色を宿すそれとともに放たれたのは、正解のある問いではなかった。
こう聞いている。
"おまえならどう演出する?"
自分には、ある程度の展望があった。
ただ、表舞台には上がれない。演出する余地もない。
この喜劇において、自分の出番は、"ここ"が最後だからだ。
顔を出すことを許されるのは、カーテンコールの後になるだろう。
■シャンティ > 「私、は……演出家、では……ない、の、だけれ、どぉ……?」
目を閉じて……瞑想するかのように、沈思する。否――何かを、見ていた。
「そう、ね、ぇ……また、動き、が……ある、けど……大きな、流れ、には……まだ、遠い、かし、らぁ……」
人差し指を唇に当てる
「シンプル、に……考、える、な、ら……総力、戦、でも……す、る?」
■月夜見 真琴 >
演出家ではない。
その言葉を聞いて、笑みが深まった。
「なるほど派手な花火だが、それにも前提が必要かな」
頬杖を深く、自分より上背のある彼女を下から視線で舐めあげる。
"視線に触れられる"という感触、いくら盲目とはいえ尋常の感覚器であれば感じられるものは僅かだろうが、
それでも、たしかに。
「――全賭け(マキシマムベット)かな。
一手しくじればすべてを失う状況に追い込む。
"組織"という財産、"信用"という武器。
そのすべてを賭けて、決戦――おまえの好みは総力戦か?
それに望んでもらうというのはどうだろうか。
なに、その規模が吹き飛んでも、頭が残っていればまた組織は生まれるだろうし。
どうかな?花は咲きそうだろう?素人考えだが――」
何年後になるかはわからないがね、と愉快そうに喉を鳴らす。
「やつがれは生業があってね。
"次は?"と、期待される側なんだ。実はね。
一回しくじった時、まあ傷は浅かったが、随分と苦しかった。
そんなプレッシャーを抱えながら"組織"を維持するというのは大変なことだ。
一度の失敗を取り戻すには、十の成功を積み重ねても足りないから――しくじれない」
感服するよ、と。
肩を竦めて、本気かどうかわからない笑みを浮かべた。
■シャンティ > 「ふふ……大概、狸……いい、ぇえ……狐、ね、ぇ……おもしろ、ぉい……こと、いぅ、わぁ」
若干無邪気さの交じる笑みを浮かべる。
「どう、ころ、ん、でも……貴女、に……損、は……な、い。本当、に……ずる、ぅ、い……わ、ぁ?」
しばし、黙考し……
「やっぱ、り……相手、は……彼?」
名を出すまでもなく、通じるだろうと。この場ではぼかす。
「私、は……面白、い……し。そう、なれ、ば……きっと、華、も……ある、で、しょう、ねぇ……」
想像をしただけでも、女の全身にぞくぞくとした興奮が立ち上る。
「そう、ね……で、も……最後、は……彼、ら……次第。どちら、か、から……振ら、れ、たら……おし、まい……よぉ? 私、は……あく、まで……外様。意の、まま、に……する、座長、では……ない、もの。その、ときは、その時、だ、けれ、どぉ」
■月夜見 真琴 >
「あえてやつがれに損があるとすれば。
どんな面白い演目でも、この目で観ることはできない、ということだ。
そういう決まりだからな。やつがれは、"月夜見真琴"は、この件においても、"いない"んだ。
終わってから、資料をななめ読みするさ。なんであれば、おまえが語り聞かせてくれるかな?
