2020/07/24 のログ
227番 > 悩みはひとまず晴れた。

"今の"日常に帰るべく、踵を返して螺旋階段を降りていく。

ご案内:「大時計塔」から227番さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」に227番さんが現れました。
227番 > 大時計塔。入ってはいけないと教えられたが、
街を展望できる場所はここしか知らないため、
時折覚えた道の確認のために登ってくる。
もちろん、頻度は控えめにしているつもりだ。

テラス部分から、街を見下ろす。
真下を見ると足がすくむので、見ないように気を付けながら。

ご案内:「大時計塔」に神樹椎苗さんが現れました。
神樹椎苗 >  
 一先ずの目的は達成して、急ぎ落第街に向かう理由もなくなると。
 やはりおのずと足が向かうのはこの場所だった。

 しかし、この日は――いや最近はこの日も、だろうか。
 時計塔には先客が登っていたようだ。

「ん、先客ですか。
 こんなところに珍し――くもないですね、最近は」

 そんなことを言いながら、左手で扉を開けて現れた。
 先客は椎苗とそう大差のない小柄な子供だ。

「ここは一応立ち入り禁止ですよ。
 まあしいは風紀でもなんでもねーので、知ったこっちゃないのですが」

 動かない右腕を首から吊るし、左肩からバッグを提げながら、全身至る所に包帯を巻いた小娘が言う。
 

227番 > 「……ぁ」

声をかけられて振り向く。
見つかってしまった。
どうしよう、と思いながら相手を見れば、ぐるぐる巻の、同じぐらいの背格好。
"表"に来てから、初めて見る同じぐらいの人。
そして、それは怒る気配はない。

「うん……知ってる」

立入禁止。文字は読めないが概念は知っている。
その対象範囲をよく分かってないので、来る人もそれを破っているとは思っていない。

神樹椎苗 >  
「そうですか、知ってましたか」

 振り向いた顔を見れば、相手は子供らしい子供。
 先日喧嘩のような事をしてしまった少女とは、また違うタイプの子供だ。

「とりあえず、景色は悪くないですが、端っこにいると危ねーですよ。
 うっかり落ちるとぺしゃんこですから。
 もう少しこっちに来るといいです」

 そう言って、左手で手招きして、時計塔の縁から離れるように誘導するだろう。

227番 >  
「ぅ」

見ないようにしていた真下を意識させられる発言に、少し怖じける。

「……そうする」

招かれる方へゆっくりと歩く。
少女に対しては警戒はしていないようだ。
悪く言えば、子供だと思って油断している。

しかし、年上相手に話すときと変わらず、声は気弱そうな少女のものである。
素でこんな話し方なのだろう。

神樹椎苗 >  
 またも素直な子供だ。
 なんでこう――自分の周りには素直だったり純粋だったりする人間が多いのだろう。

「そうですそうです、こっちですよ。
 そして、なんとここにお菓子があります。
 こっちに来たら分けてあげますよ」

 そうして、左手だけでバッグから引っ張り出したのは、色とりどりの砂糖菓子。
 異邦人街で売っている、甘さと酸味の丁度良い金平糖のようなお菓子だ。

「転んだらあぶねーですからね。
 そのままゆっくりでいいですよ」

 餌をちらつかせながらも、焦らせないように声を掛ける――なにやら、猫でも相手にしているような気分だった。

227番 >  
「……お菓子?」

真下が見えない位置まで来ると歩き方が変わる。
しかしゆっくりである。

少女は食い意地が張っているが、見ず知らずの人の餌に釣られるほどではない。
今度は少し警戒しているように見えることだろう。
お菓子を見せられなければ、普通に寄っていたかもしれない。

ともあれ、近くまで来ると、青い瞳が猫のようになっているのがわかる。
もちろん227にそうさせている自覚は無いが、猫相手の気分が補強されていくことだろう。

神樹椎苗 >  
(おお、警戒されましたね。
 ますます動物っぽいです)

