2020/07/27 のログ
ご案内:「大時計塔」にトゥルーバイト構成員さんが現れました。
トゥルーバイト構成員 > 「いや、わたしは何をしているのだろう」

実際、何をしていたのだろう、迷って、歩いて、逃げて、挙句がここであり、停止したデバイスである。

トゥルーバイト構成員 > 逃げ回って
死が怖くて
噛みつくって決めたのに
何もできなくて
挑んだ人は死んで
結局私は何も出来なかった

トゥルーバイト構成員 > 挑むことも
諦めることも
何も出来なかった。
私の異能は『竜麟』
ただし制御できない
硬くて丈夫、醜くはなるが
わたしは女だこの野郎

ご案内:「大時計塔」からトゥルーバイト構成員さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」にトゥルーバイツ構成員さんが現れました。
トゥルーバイツ構成員 > 私は、何も、選ばなかった
腕章を破り捨て、帰れば終わるだろう
それか、ワンチャンダイブ決める?

選べない

わたしは、しがこわい

トゥルーバイツ構成員 > みんなは叶えたのか
諦めたのか
挑んだ人はよく選んだよなー
はあ、つらい
風紀につかまるのもなさけないしなー

トゥルーバイツ構成員 > どうしよう
どうしようか
いっそなかったことに
するか
目を伏せるか
スルッといつも通りに学校通って?
いつも通りに行く?
わからない
何一つわからない

ご案内:「大時計塔」に日下 葵さんが現れました。
トゥルーバイツ構成員 > ああ、来てしまった
来てしまった

困った
戦う?
そんな気はないのだけど

日下 葵 > 「ひぃー、またシフトを適当に提出したらここに回されてしまいました。
 まったくもって人使いが荒い。喫煙者に階段なんて上らせるなって話ですよ……
 っておや、ここには毎度毎度誰かいるものですね」

カツカツと階段を上ってくると、そこには誰かがいた。
一応ここは立ち入り禁止なのだから、人がいたりすると後々報告しなければならなくて面倒だ。

「何をしているんです?
 一応立ち入り禁止ですし、可能ならすぐに降りてほしいんですが」

目の前にいるこの人物が誰なのかは知らない。
最近なにか組織同士で動きがあったとか、風紀委員がそれで死んだとか、被害が出たとか、
そんな話を聞いた気がしないでもないが、私はその管轄ではないので詳しくは知らないのだ>

トゥルーバイツ構成員 > 「あ」
いや、そのすいません

「いまでま」

風で被っていたローブが飛んだ

「ああああっ」

制服姿に、白い髪、白い肌、赤い目、顔には鱗が生えている
腕には取れかかった腕章

「はい、つかまります」

日下 葵 > 「はいはい、そんな風にちゃんということ聞いて降りてくれる子は好きですよ。
 …………はい?捕まる?」

何を言っているんだこの人は。
そんな目線を向けてしまった。

「捕まるって、時計塔に上っただけで?
 いやいや、深刻に考えすぎですよ。
 そんなんで捕まえてたら風紀委員の拘留場足りなくなりますって」

それとも他にやばいことでもしたんです?

パッと見は異邦人のようだし、何か腕章をつけている。
犯罪組織の元メンバーだったりするのだろうか。
だとしたらちょっと面倒だなぁなんて思って>

トゥルーバイツ構成員 > あれ?

「捕まらない?」

もう両手はこうホールドアップだよ?

「あ、知らないのか」


「あ"」

口に出したらアウトだろう
墓穴である。

「つかまりますぅ」

ダメだった

日下 葵 > 「知らない知らない。なんも知らないよ。なに、何かやったの?
 いや、何やったか知らないのに捕まえる訳に行かないでしょ。
 捕まる気があるならSNSに投稿できるくらいの簡潔さで説明してください」

捕まえるかはそれを聞いてからです。そういって柱にもたれかかった。
なかなかどうして面倒だ。そう思って髪の毛わしゃわしゃとすれば、
ポケットから煙草を取り出して火をつける。
風紀委員で未成年だろうとここで吸う分には問題あるまい。
いや、本当は問題アリだが知ったことではない。
そんな風にリラックスすると、早く説明してくれと視線でせかすのだった>

トゥルーバイツ構成員 > 「えーと、ですね」

説明した、あかねさんの事
デバイスの事
1%生きること、99%死ぬ事
私の事、アルビノと竜麟の異能で、遠巻きにされてたこと

「まあ、しぬゆうきもなくて、こんなとこまで逃げ回ってきたわけですがー」

日下 葵 > 「はぁー……なるほど?いや、何も頭に入ってきてないんですけど、
 まぁなんですか、へぇ……」

何も理解できていなかった。
多分本部に戻って報告書とかを読めばいいのだろうけれど、それは今やることじゃない。

「正直なんにもわかってない私には手に余る案件ですね。
 なんで一つ、もう面倒なことを抜きにして、2つだけ質問しましょう。

 1つ、結局あなたは殺人をはじめ、その一軒で犯罪に直接関与したんですか?
 2つ、犯罪に直接関与していなくても、何らかの形で犯罪を幇助したんですか?

