2020/06/23 のログ
神樹椎苗 >  
 しばらく自分の『死に具合』を確認しつつ、満足すれば首にかかったままのロープを外した。
 柱に結んだ方を手持ちの短剣で結び目を切り落とし、綺麗に丸めて回収する。
 ついでに、生きてる自分のポケットに先ほどの見物料があるかを確認して、三枚の硬貨を見つけると小さながま口を取り出してその中にしまった。

「それにしても、立ち入り禁止にしては意外と人が来るもんですね。
 せめて鍵くらいは掛けてもいーとは思いますが」

 とはいえ、実際に鍵を付けられたら、気軽に死ねる場所が一つ減ってしまうので困るのだけれど。
 それでも『本当に死ねてしまう』人間が飛び降りでもしてしまえば、それなりに問題になってしまうんじゃないかと、子供ながらに思いもするのだ。

ご案内:「大時計塔」に宵町 彼岸さんが現れました。
宵町 彼岸 > 「落とし物の紛失にはご注意くださーい」

死体に対してそんな声が頭上から聞こえる。
それは時計塔の展望台の更に上、普段は鳥しかいないその場所で
寝ころんでいた状態を起こし、足をぶらぶらとさせながら眼下を見下ろしていた。

「特に感染症の恐れがあるやつはねぇ」

人と言うには歪な形になったヒトだったものと
その複製を見下ろしながらも少し眠たそうにぶかぶかの袖で眼をこする。
よくねたーと小声でつぶやきながら両手を広げながらググッと伸びをし

「あ、ながれぼし」

少々変わった特殊性癖の持ち主という事であっさり終わらせながら再び
後ろに倒れ、空を見上げた。
下で起きていた一部始終は把握しているが死体なんてどこ吹く風で。

神樹椎苗 >  
 意外と人がいる、と思っていたらまたも声がかかってくる。
 それも頭上から。

「……なんですか、ここにはヒトの頭上が好きな人間が多いんですか。
 それともあれですか、猫みたいに高さで優位性を保ちたいタイプの人間ですか」

 先日もここで身投げしようとしたら、頭上から声を掛けられたのだ。
 高いところが好きな人間でも多いのだろうかと、自分の事は棚に上げて思った。

「落とし物じゃないです、廃棄物です。
 感染性の廃棄物は、やっぱり焼却炉ですかね。
 燃やされるのはあまり好きじゃないですけど。
 焼かれて死ぬのは苦しいだけで、中々死ねないからめんどくせーです」

 と、答えながら自分の死体を引きずって、人の目につきにくい場所へと運んでいく。
 ながれぼし、という声が聞こえればふと、椎苗も空を見上げるだろう。

「何が燃え尽きたんですかね。
 あれくらい一瞬で消えられるなら、ありがてーですけど」

 星が流れるのを見送ったら、ぶら下がっている足を見上げつつ、声の主に話しかける。

「お前はあれですか、流れ星を見ると願い事とかするタイプの人間ですか。
 それとも、さっきの強欲女みたいに人が死ぬのを見て楽しむタイプの人間ですか」

宵町 彼岸 > 「馬鹿と煙は高いところが好きなんだよぉ。
 つまりはそーいうことぉ。なまじっか能力があるモノが集まる島だものぉ。
 余計そうなりやすいんじゃなーい」

ケラケラと笑いながらまるでお気に入りのぬいぐるみでも抱いているかのように横に転がってみたりして

「廃棄物なら猶更。ぽいすてすると誰かが食べちゃうかもしれないよぉ?
 ……あれ?それはそれで生物濃縮の実験が出来るかも。
 ねぇきみは生物濃縮興味……わぷ」

ふわふわとさまよう思考をそのままに言葉にしながら
流体の詰まった袋のように転がり続け、ついにはそのまま下に転がり落ちた。
かなり鈍い音が響くが数秒固まった後もぞもぞと顔だけあげ
にへらっとほほ笑む。

