2020/07/15 のログ
ご案内:「大時計塔」に園刃 華霧さんが現れました。
ご案内:「大時計塔」に山本 英治さんが現れました。
園刃 華霧 >  
「クッソ……ッ」

妙にいらいらする。
昨日の自分は、なにかおかしかった
普段ならあんな失態はしないはずだ
アタシが、"読み間違え"るとか……

「なンだよ……結局、ひとでなしは、ハンパもんダってのカ……?」

ガツッ

壁を蹴る
蹴る
蹴る

「……クソ、らしくナい……ッ」

数度、壁を蹴って我に返る
まったく、なんなんだ

「……ハ、貴子ちゃんに見らレたらナ―んて言われるヤら、だ……
 まったク」

へらり、と笑った

山本 英治 >  
「いーけないんだ、いけないんだー」

軽佻浮薄な言葉で後ろから声をかける。

「建造物損壊罪っすか、園刃先輩」

メンソールの煙草を咥えて、柵も手すりもないそこで大きく伸びをする。
ここは大時計塔。遥か眼前に街を見下ろす、静かな空。

「あ……壊れてないなら軽犯罪法だっけ?」
「どっちにせよ、別嬪さんが八つ当たりは感心しない」

カチッ、カチッとライターを擦った。
火がつく様子はない。この世界に火なんて存在しないのかも知れない。

「なんかあったんですか?」

園刃 華霧 >  
「……!」

気配に気づかないとか、本気でどうした、アタシ
そろそろ準備が整うからって、気が抜けてんのか?
できるだけ、ゆっくりと……余裕ぶって振り向く

「ァー……英治くんじゃン。
 犯罪っつーナら、そモそも、此処立ち入り禁止デしょ。
 お互い様デないノ」

へらり、とゆるい笑いを浮かべる。

「なンかって……
 はは、新しイお仕事ニついタけど、
 上手くイかんくテねー?
 なンなら、手伝ってクれるー?」

これみよがしに、腕章を見せびらかして笑った
腕章には、林檎に噛み付いた蛇が絡みついているエンブレム

山本 英治 >  
「そりゃそうだった」

カチッ。カチッ。
ライターは無意味に鳴き続ける。

「俺には俺の仕事と役割がある」
「園刃先輩には園刃先輩の役割もある……」
「お互い、この腕章つけてる間はそういうことっしょ」

何の変哲もない。風紀委員の。警邏担当の。
ありふれた腕章を見せた。

「お仕事、上手くいってないんすか……」
「あかねさん、仕事熱心だから。怒られちゃいました?」

何度も何度も。ライターを擦る。
火花は散っても、火はつかない。

「……真理に噛み付くのも、楽じゃないんだな」

へら、と笑って咥えていた火の灯っていない煙草を左手に持った。

園刃 華霧 >  
「いヤ、あかねちんはやっさシーさ。
 色々許しテくれル。
 でも、ま。真理に噛み付くッテーのは楽じゃナいのは確かサ」

へらへら、と笑い続ける
その目は、前を見ているようで、遠くを見ているようで

「なー、英治くん。
 おまえさん……昔、"色々"あったロ?
 『真理』ナら、取り返せルぜ……って言ったラ、乗ったり、スるの?」

世間話をするように、口にする。
あそこは、そんな連中ばっかりだった。
そこには切実な『願い』があった

なら、この男は……?
この男も、その資格はあるはずだけれど

山本 英治 >  
「……そうかい?」
「俺は園刃先輩がワーカーホリックになってないかが心配なんすよ」
「ついでにノイローゼも心配、かな?」

ライターは何度擦ってもつかない。
垣間見えるのは苛立ちと、神経質さだろう。
バレちまうかな……見た目よりも繊細な男だってことが。

「………ああ、電脳麻薬中毒者に親友を殺されました」
「そいつを解体して、七年間塀の中にいました」
「取り返せるなら、取り返したい」

ふ、と笑って。
ライターを諦めて煙草を咥え直す。
ポケットに右手と一緒にライターを握り込んだ。

「でも、人と人が分かりあえる時代が来たら、いなくなった人たちともまた会えるでしょ?」
「だから、その時まで近道はしたくねーんだ」
「親友に……遠山未来に叱られちまいますからね」