 その瞳孔、光彩の形を見れば、異邦人なのだろうかと思いつつ。
 途中で足を止められても、十分縁から離れたのなら、軽く子供に向けて砂糖菓子を袋ごと放り投げ。

「あげますよ。
 ふつうに売ってるお菓子です。
 疑わしければ捨ててもいいですよ」

 そう言いながら、自分はその場に腰を下ろした。

「こんなところに、何しに来たんですか。
 ここは景色はいいですけど、ほかにはなにもねーですよ」

 そうたずねながら、自分のバッグから片腕で器用に本を取り出した。
 本の表紙には『セミとまなぶ こだいぶんめい』と平仮名と片仮名で書いてある

227番 > 「っとと」

投げられた袋を見て、反射的に両手でキャッチする。猫。
それから、袋を一度みて、相手を一度見て。

分けるのと全部貰うのは違う。
流石に悪い気がしたのか、二つだけ取ると、そちらまで持ってくる。

「……まち、どこまで、覚えたか、見ようと、思って」

まさしく景色が目的である。

取り出す本には目線をやるが、ひらがなさえ勉強中で、
まだ何の本なのかは読み取れないのであった。

神樹椎苗 >  
 近づいてきてくれるなら、謎の本は膝の上において大人しく返却されるだろう。
 そして改めて、少し考えてからバッグを探り出し。
 もう一袋、砂糖菓子を取り出した。

「なんと、二つあったのです。
 だから、こっちはお前の分です。
 きっちり、綺麗に半分こですね」

 そう言ってまた、返却された袋を猫のような子供へ向けて差し出した。

「お前は、この街に来て日が浅いんですか。
 ああ――最近きたのですか?」

 そうしながら、相手に合わせた言い回しを考えつつ、言葉を変えて。
 膝の本の表紙には、幾何学模様のセミがやたら大きく描かれており、その背景には歪んだ形の神殿が描かれている。

227番 > 「……ぇ、うん」

少しぽかんとして、それから受け取る。
要らないとは言わないようだ。食い意地が張っている。
それから、形はどうであれ、227は一度食べ物を貰うと警戒しなくなる。

「……さいきん。そう。」

落第街のある方角を指差す。

「あっちの……夜、暗いとこ、から」

227はセミの実物を見たことがないので、
うるさく鳴いている物がこれだとは知らないし、変な生き物だなと思っている。

神樹椎苗 >  
「素直なやつは嫌いじゃねーですよ。
 子供はそれでいいのです」

 などと、自分も子供だというのに偉そうに言った。
 警戒を解いてくれた様子を見て、ほんのり口元が緩むだろうか。
 本当に、子供らしくもあり、動物っぽい子供だった。

「――なるほど、向こうからですか」

 最近やけに縁が深くなってしまった、落第街という吹き溜まりのような街。
 自分と同世代であの場所にいたとすれば、ろくにモノを学ぶ事も出来なかっただろう。
 このやけに動物的な仕草にも、納得いくものがある。