 ぶっちゃけこれに該当しないなら、
 ただ巻き込まれてしまっただけだと思うんで正直どうでもいいというか……」

煙草を吸い終わると吸い殻をポケット灰皿へ。そして当たり前のように取り出される二本目>

トゥルーバイツ構成員 > 「いや貴女風紀でしょ、いや目の前でタバコ吸うなし」

なんで私がツッコミ役なんですかね、そーいうのはそっちでしょ

「なにもしてないです、逃げ回って、なにも出来なかったです、でもいっぱいしにました、多分」

日下 葵 > 「あのねぇ、何か勘違いをしているみたいだから教えてあげますよ。
 確かに風紀委員ですよ。回された仕事もこなすし、目の前で犯罪が起きれば止めに入ります。
 でも私にも管轄がある。すべての事件の報告書に目を通しているわけでもない。
 今目の前にいるあなたに限って言えば現行犯ですらない。
 そんなんで逮捕なんてしてみようものなら人権侵害もいいところだ。
 
 後ろめたいって感情だけでこんなところに来た口、
 おそらく身投げも視野に入れていたんでしょう?
 はぁー、くだらない。自首か身投げか特攻か。迷ってる段階で犯罪者の器じゃないんですよ」

2/3ほど吸った煙草を、握りこんで火を消す。
柱から身体を離せば、カツカツと相手に詰め寄っていき

「どうせ死ぬ覚悟も殺す覚悟もないんです。さっさと帰って忘れなさい。
 その体、異変があるなら病院ですね。受診したところで捕まることもないでしょう」>

トゥルーバイツ構成員 > 「うぐ」

全く持ってそのとおりだった
ぐぅの根も出ない

「いや、えと、いいんですかね、挑んだ人は死んだのに、しょーごさんとか、いつも笑ってて、わたしなんかが、普通に戻って」

「いや、治らないって、今は、難しいって言われました」

俯いた、麟が顔にモロに出ていて、女の子なのに

日下 葵 > 「はぁ……随分、甘ったれたことを抜かすんですね?」

彼女の目の前までくれば、その顔を覗き込んで言い放った。

「あなたが何をしたんです?
 その理屈がまかり通るならかつて戦争でドンパチやってたこの国の人間は皆等しく死ぬべきです。

 直接何かしてなくても、自身に罪の意識があるならその罪は法ではなくあなた自身が、
 一生かけて抱えて償う罪ですよ。風紀委員に捕まったくらいで償える罪なら安いもんです。

 『自分なんかが普通にしていていいのか』

 そう思うなら、一生十字架を背負って生きていくべきだ」

少なくとも、何もしていないなら捕まえようがない。>

トゥルーバイツ構成員 > 「うぐ」

近寄られて、詰められて、あっまつげ長い

「う、そうですよ、ね」

何も、選ばなかったわたしは

「一生、覚えていなければ」

一生、背負わなきゃ

「いけないんですよ、ね」

生きなければ、いけないんですよ、ね

「お姉様」

じーん、と感じ入ってしまった

惚れた

日下 葵 > 「バレなきゃ犯罪じゃないって言い分、あるじゃないですか。
 あれって言い換えれば誰も罰してくれないってことなんですよ。
 一生墓場まで持っていくつもりで、心の深い部分に呪いみたいにこびりついてしまうんですよ。
 あなたが感じている者って、そういうものだと思いますよ。
 ぜひ一生かけて苦しんでください」

あ、因みに私の喫煙に関して、これもバレなきゃ犯罪じゃないって理屈です。
そう冗談を抜かすが……

「は?お姉さま?」

何かの聞き間違いだろうか>

トゥルーバイツ構成員 > 「確かに、その通り、です、わたしが、みんなを、覚えて、忘れない、ように、します」

辿々しく、しっかりと貴女の目を見て、そう告げた、大丈夫だろう。

「はい、お姉様です」
じい、と見つめてくる同じ身長ぐらいの女の子で、ある

「私、辰己・琉樹(たつみ・るき)って言います、お姉様」

「また、会いたいです」

距離が近い、距離が近い

日下 葵 > (あれぇ……おかしいな。
 犯罪をやらかした子を精神的に追い詰めて虐めるために言った言葉なのに、あれぇ……?)

