2020/06/24 のログ
神代理央 > 「…ふむ?まあ、別に構わんが。私が話せる事なぞそう多くは無いぞ。流行にも疎ければ、興味も無い。委員会の任務は当然話せない。
それでも良ければ、話くらいはしてやるが」

こんな不愛想な風紀委員と話がしたいなんで本当に物好きな、と言いたげな驚きと呆れの入り混じった視線。
しかし、彼女が己の疲労を深く追求しなかった様に。此方は、彼女の言葉に首を傾げながらも、小さく頷いて次の言葉を待つ。

「……存外まともな。しかして意外な質問だな。だが、その質問に対する答えには私の主観が含まれる事を先に告げておく」

少し考え込む様に顎に手を当てて、一度島の夜景を。そして再び、前髪に遮られた彼女の瞳に視線を合わせるかの様に顔を動かすと。

「ルールを守れぬ者がいるから。唯それだけの事だ。
守れるのなら、此の島程快適に生活できる場所も中々無い。それでも、定められたルールを守れぬ者達は、それを強制させられる事を嫌う。
だから、不法地帯をつくる。自分達を縛るルールが無い場所を求める。それだけの事だと、私は思うがね」

フン、と短くも高慢な吐息を吐き出してから。
彼女の問い掛けに応えてみせるのだろう。

群千鳥 睡蓮 > 「神代先輩の言葉は、神代先輩からしか聞けませんから。
 他者がなんと言おうとも、わたしにとって、神代先輩はわたしが視たあなただけですから。
 だから――そうですね、こんな時だから。
 たくさん行ったっていう……お菓子のお店のこと、教えて下さいっていうよりも、
 普段は聞きづらいこと、聞いてみたくなっちゃって」

どこまでも生真面目な応対には、少しだけ居住まいを正すよう、声のトーンを落とす。
背筋は伸ばさない。伸ばせばすこし、彼より目線が高くなる気がする。
見上げる姿勢は崩さなかった。
前置きには、もちろん、と頷いた。彼は神ではない。
教師に教えを乞うように……真摯な瞳が、凝視する。
視線は質量さえ伴う勢いで、彼をとらえる。

「他者の不利益。生活を侵すこと。
 校内……生活圏の風紀。秩序を乱すこと。
 踏むべき手続きを踏まずに、領域を侵犯すること」

今まさに、立入禁止の掟を侵している自分が論ずるのがおかしい気がして、
ルール、という言葉に、この場合指すものを定義づける。

「……他者を傷つけることも、ですかね。
 翻って、不法地帯……いろいろ呼び名はあるみたいですけど、
 そこに集まっている人は、そういうひとたち、ということですか?」

神代理央 > 「普段は聞きづらい事、か。はてさて、それが答えやすいものであれば良いがな」

声のトーンを落とす彼女を、一体どんな質問が出て来るのかという興味の入り混じった視線で見下ろす。
勿論、随分と偉そうで高圧的な空気は僅かに身に纏っているものの、彼女からの質問を特に否定するわけでもなく、静かに頷いた。

そして。彼女から投げかけた言葉に、暫く考え込む様な素振りをみせる。それは、決して答えにくいといった様子では無い。
どの様に答えれば、彼女に理解して貰えるか、と悩む教師の様なもので。

「賛否こそあるだろうが、少なくとも私はそう思っている。
ルールを守れるのなら、最初から学生街にでも住めば良い。あそこに屯し、這いずり待っているモノは、私にとって大概が群千鳥のいう様な連中でしかない。
勿論、迷い込んだ者。或いは、正当な許可を得て訪れた生徒はその限りでは無いがね」

群千鳥 睡蓮 > 迷い込んだ者――という言葉を聞いた時に、一瞬、視線が動く。
ほんの一刹那だけ、神代理央から注意がそれた。
秒にも満たぬ僅かばかり、違う誰かのことを考えた。視線が戻る。目を細めた。
基本は見つめたまま、納得が行くと頷く。勤勉だった。
神代理央を知りたい気持ちと、島を測りたい気持ち。