「どうですか。
 こっちの生活にはなれましたか」

 それでも、あの街から出られたのなら、幸いというべきなのだろう。
 あの場所でしか生きられない人間もいるが――この子供はそうではなさそうだ。

 本の表紙を変な生き物だと思ってみていると、表紙に描かれたセミがわさわさと蠢いているように見えてくるだろう。

227番 > 「こどもは、それでいい」

自分の保護者も似たようなことを言っていたなと、ぼんやり思う。
偉そうだとは、思わない。
自分より物を知らない人など、今の段階では居ないと思っているから。

「ん……慣れてきた、と、思う」

久々にあった人も、同じことを聞く。だから、返事は用意されている。
生活ががらっとかわるのは誰しもが知っている事のようだ。
思ったことを素直に続ける。

「こっちは、明るい」

表紙の変な生き物が動いたような気がして、びくっとして、二度見する。

神樹椎苗 >  
「そうですか。
 不自由をしていないなら、いいんでしょうね」

 子供は子供らしく在ればいい。
 椎苗はただ、そう思うが故に、子供らしい表情を見せる目の前の子供に和らいだ表情を見せたのだ。

「そうですね、向こうに比べれば随分と明るいでしょう。
 まあ少しばかり――眩しすぎるモノも多いですが」

 そう一瞬どこか遠くへと視線をやり、子供が肩を震わせれば、自分の膝の上を見た。

「ああ、これですか?
 見たことありませんか、セミって言う虫ですよ。
 これはちょっと変な模様をしてますがね」

 そう言って左手で本を持ち上げれば、やはり、表紙のセミは紙の中で蠢いていた。
 わさわさと、うぞうぞと。

227番 >  
「眩しい?」

比喩だとは思わず、太陽のように眩しいものが
いっぱいあるのだろうか、などと思う。

「……せみ。みたこと、ない」

絵が動いているのも初めて見る。
どうなっているんだろう。その視線は好奇心に満ちている。
気持ち悪い、とは思わないようだ。

神樹椎苗 >  
「そうです、眩しいのです。
 そうですね――お前も少し、眩しく見えますね」

 伝わっていないのが分かったうえで、ふっと、吐息のように微かに笑う。

「セミは、うるさく鳴くんですよ。
 ほら、耳を澄ませてみるといいです。
 じりじり、みんみん、そう鳴いているのがセミですよ」

 時計塔は高いが、音が届かないほどではない。
 耳を済ませれば遠くから、セミの鳴き声は聞こえてくる。

 ついでに。
 本の表紙ではついにセミが歩き出し、表紙の中を動き回っている。

227番 > 「??」

髪の色のせい?だとか見当違いなことを考えている。

「うるさい、虫……」

あまりにうるさいので、意識から外していた夏の音。
耳を済ませてみろと言われれば、そうしてみるが、
227の耳は帽子に遮られているので、あまり聞こえない。

「きこえた」

手を帽子に添えて、隙間を作ってようやく聞こえる。
普通の人ならしないであろう、不自然な所作である。

なお視線は動き回るセミを追っている。

神樹椎苗 >  
「聞こえましたか。
 それがセミですよ。
 夏がうるさい、主な原因ですね」

 その帽子に隙間を作る動作を見て、やっぱり異邦人の類かと一人納得する。
 より深く『解析』しようとすれば過去の来歴までわかるだろうが――不必要にしたい事でもない。

「ちなみに、この本のセミみたいに、走り回るような事はしねーです。
 どちらかというと、こう」

 本を片手で、少々不便そうにページを捲っていき、あるページを開く。
 そこには、今は沈んだとされる巨大な大陸の図があるのだが、なぜかその見開いたページをセミが羽を広げて飛び回っていた。
 しかも『これはあとらんてぃすたいりく!』などと、音声付きで繰り返し吹き出しを出しながら。

「――まあ間違っても言葉はしゃべらねーですが。
 こんなふうに空を飛ぶ虫です」

 自分でもなんでこんな本を読んでるのかと思いつつも、古書街で著者買いをしてしまったのだから仕方なかった。
 なお、著者は『羽柴哲也』何者なんだこの著者。

227番 >  
「うん、うるさい……」

渋い顔をして、帽子の隙間を戻す。
聞こえなくなって、表情はもとに戻る。

「飛ぶ虫……」

飛ぶ姿を見て、印象がアップデートされる。
先程の動き回る姿は、さながら黒光りするアイツを彷彿とさせていたから。
アイツは落第街ではよく見た……。

しかしこの本は何なのだろう。魔術の類なのだろうか。
相変わらず視線は動き回るセミを見ている。
本の中身は全く頭に入っていない。

神樹椎苗 >  
「――この本もうるさいですね」

 『これはあとらんてぃすた――』パタン、と閉じる。
 今度は裏表紙を上にしておくと、後ろ二本の足で立ち上がったセミが、反復横跳びしていた。

「まあ、色んな初めてがあると思いますが。
 気になるモノは、たくさん見て聞いて、教えてもらうといいですよ」

 そう言いながら、ゆっくり立ち上がろうとする。

227番 >  
明らかに虫の動きではないそれをちょっとみて、なんとか視線を外した。

「……うん。教えてもらう」

もとより、そのつもりである。
もっと知識をつけて、自分のことにたどり着くために。

そして、立ち上がる様子を見れば。

「……あなたは、何しに、きたの?」

邪魔をしてしまったのなら悪いと思って、聞いてみる。

神樹椎苗 >  
「しいは、本を読みに来たんですが――その本が思った以上にやべえブツでした」

 と、立ち上がって、反復横跳びするセミを見せる。

「読んでると疲れそうですから、帰って別の本でも読みますよ。
 ああ――なんだったらこれ、読んでみますか?
 内容自体は絵本みたいなもんですから、文字を読む練習にもならなくはねーと思います」

 「おすすめはしませんが」と付け加えつつ、本を差し出してみるが。
 いつの間にか裏表紙のセミが増えてカバディを始めていた。

 なおこの本、大変容以前に書かれているらしく、内容は失われた文明や大陸について非常にわかりやすく『セミ』が音声ガイド付きで解説してくれる本のようだ。
 厚さは二センチ程度のはずなのだが、最後のページには二千五百と書かれている、謎物質である。

227番 > 「……ああ」

納得する。静かに読めない変わった本。
世の中には音が出る絵本などもあるが、まぁそれは知らない。

「文字の練習……」

人に頼らずに覚えられるのは確かにいいかもしれない。
少なくとも227はそう思った。
分かる人なら、アトランティス大陸やらメソポタミアやら
ルルイエやらハイパーボリアやらに詳しくなってどうするんだと突っ込むところだろうが……。

