2020/06/25 のログ
■群千鳥 睡蓮 > 「それはそれで傷つくなぁ……掛け値なく視てくれたなら『あげて』も良かったのに。
って、後出しで言うのは小狡いかな。性欲あるようには見えなかったのもあるけど。
――良いんですか? 猫を被るなと言われれば、わたしは猫でなくなって。
ここで死ぬ必然性も、ついにはなくなってしまうのに……くっ、くくく、いやあ、………
相対的に、小金井サンが凄いって話になっちゃうんじゃないかな――これは」
あの場で出会ったのも、すべては必然だったというわけだ。
少女然として、ころころと腹を抑えて笑う。
はぁ、とひとくさりそれを玩味した後、向き直る表情にはもう遠慮もない。
虎の笑み。自分を絶対的な強者と、必然的にそうであることを信じて疑わない在り方。
そうだなあ……と、歩み始める。
互いの距離を変えないまま、弧を描く。
「選択と行動、勝利……生存が強さの証明だとすれば、落第街の存在こそがあなたを否定してしまう。
そうでしょ。間違ったものを全て押しつぶさない限り、その事実は証明されない。
……ね? いや、そうかも、って納得するのが物分りの良い生徒なんでしょうけどね……、っと。
うん……そう、ここなら誰も視えないし、何も聞こえない」
時計塔から展望スペースへ出る入り口を背にして、構える。逃げよう、という風情ではない。
両手をカーゴパンツのポケットに押し込んで、いたずらっぽく微笑んだ。
「そうだなぁ……そうだな、あんたが死ねば、逆説的に……
あんたが間違っていたと。他の連中だと同じだと、あんたを否定する理論は証明できる。
でもね、そんな判りきったことが識りたいんじゃないんだよ、あたしは。
あんたの死もまた、多くある必然的な帰結に過ぎないんだ。何もおかしいことじゃない。
そう決まっている。 それでも、あんたは自分が正しいと言った。選択と行動を過たないと。
……あんたほど頭の良い人が、そう言うのがとてもおもしろかったから、
あたしもまた、きょう……あんたと会ってした選択を行動が、正しかったか証明したい」
首をかしげる。自然体だ。
「撃ってもらえる? あたしを。
あたしが死ななければ、あんたはさっき死んでいたことが証明できる。
……一歩は深かった、半歩であるべきだったと、実証するよ……理央?」
■神代理央 > 「私とて男なのだから、性欲くらいは人並みに持ち合わせているつもりだよ。それを露わにすると面倒だから、そうしていないだけだ。
――ふむ。良い貌をする様になったな。そうでなくてはつまらぬ。そうでなくては、今宵貴様の為に割いた時間の意味が無い。
……む、奴は尊敬に値すべき男だ。其処は譲らぬ。笑い話に出されるのも腹立たしい」
獣として。己を喰らう虎の様に。笑う少女を眺める瞳は、その事実に満足する様なもの。
その瞳の色がほんの僅かに変化したのは、己と少女に甘味を振る舞った青年の名前が挙がった時だけ。その時だけは、僅かな。本当に僅かな苛立ちを瞳に浮かべているのだろうか。
「そうかね?私は、あの街の存在そのものが過ちだとは決して思わぬよ。あれはあれで、必要だから存在している。あの街を潰してしまおうとは、私も決して思ってはいない。私が望むのはあくまで剪定であって、消滅させる事では無いのだからな」
歩みを進め、出入り口を背に微笑む少女を視線で追い掛ける。
「その必然を。分かり切った答えを得る事こそが至難ではないのかね。知識として理解している事を現実に起こす事がどれ程困難なものであるか等、我等の先人が身を以て証明している事だ。
その必然も。此の世の理だと信じた事も全ては砂上の楼閣。明日には、全く違うモノになってしまっている。
――だから、貴様も私も。己の強さに。自己の存在に存在証明を求めるのだろう?」