「校風というか、島風? というか。
 そういうのがまだ、ちゃんとわかれてないと思うんですけど。
 要するところ、学生が……自治をしている国、なんですね、此処は」

もののたとえですが、と確認をして。
癖なのか、口元に手をあてて、唇を指で何度か叩きながら。
勿論、中枢には一般生徒には推し量るべくもない生徒会と財団が関わっているのだろう。

「そしてあなたはこの国の秩序を守っている。
 ……秩序を、守っている、んですよね。
 円滑な国営――あえてこの言葉を使いますが――のために。
 翻れば、この島で学生としての権利を保持するためには、
 『ルール』の遵守――遵法精神が必須――
 ……ん、つまり、『その限りではない生徒』のために、あの『話し合い』が提案されたんですか」

納得しかけたところで、頭にひっかかりが生まれて問いかけてみた。
実際のところ、どう思っているんですか、と。
一般生徒からすれば、不安を掻き立てるかもしれない文面だ。この胸に不安など欠片もないが。 

神代理央 > 「そうさな。生徒という国民が自ら治める島。それが常世学園であり、此の島の在り方なのだろう。
まあ、其処まで深く考えている者もおらんだろうがね。生徒という立場は、本来学び修める為のものであるだきだし」

彼女の言葉に頷きながら、小さく苦笑いを浮かべて肩を竦める。
とどのつまり『国』と言って良いのか。『ごっこ遊び』に華を咲かせるべきなのだろうか。

「守っている、と少なくとも今は思っているさ。捉え方は人それぞれだがね。
概ね貴様の言葉通りだ。健全な組織の運営は、定められた規律を順守してこそ。それを守らぬ連中を、庇護する事が信じがたい。
リソースは正しく健全に。ルールを守れぬ連中に割くリソースなどあるもののか」

「……さて、どうかな。少なくとも、集めたところを一網打尽と言う訳でも無いとは思うが。案外本当に『楽しむ為』の目的で集めらられるやもしれぬぞ?」

此方も、先日風紀委員となった少女については知り得ぬ事が多過ぎる。
クツリ、と愉し気な笑みを零しながらも緩く首を振って見せるだろう。

群千鳥 睡蓮 > 「そうですね。此処のカリキュラムは、実際すごく進んでる。
 異世界史、異能犯罪史、異世界物理、言語学、
 新しきを学ぶなら地球上の最前線にも思います。講師陣の層の厚さも含めて――
 でもそれくらいの予備知識しかなくて……なんかね?わたしも学生気分でいていいのかなーって」

本心かどうかはともかく、笑ってくれる人なんだな。
眼がそっと細められる。彼を視る瞳。認識を改める。
数多あるペルソナのひとつ。裏側も観てみたい。確かめたい。

「そうですね。日ノ岡先輩のことは知らないので……文書を見ただけの印象では。
 それをちょっと考えました。でも、神代先輩みてたら…そういうひとではなさそう。
 ひとところにまとめて爆破するなり毒を撒けば『リソース』を効率よく確保できるから、
 そういう催しなのかと思ったんです。風紀委員会が『国』の秩序を預かるなら、
 犯罪者、テロリストとの融和、取引は、著しく信頼を損ねる可能性もありますし。
 ……でも、本当に排除したいのは『話し合い』に応じる気がない人たちだって」

肩を上げて、落とす。リソースを圧迫する者たち。秩序を侵す者たち。
視線を背けてから、改めて戻す。
外との大きな違いだった。予想だにしていなかった。
探ってあるいは試すようにして、この言葉で表した。口にするのは苦い言葉で。

「……殺しても良い人たち、なんですかね」

神代理央 > 「寧ろ、精一杯学生気分でいて貰いたいものだ。国民だのなんだのと言いはしたが、此処の本質は教育、研究機関である学び舎だ。
正しく学生である事が正しいのだし、そういう生徒を守るのが私たちの仕事なのだからな」