「貰ってばかり、ちょっと悪い」

しかし、返答はこう。
お菓子を貰ったばかりである。変な所で遠慮する227であった。

神樹椎苗 >  
「なるほど、律義ですね」

 確かに与えてばかりだと、少し考えて。

「――なら、ちょっと手伝いをしてくれねーですかね」

 そう提案を一つ。
 自由に動く左腕で、自分の吊り下げた右腕を示した。

「つい最近、腕が動かなくなっちまいまして。
 利き腕がダメになったから、色々不便なんですよ。
 なのでこの後、少し買い物を手伝ってくれるとありがたいのですが」

 そういいながら、本を見せて。

「これとお菓子は、そのお礼にって事でどうですかね。
 荷物を持ってくれるだけでも、割とありがたいのですよ」

 と、思い付きというよりは、昨日今日と過ごして感じた不便さに肩を落として、困っているように。

227番 > 「手伝い……?」

首を傾げて、続く言葉を聞く。

「買い物の、手伝い」

一人では入れない店の中まで行けるのも、魅力的だ。
すでに本よりもそっちの興味が強いかも知れない。

「わかった」

故に素直に頷いた。
力にはすこしだけ自信がある。体力には全く自信はないが。
人の助けになれるのも、すこし嬉しい。
ここの所ずっと、誰かに助けられてばっかりだったのだ。

「けど、なにか、あったの……?」

他に気を取られて話していなかったが、相手はぐるぐる巻である。
けが人であることは流石にわかる。
これについては適当に流しても良い。すんなり引き下がるだろう。
人には色々事情があると、向こう側にいた少女は知っている。

神樹椎苗 >  
「ありがたいですね。
 お前は優しいやつみたいです」

 ならば先払い、とばかりに本を差し出した。

「んー、もともと昔にできた傷が多いんですがね。
 この腕はそう、ちょっとばかり、無茶しちまったんですよ。
 その時は必死だったもんで、利き腕がどうとか、その後の事まで考えてなかったんですよね」

 はあ、と自分に呆れたように、がっくりとため息を吐く。
 全身の傷はともかく、腕については誤魔化すこともなく答える。

「お前も、あんまり無茶なことはするんじゃねーですよ。
 ああでも子供のうちは、怪我をするのもいい勉強になるんですかね」

 そう言いながら首を傾げ、眉をしかめた。
 なにぶん、知識量は膨大だが、経験が伴わない。
 どうするのが良いとはっきり言えず、悔し気に唸った。

「――とりあえず、初仕事ということで、扉を開けてもらってもいいですかね。
 時計塔を下りたら、一緒に買い物に行きましょう」

 そう言って、頼めるかと促すように聞く。

227番 > 「……あ、えっと、ありがとう」

本を受け取って小さなポーチには……入らないので、
手提げ袋――わかりやすく言えばエコバッグ――を広げて入れる。

「……そう、なんだ」

必死になって何も考えられなくなる。つい最近あった。

「無茶……」

そして、返答に困ってしまった。
結果としては、難なく成してしまったのだが。

「痛い目、みて、学ぶ……ってこと?」

本で見た知識、といった言い方だが、227は疑問に思わない。
聞いたままに受け取ったようだ。

「あ、うん。大丈夫」

すでに荷物があるなら持つ、など言いながら扉を開ける。

神樹椎苗 >  
「そうですね、痛い目にあえば、嫌だなって思います。
 そうすると、また同じことはしないようにしよう、って気持ちになりますね。
 怪我をしたり、大変な思いをするのも勉強になるっていうのは、そういう事です」

 そう尤もらしくいいながら、その最初の怪我で取り返しが付かなくなった椎苗が言う。
 残念ながら怪我の要因がトンデモのため、復元医療も効果がないだろう。

「つまり、無茶をしても、ちゃんと生きていればいいのですよ。
 そして、それを次に活かすのです。
 それが『人間』ってやつですからね」

 扉を開けてもらえば、「ありがとうですよ」とお礼を言って、さすがにバッグは自分でもって時計塔の中へ入っていく。
 さすがに歩きなれた階段は、手を借りなくとも問題はないようで、すんなりと下りていくだろう。
 背丈も近ければ、その歩幅もあまり変わりなく。

227番 > 「……わかる、気がする」

落第街に居た頃はそうやって学んだものである。
怒鳴られ、ぶたれ、毒を飲んで苦しんだり、ゴミの中の針に手を刺されたり。
相手の利かなくなった腕も、そのためなのだろうか、と思いながらも、触れなかった。