何を間違ったのだろう。
いや、結果的に良いことをしたのだが、そういうつもりではなかった。
虐める為だったのになぁ……
いっそ泣かせてここから身投げするレベルまで追い込むつもりだったのになぁ……

「わかった、わかりましたから、頼むからその”お姉様”ってのはやめてください。
 調子狂うな……会う分には構いませんが……」

あまりの近さにこちらが一歩引いてしまうレベルだ。
それこそ、屋外でも煙草の匂いが相手にわかるくらいに近い>

トゥルーバイツ構成員 > 「じゃあ名前教えてくださいお姉様」

完全に鵜呑みにして前向きになっている、逆効果だ

「私を助けたんですから責任取ってくださいお姉様」

くんくんと匂いを覚えるように

日下 葵 > 「名前は日下葵です。”あおい”と書いて”まもる”です。
 責任って……助けたつもりは毛頭ないんですが……
 さっきも言ったと思いますが正直どうでもいいというか、
 犯罪を犯したわけでもないのに………」

あれ?もしかしてこれは良くない懐かれ方をしているのでは?
風紀委員だから所属を聞かれれば応える義務がある。
しかしこれは貞操が危ぶまれるレベルで不味い気がする。
なんで女が男にたぶらかされた時みたいな言葉を投げられているのか、理解できなかった>

トゥルーバイツ構成員 > 「まもるお姉様」

噛み締めるように見つめて何度も何度も反芻し

「いいえ、私が"選んだ"事ですから、まもるお姉様には、責任取ってもらいますね?」

あまーく
蕩けた口調で囁くように
選んだ
彼女は囁いて

「はい、これはデバイスと腕章です」

指紋とかは拭いたので大丈夫だろうと思うけど

「お手柄にしてくださいまもるお姉様」

くる、と回って

「じゃあ、《また》会いましょうね、まもるお姉様」

階段へ、駆け出して

日下 葵 > 「いや、だからそのお姉様って呼び方は……
 いや、困る困る。なんですかこれは。余計な仕事はごめんですって。
 知らない知らない、受け取れないですからこんなの。私の管轄じゃないですから。
 えぇ………」

まるで何か熱に充てられたような表情で言われると、その妖艶さに一瞬たじろぐ。
が、腕章と何かデバイスを押し付けられると、彼女は私の時計塔から降りて行ってしまった。

「どこの管轄なんだろう、これ。
 いっそ犯罪者として”始末”しておくべきでしたか……
 いや、さすがにそれは非道が過ぎますか……
 また会いましょうって……裏がある訳じゃないですよねぇ?」

何かやばい組織に喧嘩を売ったとかでなければいいが。
死ぬことや痛みに慣れて恐怖心というモノをしばらく忘れていたが、
なるほど、これが得体の知れない気味の悪さか。
しばらく唖然として、また煙草をくわえては塔を降りるのであった>

ご案内:「大時計塔」からトゥルーバイツ構成員さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」から日下 葵さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」に神樹椎苗さんが現れました。
神樹椎苗 >  
 時計塔はこの日も静かで、空が近かい。
 椎苗はいつものように柱へ凭れかかり、ぼんやりと虚空を見つめていた。

 時間制限は三日。
 今日を含めた三日間が、椎苗が『友人』を記憶していられる限界。
 それ以上時間が経てばほとんど思い出せない、という状態になるだろう。

 そして、数日もすれば完全に忘れる。
 顔も声も、交わした言葉も。
 その最後の瞬間すらも。

 ──それは、いい。
 それはまだいいのだ。
 それは『友人』が望んだことなのだから。

 けれど、それでも、椎苗は忘れたくなかった。
 そこに永劫ただ一人の『友人』がいた事を。
 その事実だけは、他のすべてを忘れても譲れなかった。

 それが、椎苗の妥協点。
 『友人』の願いと自分の願いの。
 まあ、叶うなら全て覚えていて、ざまあみろと言いたい気持ちもあったが。

 なんにせよ三日である。
 三日の間に、記憶を保持するための手掛かりを見つけなければならない。
 そうしなければ最悪、『友人』がいたことすら忘れてしまうのだ。

 しかし、その手がかりが思った以上に見つからない。
 日が昇ってから、この場所で幾度となくと『演算』を繰り返したが。
 まだなにも見つからないのだ。

神樹椎苗 >  
 忘却の術式にも、種類がある。
 ただ記憶や記録から『消える』のか、記憶や記録に穴を残さないために『書き換える』のか。
 当然後者の方が高度であり、より強固だ。