彼女の言葉に頷き、小さく微笑んで頷く。それは所謂『後輩への疑問に応える先輩』という立ち位置を守るかの様な。
彼女の真意を知らず。寧ろ、知らぬからこそ、穏やかな笑みは崩れない。

「風紀委員会に所属する者達は、同じ大義を背負えど思想も想いも皆違う。私なら、そもそも話し合いの場を作ろうとも思わん。そう考えれば、日ノ岡の発したあの話し合いとやらは、画期的なものであるかも知れん」

其処で言葉を区切り、上下する彼女の肩を。改めて向けられた視線を。"穏やかな笑み"の儘受け止める。

「『国』が認めぬ者達だ。書類上存在し得ぬモノだ。殺しても良い云々、という概念ですらない。其処にいないのだ。対外的には。
群千鳥の様に、正しくルールを守る生徒が学生気分を味わう為に常世学園は存在する。いないモノにそのリソースを割り振るのは、無駄だ」

穏やかな儘、笑みを浮かべた儘。しかし、その瞳に初めて宿る仄暗い焔。それらを真直ぐぶつける様に、彼女に淡々と答えるのだろう。

群千鳥 睡蓮 > 問いかけに対して、淀みのない返答を向ける『先輩』に対しての、
後輩の瞳は、敬意に満ちたものだ。軟派な色はない。
だからこそ言葉を向けられる。打てば響く凛冽な鐘は、……心地が良かった。

「あれですか、映画とかでよくある、我々とて一枚岩の組織ではない、ってやつ。
 思想がすべて違う、秩序を預かる委員会。……学生自治の弊害。
 ――『しかし、必然的にそうなるようになっている』、のか?
 不思議ですね、それこそ。もちろん、噂に訊くお歴々は……神代先輩をはじめとして、
 すごい人達が揃っているけれど、それがひとつの委員会として機能しているのは、
 とても興味深く思います――けれども、やりづらくないですか?」

それは疑問ではなかった。確信からの確認だった。
彼の姿勢はいわゆる急進派、過激派に属するそれに思える。
少なくとも「学園」からの見え方は穏やかで、清廉にも視える、だからこそ。
暗い炎に問いかけた。

「そういう『もの』を『掃除』するにあたって、
 それがたとえ正義とかそういうものが正しいと言っていても。
 そこに異が唱えられる。続けていれば正しさにさえ歪みを生むような。
 殺して良いものを選り分けていても……です。
 ……それでも神代先輩は、風紀委員なのは、どうしてでしょう」

若干、深入りになった。伺う瞳は、焼け焦げても構わぬと探求の色をみせる。
風紀委員。それは彼の掲げる御旗なのか、それとも彼を彼たらしめる枷なのか。

神代理央 > 「組織に所属する全ての人員が同じ思想、同じ理想と行動原理を抱くという事は非常に難しい。というよりも、それは最早人の組織とは言わんだろうな。感情の無いAIにでも任せておけば良い。
方法に多様性はあれど、追い求める理念が共通であるなら組織は動くのだからな」

そこで、言葉が途切れる。
けれども、と彼女が繋げた言葉。やりづらくないのか、と。そう告げた言葉に対する答えは、堰き止めた水の様に一度途切れる。

そして、仮面が歪む。道理を説く。或いは、後輩からの質問に答える先輩、という体では無い。
仮面が剥がれた訳では無い。歪み、捻れ、形を変える。後輩としての群千鳥では無く、一人の人間としての彼女に相対する為の仮面へと。

「……どうして、どうしてか。そうだな。風紀委員会が私の望む理想に一番近い組織であったから。それだけだ。
『多数派』の秩序を守り、公権力の座に位置し、振るう力には曲がりなりにも大義が与えられる。公安委員会よりも武力を求める傾向が強く、市民からの認知度も高い。
必要最低限を満たしているのが風紀委員会だから、私は純然な風紀委員として組織の為に力を振るう。それだけだ」