「……生きていれば、次が……うん。」

殺さなければ、相手にも次がある。
改めて、それができるようにならなければ、と思った。
自分も、相手も、次がつかめるように。

後ろに続いて、ちゃんと扉を締める。
対する227は下りの階段はまだ慣れていないようだが、
そちらが意識する必要がない程度にはペースは合わせられているだろう。

神樹椎苗 >  
「そうです、今も大切ですが、『人間』は『生きていれば』次がありますからね。
 お前はそうやって、少しずつ学んでいけばいいのです」

 そう答えながら、時計塔を降りると。

「それじゃ、店に案内しますね。
 ちょっとしたドラッグストアですが、広い店だからしいからはぐれないようにするんですよ、猫娘」

 そう言って、椎苗は一歩先を歩くように、けれど置いていくこともないように歩む。
 到着したドラッグストアは、品ぞろえも多く、人も多い。
 初めて入店すれば、きっと驚いたことだろう。

227番 > 「……?」

自分はそうじゃないといった言いぶりに首をかしげるが、
一瞬降りるペースが遅くなって、慌ててついていく。

「どらっぐすとあ……。猫娘?」

変わった呼び方だなとも思いつつ、文句は特に言わない。
227は自分を指して居るのが分かってればいいのである。

ついてみれば、あの建物か、などと頷いたり、手広さには当然驚いたり。
ただでさえおとなしい性格だが、知らない場所であるので
借りてきた猫のようにさらにおとなしい等、また猫を彷彿とさせるのだろう。

ご案内:「大時計塔」から神樹椎苗さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」から227番さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」に園刃 華霧さんが現れました。
ご案内:「大時計塔」に山本 英治さんが現れました。
園刃 華霧 >  
「ァー……」

此処数日、あちこちに出歩いた。
目撃者も当然たくさんいる。
仲間にも会った。
知らない男とも話した。

さて――

「……明日、ダな。
 ひひ、もーいーくつ……寝るまでモないナ。
 後一回……一回、ダ」

手には火のついていない煙草
ただ、座り込んで外を眺めている

山本 英治 >  
「いーけないんだ、いけないんだー」

軽佻浮薄な言葉で後ろから声をかける。

「未成年の喫煙っすか、園刃先輩」

メンソールの煙草を咥えて、柵も手すりもないそこで大きく伸びをする。
ここは大時計塔。遥か眼前に街を見下ろす、静かな夜空。

「あ……火がついてないなら補導だっけ?」
「どっちにせよ、別嬪さんが寿命を削るのは感心しない」

すぐに真顔に戻って、彼女に語りかける。

「って……前にこういうこと話したんだよな………ここで」

カチッ、カチッとライターを擦った。
すぐに火がつく。風もない。ライターも新しい。
前回とは、違う。

「ってことは次の俺の台詞は……」
「なんかあったんですか? かな」

園刃 華霧 >  
……来た。
本当に来やがった。
来ないと、思っていたのに。
――できるだけ、ゆっくりと……余裕ぶって振り向く

「『ァー……英治くんじゃン。
 犯罪っつーナら、そモそも、此処立ち入り禁止デしょ。
 お互い様デないノ。』
 ……だったカ?」

へらりと笑う。

「『なンかって……』
 『諦めの悪い』バカアフロがアタシを止めルってうるサくてナ。
 ムカつくカらブン殴ろウと思ってタとこ。
 『なンなら、手伝ってクれるー?』」

じろり、と見返してやる

山本 英治 >  
「……そうだな」

目元だけで笑って、深く紫煙を吐き出した。
もう台詞はなぞらない。
ここから先は、俺と園刃先輩だけが紡げる。
煙は風もない空に散ってすぐ消えてしまう。

「殴るだけじゃ気がすまないって顔してますね」
「それにしてもバカアフロはひどい」
「美しいディリジャン(淑女)の台詞とは思えませんよ」

俺の表情から、きっと色が消えたろう。
これからが全ての始まり。そしてあるいは。

「鶴尾摩衣が死にました」
「常世ディスティニーランドです。なにもない、抜け殻でした……」

指先で煙草を摘んで、携帯灰皿に灰を落とした。

園刃 華霧 >  
「出村秀敏も死んだナ。落第街で。
 死体は、なンかおっさんが持ってイっちまっタから証拠はないケどな。」

やれやれ、と肩をすくめてみせる
表情はへらへらとしたまま

「……デ。死ぬカらヤめろッテお定マりの話?
 けド、悪いナー。
 残り時間、少ないンでネ。遊んでヤレるのは一回こっきリだし
 無駄話モしたクないンだワ」

へらへらと笑う。

「だからマあ、無駄な時間食わナいよウに……優しいアタシから情報をあゲよう。」

いつのまにか、手元に黒光りする機械が握られている。

「まずは……とっくに知ってるかもだけど、おさらいだ。
 こいつが、『真理』と通信できる機械。
 これをどうにかすれば、今回の話はお終いだ。
 けどな。覚えとけ?」

デバイスをこれみよがしに振って見せながら、
もう片方の手を握って前に突き出す。

「一つ、もしデバイスをぶっ壊してもアタシはアタシなりのやり方で『真理』を目指せる。
 納得しなきゃ、何度だって……あかねちんの期間が終わったって一人でも続けてやる。

 一つ、アタシは逃げるのは得意なんでね。気に入らなきゃすぐにでも逃げるぜ?