「あはー、上ばっか見てたら落ちちゃった。
 そだねー……願い事はするタイプだよぉ。
 あと、そう。死人を見て楽しむタイプ?だっけ?
 それに関してはのーだよ」

神樹椎苗 >  
 けらけら笑い声をあげながら落ちてきた女に、少しだけ驚かされた。

「うわ、えげつねー音した割には元気そうですね。
 あれですか、痛覚を忘れてるタイプの人ですか」

 痛いのは嫌いなのか、自分の頭を押さえるようにしながら少しだけ身をすくめた。

「まーそうですよね。
 人が死ぬのを見て楽しむのは、どう考えても希少種です。
 そんな趣味があっても普通は口にしねーもんです。
 わざわざ口にするのは、どこかネジが飛んでるよーな人間くらいです」

 それを言うなら、癖のように自殺する人間も大概ネジが飛んでいるようなものだが、それは棚上げにする。
 しかし、そんな受け答えをしながらも、女の口にした『実験』という言葉にますます身が縮むような思いをさせられた。

「実験……実験とか、あまりいー気分しねーです。
 痛くも苦しくもない実験なら、まだ考えないでもないですけど……。
 それよりも、願い事ってどんな事するんですか。
 しいは『死にたい』のが願いみたいなもんですけど、ふつーはどんな事願うもんなんですか」

宵町 彼岸 > 「どーなんだろぉ……」

ぺたんとすわりこんだままふしぎーと呟ききょとんと見上げる。
不思議な言葉を聞いた時のように目を真ん丸にしながら数秒ぽけーっとした後首をかしげて

「この島って変わってるよねぇ。
 その中でならもしかしたらそれは変ではないのかもしれないもの。
 でもそうありたいのなら……きみは倫理観?がしっかりしてるんだねぇ」

と逆方向に首を傾け、いたた、と両手で側頭部を抑える。
どうやら落ちた時に打ったみたいとどこか人ごとにごちるも
続く言葉についとしばし動きを止めて

「……願い事ぉ?ふふ、ひみつ
 あれって人に言ったら叶わないんだってそう聞いたよぉ」

投げられた問いにふにゃっとほほ笑みながらずるずると縁までたどり着き、景色を仰ぎ見る。
眼下の見下ろす町とその向こうに僅かに見える海。
空に浮かぶ雲とその合間から見える月が海に反射して
……そう、とても平和だ。そう、とても。

「あはー、痛くないのは大事だよねぇうん。
 ふつーは……ごめんね。ボクにはよくわかんないや。」

どこか怯えたような雰囲気を一瞬漂わせたことに気が付いていないかのようにあくまでのんびりと言葉をつづる。
こちらに視線をむけたなら口元には笑みを浮かべながらも
じぃっとそちらを見つめるどこまでも凪いだ瞳と目が合うかもしれない。

神樹椎苗 >  
「倫理観はわからねーですけど、自分がふつーじゃない事くらいはわかってるですから。
 だからしいは、ふつーならどうだろうって考えてるだけです」

 話しながら、女の隣に腰を下ろした。
 見える景色は、やはりきれいなものだった。
 こんな光景が何事もなくただ続くのであれば、それはきっと平和なのだろう。
 けれどそれはきっと、『ふつー』の人間にとっての平和なのだ。
 椎苗にとっての平穏は、今はまだ『死ぬこと』にしか見いだせない。

「人に言うと叶わねーですか……。
 それじゃあ、しいはずっと死ねないって事になるじゃないですか。
 それは、かなりぞっとする話です」

 特別迷信を信じているわけではないが、隣ののんきそうな女を見ていると、そんなものかもしれないと思ってしまう。
 隣で視線が合えば、やけに静かな瞳が、女の雰囲気とちぐはぐに見えて妙な感覚だった。

「――あ、しいの『貌』なんて覚えようとしなくていーですよ。
 それと、今日の事も忘れちまって大丈夫です。
 こんなの、ありふれた自殺志願者との出会いでしかねーですから」

 【解析】すれば、なんてことはない。
 目の前の女も『ふつー』とは違っているだけの事だった。
 けれどそれも、この島の中では『普通』の事なのかもしれない。
 椎苗自身も『普通』に含まれているのかもしれないが、その『普通』は椎苗にまだ何も救いをもたらさない。