そこでふと、彼女へ向き直り、一歩だけ。ほんの一歩だけ革靴を鳴らして彼女へと歩み寄る。

「好奇心は満たせたか?望んだ答えは得られたか?そして――好奇心は猫をも殺すという言葉を、お前は知っているか?」

ふわり、と微笑んだ笑みは嫋やかな少女の様で。
その瞳は、奇妙な程の愉悦に歪んでいただろうか。

群千鳥 睡蓮 > 瞳は真っ直ぐに神代理央を見つめている。
それは必然性の探求であった。そこかしこに落ちた欠片を拾い集めるように。
そこに在る神代理央を見つめる瞳にある、敬意も、興味も、揺るがない。

「理想……、神代先輩は、『そこ』ですか。
 正義ではなく、風紀委員会でもなく、ルールや生徒でもなく。
 秩序のためのマキャヴェリズムではなく、書類上ないものへの制裁を――愉しむような、」

彼の動きにあわせて、体が、手すりから自然に離れた。
正対する。こちらは半歩だけ、片足だけ後ろに下がった。
必然的に先ほどより近づいた顔。唇は震えた。
その表情と、続いた言葉の意味を理解すると、
一般生徒――類型的な言葉で括るなら――なら悲鳴を上げ、哀訴でもって許しを乞う。
知ってはならぬものを知り、贖わなければ罪を負ったその唇に、

「だめです、先輩」

ひとさしゆびをかざして、
"忠告"を向けた。瞳はまっすぐ神代理央を見つめている。
さっきから一度たりとも瞬きをしていない黄金の瞳で。

「……だめですよ、先輩」

少し険しい顔をして、具体性を欠いた忠告を重ねた。
彼がその気なら、こちらも試さずにはいられなくなる。
必然を探求せざるを得なくなる気がした。
斬り込む角度を探った。斬り込める隙を伺った。
そもそもの話、彼の言葉を鑑みるなら、自分は猫ではなかった。
群千鳥睡蓮だ。だから、必然的に、ここでは死なないのだ。
此処は自分の間合いだった。

「……好奇心は満たせましたし、望んだ答えも得られました。
 神代先輩のことを知れた。今日、此処に足が向いたのは何故か。
 その必然性にも得心がいきました。 さて、では最後にひとつ……
 後輩のくだらない話に付き合っていただけますか、神代理央、先輩。
 国であり、教育機関であるこの島、あなたがさっき言った『本質』ということばについて」

その唇を、猫科のなにかのように笑ませた。
意外ではあったとて、目の前の神代理央を、そういう人間と得心しただけのこと。
奇妙なまでの余裕を保ち、立てたままの指を、ひとつだけ、と念押しした。

神代理央 > 「おや、心外だな。此れでも、私なりに理想を求め、それなりに委員会へも尽くしているつもりなんだがね。
それに、私は別に制裁や虐殺を好む訳では無い。連中が死のうが死ぬまいが興味が無いだけだ。存在しないものを甚振って面白い訳があるまい」

「風紀委員会が私の理想に近いから。正確には、理想を叶える練習台足り得るから所属しているに過ぎん。落第街への弾圧も、違反部活への苛烈な処置も、其処に至る付属品でしかない」

僅かに眉を上げ、彼女の言葉に首を振って見せる。
制裁を愉しむ、というレベルですらない。例えば、空き地に建物を建てようという時に、其処に巣を作る蟻を一々踏み潰して喜ぶ者がいるだろうか。逆に、蟻を踏み潰すのは可哀そうだと、工事を延期して蟻の巣を移転させる事にメリットがあるだろうか。
其処に蟻がいようがいまいが、重機で掘り返して更地にして。基礎を作り建物を作る。先ず『大多数』にメリットがある結果を優先し、その過程にある少数派は全て排除する。
風紀委員会では決して認められないが、学園においてその理想が一番叶えやすい場所。それが風紀委員会だから、己は所属しているだけなのだ。