うちに来てくれれば、おいしい食事をごちそうするよ?」
自嘲気味に笑った。
確かに損はしない。――でも、得もしない。
勝つことのない存在。それが自分。
そこが定位置だと、弁えている。
「実際のところ、とどのつまりは"そういうこと"なんじゃないかな」
マッチメイクを問われれば、一も二もなくうなずいた。
結局は、"だれか"としか戦えないんだ。
それが、他人か、自分か、という違いはあれど。
そのミクロな戦いに、しかし本気を出せぬものは、どのみち生き残れないのではないか。
「当然、"正義(そっち)"にも、"すべてを賭けてもらうがな"」
そうしなければ、始まらない。
イーブンの条件になってはじめてすべてが整う。
「やつがれにとってはどちらも悪党だ。
どっちが正義でどっちが悪か、配役の妙は、やつがれの目には見えない――というか。
たぶん、どっちでもいいんだ」
含み笑い。
「いや、おまえは座長だよ」
その調子のままで、言い含める。
「組織は適材適所を割り振って役割分担をする。
頭からすると、自分にできないところ、手の回らないところの担当を――とかな。
アシスタントとか助手とか、そういうのでもいい。
"積極的に動け"と頭せっつく役割が、あるいは物語を進めるための原動力になることもあるだろう。
そう、積極的に動かすには――周囲の"期待"でも煽ってみるか。
組織内外のすべてから、そいつらに対する"期待"を煽る。
どこにも逃げられないように。一歩でも退いたら、そこで敗着するように―――
――然るに。
面子が集まってない振り出しの段階なら、
"自分の役割ではない"ことも、自分でこなすしかない、ということになるわけだ」
トン、と。
指先が、テーブルを叩いた。
「やつがれが、何を言いたいかわかるか?」
とん、とん。
「おまえに言ってるんだぞ」
■シャンティ > 「あなた……大概、"悪党"、ねぇ……私、は……単なる、"破綻者"、という、のが……よく、わか、った、わぁ? あぁ、こわい、こわい……」
わざとらしく大仰に肩をすくめ、首を横に振ってみせる。いかにもわざとらしく、白々しく……そして、真に迫っていた。
「つい、でに……とん、だ、横暴……マクベス、も……びっくり、だわぁ……?」
小さく吐息を一つ、つく。
「一介、の……裏方、を……長に、据える、なん、て……狂って、る、わぁ…… 座組、も……本、も……揃って、ない、のにぃ…… すく、なく、と、もぉ……"そちら側"、くらい、は……なん、とか……して、ほしい、もの、だ、わぁ……それ、と……うまく、いかなく、ても……しら、ない、わ、よぉ……?」
再度、首を振る
「……ま、あ……どちら、に……転ん、でも……貴女、には、関係、ない……かも、しれない、けれ、どぉ」
■月夜見 真琴 >
「こんな清廉潔白な女を捕まえて、おまえはなんとひどいことを」
嘆かわしげに肩を落とし、首を横に振る。
わざとらしく悲しい顔を作ってみせたが、そののち、立ち上がる。
もう、今日は、この椅子に座ることはないだろう。
「舌も腕も切り落としていないよ。
タモーラではなく、マクベス程度で良かったと思ってもらいたいところだ」
彼女に近づく。
テーブルの横に。
「舞台上にはもう、必要なものが揃っているように思えるが。
あとは目配せ、意思疎通、役者のアドリビトゥムに期待をするとして。
歪な即興喜劇(コンメディア・デッラルテ)のようでも――
形にして、纏まってしまえば、文句も言えなくなるだろう。
それともなにかな。初演出には不安が大きい?失敗が怖いかな?ん?」
愉快そうに、笑う。
「関係ない? 馬鹿なことを言ったものだな」
声は愉快そうに、はずんだ。そう。
月夜見真琴の標的は、話にのぼった"悪"でも"正義"でもなく。
「やつがれは"悪(おまえ)"を待っていたと言ったはずだが」
――そう最初から明かしていた。
■シャンティ > 「……とんだ、話。本当、に。天岩戸……どこ、まで……開ける、か……」
思案するに、頭が痛む。
「……悪を、利用、する……悪、なん、てぇ……まった、く……ろくな、もの、では、ない……わぁ? けれ、どぉ……いい、わ。今回、は……ええ。乗る、しか……ない、わ、ねぇ……」
再びのため息。
「願い、まし、ては……全て、ご破産、に……ござい、ます……なん、て……あぁ、とんだ、喜劇、だわ……せい、ぜい……笑って、みて、もらう、わ……」
空の一点……どこか、遠くを見るように……けれど、その瞳は何者をも映さず。
「……えぇ、そう、ね、そう……せいぜい……夢の、奥……お姫、様、と……とも、に……お楽しみ、なさ、い、な」
■月夜見 真琴 >
「たとえ最後に残るのが静寂だけだろうとしても、
だからとて、やらずにはいられない――という連中もいる、らしいな?
愉しく、美しく、そしてナンセンスに――悩みも楽しんでみせてくれ」
背後に回った。
彼女と視線のむきを同じくしても、同じものは見えないだろうが。
肩を優しく叩いてやり、至極無責任に笑ってみせたあと、
少女の体を後ろから、包むように抱きしめた。
その耳元に唇を寄せて、たったひとことを囁いた。
「 」
今後の期待をこめて、甘く柔らかに。
■シャンティ > 「……えぇ……グラン・ギニョール、を……はじ、める……わぁ……?」
応えて、笑う――が
「 」
女は、微笑んだ
ご案内:「禁書庫」から月夜見 真琴さんが去りました。
ご案内:「禁書庫」からシャンティさんが去りました。