 一つ、アタシはオマエがアタシと同じ場所に来ないなら話を聞く気はない。」

一つ一つ、指を立てて言葉にする。

「まず、コレを飲み込め」

獣の瞳
挑むような顔
じっと見据えながら言い切った

山本 英治 >  
「出村………!」

あいつ。死んだのか。体から力が抜けた。
妹さんに、会いに行っちまったのかよ。

「そうですか」

表情を歪めて頷く。
もう時間がない。
それを大前提としなくてはならない。

相手の言葉を吟味するように聞いてから再び煙草を咥える。

「わかりました」

相手の貴重な時間を奪っている。
そのことを理解できないやつにレディと話す資格はない。

いや、レディじゃない。園刃華霧にとって、だ。
いつだって今日と明日の境界を彷徨ってきた彼女は。
一分一秒を必死に生きてきたんだ。

そのことを理解しなければ、同じ場所に立つことはできない。

園刃 華霧 >  
「良い答えだ。
 その上で、そうだな……
 アタシと同じところに来る覚悟を聞くぞ。
 責任取るって言ったよなぁ?」

にたり、と笑う。
ケダモノの、笑み

「アタシから奪おうってヤツの覚悟だ。
 正直、口約束とか嫌いなんでね。
 だからアタシからオマエに取らせる責任、一つでっかいのを先に教えてやる。
 オマエは、本当に責任とれるのか。
 此処に上がってくる気があるのかってな」

けけけけ、とひどく耳障りな笑いをあげる

「ああ、勿論。
 無理なら無理で、いいよ?
 そしたら、この『話し合い』も終わりですっきりする。
 それでも、聞くかい?」

みなまで言わず……そう『問いかける』

山本 英治 >  
相手が喋り方を変えたんだ。
だったら俺も普段通りを……敬語を捨てる。

「男が責任を口にしたんだ」
「教えてもらおう」
「無理かどうかもそれを聞いてから決める」

きっと彼女にとっての俺は。
綺麗事ばかり喋る鬱陶しい後輩にすぎなくて。
彼女と同じ場所に行かなければ。

俺の言葉は届かない。
携帯灰皿に煙草を押し付けて火を揉み消して。

「聞かせてくれ、園刃先輩」

今度は俺が問いかけられる番。

園刃 華霧 >  
「ああ……じゃあ、言ってやる。」

園刃 華霧 >  
 
 オマエ……『未来』を、捨てろ
 
 

山本 英治 >  
「未来を………?」

鼓動が早鐘を打つ。
園刃先輩が言っているのは、どっちの意味だ。

園刃 華霧 >  
「まさか、とぼけるつもりじゃないよなあ?
 英治くんが、さんざ口にしてたじゃん。」

園刃 華霧 >   
 


『親友』、なんだろ?
 
 
 

山本 英治 >  
心臓の音が痛い。
未来を捨てる。その言葉の意味を反芻する。

「未来は死んだ……あとはどうすればいい?」

彼女は言葉以外、何も遺してはいない。
捨てる……とは。

そもそも俺に未来を捨てることができるのか?
いつだって俺をその場に立たせてきた、彼女の遺志を。
俺に生きろと祈りと呪いをかけて逝った彼女を。

方法さえあれば捨てるのか?

園刃 華霧 >  
「死んだ? 冗談いっちゃいけない。
 いつでも『未来』ちゃんは生きてただろ?
 英治くんの心でさあ」

げらげらと耳障りな笑い

「いつだって、語りかけてたじゃん?
 ソイツは、英治くんの『大事なもの』なんだろ?
 なら捨てな? アタシから奪うってのは、『そういうこと』だ」

げらげら
げらげらげら

空っぽのアタシから奪うんだ
空っぽになる覚悟がなきゃ困る
それで同位置
対等ってもんだろう? 