「お前もしいも、ふつーに生まれてたらどーなってたんですかね。
 そうしたら、『ふつー』の人間らしく生きてたんですかね」

 景色を見ながら、『ふつー』の自分というものを、ほんの少し想像した。

宵町 彼岸 > 「そうかなぁ……案外第三の分類だってあるかもしれないよぉ?
 だってここはこの世界で飛び切り一番変な島だもん」

願い事、叶うと良いねーなんて口にしながら揃って空を見上げる。
願いが叶うなどと言えば聞こえがいいが、その内容は自死なのだから幇助と取られても仕方がないが……
それがダメな理由は理解は出来ても共感は出来ないのだから仕方がない。
だってほら、いつ見上げてもこの島の空は悲しくなるほどきれいで……
そして綺麗な顔しか見せてくれない。

「あはー、そうなるねぇ。
 少なくとも”望んでは死ねなく”なっちゃったかもしれないよぉ?
 あくまで噂程度のお話だけどぉ」

死のうとして死ねない。
それは何か辛いことがあったから死のうとか発作的なものではなく
選択肢の一つとして常にある子なのだろう。
喰らってみればわかるかもしれないけれど……
まぁそれで”叶えて”あげる義理もない。と
ふにゃりとした笑顔の下で明日の夕飯を考えるような気軽さで思う。

「あれぇ?前に合った事あった?
 んふー、そうだったらごめんね。
 ボクいっつもこれ聞いてるから気を悪くしないでほしーなぁ。
 ……んふ。キミのことは分からないままだろうけどキミのことを分かるように努力はするから許して?」

自分が人の顔を覚えられない事を知っているのかそれ以上か……
何にせよ知らない相手が自分を知っていることには慣れている。
どこかで自分の話を聞いたのかもしれない。
そしてそんなことはさして重要ではない。
そんなつまらないことよりも……。
ヒトってわかんないねー。と縁に腰かけ足を揺らしながら空に手をかざす。
指の間から見る星はそのまま見るより鮮やかに見える。

「それは面白いねー。
 美味しいご飯を食べて、友達と遊んで、
 また明日ねって手を振って別れて……
 そして明日を想って眠る。
 それがふつーらしいから、そうなったらどれだけ楽しいかな?
 でもそうじゃないからそれを想像すると楽しいのかも」

神樹椎苗 >  
 第三の分類。
 普通でも普通でなくもない、どちらでもないなにか。
 どちらにも寄り添えるようで、どちらにも近づけない。
 女がどれだけ考えて言ったのかはわからないが、意外と椎苗自身を捉えているような言葉で、少しだけ眉を顰めることになった。

「ああ、それくらいなら今更かもしれねーですね。
 昔からずっと、『望んでも死ねなかった』事しかないですし。
 だからしいは、何時か何処かで『何かの間違いで』死ねればいいと思ってるんです……って、なんでお前にここまで話さなくちゃいけないんですか」

 ついつい話してしまったことに不満があったのか、赤く染まった包帯の手でやけに『ほーまん』な肉をつまもうとした。

「安心していーです、初対面です。
 でもどーせ、二回目でも三回目でもかわらねーですし、気を悪くするよーなこともないですよ。
 世の中自分じゃどーにもならねーことばかりしかないですし。
 まあでも、その努力するしせーは嫌いじゃねーです。
 次に会ったとき、ちゃんとしいの事がわかったらパフェおごってやりますよ」

 椎苗にとって、自分の事を覚えてるとか覚えてないとか、そんなことは案外どうでもいい事でしかない。
 覚えてなければまた『はじめまして』を繰り返せばいいし、飽きたら今度は『別のはじめまして』をすればいいだけなのだ。
 隣の真似をして、手をかざしてみる。
 ほんの少し見え方が違うだけで、よりきれいにも見えるし、見えなくなる星もある。
 そう、少し見え方が違うだけなのだ。

「そうですね。
 しいには明日が楽しみって気持ちがわからねーですけど、そんなふうだったらって考えるのは嫌いじゃねーですし。
 わからないからこそ面白いってのはあるかもしれないですね」

 隣の芝生がどうとか、よく言う話ではあるけれど。
 これもきっと、やっぱり見え方の違いなのだ。

「でも、ご飯食べて、遊んで、また明日。
 それだけならできなくもないかもしれねーですよ。
 やりたいかと言われたら別ですけど。
 やりたくないかって言われると、そうでもねーんです。
 だから、お前ともまた会ってやってもいーですよ。
 パフェもおごってやらねーといけないですし」