そして、自身への危害を求める彼女を、暫しの間静かに見つめる。
そのままゆっくりと。上質な革靴がコツコツと床を叩く音と共に、彼女へと歩み寄る。彼女の静止が無ければ、その距離はあと一歩、という所まで近づくだろうか。
静止が入れば、其処で素直に立ち止まるだろう。何方にせよ、次の行動は変わらない。
「構わんよ。可愛い後輩の頼みだ。それに、私は貴様が気に入った。それくらいの望みであれば、叶えてやるとも」
腰から徐に拳銃を引き抜く。何の変哲もない、コルト・ガバメントと呼ばれる類の拳銃。その銃口は躊躇いなく彼女の顔へと向けられ――引き金は引かれ、渇いた銃声が展望台に響いた。
■群千鳥 睡蓮 > 「そう。 全て運命だった、なんて諦めるんじゃない。
必然の帰結が起こった時、どう運命を受け入れるかの話なんだ――理央。
あなたは選択と行動をし続ける。『終わる』その時まで、この学園から羽ばたいた先でも。
そして『終わった』時、もしかしたらすべてが過ちだったとつるぎのように明らかに示されるかもしれない。
――それを受け止められる強さを、あんたが持ち得るかどうかの話だ」
興味はそこだった。口だけのお坊ちゃんか、パスカルの論理を纏った信用ならない極論者か。
歪み、狂っていても、真の強者か――その地金を追い求めた女は、
至近距離から放たれた銃弾を、ポケットから抜き放った右手で事も無げに掴み取った。
刹那にも満たぬ合間に、それを成して、視線は理央から動かない。
「顔を狙うなよ。あたってたら美少女が台無しになってたでしょうが。
……さて、少しは信憑性が生まれたかな。
もしかしたら、あんたがさっき『間違って』いたかもしれない……って。
でも、あたしがいま確かめたのは、その時やらなくてよかったってことだ。
ほんとうに、面白いひと……わかりきったことなのにね、確かめずにはいられない」
果物を絞ったようにぼたぼたと握った手の隙間から血を流しながら、
それでも淀みなく指を動かし、掴み取った銃弾を指で弾いて本来の持ち主にお返しする。
銃弾の処分など一般生徒にできるわけがない。
確認行為は虚しく、わかりきったこたえが見えただけで、ひどく寂しそうに眼を細めた。
もし、さっきの『死』が事実だとして、もし目の前の男を殺していても、同じ顔をしたのだろう。
やっぱりか。そんな風に。
「……さて理央、あんたはさっき言ったな……此処でかどこかで殺したらいいと。
でも、あたしが誰かを殺すとき、いつも思うのは、
このひとは、あたしに殺されて死ぬために生まれてきてくれたのか、その探求だ。
あんたもそうだ。 間違いない。
それを証明する無意味な行為を、この学校では我慢しようと心で決めていたのに。
……そんなイヤラシイ妄想をさせた責任はとってもらおうかな」
そう言うなり、垂れ落ちる血液を、手首から舐め取って。
ポケットに押し込んだ。選択も過ちもない場所から、『死』が忍び寄る。
「……なんか食べに行こ、甘いやつ。片手で食べられるやつね」
と、背を向け、変わらぬ獣の瞳で、怪我していないほうの手をポケットから出すと、
共の帰参に誘うのである。
■神代理央 > 「――ハッ、何を言うかと思えば。選択と行動の結果を運命と論じるならば、それは最早選択ですらない。フローチャート通りに動くプログラム。ゲームのAI以下の存在だ。与えらえた選択肢も、己が選んだ選択も、全て結果ありきの事になる。
良いか、群千鳥。受け入れるべきは運命では無い。己の選択そのものだ。運命論を信じるも良い。だがそれは、俺達の上位に、俺達の行動を自由に選択し、動かすプレイヤーが存在するという事だ。