山本 英治 >  
呼吸が荒くなる。
正直、死ねと言うなら死ぬ気でいた。
だが彼女は。園刃華霧は。

満足した死なんて満たされたもので納得はしない。
己の内に空虚を抱かない者に。話を聞く理由なんてありはしないのだ。

ここで遠山未来を否定する言葉を言えば。
彼女は俺の話に耳を傾けてくれるかも知れない。
言え。親友だって、死んだ自分より今生きている存在を優先させるだろう。

言うんだ。

山本 英治 >  
 
 
「できないよ」
 
 
 

山本 英治 >  
俺は涙が溢れた。
その場限りの嘘は暴かれた
覚悟なんて、できてはいなかった。

「俺に未来を捨てるなんてできない……」

膝を折り、蹲って涙を流した。
悔しい。苦しい。でも、園刃先輩は。
そのウツロをずっと抱えてここまで歩いてきたんだ。

園刃 華霧 >  
「…………」

涙に濡れる男を見下ろす。
そうか
   ・・
それが正常な反応だよな

「それが、答えでいいかい?
 この話、お終いにする?」

しゃがみこんで、優しく語りかける

山本 英治 >  
結局、俺には捨てられなかったんだ。
捨てられない程度の覚悟の人間に、彼女は心を開かない。

蹲ったまま、泣いたまま。
すぐ近くで囁かれる園刃先輩の声が。
ずっと遠くに感じた。

俺の思い上がりは正された。
誰かを救うなんて……俺には出来はしない。

園刃 華霧 >  
「ふぅーん?
 答えなし、か……」

まだ答えを得ていない、とも言えはする。
もうちょっとだけ待ってやってもいいか。
答えは見えてる気もするけれど……

「もうちょっと暑っ苦しい返答が来るかと思ったんだけどなあ。
 そっかあ……」

そうかあ……

また、手から、零れ、落ちる、のか

「ちょうどいいや。
 『真理で、何を取り返すつもりで?』だったっけか。
 あのときは、あんまちゃんと話してなかったよな。
 なんなら、そっちの人間にはろくに話してなかった気がするからさ。
 ちょっとだけ聞いてきなよ」

しゃがみこんだまま、泣きじゃくる男の前で語り始める。
聞いているのか、聞いていないのか……それは、わからない
別に、どちらでも良いと思った

「前にもいったけどさ。
 アタシには何も無かったんだ。
 だから、ずっと自分で何もかも手に入れてきた。
 ……つもり、だったんだよなあ。」

遠くを見つめる
家も、食べ物も、言葉も、名前も、身分も
全部、自分で手に入れてきた
――はずだった

「けどさあ。
 なんか、手に入れたつもりが、少しずつ無くなっていくしさ。
 欲しいものはなくならないしさ。
 ……なんかが、『空っぽ』な感じ、したんだよね」

これが、なんなのかは、わからない

「それに、周りはみんな、変わっていくし。
 アタシだけ、なんか変わらないし。
 置いてけぼりな感じがしてさ。
 居るのか居ないのか……よくわかんなくなるしさ」

わからない
わからない

「だから、『真理』ならマルっとその辺わかるのかなー、とか。
 全部手に入るのかな―ってな。
 そんな風に思ってみたんだよね。」

そこで、一旦言葉を区切る

山本 英治 >  
彼女が抱えていたものは、虚無。
真理に頼るだけの理由がそこにはある。

青空が嫌いだ。
塀の中にいた時に見えた、唯一綺麗なものだったから。
爛れた星空のほうが、よほど落ち着く。

あの時、未来を刺した電脳麻薬中毒者を殺した時に俺には何もなかった。
家族に勘当され、鬱陶しかった異能はこの手の中に居座り続け。
絶望は心を食み、未来は隣にいなかった。

