2020/07/23 のログ
ご案内:「大時計塔」に227番さんが現れました。
227番 > カツン、カツン。

螺旋階段を登る少女。
あまり人が来ない場所を選ぼうと考えたところ、
"入ってはいけない場所"が一番いいだろうという結論になった。

今日は街歩きは無し。
そんな気分では、無かった。

227番 > テラス部分に座り込んで、空を見上げる。

不注意で穴をくぐった少女は、肉体的には無事で帰ってきた。
多い隠された記憶は、あの中で思い出した過去のことで。
今、覚えているのは、無数の異形達を切り裂いた事実のみ。

自分を殺そうとした研究者でさえ殺すことを躊躇った少女は。
1つや2つではない、無数の命──それが実在するものではないとしても──を奪うという体験をしてしまった。

前に、不意に思い出した感触とは違い、鮮明に残るこの感触。

227番 > 沈んだ気持ちとは裏腹に、空は青々としていて。

「……」

護身を学んでいれば、殺さずに済んだのだろうか?
いや、しかし、殺さずに無力化したところで、相手にさらに苦しみを与えるだけではないだろうか?
……殺すしか、無かったのだろうか?

脳裏にちらつく、知らない過去の光景。
黒いモヤの中にうっすらと見える、グロテスクな容姿の異形。
それはすぐに覆い隠されてわからなくなる。

「うぅ……」

頭を大きく振って、耳を抑えて、蹲る。

227番 > 自分では解決できそうにない。
誰かに頼るべきだろう……しかし。

"殺し"を、誰に相談する?

少女にはわからない。
頼りにしている保護者は、彼を思うばかりに打ち明けられず。
頼りにしていい先生は、連絡先を持っているが、まだ連絡方法を把握できていない。

すっと立ち上がり、手すりに捕まって街の風景を眺める。

227番 > 蒸し暑い風が吹き付ける。

「……」

人が来ない場所を選んだのに、運良く頼れる人が来るとは思えない。
踵を返して、階段を降りていく。

ご案内:「大時計塔」から227番さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」に227番さんが現れました。
227番 > 街を歩き回って、戻ってきてしまった。

スマホを貰ったからと言って、使い方を把握していなければ意味がない。
保護者に詳しく教えてもらうべきなのだろうが……どうやら彼は仕事中のようだ。

カツン、カツン。螺旋階段を登る少女。

ご案内:「大時計塔」に紫陽花 剱菊さんが現れました。
紫陽花 剱菊 >  
螺旋階段の先、大時計塔の上には先客がいた。
今日は珍しくやや風が強く、天道に近い此の場は夏場の涼風が通り抜けていく。
日も既に傾いた頃合い、今宵は生憎の曇り空。

「…………。」

男の黒糸のような髪とコートが揺れる。
膝をつき、足元に残った各種機材を手に取り
二本指を口元に立て、目を閉じていた。
黙祷、即ち祈り、懺悔である。
静寂を覆いつくされた此処には、ただ吹き抜ける風の音が鳴り響くのみ。

227番 > カツン、カツン。
螺旋階段を登っていた足音が止まる。

つい先程来たときには、見なかった人影。
そして、その姿には、見覚えがある。

「ぁ……」

名前は、本人からは聞かなかったが、他の人から聞いた。確か……

「こんぎく?」

紫陽花 剱菊 >  
風が、聞き覚えのある音を運んできた。
少女の声音。聞いた事が在る。
静かに目を開き、振り返った。

「…………なな。」

数字を名を名乗った少女。
ある程度世話はしていたが、ある日を境に巣にはおらず
何処かへ巣立ったのか、と気には掛けていた。
見る限り、身なりも前と比べて此の島に馴染んだ姿になっており
巣立った先は、彼女にとっての安寧と見えて一安心。
ただ、振り返った男の表情は、憂いを帯びていた。