そんな事、俺は認めぬ。選択を誤り、命を失ったとしてもそれは己の失策。己の、自分だけの権利。死は与えられるものであっても、死に至る経緯は誰のものでもない。
――受け止める強さだと?そんなものは必要無い。どの様な終わりであれ、其処に他者の介入無く己の意思で選んだ道であれば、後悔などするものかよ」
運命等信じない。此の世に神がいるとしても、それが自分達の運命を決めているなどあってはならない。自分達の行動を決めている"誰か"が存在するなど、断じて許せる事では無い。
だから、彼女に向けて初めて浮かべる獰猛な笑み。己の何もかもを全て、その手中にあると宣言するのは、変わらず傲慢で、それでいて激しい気性を内に秘めた笑み。
「安心しろ。多少歪んでも、落第街辺りでならば客を取れるだろうさ。
まあ、御眼鏡に適ったのなら何よりだ。後輩と殺し合う等、無益な行動に時間と体力を注ぎたくはない。
……それに、私は結果論を重んじる派でね。こうして、私と貴様は生きている。生きた儘、話をしている。ならば仮定の選択も全て、最良では無いが最悪では無い。過ちでは無かったと、胸を張りたいところだがな」
それは詭弁でしか無いのかも知れないが。
己が死なず、彼女も死なず。こうして話を続けて居られている事は、己の選択肢が少なくとも過ちでは無かったのだと高慢な笑み。
一歩間違えれば、時計台が崩壊する様な戦いを繰り広げていた可能性もある。その可能性を、二人はそれぞれの選択によって摘み取ったのだ。
寂しそうに眼を細める彼女から銃弾を受け取ると、それを掌で弄びながら肩を竦める。
「ほう?私は、貴様に殺される為に生まれて来た、という訳か。では、貴様にとって定められた運命とやらに精々忠実であるが良い。
私は、自己の決定権まで他者に委ねるのはごめん被るからな。貴様の運命も妄想も、噛み砕いてやるとも」
そして、差し出された手を握る。
静かに、そっと触れる様に。
「学生街に良い素材を使うソフトクリームの店がある。奢ってやるさ、銃弾一発分くらいはな」
また一つ。己に付き纏う死の影。その象徴たる少女に穏やかに笑いかけると、共に夜の帳が下りた学生街へと消えていくのだろう――
■群千鳥 睡蓮 > 「ほらまた――理央はすぐそうやって変な想像をさせる。 えっち。
すべて自分が選びぬいた意志が道を作って、
そのうえで自業自得を前にしても悔やまずにいられるのかどうか。
試してみたくなっちゃうだろ。あんたがそうなのかって。
笑って死ねるのは、強者の特権だから。 ……あたしのような」
熱っぽい瞳で見やる。意志の瞳を、語る喉をその首を。
血の味の残る唇で笑うなり、疼く腕を意志で制する。
この男が獅子かどうか、信じたいと思うままに信ずればいいのに、どうしても。
つよくなればなるほどにすべてを必然と見据える瞳は、その呪いにこそ縛られている。
「最悪なフォローしたな……気に入ってくれてるならもっと後輩には甘い言葉かけろよ。
いいけどね、今日はずいぶん面白かった。あんたと知り合えて良かったよ、ほんとに。
……ああ、理央、知ってる? 聞いたことあるかな。
死は、忘れられない苦味が舌のうえに広がる、というよ。
その時に備えても、ちゃんと甘いものは食べておこっか」
触れた手を、指を絡めて握り返して。
「まさか米国価値基準で、とかケチ臭いこと言い出さないだろうな、お坊ちゃん。
乙女の柔肌分さっぴいて、一番デカくて美味いやつ食わせてもらうかんな!」
互いに猫ではなくなって、必然的に――学生らしい夜へ。
噂にならなかった僥倖もまた必然。運命の死神は再び、常世の影へ消えていった。