「……そうかね?だが、その否定はお前の主観。お前の感情。お前の論理。それが私を縛る鎖足り得るのかは、興味があるところだが」

彼女が告げる忠告に、小さく肩を竦めてみせる。
決して頭ごなしに彼女の言葉を拒絶する訳ではない。しかし、大人しく受け入れるつもりもない。
半歩引いた彼女を眺めて、クツクツと愉快そうに嗤った。

「構わんよ。今の私は機嫌が良い。付き合ってやるともさ、群千鳥」

指を立て、ひとつだけと告げる彼女に緩く笑みを浮かべた儘頷いて見せる。

神代理央 > 【後日継続にて】
ご案内:「大時計塔」から神代理央さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」から群千鳥 睡蓮さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」に神代理央さんが現れました。
ご案内:「大時計塔」に群千鳥 睡蓮さんが現れました。
群千鳥 睡蓮 > 認識を修正する。出来の悪い生徒に「誤り」と「正解」を教えてくれる有様に、
どこか眩しそうに眼を細めた。そこには敬意がある。変わらず。敬意しかなかった。

「機嫌が上向く理由が、あまり理解できないのが気になるとこですけど……
 神代先輩のことを、わたしに深く理解できるわけもないですね。
 いまは先輩のご厚意に預かりましょう、せっかく、
 こんな誰も来ないような場所で、先輩を独り占めさせていただいているんだし」

人差し指の高さを僅かに下ろす。
美貌の微笑みをその瞳に映したままに、訥々と語るは自分の事実。

「この、檻のような島の……」

自分をここに編入させた両親からしたら、そう観えていたのかもしれない。

「本質は、確かに学び舎というのは間違いないと思いますけど。
 尋常の教育機関とは、著しく掛け離れているでしょう。
 むしろあなたの尋常でない学生生活のほうが、よほど本質という言葉には近いようにも。
 ……あなたのお掃除は、およそ外では履修できないカリキュラムでしょうし」

立てた人差し指をくるりとふるうと、そこに古びた手帳が現れる。
僅かに腰を折る。あえて低くした視線が見上げる。
スイーツ部でこれは見せたっけ。蒐集する異能として、申請しているものだ。

「わざわざ餌を探す必要もないとは、望外の幸福です。
 ――外では満たせぬものを満たすばしょ。
 そういうものではないでしょうか。さて、これは異能を記述する異能ですが……。
 それであるからこそ、わたしからすれば理央先輩と『いないクン』たちは、
 等しいモノとして認識できます。同じ、ひとつの異能、ひとつの魔術、ひとつの災異。
 おなじ人間。……出来の悪い、好奇心旺盛な猫に、 
 先輩はどのようにして、彼我の違いを教えてくれるのでしょうか?」

力を抜いて、抵抗の様子は見せない。自分が猫であるか、試してみよう。

神代理央 > 「簡単な事だ。こうして猫を被る必要が無いというのは、存外気楽だし楽しいもの。それだけだ。私は案外単純な人間だ。小難しく考える必要等無い。
独り占め、か。レンタル料は高く取らねばならんな」

愉悦の笑みを浮かべる己とは対照的に、訥々と言葉を紡ぐ少女。
彼女が果たして己に何を問い掛けるのか。それを期待する様な眼差しが、唯真直ぐに彼女に向けられている。

「…ふむ。確かに、此の学園が島外の教育機関と逸脱した教育機関である事は認めよう。だが、それは今更の事実。十数年間、学園はそうあり続けてきた」

其処に少女が何を求めているのか。そう問いかけた言葉は、少女の手元に現れた古びた手帳によって中断される。
初めて部活棟であったあの日。彼女のデータベースは大雑把にではあるが目を通している。申請されていた異能の能力は確か――