宵町 彼岸 > 少し悩み、言葉に詰まったかのような表情を眺めながら今度は手を水平線に向ける。
こうして高い場所から見れば星よりもとてもとても遠くに見えるが……それでも実際は比較にならないほど近い場所。
願いの大半は似たようなものだけれど……この子にとってそれはどうだろうか。

「それでも……希望があるから実験するんだよねぇ
 ボクも、そして多分キミも。
 ふふ、僕は研究者だからねぇ。ロマンチストなんだよぉきっと」

間違いなく一般的な倫理観において近くに死体を置いてする会話ではない。
死ねないと聞けば一部は羨ましがり、そして一部は眉を顰めるだろう。
そして死のうとすればそのどちらもが往々にしてそれを禁忌とする。
死の臭いが近くにあれば猶更だ。
けれど……

「ふふ、キミが君であるために必要な願いなんでしょぉ?
 それが何であれ。なら何であれ、願いが叶えばいーってそー思うよぉ?
 まぁ、ふつーのひとはびっくりしちゃうだろーけど……
 んっ……どーしたのぉ?
 ふふ、照れ隠しなんてかーわいいねぇ」

揶揄するような言葉はそれが本気でからかっていない事も伝わる響きを含んでいて……
それを振り払うかのように伸ばされた手にやたら艶のある声を僅かに上げ
けれど成すがままでからかうような口調で首をかしげ。

「ああそぉ?じゃーはじめまして。
 ぱふぇ?ボク甘いもの大好き。」

パフェという言葉に両の手の先を合わせぱぁっと小さな子供のような笑みを浮かべた。
半分以上味覚は死んでいるけどソレでもかすかに感触は分かる。
片手で数えるほどしか記憶にないがあれはなかなかおいしい食べ物だったはず。

「じゃあ普通のふり、試してみよー?
 案外しっくりくるかもしれないよぅ。」

上機嫌な様子でゆっくりと立ち上がり服の裾を払う。
もうずいぶん冷えてきた。そろそろ寮に帰らなければまた迷子を疑われて怒られてしまうかもしれない。
何分数日前に迷子になったばかり。

「ちゃーんときれいにしとくんだよぉ。
 見つけた人困っちゃうからぁ」

それが何についてのことかは言うまでもないがまるでイタズラ跡を指すかのように笑って小さく伸びをする。

神樹椎苗 >  
「……研究者はわかんねーですね。
 けど、希望があるから繰り返すってのはそのとーりです。
 お前がロマンチストなら、しいもロマンチストですね」

 実験や研究という言葉にはやっぱり、どうしても身が竦んでしまうが。
 それでもこの女の言うことには、それほど嫌悪感はなかった。

「照れ隠しなんかじゃねーですし。
 まあ、好きならいーです。
 しいも甘いもの好きだから、それっぽいこともできるんじゃねーですか。
 けど、しいの前で美味しいふりはしなくていーですからね。
 そんなこと、言われなくてもわかってるですから」

 女が立ち上がると、椎苗も一緒に立ち上がった。
 椎苗もそろそろ帰るべきだが、明日は【診察】があるために、今日は寮ではなくて研究区だ。
 この女が迷子になるのは気がかりといえなくもないけれど、そこまで面倒を見る関係でもない。

「そーですね。
 町で会うか、保健室でばったり会うかもしれねーですけど。
 次に会ったら考えてやりますよ。
 ……あ、廃棄物はへーきですよ。
 しいは『樹』ですから。
 死んだ『樹』は土に還るだけです。
 自然の摂理ってやつですね」

 椎苗が言いながら視線を向ければ、そこには砂が一山残っているだけだろう。
 痕跡は何も残らず、すべてが砂に変わっている。
 そしてそれも、この高所の風が全部吹きさらって行くことだろう。

「さ、さっさと下りますよ、マシュマロ。
 しいはそこから飛んでショートカットしてもいーですけど、マシュマロはほっとくと風に攫われそうだから下まで着いていってやります」

宵町 彼岸 > 「うんうん、ロマンチストだよぉ。
 そんな願い、ロマンチストしか似合わないもん」

それしか希望がないからそれを選ぶ。それはそう、とても素敵だ。
死ぬしか選択肢がないわけではなく、死を選択する。なのだから。
まぁ、この子がどうしてもその方法を見つけられないなら
他に選ぶ余地など無い。そうなるようにしてあげようかなぁなんて"純粋な親切心"で思う。
そうすれば死ねるかもしれない。
最も、今はその時ではなさそうなのでしないけれど。