ご案内:「大時計塔」から群千鳥 睡蓮さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」から神代理央さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」に鞘師華奈さんが現れました。
■鞘師華奈 > 時計塔は基本的に一般生徒などは立ち入り禁止だが…特別厳しい監視下に置かれている訳でもない。
あっさりと時計塔に入りつつ、地味に長い階段を上って頂上へと姿を現す。
「――誰も居ない…のは何時もの事だけど」
とはいえ、ここで出会いもあったりしたので一概に人気が無いとは言い切れない訳だが。
干満な動作でスーツのポケットから煙草の箱を取り出し、片手で蓋を開けて1本だけ器用に手首のスナップで抜き出す。
口の端に咥えた煙草に、最近やっとこさ購入したジッポライターにて華麗に火を――
「………む。」
カチッ、カチッ、と何度やっても火が点かない――あ、そういえばオイル注入して無かった。
…幸い、誰も居ないのでかっこ悪い所は見られずに済んだと思っておこう。
ジッポライターは仕舞い込んで、結局は何時もの100円ライターで改めて点火。
ゆっくりと紫煙を立ち上らせながら時計塔からの景色を覇気の無い赤瞳で見下ろして。
■鞘師華奈 > (――しかし、…また何を考えているのやら)
違反部活及び二級学生との”話し合い”。同僚でダブり仲間の一応友人が告知していた内容を思い出す。
何か考えがあっての事か、それとも案外何も考えてないのか…自分みたいな面倒臭がりには分からない。
赤い双眸を眼下から遠くへと向けながら、緩やかに煙を燻らせながら目を細める。
「――興味があるなら”一般生徒”も見学可能、か。…面倒臭いけど行ってみるかな」
”元・二級学生”にして既に壊滅して跡形も無い違反組織の残り火。
別に今更落第街のあれこれに積極的に関わる気は欠片も無かったのだけども。
「…あーーでも、会場とかは喫煙は駄目だったら少し辛いかも。…まぁ、その時はその時でいいかな」
と、本気か冗談かそんな独り言を呟いて肩を竦める。喫煙者の肩身は狭い世の中だ。
■鞘師華奈 > 「…そもそも、風紀委員…ね。最近だと何やら全裸のアフロ男だの、色々な変た――変わった連中が目立ってるらしいけど」
(――いや、この島の治安を連中に任せて平気なのか?少なくとも私はびみょーな気がするんだけど)
と、至極真っ当な疑問が今更過ぎるが…まぁ、いいか。落第街にも変た…変わり者は多い。
変わり者には変わり者を。それが手っ取り早いし面倒が少なくていい…か、どうかは知らない。
短くなってきた煙草を取り出した携帯灰皿に押し込みつつ、最近の街の空気は、何と言うか…そう。
「――”嵐の前の静けさ”――なんていうのは大袈裟なんだろうね、全く」
高みの見物や傍観者に徹するのが楽でいい。美味しいところだけ見れるから。もっとも、知らず巻き込まれるのも嵐というものか。
ご案内:「大時計塔」に日ノ岡 あかねさんが現れました。
■日ノ岡 あかね > 「どうかしらね?」
くすくすと、いつのまにか……隣であかねは笑っていた。
華奈の隣に座って、相も変わらず微笑んでいる。
以前と違うのは……左腕につけた腕章だけ。
「会場喫煙については特に何かいうつもりはないけど……カナちゃんも来てくれるの?」
嬉しそうに、あかねは笑った。
■鞘師華奈 > 「――そうだね、まぁ流石に周りの皆が自重するなら私も控えるけどね?」
そして、何時の間にか隣に居る同級生にして友人。最早驚く事も無くなった。
元々、この女の態度や感情の波が劇的に変化する事は無い。鞘師華奈はそういう存在だ。
ちらり、と2本目の煙草を口へと咥えながら彼女の左腕に付けられた腕章を見る。
「――名前忘れたけど、風紀委員でも君の場合は何か特殊な位置づけじゃなかったっけ?
