2022/06/20 のログ
ご案内:「禁書庫」に清水千里さんが現れました。
■清水千里 >
常世島の禁書図書館には、世界各地から取集された多種多様な異形の書物が揃う。
紀元前25世紀エジプト古王国、2世紀アケメネス朝ペルシア、8世紀イースト・アングリア、
13世紀元、18世紀フランス、20世紀アメリカなど……時代も場所も様々で、中には人類文明勃興以前の遺産もある。
禁書と聞いて色めき立つ人間も多いが、ふつうそれらの好事家を遠ざける文句として使われる「危険」以上に、
それら禁書は一般の人々にとっては難解であるものが多い。
それは禁書の執筆者たちが必ずしも知識の伝播を目的としていなかったからで、そのため一部の禁所は破損または汚損していたり、そうなりやすくなっていたり、あまりの”難解”さゆえに同言語圏の人間でさえ解読できなかったりする。
そしてまた、それでは困るものもある。
『委員が破損してしまったものだ。戦闘中に』
「戦闘」
『君たちなら修復できると聞いた。ここにあるものの中でも、最も危険な禁書の一つだが』
そうして連絡室に本庁から依頼が持ち込まれたのだった。
■清水千里 >
「さてさて」
この手の依頼はいつもというわけではないが、よくあることだ。
それでも、禁書管理員の資格を持つ者も多く在籍する連絡室作戦課たる"Carcosa"が匙を投げることは珍しいことだった。
こういう時は清水が後を引き継ぐことが決まっている。彼女が今までに失敗したことは一度としてない。
「なるほど」
そうつぶやいて、彼女は本に触れる。
『――誰だ、お前は』
「誰だ、はひどいな。こっちは君のキズを直しに来たというのに」
『お前は人間ではないな』
喋る本は珍しくない。といっても本が口を持ってしゃべるのは少数で、
大概は接触によって知的生命体の精神に干渉するのだ。
「珍しいかい?」
『いや』と本は否定した。『言葉のあやだ。ここに来てからというもの、様々な存在が私にコンタクトを取ってきた。私はつねに、それらの存在に苦悩と破滅を齎してきた。だが今はそうしていない』
「それはどうして?」
■清水千里 >
『おまえが異形の者だからだ』
清水は、その写本が書かれたものと同じインクと、同じ紙、同じ筆を用意し、本をめくって破けたページの修繕を始める。
「それが分かっているなら、この作業に素直に従ってほしいものだ」
『私は多くの時間を生きてきた。人間、いや、多くの知性体にとって想像もつかないような長い時間をだ』
清水は、それを描いた者の筆跡を、いや、まるでその存在そのものであるかのように修繕を進める。
『だからこそ不思議だ。奇妙で、怖ろしいとさえ思えるほどだ。私を記述した者はお前ではなかった。魂の器を感じればわかる。にもかかわらず、お前は私を知り尽くしているように私をえがく』
「なぜだろうか?」
『謙遜することはない、全てを知る者よ。おまえは私以上の存在かもしれぬ』
「おそらくそうだろう」
『だとしたらなぜおまえはひとの姿などとっている? なぜ小娘の姿などとって、ひとの世でつまらぬ余興さえ演じている?』
「ただの趣味だといったら?」
『認めよう、私とてたんなる興味から愚かな子羊たちに分不相応な奇蹟を与えることさえある』