それでも俺の心には、未来がいてくれた。

俺には救いがあった。
彼女にはなかった。
たったそれだけが……言われるまで気づけなかったのか…

園刃 華霧 >  
「なー、英治くんさー。
 此処まで来たのは英治くんだけだ。
 幌川先輩も、レイチェルちゃんも、理央くんも……
 他の誰も、来ない」

再び口を開け
静かに、言葉を続けた

「みんな、アタシを応援してくれてんのかな?
 実は、死ねって思ってるのかな?
 アタシにはさっぱりだ」

頭を振った
本当に、さっぱりだ
人の情動を読んでいるようで、芯のところは結局よくわからない

だからいつも、表面を撫でる
撫でて、引き出す

「アタシが、そういう『人でなし』だから『そう』なのかねえ。
 『どうしようもねぇ奴』だから、なのかねえ。
 そいつも、さっぱりだ」

此処数日、色々なことを考えてみたけれど
結局答えは出ない

「困ったもんだね?」

山本 英治 >  
指に力が入る。
少しだけ、動け。

足に力が入る。
少しだけ、立て。

肩に、腰に、腕に、腹の底に。
力を込めて、立ち上がれ。

「俺の思い上がりは正された……次は、園刃先輩の番だ…」

涙でぐしゃぐしゃの顔で、壁に手をついて立つ。

「人でなしを心の底から想うやつなんていない…」
「レイチェル先輩はどうしようもねぇ奴を親友にはしない」
「親友に死ねだなんて思わない……!」

まだ涙が溢れて、自分の弱さを手の甲でぐしぐしと拭った。

「どうしてそんな簡単なことをわかってくれねぇんだよ…園刃先輩……」

剛力の異能を持っていても。
拳法をいくら学んでも。
声に……力が入ってくれない時もあるんだな。

園刃 華霧 >  
「……『そんな簡単なこと』が分からなかったから、此処まで来たんだよ。」

今までの優しい声色が消えた
こちらも、あわせて立ち上がる

「この話の最初に、アタシはレイチェルちゃんを切った。
 アイツもアタシを切った。
 喧嘩の一つもあるかと思ったのに、『何もなし』だ。
 円満にね」

淡々と、言葉を述べていく
感情が消える
表情が消える

「アタシの手から、零れる前に、とは思ったさ。
 勝手に消えられるくらいなら、自分から捨てに行ったさ。
 そしたら『笑顔でお見送り』だ。」

なんで こいつに こんなこと まで

「アタシにはわからない。
 『親友』だから、送り出したのか。
 『どうでもいい』から、送り出されたのか。
 わからない、わからない」

ちがう
いうのは それじゃない

「アタシは、欲しいだけ、なんだ……」

山本 英治 >  
「園刃先輩」

自分の手のひらを見る。
何も乗らない、その手を。

「レイチェル先輩は来る」
「あのメッセージカード……好きにしろって言われたから」

「レイチェル先輩に渡してきた」

諦めの良い顔で手放した罪は。
贖えないほど重くはないはずなんだ。

「後悔してたんだ……ずっと…………」
「今度は、間に合うように……今度は、届くように…」
「祈るように、彼女は走ってる」

「欲しいだけの園刃先輩の気持ちに、親友であるレイチェル先輩が気付かないわけないだろ」
「親友って……簡単には捨てられない…………」
「捨てられないんだよ、園刃先輩………」

この手じゃ届かなかったものに。
レイチェル先輩ならきっと届く。
レイチェル先輩はきっと来る。

祈りはただ、空に。

園刃 華霧 >  
「は?」
 

園刃 華霧 >  
「今更? 今更か?
 英治に言われて?
 なんだよそれ」

声に、熱が灯る

「もう、終わった話だろ?
 なんで、今更……」

なんで いまさら

山本 英治 > 「今更なんかじゃねぇ!!」
山本 英治 >  
「まだアンタは生きてるだろ!?」
「まだレイチェル先輩は生きてるだろ!!」
「どうして……どうして諦めちまえるんだよォ!!」

山本 英治 >  
「俺がやったのはただのきっかけだ!!」
「アンタらは……きっかけもないとお互いの本心を話すこともできねぇのか!!」

壁に手をついたまま。俺は叫んだ。
弱さが熱を持って。瞳から溢れた。

「クソッ……クソッ………」

園刃 華霧 >  
「うるさい! 黙れ!
 暑苦しいアフロ!
 ふざけんな!」

相手の叫びに負けぬ
獣の絶叫をあげる


「じゃあ、あの時のアレはなんだったんだよ!
 今更なんだそれ!
 終わった話をほじくりかえすな!」

それは慟哭にも似た叫び

山本 英治 >  
「黙らねぇ!!」
「ふざけてもいねぇ!!」

ぐぐ、と呻いて。
どうしようもないまま、叫ぶ。

「終わってない………まだ、終わってない!!」
「死んでもいねぇくせに死人みたいな顔をするな!!」

ああ、もう。メチャクチャだ。
全然ロジカルじゃない。

「どうしてアンタは親友に甘えなかった!?」
「どうしてレイチェル先輩は親友に甘えなかった!?」
「なんでこんなことをしてるんだよ……なんで………」

園刃 華霧 >  
「なんでもなにも、
 アタシはこんなだからこんなになっちまったんだよ!
 分かれ、バカ!」

もう自分でも何を言っているのかわからない。
なんで、この

「クソ!
 此処まで来たからってんで、少ーし甘い顔してやりゃあつけあがりやがって……
 偉そうに、何様だオマエっ!」

もはや、ただの口喧嘩
下らない
もうやめてしまえばいいのに