優しい眼差しで親友の名前を出した。
そして、その目つきのまま。

「門、及び窓」

と、短く口にした。

「いやぁ、苦労しましたよ! 第三種機密でも俺みてーな下っ端にはなかなか手が届かない」
「園刃先輩……真理で、何を取り返すつもりで?」

園刃 華霧 >  
「ワーカホリックに、ノイローゼぇ?
 はは、アタシには縁遠い言葉じゃナいの?」

へらへらと、相変わらずの笑いで返す。
さきほどからずっと同じ笑いを浮かべている。
その笑いのままで。

「ズルはナし、か……ひひ、英治くんハあつっくルしーなヤッぱサぁ。
 ついデに振られタな、コリャ……
 ァー、へったクそダなァ」

ああ、ホント暑苦しい男だ。
あの全裸アフロ事件だって、クソ馬鹿馬鹿しいくらいに中身は暑苦しかった。
本当に、暑苦しい

「ハッハッ! よーク、調べタもんダ英治くん!
 暑苦し―イ、情熱ダねぇ。わざワざドーしたノさ。」

ぱんぱん、とわざとらしい拍手
相変わらずのへらへら笑い

「あっハ、違うンだナー。
 アタシには、『取り返す』モノなーんテ最初っかラないノさ。
 アタシは、園刃華霧。他の連中とハ、ひと味もふた味も違ウ女だゼ?」

山本 英治 >  
煙に巻かれている。そんな気がした。
多分だけど、園刃さんにはさっき聞いた貴子って人や。
レイチェル・ラムレイ先輩みたいな人の言葉じゃないと届かないのかも知れない。

しかし。
届かないからって届けない/届ける努力をしない理由にはならない。

「夏場は2メートル離れてと言われる男、山本英治です」

冗談めかした言葉。
沸かした後にまだ冷え切っていない麦茶みたいなぬるい雰囲気。

「俺ぁ情熱的な男です。だって、園刃先輩に日ノ岡あかねさんだよ?」
「美人揃いで興味だって出てきますって」

笑った拍子に咥えた煙草を落としそうになって慌てて手を伸ばす。
手は届かず。一階分下の階段の部分に煙草は落ちてしまった。
取りこぼし、一本だけ孤独に倒れる、毒。

「……それがあんたの物語かい、園刃先輩」
「窓が開かれれば、また惨劇が起きるかも知れないんだぜ」

園刃 華霧 >  
「ほーン、2m、ね……?」

わずかに足を動かす
二人の距離がほんの僅かに縮まる

「……確かニ、暑苦しーワ。正解」

うぇ、と顔をしかめた
そして

「ていウか、なンだよ!ナンパ心かヨ!
 硬派気取りダと思ってたゾ、このアフロ!」

げらげら笑って盛大に罵ってみせる
げらげらと、女子にあるまじき笑い

「……ハー……
 と。ヒヒ。上手くいクかもじゃン?
 それニ……惨劇ってモ、死ヌのはどーせ、関わっタ連中ダけだ。
 みーんナまとメて『どうしようもねぇ奴』シかいなイさ。
 いっそ清々シくなるカモよ?」