――あと、来るかどうかで言えば多分行くかもね。あくまで一般生徒枠でただの興味本位」
小難しい話なんて私には分からないし、と肩を緩く竦めながら何時もの調子で気だるそうに煙草を蒸かし始めて。
■日ノ岡 あかね > 「風紀委員会元違反部活生威力運用試験部隊」
やたらと長ったらしく、一つも振り仮名も送り仮名も入らないその名をすらすらと諳んじて……あかねは笑う。
紫煙が風に流されて、空に溶けて消えていく。
「別に特殊でもなんでもないわ。タダの鉄砲玉。タダの首輪付き。タダの元違反部活生」
ニヤニヤと、あかねは笑う。
「誰でもなれるわ。なろうと思えばね」
目を細めながら。
「――勿論、『私と同じ』、カナちゃんだってね?」
そう、小首を傾げた。
■鞘師華奈 > 「――うん、長すぎるから個人的には略称を付けた方がいいと私は思うよそれ。
…名前からして、元・違反部活生を集めた試験的な部隊って事かな?」
スラスラと長ったらしい部隊名を口にする友人を横目で見ながら苦笑気味に。
喫煙に関しては、そもそも隣の友人は何時ものように笑顔のまま気にはしないのだから、堂々と吸っており。
「――ついでに言えば、”替えも割と利く”って所?実際どれだけ”候補”が居るかは知らないけどね」
ニヤニヤとしたあかねを見て、相変わらず常に笑顔な事だと女は思う。
何が楽しいのか、何を嗤っているのか、どうして――笑顔しか印象が無いのか。
「――いやいや、そういう面倒なのは私はパスだよパーース。誰でもなれるからと言ってなる気はサラサラ無いし」
…嗚呼、まぁこの友人なら自分の大まかな経歴なんてどうせ知ってるんだろうな、とは思っていた。
既に壊滅したとある武闘派の違反組織の残り火――燻る焦熱。それが”元・幹部”である自分のつまらない肩書きだ。
「――アレだね、世間は狭いというか。”似た者同士”は惹かれあうってやつ?」
冗談ぽく口にしながら、緩やかに紫煙を空へと流す…溶ける煙の向こう、昔日の残火を僅かに思い。
■日ノ岡 あかね > 「そうよ。だから、私とカナちゃんが出会ったのもきっと必然。こうして友達になったのもきっと運命よ」
馴れ馴れしい笑みを浮かべて、あかねは華奈に微笑み掛ける。
いつもの笑顔。いつもの態度。
懐いた猫のように、あかねは華奈に身を寄せる。
「だけど、多分それだけじゃないわ」
あかねの瞳が……細まる。
黒い瞳が。夜の瞳が。
「ねぇ、カナちゃん……一緒に来ない?」
華奈を見る。
「私を『言い訳』にしていいから。私の『お願いで仕方なく』でいいから……来てくれない?」
深い、深い黒瞳が。
「一緒に『面倒』……楽しまない?」
華奈を、覗き込む。
「まだ熱は微かに……籠っているんでしょ?」
■鞘師華奈 > 「――運命とか必然、ねぇ。…あかねって運命論者だったっけ?」
馴れ馴れしい笑みが常だろうと、その裏側に何が潜んでいようとも。
友人は友人。それが仮初だろうが仮面だろうが大して気にする事でも無い。
あかねが本音で語っているならそれでいい。嘘ならそれもまた一興だ。
――と、身を寄せられて「こら、まだ吸ってるんだけど」と抗議しつつも拒みはせず。
「――あら、そう来たか…予想外、というか…んーー…あかねはさ。
――そこまでして”私に”来て欲しいのかい?ただの都合のいい同類じゃなく?
…あと、それが君の願いであり望みなのかな?私とは対照的な――」
面倒臭がりの自分とは対極ともいえる、面倒を楽しむ彼女。
それを否定はしない。熱もまだ残っているのも事実ではあるのだろう。
だけれど。似てはいても対極の思いを抱く者を勧誘したいものだろうか?