 『友人』が仕掛けたのは、この世界全てへの忘却、そして『書き換え』。
 誰の記憶からも、最初から存在しなかったように書き換える。
 どんな記録も、不整合がないように書き換える。

 神木に蓄積された情報は、まだ書き換わっていないものの。
 今もずっと連続した干渉を受け続けている。
 けれどこの調子で続けば、すぐに防壁は崩れるだろう。

 なるほど、三日というわけだった。
 あと三日以内に防壁は破られる。
 その後も、書き換えられた情報を『修復』し続ければ、一日程度なら処理が追いつくだろう。

 けれどそこまでだ。
 『友人』を記録し続ける事はできない。
 どれだけ思い出して、想い続けても、書き換えられれば一瞬で『忘却』してしまうだろう。

 しかし、どれだけ強力な忘却術式だとしても、だ。
 完全無欠に、完璧である、という事はあり得ない。
 記憶という連続した情報に修正を加える以上、どこかに齟齬、違和感は生じるはずなのだ。

 だからこそ、椎苗は朝からずっと神木に繋がる機器――財団と学園上層部により取り付けられた機材に接続していた。
 本来は情報を神木へ書き込むためのものだが、これらを足掛かりに学園中の情報を閲覧する事が出来る。
 しかし、そうして閲覧した情報の中で『友人』がいたはずの記録は、綺麗に『書き換え』られていた。

ご案内:「大時計塔」にカラスさんが現れました。
神樹椎苗 >  
 ただの消去でなく、齟齬が出かねないところは別のものに『置換』してある。
 そう、『置換』されているために、それを後から違和感として観測するのは困難だ。
 一度忘れてしまえば、それが『置換』されている事にも気づけない。

「――ああああ!
 『置換』とか厄介すぎますよあのバカやろー!」

 左腕で額を抑えながら声を上げた。
 べつに奇跡を信じていないわけじゃない。
 けれど、それはできることをやり尽くしたからこそ――。

 久しぶりに処理能力を限界近く引き出していたからか、頭に熱を感じた。
 少し休憩すべきだろう。
 椎苗は徐に、柱に繋げたロープを、自分の首へとひっかけた。

「――はあ、やっぱりこれが落ち着きますね」

 そして、息をゆっくりと吐きだしながら。
 リラックスするように脱力して、瞳を閉じていた。

カラス >  
それぞれが様々な思いを抱え、島は今日も一日が過ぎていく。
消えたモノ、忘れられたモノ、残ったモノ、

そして、残されたモノ達へ。

「―――さん、……ぃなさん」


聞こえる声は、遥か遠く。

覚えた音は、過ぎる時に遠のいていく。

だが


「しいなさん、何、してるの……っ!?」

今日聞こえた声は、いつかの臆病な音だった。

神樹椎苗 >  
 一休みし始めたところで、ぼんやりとしていたら。
 どこかから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「――あー、チキンやろーですか。
 またこんなところまで来やがって、暇なんですか」

 そう、瞳は閉じたまま、声に対してだけ返事をする。

カラス >  
「暇って訳じゃないけど、その、
 今日はもう外出ても大丈夫だって言われて……。」

バタバタと慌てた翼の音と共に近寄って来る。

黒い腰翼、黒い髪、赤い瞳。
耳羽根を臆病な感情のままに下に向けた青年。

椎苗に何が起きたのかもしらないまま、
この島で何があったのか、誰が生き、誰が死に、誰が消えたのか知らないまま、
青年は平和を甘受し、こうして少女の前にいる。


ロープに手を伸ばす。

これ解けるのかな、と、長い爪の手がかりかりと引っ掻く。

神樹椎苗 >  
 近づいてくる羽音。
 うっすらと目を開ければ、ぼんやりとした視界に黒黒赤。
 特にこれと言った反応を示すわけでもなく、再び目を閉じた。

「まあここ何日かは騒がしかったみたいですからね。
 普通の保護者ならあまり、外に出したくはないでしょうよ」

 まあそれも、このあたりでは何の関係もない。
 大多数にとっては、日々の喧騒に埋もれるような、なんてことのない事件でしかなかったが。
 そしてもう一つは――すでに終わり、忘れられている。