「……久しいな……名乗り損ねていた気はするが、何方からか伺ったようだな……。
 重畳、其方も息災のようで何より。」

然れど、すぐに其れは消えて
あの時出会っていた仏頂面とは違い
陽の様に朗らかで穏やかな表情へと変わった。

227番 > 「……えっと……"ひさしぶり"」

挨拶。あの頃の少女には無かった"学"の1つである。

一瞬の憂いは、見逃さない。
少女は未だ、相手の表情をよく見ている。

あの隠れ家から引き払う時に、公安に頼んでは居たものの、
上手く伝わっていなかったのだろう。
であれば。

「……急に、居なくなって、ごめんなさい」

小さく頭を下げ、謝る。挨拶といい、"行儀"を少しずつ学んでいる。
しかし、たどたどしい話し方はまだあの頃のままだ。

紫陽花 剱菊 >  
「……ふむ……。」

漏れたのは感嘆の声。
少なくとも己が知る限りの少女は、赤子の様で在り
有体に言えば"物を知らない"純一無雑さを持っていた。
其れが、一通りの礼節を弁えている。
如何やら、辿り着いた先は良き居場所になり得たようだ。

「否、つつがなく……確かに気にはしたが、其の姿を見れば安心した。」

故に、語るに及ばず。
じっと見つめる蒼色を、水底のような黒が見つめ返す。
……こうやって顔を合わせて喋るだけで、彼女を思い返すのは因果か。
胸中、自嘲を零し、視線を合わせやすいように静かに腰を下ろした。
凛然とした、座禅の形。歪みなく、背筋は伸びている。

「して、何故斯様な場所に……?人の出入りは禁止されていた気もするが……。」

227番 > 「……よかった」

怒られることも覚悟はしていたが、
安心したと言われれば、小さく笑う。

それから、出入りの禁止を指摘されれば、ばつが悪そうにする。
もともと、"生徒"は立入禁止であるので、対象ではないのだが、
それは関係ないことだし、227はそれを知らない。
"立入禁止"はまだ読めないから。

「……それは、ちょっと、考え事……」

手を爪を立てるような形にして、その爪を、伏し目がちにじっと見る。

紫陽花 剱菊 >  
「……咎めた訳には非ず。気に病む事でも無し……。」

彼女だけでは無く、管轄の外では存外色んな生徒が利用する場所らしい。
"人目に付かない"故に、後ろめたい事をするものも其処には居る。
小さく頭を下げ、軽く会釈をすれば、其の視線を追った。

「考え事、か……。」

落とした視線の先は、爪。
其れは、此の男の行住坐臥が武で在るが故の機敏か
其の視線の意味を、何となく理解した。
だからこそ、力に成れるやも知れぬ、と。
……耳朶についた通信機に気配はない。
丁度良い頃合いか。

「……差し支えなければ、私に話してみては下さるか?
 一人で暗れ悩むよりは、多少なり、其方の力に成れるやも知れん……。」

「今宵は、風しか我等を見てはいまい。……如何なる事でも、すずろのままに、唯流れるのみ……。」

己と風しかいない今だからこそ、打ち明けて見ては如何だろうか、と
静かで、穏やかな声音で少女に語り掛ける。

227番 > 「……こんぎくに……?」

少し悩む素振りを見せる。
今日は頼る相手を求めていたのだ。
少なくとも、227から見れば、彼は大人である。
であれば、いい機会である。

やがて、伏し目のまま、口を開いた。

「……こんぎくは、殺し、したこと、ある?」

爪を立てる形の手を、そのままそちらに向ける。
見た目こそ少女の小さな手であるが、
その爪は一人や二人ではないいくつのもの命を奪ったもの。
見る人が見れば、凶器のようにも映るかもしれない。

紫陽花 剱菊 >  
向けられた爪は、獣の其れと相違無く
ともすれば、幾度も己に向けられてきた刃に違いなく
其れを一瞥した男は……。

「……ある。」

静かに、確かに答えた。
何処となく寂しさの混じる表情だ。

「……私は此の幽世とは異なる世界からやってきた。戦の絶えぬ乱世で……」

「多くを"斬った"。名も知らぬ民草も、志の気高き武士も、友も、家族も。」

「如何様にでも、屠って見せた。……最早、顔も思い出せない有象無象程度にしか思い出せない程、多くを……。」

そうしなければ生きていけない世界だった。
だが、今更其れを言い訳にする気は更々無く
事実として静かに、少女へと告げる。

……或いは、獣のとしての感性が少女に在るので在れば
男の言葉を裏付けるような"死臭"が漂うのが感じられるかもしれない。
其れこそ少女の脳裏を、記憶を刺激するような血の匂いなのかもしれないが
其の奥の奥。朗らかな陽の臭いは、男の本質を物語り、そして────……