「……そーぉ?」

ほんの僅かな瞬間眼がほそまると同時に口の端が鋭角に吊り上がる。
それを抑えるように手元で口元を抑えると心底楽しそうにくすくすと笑い声をこぼした。
何か興味を引くような特性を知っているのだろうか。
この子の目的は奇しくも自分と一致している。
ああ、"興味が湧いて"きた。

「そんなことまで知ってるんだぁ。
 ボクってばゆーめーじん。一応甘いとか辛いとかはちょっとだけわかるからへーきだよ?
 ふふ、心配してくれてありがとーねぇ」

次にどこかで会う約束もせず、どこか噛み難い浮いた会話を繰り返して
それでも普通のふりをしているよう装って。
喜悦を湛えた瞳は瞬く間にまた眠そうなとろんとしたものへと戻っていく。
との後、時計塔を下る間はいつものようにふわふわと風船のような会話受け答えをするだろう。
それは彼女にとって至極普通な会話だから。

「"ばいばい。またね"」

そして別れ際もそういって別れるだろう。
まるで普通の友人のように。

ご案内:「大時計塔」から宵町 彼岸さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」から神樹椎苗さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」に神代理央さんが現れました。
神代理央 > 間近に迫る前期期末試験。と言っても、己の場合は大体が委員会活動によって単位を取得している。
勿論、学生の本分である勉強も真面目にしてはいるが、単位に占める割合は多くは無い。普通の高校生が学ぶ様な科目と範囲を、滞りなく修めていれば特に問題は無い。

「……何方かと言えば、試験期間中の活動の方が心配だがな」

六月末日まで続く学術大会。その後に迫る期末試験。落第街で暗躍する怪異や違反部活の対応は、期末試験中だから休みになるとは限らない。

今日も、簡単なミーティングを終えて息抜きがてら訪れた大時計塔。人気も無く、宵闇が訪れれば涼しい風が吹き抜ける此の場所は、個人的に気に入っていた。
凝り固まった肩をぐるぐると回しながら、小さく溜息を吐き出してぼんやりと夜の常世島に視線を向ける。

神代理央 > 思えば、先日訪れたスイーツ部についぞ顔も出せていない。
律義にも書類は送られてきているので、学生街に店を構えたところまでは認識しているのだが、細々と。時に大掛かりに雪崩れ来る業務や任務が、中々甘味を嗜む時間を己に与えない。

「…全く。いや、暇を与えられるよりは満足すべき現状なのかもしれないが」

少しだけ休みたい、と思ってしまうのは年齢相応の己の内面が生み出す甘えだろうか。
そんな疲弊感にも満ちた感情と思考を持つ事そのものが忌々しい。
僅かに舌打ちすると、ポケットに常備しているチョコレートを口に放り込んだ。
噛み砕く様に咀嚼するチョコレートは、何時もより甘くない気がする。

神代理央 > 甘さを感じない甘味を喉奥に流し込み、霞む目をぱちぱちと瞬きさせる。打ち合わせの際、資料を熟読し過ぎただろうか。
最近は、睡眠時間が足りていない気もする。体調管理くらいはしっかりしなければなるまい。

「…期末試験で浮つく前に、一度落第街に手を入れるべきだろうか。賛同は得られないだろうが……ある程度叩いておけば、多少は他の委員も楽になれる、筈……」

輝く街の灯りを眺めながら、手摺に身を預けて小さな欠伸を零す。
まだやるべき事はある。差し伸べる手の中に、突き立てる剣が無ければならない。
そういえば、自分の試験日程はどうだったかな、等と暢気な思考と綯い交ぜになりながら、そんな取り留めも無い思案に耽っていた。

ご案内:「大時計塔」に群千鳥 睡蓮さんが現れました。
群千鳥 睡蓮 > この島に居ると、聞こえてくる奇妙な噂には枚挙にいとまがない。
学校の怪異だのなんだのと、震え上がるような噂も、
結局は出会ってみて確かめなければ意味がない。だから探検した。
階段を上がる足音は、けたたましく踏み鳴らすことはなく、
しかし、そこに訪れたということを、隠すことはない。