「…蒐集と分析の異能。データベースの構築、だったか。此の状況で、その異能をどうしようというのかね。今から日記でも書き始めるつもりか?」

と首を傾げた直後。
彼女から紡がれた言葉に、僅かに瞳を細める。愉悦では無く、興味と観察の色を強くした瞳が、腰を折り此方を見上げる彼女を、正しく睥睨していた。

「つまり、私と二級学生共の明確な違いを述べよ、と言う事か。
それならば簡単な事だ。何という事は無い。貴様も色々と私の答えを期待しているのだろうが――」

「【選択と行動】それらを弛まず行い、過ちを犯さなかったか。それだけだ」

群千鳥 睡蓮 > 「それは、どうも。 新しい一面が識れて、わたしも嬉しいですよ。
 でもこんな夜ですから、いきなりばきゅーんっ!てされやしないか心配かな。
 ……さすがにわたしの口封じるのに、そんな必要もないでしょうが。
 果たしてなにを対価に求められてしまうやら、気が気でならないですね」

編入したての新参者と、彼。格差でいえば、まさに天地である。
奇妙なスタンスを取って向かい合う。興味をそそった様を観るや、それを裏返し。
突然あらわれることを除けば、単なる手帳でしかない。

「先輩のために、詩でも吟じましょうか。 
 と言いたいところですが、こいつは観て分析したままを、 
 自動でやってくれるので、素敵な思い出は胸に綴じますよ。
 ……さあ、どうにも。『此の状況』って、どの状況です?
 たのしいおはなしをしている間に、先輩が異能をちらりと見せてくれるかも?
 そうしてわたしのための『餌』になってくれることを、とどのつまり期待しています」

誰に対しても、最初から最後までそうなんだと。
追い詰められた、という意識も見せない。無防備に構えたままだ。
視線を外に向ける。人気がなかった。穏やかな夜景。
その明かりは歯車が時を刻む塔を闇に包み――
返答には、冗談を聞いたように破顔した。

「……ただの一度も?」

神代理央 > 「無抵抗の生徒に銃口を向ける程、快楽殺人に浸ってはおらぬ。それに、そんな事をしても私にメリット等無かろう?
寧ろ、何を求めようかと考えている時間が一番楽しいものさ。貴様から何を得られるのか。何を奪えるのか。何を咀嚼する事が出来るのか。
まあ、大概取りはぐれるばかりだがね」

小さく肩を竦めるも、その観察する様な視線は彼女の"価値"を測るかの様に離される事は無い。
視線そのものが鎖になったかの様な。視界から決して捉えて、離さない。そんな視線を向けた儘、口を開く。

「素敵な思い出に成り得るかは、貴様次第だとは思うがね。
しかし、異能が見たいのなら。私をその手帳の糧としたいのなら。それはそれで構わぬさ。可愛い後輩の頼みだ。聞いてやらん事も無い。
――しかし、その代価は?貴様が私に差し出せるモノは何だ?金か、忠誠か、その躰か、その他の何かか。私を餌にしたいのなら、高くつくぞ、群千鳥」

夜景に視線を移した彼女を眺めながら、フン、と高慢な吐息と共に言葉を返す。己を餌にしたいのなら、自らが喰われる覚悟くらい決めろと暗に告げれば、二人の間を夏夜の熱気を拭き流す様な夜風がすり抜ける。
そうして、破顔した少女に向けるのは相も変わらずの尊大で高慢な感情を湛えた緩やかな笑み。

「当然だ。あらゆる選択肢に置いて誤らなかったからこそ、私は此処に立ち、連中は死ぬ。
どんな境遇でも、どんな状況でも。他者に打ち倒されぬ限り、あらゆる選択は結果として最善だ。無論、唯惰性で生きている連中もいるが、それもまた一つの選択。
私は、他者を踏み付け、踏み台にして私の道を歩む。其処に至る迄の様々な選択は、結果として私の命を奪うに至らない。
であれば、私は誤ってはいない。私の理念と理想が折れる迄はな」