「――それより、なにしてんですか」

 ローブを引っ掻く青年へ目をやる事もなく。
 咎めるわけでもなく。
 ただ、一つだけ息がこぼれた。

カラス >  
「そうだね…お父さんも何だか怪我して帰って来てたぐらいだし…。」

一歩足を踏み入れなければ体験し得ぬことだ。
誰とてそう。この青年とてそう。
なんてことない日々の悲劇の一部は、当事者で無ければ分からない事だらけだろう。

この島で平和に生きるモノにとっては、関係の無いことなのかもしれない。

「んぇ、あの、やっぱりそういうのをするのはダメだって…。」

だからこそ、青年は今日もこうして椎苗に手を伸ばしているのだ。
平和が、日常が、こちらへおいでと誘うように。

ロープから椎苗を離すように。

神樹椎苗 >  
「こういうのはだめですか。
 お前は、こういうのの、何がどうダメだと思うんですか」

 ふと、自然と漏れるようにたずねていた。
 目をまた薄く開けて、けれど青年は見ずにまた虚空を見上げ。

「そいつが、心から『死にたい』と願って、『死ぬ事』を選んで。
 そいつがいくつもあった選択肢から、それでもと前向きに選んだ『死』でも。
 お前はやっぱり、だめだ、って言うんですか」

 そう、青年に聞いていた。

カラス >  
「え。」

青年の耳羽根がびくっと跳ねた。

道徳観念とかそういうモノから遠くあるモノ。
普通に生きていれば、選ぶ理由の無いモノ。
定命のモノの常に隣に居て、最も遠いモノ。

それが死。

「……俺、難しいことは、よくわからないけど…。」

稚拙な雛鳥は紡ぐ。

「…死にたいって言うのは、生きることより、難しいと、思う。
 でも、生きてるとさ、どんなにそれまでが辛くても、
 どこかで、何か違うモノが見えるんじゃ……無いかなって。」

視線を落とせば、鳥に似合わぬ緑色の鱗に包まれた足と、鋭い爪。

「……だから、俺はダメって言う。
 お父さんが、最初に、俺に違う世界を見せてくれたから。」

神樹椎苗 >  
 青年の答えを静かに聞いて、椎苗は一つ頷いた。

「なるほど、お前はちゃんと『生きて』いますね」

 そう呟いて、自分の首からロープを外した。

「その死生観は間違っていねーですよ。
 きっと、普通に『生きてる』モノとしては、正しい価値観です」

 そうして、左手に握ったロープを弄ぶように振りながら。
 横目で流し見るように、青年へ視線を送る。

「それでも――『死』を選ぶことが最も救われる。
 『死ねない』という事が苦しみである、そんなやつもいるんです。
 あまねく全てから忘れ去られて、自分の存在を消してしまう――そんなやつもいるんですよ」

カラス >  
「……。」

青年は返答に困る。

「しいなさんは、そうなの?」

それでも、こうして自殺という死への道を止めている。

「俺の……俺の知ってることとは、真逆なんだと思う。」

今日はナイフ等をもっていないかと注意深く見ながら、
椎苗が死ぬのを結局して止めようとしている。

「そういうことに対して、軽く言うのは…失礼なんだと思う。
 俺は、俺の知ってる事しか、話せないから。」

そう青年は俯いて、己の首にある大きな首輪に触れた。

「自分なんか消えてしまえって、思ったことは、何度もある。
 俺がいるから、悪いことが起きた。
 お父さんが、それで苦しんでるのを知ってる。

 ……でも、俺まで居なくなったら……。」

顔を上げて、少女を見る。
血のように赤い、紅い瞳が。

「…しいなさんが死んだら、俺、哀しいよ。」

死が遠いからこそ、雛鳥は知り合った誰もの死を惜しむ。

神樹椎苗 >  
 ――死は哀しい。
 青年はそんな当たり前のことを、当たり前だと感じられる。
 それは生き物として、間違いなく正しい。

 間違っているのは自分。
 生命から外れているのは、自分の方だと再確認することになった。

「お前が軽い気持ちで言ってるわけじゃねーって事くらい、わかりますよ。
 お前が真剣に考えた上で、哀しんでくれると言ってるのはわかります。
 ――でも、そういうのは、しいにとっては邪魔なのです」