「あれ。 ……神代先輩、ですか?」

果たして階梯の先に見つけるは、先日奇妙な縁の生まれた先達。
いつもより少し小さく――いつもが本来より大きくとらえていたのか――見えた気がする姿に、声をかける。
今なら何手で――せるか。胸の奥底より滲んだ探究心は、ぐっと飲み込んだ。

「こんばんは。……不思議なとこで会いましたね。
 あっ。もしかして、どなたかと待ち合わせ…とか?」

内緒のそれですか、と、口の前に人差し指をたてて、問うてみよう。

神代理央 > 「……ん?ああ、確か…群千鳥、と言ったか。先日の部活棟以来だな」

響く足音。此方に近付く物音。
それに視線だけ向けてみれば、投げかけられた声は何時ぞや出逢った少女のもの。
久しいな、と言わんばかりに、軽く手を上げて見せるだろう。

「全くだ。此処は一応、生徒の立ち入りは禁止されている場所なのだがな?」

自分の事は棚に上げて、クスリと小さく笑みを浮かべる。しかし、彼女が見せた仕草と投げかけた言葉には、緩く首を振って。

「いや、委員会の帰りに少し黄昏れていただけだ。生憎、とんと浮いた話が無い身でな」

僅かに肩を竦め、首を大きく振って見せるだろう。

群千鳥 睡蓮 > 「おおっと…どうか平らかな処置をっ!
 いえ、始末書書けっていうなら書きますケド……でもそっかー、それなら」

今の彼に、風紀委員のあれこれをせよ、とは求めるまい。
となり、すこし距離をあけて、手すりに頬杖をついた。

「帰れと言われるまでは、先輩を独り占めしてみたくもありますね。
 ……やっぱりこういうところとかじゃないと、休まらないものですか?」

自分の目元を、ぴとぴとと指先で叩いて見る。そのうえには前髪で瞳が隠れているが、じっと見つめる。
気遣わしげに。同じ部に所属する――立場は随分と高低はあるが――部員として、声をかける。

神代理央 > 「…冗談だよ。立ち入りは禁止だが、ある程度の生徒の侵入は半ば黙認だ。そうがみがみと口煩く叱ったりはせぬさ」

己の隣まで近づいた少女に、小さな苦笑い。
其処まで生真面目かつ、厳格な風紀委員を気取る訳でも無い。

「私を、か?物好きな事だ。特段出て来るものは何も無いが。
……別に。まあ、息抜きに訪れるには都合の良い場所ではあるが。休息を必要とする程、過労に見舞われている訳でも無いしな」

それは虚栄と自嘲の入り混じった様な口調だったのだろう。
疲れている、と少女に告げるのは矜持が許さず、疲れる程の事を為しているのかと己の内面が叱責するが故に。
それ故に、此方を見つめる――その瞳は前髪によって遮られているが――彼女に視線を向ければ、溜息になり損ねた吐息と共に言葉を返し、此方を気遣う様な少女に心配はいらないとばかりに首を振る。

群千鳥 睡蓮 > 「何もないって言われると、わたしみたいなのはもっと縮こまるしかないんですけどね……。
 いえね、ゆっくり話してみたいな、って思ってたんですよ。
 小金井先輩のところで同席したときから……ですが」

ご負担でなければ。気遣い無用と鉄面を用いる彼には、若干狡い言い方かもしれないが。
さりとて深く追及はすまい。彼の疲れは彼のもの。休めと言うには相応しい人がいるはずだ。
視線はそこから望める景色へ。

「静かで、いいですね。此処。きらきらしてて。
 わたしが外で住んでたとこって、もっとギラギラしてるか、幽霊みたいにチカチカしてて。
 ……でも、この島がこういう静かで、穏やかな場所ばかりじゃないっていうのも、
 すこし過ごしてみて、なんとなく、肌で……感じてもいるんです」

実際に踏み込んだこともあるが、それはさておいて、一般生徒としての「危惧」を持ち出す。
彼の在り方を知りたいのもあった。公式的にはただの歓楽街の一地域の、あそこ。

「危険な場所。 なんで、そういう場所があるんでしょうね」