群千鳥 睡蓮 > 肩を大きく震わせて、笑みは何時しか獣のそれに。
すべては等しく自分の為にあると信じて憚らぬ独尊の色を示す。
目の前にある『餌』を観て、美味しそうだと舌なめずりする野の獣。
その食欲は、神代理央であろうが、二級学生であろうが、
等しく価値あるものと扱う、また違った道理で生きるモノの視線だった。

「くくっ……ふふっ、いやあ、ものの喩えでしょうけども、先輩は意外とえっちですね。
 金や忠誠と同じ程度に、わたしの肢体(からだ)に価値があるとは思えませんが。
 『餌』にくれてやる対価なんてねえよ、って、そんな本音は喉に押し留めてみて……
 そうだな……わたしがあなたにあげられるものか、なにかあるかな」

盗み見るもまた道だが、示されたなら応じてみるのは敬意の話だ。
首を傾げ、見上げる有様。値踏みをするのはこちらのほう。
牙を剥いた形になった笑みの唇に、人差し指を走らせて。

「でもそれは、たまたま運が良かっただけかもしれない。
 先輩が先輩を負かす力に出会わなかっただけかも。
 ――ああいや、先輩が誤っているとか、行動していないとか、そう言ってるわけじゃないです。
 証明し続けなければならない証明って、証明にはならないですから。
 力あるものが自分が正しいと言ったから、正義が力を持つことはできなかった、
 ……というのは誰の言葉でしたっけ。 力は議論無用だ、と」

大局の判断ではなく、他の連中とどう違うのか。
神代理央とはどれだけ強く、『ちがう』のか。それを『わたし』に教えてほしい、と。
後輩は、熱心に、彼を見つめた。挑発ではなかった。真っ直ぐな疑問だった。

「たとえばわたしが……たとえばですよ?
 先輩と同じように、『いないクン』を大量にお掃除してたとします。
 殺人鬼、いやあなたの倫理に則るならひとではなくて、ごみか。
 わたしにとっては餌ですが――このわたしが、
 あなたが過たぬものであると理解するには、
 どうすればいいのでしょうか。至極単純明快に識るためには。
 ……これにも、なにか対価が?」

神代理央 > 少女から獣へと変貌する。その様を、檻の外から眺める様な。或いは、とても珍しいモノを見たとでも言う様な、そんな視線。
行動原理も、物言いも、求めるモノも。何となくではあるが、己と似ているのではないだろうか、とそんな疑念が思考を過る。
それ故の、視線。獣を縛る様な視線。

「おや、そうかね?私に取っては、金など微々たる対価に過ぎん。貴様の忠誠は、端から信用ならん。貴様の肢体に価値を見出したのではない。他の二つの価値が、相対的に低いだけの事だ。
――しかし、その本音。何も押し止める事はあるまい?どうせ私達しかおらぬのだ。気楽に話せば良かろう」

彼女の獣性を。貪欲さを。もっと曝け出してみせろと言わんばかりに唇を歪める。
値踏みする様な彼女の視線にも、鷹揚な態度と雰囲気でそれを受け止める。


「パスカルの言だな。人は正義に力を与える事が出来なかった、とは善き格言だと思う次第だよ。
しかし成程。運だのという不確定要素を。運命論的な事迄欲するか。つくづく貪欲な女よな、貴様は」

或る意味で真摯に。そして真直ぐに。
真正面から疑問をぶつける彼女に、愉悦の色は消える。己の『強さ』を問う彼女に、応えるべき言葉は。

「――私の死を願えば良かろう。或いは、私を此処で、何処かで、殺せば良かろう。…ああ、何も破滅思考の意味で言っている訳では無いぞ?
私にとっての過ちは死だ。其処に至る迄の選択に後悔は無くとも、物事を成し得ぬ儘の死は私にとって唯一にして最大の過ち足り得る。
最も単純で、明快で、明確な過ちは等しく死でしかない。過たないと奢る私を、殺してみろ、群千鳥」

対価など、求める様な答えでは無いさと締めくくり。
悠然と、妖艶に、笑みを浮かべてみせた。