「取り敢えず、答えるにしても君のちゃーんとした”本音”が私の知りたい所。
答えたくないなら勿論いいけどね…君はちょーっと、色々と”神秘的過ぎる”よ」
もうちょっと、本音で語るのもいいんじゃない?と、身を寄せてきたあかねの腰に緩やかに手を回そうと。
それが叶うならば、軽くこちらに引き寄せて間近に見詰め合おうか。既に煙草は足元に落ちて、それもどうでもいい。
――赤と黒の視線を間近で対峙させよう。
■日ノ岡 あかね > 抗う事もなく、逆らう事もなく、あかねはそのまま身を寄せて、猫のように目を細める。
足りないのはせいぜい、喉を鳴らす音程度だ。
互いの肌の香、髪の香が分かるほどに身を寄せて……あかねは笑う。
紫煙の強い香りですら、今は届かない。
「私はいつでも本音で喋ってるし、嘘なんて吐いてないわ。私は『楽しいこと』が好きなだけ。『面白いこと』が好きなだけ。カナちゃんが来たら『楽しそう』だから誘っているだけ……そこに嘘も裏もないわ」
相変わらずの笑みで、あかねは答える。
最初会った時と何も変わらない笑み。
寮で初めて会った時と、浜辺で二人で語った時と、何も変わらない。
いつも通りの日ノ岡あかね。
普段と変わらぬ日ノ岡あかね。
赤と黒。視線を一切逸らさずに……あかねはやはり。
「だけど、強いて言うならそうね……私はね、カナちゃん」
また――笑う。
「『ダッサいこと』と『つまんないこと』は嫌いなの」
『好き』ばかりを語るあかねが、珍しく語る……『嫌い』なこと。
それでも……あかねの笑顔は変わらない。
日ノ岡あかねの、その笑顔は。
「私、運命って好きよ。きっとそうだと思えば何でも面白い。きっとそうだと思えば何でも楽しい。何でも受け入れられる。何でも受け流せる。何でも飲み込める……だから」
いつも通りに、ただただ、いつも通りに。
「『覆る程度の運命』なら……いくらでも蹴っ飛ばせるってことよ。それもまた、運命だから」
笑みは――変わらない。
「ねぇ、カナちゃん。カナちゃんだって……つまんないより面白い方がいいでしょ?」
クスクスと、あかねは笑う。
楽しそうに。
可笑しそうに。
嬉しそうに。
「だから……一緒に、運命を塗り替えない? もっともっと、『面白い運命』に」
日ノ岡あかねは――笑う。
■鞘師華奈 > 生憎と、化粧は嫌いだし香水もアクセサリーの類も、女として着飾るのは昔から苦手だ。
別に、自分を男と思っている訳ではない…それでも、単に己の好みというやつ。
流石に煙草の匂いが強いだろうなぁ、とは思うけれど…彼女なら気にしないだろう。
「――そもそも、私が加わってどう楽しいのやら…あーーうん、今の無し。私がそっちに行くこと”そのもの”が君の楽しみに繋がるんだろうしね。
…けど、私が面倒臭がり屋なのは変わらないよ。燻っているのは否定しないけど、それが私だからね」
相変わらずの笑み、寮で荷物運びを手伝った時も、その次の海岸でも同じだった。
何時も通り、普段通り、何も変わらない――変わらない?そんな訳が無い。
何時も通りだろうと笑顔だろうと、視線を間近で交錯させたまま語る次の言葉に、そう思う。
「――何だ、分かり易くてシンプルじゃないか。全く、もったいぶらずに最初から普通にそう言えばいいと思うけど。
君は、何時も笑顔で嫌いな物なんか別に無い、って感じだったしさ。
――まぁ、あかねの事はやっと理解出来てきたよ。私なりに…だけどね。」
彼女の言葉が結局本当なのかそれとも嘘なのか。笑顔は変わらないし揺るがない。
それを覇気の無い赤い瞳でじーっ、と彼女の奥まで見据えるように眺めて。
「――”覆る程度の運命”、か。私はそういうご大層なあれこれを語る気は無いけど。
――ま、否定はしないさ。面倒でもつまらないより楽しい方がいい。
けど、私は運命を”不意打ちで塗り潰す”タイプなんだ…風紀は目立ちそうだしね。