「……幻滅したか?私は、斯様な行いを、意図も容易く行ってきた人殺しなんだ……。」

寂しそうに、はにかんだ。
後悔を強く滲みださせる寂しさと、僅かに震えた声音。
多くの人を殺した"痛み"を今も尚受け止めている人の証。

227番 > 手の形を崩して、ぶらりと下ろす。
凶器であった手は、ただの少女の手に戻った。

「……そう」

少女の表情は変わらない。何処かで気付いていたのだろう。
あるいは、ここで対面した時に気づいたのかもしれない。
あの路地裏と、ここでは環境が違うから。

「……でも、こんぎく、悪い人には、みえない」

小さく笑ってみせた後、また目を伏せて。

「……昨日、木が沢山、あるところで、
 人のようなの、いっぱい居て、襲われて」

風紀ならともかく、公安であるあなたが知るかはわからないが、
光の柱の件を知っているなら、結びついても良い。

「殺した。ぜんぶ」

「ころしてくれ、ころしてくれ、って言ってた」

異形だとかそういう言葉は出ない。
いまだ、正確に説明するに学が足りないようだった。

紫陽花 剱菊 >  
「…………。」

「……左様か。」

自分のいた乱世の様に、忌むべきと誹られると思っていた。
あの神社に居た狐少女も、彼女も、皆、人が良すぎる。
其の良さに、感謝しきれぬ自分が居る。
其処に甘んじる訳では無い。
受けいられたからこそ、其れに報いる事を、行うべきだ。
故に、男は静かに耳を傾けた。
拙い言葉を、耳朶に浸す。

「…………。」

話には挟んでいる。
光の柱の事。
己は別件で駆け抜ける故に、詳しい事情は知らない。
然れど、其の内容の、少女の声音の悲痛さを……。

そっと、両手を伸ばした。
ただの"少女の手"となった其れを、両手で優しく包み込まんとする。
鉄の様に冷たい体温なれど

「……"大丈夫"だ。ゆっくり、思った事を在りのままに口にすれば良い。
 対処に追われて必死だったのなら、其れでも良い。先ずはゆっくり、落ち着いてくだされば……。」

言葉は穏やかに、暖かに。
大丈夫だ、と。
己を受け入れてくれたように、ありのままに少女の言葉を、話す事を受け入れる。
如何なる感情を抱いて話すかは少女次第だが
せめて、"暗れ惑わないように"支えるのみ。

227番 >  
もし、少女の知る人が斬られていたなら、こうはいかなかったかもしれない。
そういう意味では、貴方の行いの成果である、と言えるのだろう。
少女は、貴方に信を置いている。

だから、添えられる手には抵抗を示さない。
そのまま、精一杯言葉を紡ぐ。

「……殺したく、ないって、思ってた」

「わたし、他の方法、知らなくて」

手に力が入る。
何故か殺し方を知っている自分に困惑しながらも、そうするしか無かったと言う。

「あの"人"たちは、殺してくれ、って言ってて」

急に脳裏にちらつく、誰かの声。
空いている方の手で、頭を抑える。

「……たぶん、わたし、覚えてないけど。もっと、たくさん、殺してる……」

紫陽花 剱菊 >  
「……今から私の言う事は、戯言と聞き流してくれても構わない。酷な事を言う自覚は在る。
 其れでも尚、しかと聞き届ける事が出来るなら……きっと、兆しには成ろう。」

小さな少女に言うには酷な事かも知れない。
然りとて、其の"業"を背負った以上は、告げねばなるまい。
強く握られる手を、今はただ、優しく包む。

「……当事者では無く、其の方の声を聞いた訳でも無い。
 だが、其の時は"せざるを得なかった"。
 時に誰かは……『死が救い』等と、宣うかもしれない。」

「其れは虚偽では無いが……是とも言わず、千々に及ぶ。」

如何様な物の怪と相対したのか。
襲い掛かりながら死を求める。
恐らく其れは、是非も無い事なのだろう。
当事者で無い以上、其れを断言する事は出来ない。
其の手を掴んだまま、手繰る様に、身を寄せようとした。