ひひひ、と……また、別の笑い
おかしくてしょうがない、という笑い

「……で?
 なニ? なンか、いいたいノ?」

笑いを消し
さらにわずか、足を進めて
顔を見て
目を見て
問う

山本 英治 >  
二人の距離がほんの少しだけ近づいた。
距離だけなのが、寂しくも感じる。

「アフロがいけないのか、筋肉がいけないのか、ニカッと笑う笑顔がいけないのか」
「人生とは不可思議なものです」

人差し指をチッチッと振って。

「愛に生きる男ですからね、休日はたまにナンパしてます」

一緒になって笑った。
二人の笑い声は夜空に溶けて流れた。
誰も聞いてはいない。誰も。

「その、どうしようもねぇ奴って顔の見えない言い方やめませんか」
「出村 秀敏、勝山 大地、杉木 浩俊、鶴尾 摩衣……」

相手の顔を見て、寂しそうに顔を歪める。

「園刃 華霧」

両手を広げて、静かにトゥルーバイツの隊員の名前を口にする。
最後に、彼女のフルネームを口にして。

「死んでいい命なんかじゃない」
「名前と顔がある、それぞれが一個の命だ」
「その命を天秤に乗せるようなことに、園刃先輩には加担して欲しくない」

「───天秤に乗った真理が傾く犠牲なんてこの世界に存在するわけがない」

相手の目を真っ直ぐに見た。
二人分の髪が夜風に揺れる。

園刃 華霧 >  
列挙される名前
それは確かに、自分も耳にした彼らの名前だった
ただの空虚な譫言ではなく、本物の『彼ら』

「まず最初に。
 全般的に全てが駄目だと思うよ英治くん。
 愛に生きる、とかそれっぽいこといってるけど
 どう考えてもただのチャラ男だろう、それ」

けっけっけっとからかうような笑いを浮かべる。
ひとしきり笑ってから表情を変える。

獣の目
獣の笑い
今にも食らいつきそうな獰猛さ

「で。
 はーん? それって、まさか、と思うけど……アタシに止めろって言ってるわけ?
 マジで?」

ろくに手入れもされていない髪が、ばさばさと揺れる

「つまり、アタシに……諦めろって、言ってるわけだ?
 アタシの『願い』を。
 英治くん、それ……どんなつもりでいってんのさ?」

じろりと、睨めつけるような目を向ける

山本 英治 >  
喋り方が変わった。
いつもの喋り方じゃない。
思えば、俺は彼女のことを何も知らない。

園刃先輩に何か言う資格があるのか、俺に……

「駄目でしたか……」

薄く笑っていたが、すぐに双眸が相手を捉える。
黒と黒の視線が。相反する意思が。二つの思惑が。
交錯する。

「言っているさ、さっき言ってた貴子さんやレイチェル先輩を悲しませるようなことは」
「やめてほしいと言っているんだ」

髪をぐしぐしと弄る。
言葉を選んでいる暇なんかないように感じた。

「真理に触れれば人は死ぬ」
「最悪の結末が分かりきっている願いなんて、止めて欲しい」

「あかねさんの考えていることはわからない、けど」
「あなたたちは噛み付く相手を間違えている」

「それは真理じゃない、断頭台だ……!」

睨みつけるような目に、一歩も引かない。
ここで引いたら、漢じゃない。

園刃 華霧 >  
「そんなこと、わかってる。
 今更承知の上だ。
 そんな当たり前の話で止められると思ってんの?」

そんなこと散々話し合ってきた
そんなこと散々脅されてきた
そんなこと今更恐れるわけがない

"悲しませる"?
そんなコト、知っている
だから切り捨てた
だから置いてきた

「アタシには、何もなかった。
 育ての親も、一緒に生きる兄弟も、
 休める家も、暖かい飯も、
 話す言葉も……」

そうだ
何もなかった
何もなかったから

「だから、アタシは自分で手に入れてきた。
 だから、アタシは誰にも渡さなかった。」

生まれついた落第街でそうやって生きてきた
それしか知らなかった

「で、英治くん。
 そんなアタシを、どうするのさ?」

睨みつけたまま
更に一歩進み出る

山本 英治 >  
目の前にいるのは。年下の。華奢な女の子にしか見えなくて。
それでも、必死に……しがみつくように、生きてきたんだ。
それを想うと、心にしがらむ何かを。
今の俺なら強く振り切れる。

「止める」

それがどうするのか、という相手の問いに対する答え。

「当たり前の話で止められないなら」
「横合いから思い切り邪魔をする」
「足を引っ張る」

「俺の全身全霊の妨害で、園刃先輩に止まってもらう」

ふと、園刃先輩の腕章に目が行った。
そのまま、蛇を憎々しげに睨んだ。

「何もなかった……その辛さは俺には多分、わからない」
「でも、これ以上仲間に何かを失ってもらいたくない!!」

「全部終わった上で何もないとまだ言うなら………」

「俺があんたの目を覚まさせてやる」
「引きずってでもレイチェル先輩の元に連れてってやる!!」
「俺の力で足りないなんて、これ以上誰にも言わせない!!」

そうだろう、未来。
俺にはまだできることがある。

園刃 華霧 >  
「は――はははははは!
 ひっひっひっひっ!」

ゲタゲタゲタゲタゲタゲタ
ゲタゲタゲタゲタゲタ
ゲタゲタゲタゲタ

耳障りな、ノイズのような
邪悪な笑い

「全霊で妨害、かぁ……ヒヒッ
 いいぜいいぜ、そっかそっかぁ……」

哂う
嗤う
笑う

「そりゃ、アタシから奪おうってこと、でいいのか?
 ………なあ、英治くん」

笑いをおさめ、静かに問う

山本 英治 >  
嗤う。嘲笑う。破顔(わら)う。
彼女は笑う。ただ、虚空に響かせるように。
爛れたように輝く夜の下。
彼女は笑い続ける。

彼女の問いは、重い。

「─────奪う」

吼えろ。今は、野良犬のように噛み付いてやれ。

「機会を、願いを、覚悟を」
「園刃先輩から奪う」

拳を握って頷く。
そうだ、俺は奪おうとしているんだ。
だから、相応の覚悟を見せなければならない

「全部終わった後に責任は取る」
「あんたが死ねって言うなら死んでやる」

「前提を押し付けた上で言うぜ……それでいいのかよ!?」

「何度だってアンタに問いかけるぜ!」
「それでいいのかよ!!」

「アンタも! レイチェル先輩も! あかねさんも!!」
「それでいいのかよ!!」
「何もよくねぇ!! 何もよくねぇだろ………!!」

「俺はアンタに問いに来る。何度でも、そう何度でもだ」

その度に、園刃先輩の覚悟を。
聞かせてもらいたい。そう思った。