私は誰にも気付かれず、誰にも認められず、誰にも賞賛されず、ただ――”ひっくり返す”」
トン、とあかねの胸元に右手の人差し指を突き立てるようにして添えようと。
それは自然な動作、自然な仕草、だからこそ避けようが無いもの。
その指が胸元に突き立てられたならば、軽くなぞるように下へと動かして。
「まぁ、色々と言ったけど――そうだね、誘いに乗ってみてもいい。けど――」
ああ、けれど。だったら見せてもらわないと。
「あかね、例の”話し合い”は盛り上げて欲しいかな。ダサいのもつまんないのも嫌なんだろう?」
盛り上がったら、君の誘いに乗ろう。盛り上がらなかったら?その時はその時だ。
結果的に矢張り彼女の誘いに乗るかもしれないし、きっぱりと断るかもしれない。
ただ、見たいのだ――友人の言葉が本音で本気であるのかを。
■日ノ岡 あかね > 不敵に……あかねは微笑む。
華奈の指先に抗いもせず。それを跳ね除けもせず。
ただ、そのまま、自然に立ち上がり。
「それは私もまだ分からないわ」
見下ろす。
華奈をではない。
眼下に広がる全てを。
常世を。世界を。
遍く全てを。
「……私一人でやることじゃないもの。これは『みんな』でやること」
日ノ岡あかねは……慈しむように。愛するように。
ただただ、見つめる。
瞬きすらせず。逸らしもせず。
「勿論私も努力する。だけど、そんなの当たり前のこと。そんなの当然のこと……だけど、そのうえで……『みんなでやる楽しいこと』は『みんなで楽しくすること』よ」
ただただ、真っ直ぐに。
あかねの瞳は……前を見る。
「誰かを待ってちゃダメ。誰かを使っちゃダメ。誰かは頼るもの。誰かは肩を貸すもの。ただただ、口を開けて待つなんて『ダッサ』いこと……私は赦さない」
一切の曇りなく。一切の淀みなく。
あかねの瞳は……先を見る。
「だから、私が言い訳を奪ってあげる……私が妥協を奪ってあげる。自分の足で立てるように。自分の言葉で語れるように。嘆きなんて蹴散らして、憂いなんて蹴散らして……運命を塗り替える」
日ノ岡あかねは変わらない。
仲間が残らず死んでも。
居場所が跡形もなく消えてしまっても。
光も届かぬ地下に幽閉されても。
戒めの首輪をつけられても。
犬と揶揄され誹られても。
「アナタのそれも……変えて見せるわ、カナちゃん。私の出来る限りでね」
日ノ岡あかねは――変わらない。
「でも、最後に選ぶのはアナタ。最初は私を『言い訳』にしていい。最初は私の『せい』にしていい。だけど……最後はアナタが選ぶのよ。アナタだけじゃない。この学園の全てが。この世界の全てが。自分で選んで、自分で決めて……自分で責任を持たなきゃ」
薄く、深く……ただただ、あかねは不敵に微笑んで。
「『カッコ悪い』わ」
ハッキリと。
「私に出来るのは……日ノ岡あかねの物語。『私』が『私』だから『私』を行う話……それ以上でもそれ以下でもない。だけど、それはどんなに頑張っても、どんなに足掻いても、どんなに努力しても」
華奈の目をみて。
鞘師華奈の目をみて。
「アナタの物語じゃない。鞘師華奈の物語じゃない……アナタの物語はあくまで……『鞘師華奈』が『鞘師華奈』だから『鞘師華奈』を行う話なのよ」
そう、言い放った。
「傍観者って楽かもしれないけど……そこに居る限り」
日ノ岡あかねは……笑わない。
日ノ岡あかねは……目を細める。
祈るように。叫ぶように。
「何度でも取り零すわよ」
友人に……忠告した。
「……またね、カナちゃん。私の友達。焦熱の残り香。アナタに出来ることは……なんでもしてあげる。だけど、アナタをアナタで居させるのは……アナタだけよ」
それだけいって、あかねは踵を返す。
音もなく。躊躇いもなく。
日ノ岡あかねは……その場を後にした。
ご案内:「大時計塔」から日ノ岡 あかねさんが去りました。