「私もまた、同じ。故に、敢えて申し上げるので在れば……」

「……"辛いな"。」

静かな声だが、風に攫われることは無く其処に残った。
如何なる事情が在れど、喪失の痛みは変わらない。
其れを教えてくれた友がいる。そして、其の友のおかげで、己も"痛み"を実感できる。
だから……。

「……其の辛さが我慢できないの在れば、今は好きに、すずろのままに、感情を自由にすると良い……。」

「然れど、忘れてはいけない……"喪失"の痛みを……。」

「痛み迄忘れてしまっては、浮かばれぬ……其方も、喪失した者も……。」

<痛みまで麻痺させたら、死んでしまった人は浮かばれない>

己の脳裏に、友の声が重なった。
小さな、小さな体には、心には大きくて難しい事実かもしれない。
其れでも尚、其の痛みだけは忘れてはいけない、目を、逸らさせてはいけない。
彼女も、かつての己の同じように道を踏み外させてはいけない。
だから、支える。人の体温とは言えぬ、鉄の様に冷たい体でも
今は人の温もりを、熱を"心"が持っている。
故に、何度も申し上げる。「大丈夫」、と。同じ"痛み"を知る人間が、少なくとも此処にはいる、と。

227番 >  
黙ったまま、知識が足りない言葉を頭を回転させて意味を補いながら、言葉を聞く。
死が救いになる、そんな考え方もあるのか。
体を寄せられれば、そのとおりに。

「……辛い……」

ああ、そうなんだ。
受け入れて、進むしかないのか。
目の前の人は、それを受け入れてここに居て。
理解を示してくれている。

少女の手の力が解かれる。
彼は、泣いても良いと言ってくれているのだろう。
なんとなく、それは理解できる。

「……、コンギクは、強い」

しかし、少女は、泣き出さなかった。

「……昔のこと、受け入れるしか、ない」

やってしまったことを、痛みを忘れないこと。
記憶を失う前だろうが、後だろうが、関係ない。

「もう、大丈夫」

向き合うという決意は、とうの前に決めている。

「……コンギク、てかげん、やり方、知ってる?」

……であれば、繰り返さないようにする方法を学ばなければ。
もっと、できることを増やさなければ。

紫陽花 剱菊 >  
「……否、私はなかんずく、"弱い"。己の『選択』に胸を張れる強さを持ち得ていない……。」

此の痛みと向き合えたのも、一人のおかげじゃない。
己の紡いだ縁の強さ合ってこそ、未だ続く痛みに、辛さに向き合える。
既に顔も覚えれない程の多くの者々の痛みを、ずっと。

