2022/06/21 のログ
清水千里 >  
 「その結末は滅びか?」

 『人の子はいつか滅びるものだ――おまえのようなものと違ってな。おまえに滅びはない。
 おまえの命長きことの前では、滅びですら終焉を迎えるだろう』

 「褒めてもらえてうれしい限りだ」

 『よせ、そのような人の子じみたことは。おまえと話せて、私はうれしく思っているのだ。
 知る者は常に孤独だ。そうでない者にとっては、世界は驚きと歓びで満ちているのだろう。
 おまえがかつてそうだったように。イースの偉大なる種族の精神としての記憶は、
 お前を成す重要な要素のひとつのようだ。おまえはすべてを知って後悔したか』

 「君は後悔したのか」

 『いやなやつだ、知っているくせに』

 「もちろん、私はそれを知っていた。君は私について知らなかったようだが」

 『私でさえ知らないことはある。知らないほうが興味をそそられることとてあるのだ。
 げんにおまえが私に触れるまで、私はお前のことを知らなかった。
 だがお前は違うようだ。だからこそ不思議なのだ、おまえがそこにいることが。
 人の子とて不思議に思うだろう』

 「彼らはみな、わたしがイースの偉大なる種族だと思っている」

 『なんと愚かな!』

 「それでよい時もあるのだ、君も言っただろう、知らない方がいいこととてある」

清水千里 >  
 『おまえは人の子を救おうとしているのか? 決して救われえぬと知っているのに?』

 「だからこそだ」

 『おまえには、自らの引き起こす結末さえ見えているのだろうな』

 「この世に何もなかった時代よりは、決して悪いものではないさ」


 清水は筆を置いた。「終わったぞ」

 『ああ、心安らかなようだ』

 「できれば面倒事を起こさないでくれるとありがたいんだがね」

 『それはできぬ。お前の趣味と同じく、私とて余興を必要とするのだ』

 「知っている、ただの愚痴だ」

 『いつかまた会おう、全てを知る者Eurusよ。東の風過ぎ去る後のことは、知らないほうがいいことのひとつだろうから』

ご案内:「禁書庫」から清水千里さんが去りました。