「……此処に至るは、全て縁の力。私一人では、至れぬ境地。其の縁は、其方もまた一つ……。」

故に今、此処に至る。
刃では無く、人として、此処に。
小さく頭を振り、黒糸が靡く。

「……受け入れるしか、あるまい。然れど、"其れは楔に非ず"。
 大事なのは、忘れぬ事だ。其れに囚われる真似は、罷り成らぬ。」

「……同じくして、其方にも"縁"が在る。思い出すと良い。今迄、其方の周りにいた人々を。」

一つ釘だけは差しておく。
受け入れるべきは過去だが、進むべきは未来。
故に、次の言葉に、鋭い眼光が少女の瞳を突き刺す。
刃の如き、鋭く、険しい眼差し。

「────故に、其れを以て、何とする?」

そう、男は当然"知っている"。
行住坐臥を武に定め、百戦錬磨。
乱世の世で生き残り続けた強さ、力の使い方。
そして、其の"危険性"を。


故に、言問う。
何故、其れを求めるのか、と。

227番 > 「……ううん、わたしよりは、強い」

比べる事自体間違っているレベルかもしれないが、
少女はそんな事は気にしない。

「えんの力……」

一人では成し得ないもの。自分もいろいろなことを教えてもらった。
今もそうである。
……言葉の意味は分からなかったが、ニュアンスは理解できた。

「くさび、……まかり……?」

忘れないこと。しかし、それにとらわれないこと。
それは把握できたので、頷いてみせる。

少しずつ暗くなる空に応じて、丸くなりつつある瞳孔の瞳は、
眼光に射抜かれて、少し震えて、怖れの動きを見せる。

「自分やみんなを、守るため……殺す方法しか、知らないから」

単純な理由だ。
だれかの命に危機が迫った時に、今の自分には相手を殺すしか無い。

自分の過去が、危険なものだと、感付き始めている。
それに向き合うために、これからも危険に出会うだろうと、少女は思っている。
そして、守られるべき存在である、という自覚はなかった。

紫陽花 剱菊 >  
きっと、この少女は力を手にしている。
意図も容易く生命を断つ力。
……かつての己と同じ、"刃"の如し、力。
彼女も向かうべき場所も、見つめ合うべき場所がいずれも死地だとすれば
何と因果な。此の幽世は、余りにも個人の宿命を翻弄している。
故に、嘆き、剱菊の表情には憂いが宿る。

「……左様か……。」

ともすれば、其れは覚悟か。
教えを乞うあの少女と同じ、其の覚悟を無碍には出来まい。
小さく、男は頷いた。

「……一つ、覚えておいて頂きたい。」

男は静かに、立ち上がる。

「……護るは"己が生命を賭すが、捨てるに非ず。共に生きて帰るのが真"。」

先程まで己が見つめていた場まで歩き、落ちていた器材を拾い上げる。

「……故に、危険と感じたら共に逃げよ。戦うだけが、戦に非ず。生き延びるのも、戦……。」

振り返り、寂しそうに微笑んだ。

「今直ぐには、教えられぬ。……助けたい、人々がいる。
 結局、私は間に合わぬばかりだが……。」

「一人でも多く、助けたい。特に、助けたい少女がいる。次は、次はと……だから、暫し"待って頂きたい"。」

「全てを果たし、必ず舞い戻る……故に、帰れる"縁"の一つとして、待って頂けるか?なな……。」

227番 >  
そう。少女は、自分の持つ爪の、"刃"の危険性を知っている。
それを振るわないといけない時があるというのも、理解している。
だからせめて、少女は殺す刃を、活かす刃にしたいというのだ。

続く"覚え事"に耳を傾ける。

「逃げられるときは、逃げる。分かった」

至って単純なことだが、見極めが難しいことでもある。
それもそのうち、覚えていけるのだろう。

「……コンギクも、忙しい」
「なら、分かった。わたしは、"待ってる"」

素直に聞き入れる。相手の事情が汲めない子ではない。
あんまり長かったらどうしよう、とは思うが。

紫陽花 剱菊 >  
「……一つだけやるとすれば、狙いは肩。人間相手なら、其れでも充分。
 足を切れば、其方の韋脚次第では在るが……逃げ切れるだろう……。」

互いに無傷で済めば其れで良い。
其れが出来ぬなら、先ずは出血を狙い動きを鈍らす肩。
或いは、文字通り足を切れば動きを奪える。
飽く迄、"人"相手の話ではあるが、今は此れで勘弁を、と一礼の会釈を付け足した。

「ありがとう。」

礼を告げれば、踵を返す。
宵闇の下に、今も尚挑み続ける者たちがいる。

「……"必ず帰る"。成すべきを成し、そして……。」

「彼女の帰りを、待つために。」

男の足元に、紫電が駆け巡る。

「……『行ってくる』よ、なな。」

今はただ、駆け抜けるのみ。
夜空目掛けて一足跳び上がれば、稲光が夜空を照らし
一閃の紫電が、夜の島を駆け抜けるのだった……。

227番 > 「肩……、足……。」

狙う場所を変える。簡単なことだった。
それでも、やりすぎはあり得るだろう。
しっかりと加減を学ぶべきだ。

「……」

背中を見て、こういうときはなんと言うんだったか。
そうだ、保護者が出かける時に居合わせたら言っている挨拶。

「『いってらっしゃい』」

まばゆい雷光に、文字通り眼を細くしながらその姿を見送る。

ご案内:「大時計塔」から紫陽花 剱菊さんが去りました。