 左腕で持っていたロープを、青年に向けて放り投げた。
 そして、動かなくなった右腕をさすりながら、どこか心此処にあらずと言った様子で、視線が流れる。
 左へ、右へ、行き場をなくしているかのように。

「しいは、『死にたい』のですよ。
 『死ねない』と、『生きる』事すらできやしねーのです。
 前にも言いましたね、しいは『死にたい』から『死にたい』んだって」

カラス >  
「……ごめんね。」

青年が消えたいと思うのは、何よりこういう時だ。

「…分かってる。俺なんかの言葉じゃ、どうにもならないの。」

自分が無力だと思えた時、
自分が役に立たないと思えた時、
自分が必要とされていないと分かる時。

「お父さんだったら、もっと上手く、言えるのかも…しれないのに。
 
 だけど、……だからこそ、
 君に届く言葉を持ってるヒトが…誰か、現れるまで、死なないで欲しいんだ。」

結局もって、臆病だ。

青年は立ち尽くす。泣きそうな顔で。

神樹椎苗 >  
 青年はまた泣きそうな顔をしている。
 臆病な青年は、弱虫で泣き虫だが――心優しい。

「軽々しく、自分なんか――なんていうもんじゃねーですよ」

 白々しく、高く高く棚上げにして言葉にする。

「お前が、しいが死んだら哀しいって言うように。
 お前が消えたら哀しいって思うやつもいます。
 そんな奴らがいるのなら――お前は『なんか』じゃないのです」

 たとえどれだけ、自分を貶そうと。
 そんな自分に価値を見出す誰かがいるのなら――それは『なんか』ではない。 

「誰かなら、あいつなら、そう思う気持ちは理解できなくはありません。
 でも、ここにいるのは『誰か』でなく、『お父さん』でもなくて、お前です。
 お前がお前の言葉で、お前の思いを伝えるからこそ、意味があるんですよ」

 実際に、青年の気持ちは椎苗に伝わっている。
 青年の優しさは、感じられているのだ。

「お前はちゃんと、『自身』を持っています。
 自信はなくても、自分の考えを、誰かを想う心を持っているのです。
 だから、もっと胸を張って、堂々とすればいい」

 青年に気だるげな視線を向けながら、左手の拳をそのしょぼくれた頬に押し付けるように伸ばす。

「お前の気持ちは伝わってますよ。
 お前が本心で、しいに死なないでほしいって言ってくれることも。
 ただ、それでも――しいにはそれが、煩わしくてたまらねえのです」

 そう、疲れたような薄い笑みを浮かべながら。

カラス >  
最後の言葉で、耳羽根がしょげる。
まったくもってどれほどに顔をどうにかしようとしても、
他に分かりやすい感情を表す部分があると素直すぎる。

「でも……ごめん……。」

頬に触れられると、泣くのを我慢しているせいか、
僅かに彼は熱かった。

触れられる手に自分の手を重ねようとしたが、
自分の爪では相手の肌に簡単に傷をつけてしまう。

それがたまらなく嫌だった。

それ以上言葉が出て来なくなって、
口をきゅっと横に結ぶ。


自分はなんと無力なのだろう。
戦う力も持たず、保護され、上辺だけの平和に生きるしかない。
真っ黒な鳩。

神樹椎苗 >  
「まったく、ほんとに困ったチキンやろーですね」

 呆れたように言いながらも、表情は歪んでいない。
 延ばした左手は、青年の頬を優しく抓んだ。

「お前にはちゃんと自分がある。
 お前はちゃんと『生きて』いる。
 お前には確かな『未来』がある」

 そして、青い無気力な瞳で、赤い泣き出しそうな瞳をのぞき込む。
 奥底をのぞき込むように、全てを見通すかのように。

「お前は、どうしたいんですか。
 今の自分を好きになれないお前は。
 どんな自分になりたいと、願うのですか」

カラス >  
「……わかん、ない………。」

口を結ぶのを阻害されては言うしかない。

自分が何に"成れる"のかすらも分からない。

保護されているから精神が安泰に近いだけ。
未来の展望を聞かれても、青年から答えは出てこない。


「でも、君が死ぬのは、止められない…。」

けれどそこに嫌だと我儘を言えなかった。
泣きそうな表情なのに、涙は零れない。

「死ななきゃ生きられないのが分からない……。」

神樹椎苗 >  
 青年の赤い目は、揺らいでも、澄んでいる。
 ああほんとうに、自分の周りには純粋なヒトが多すぎる。

「わからないなら、考え続けるのです。
 考えて、考えて、わからなくても、ずっと考えて。
 そうして考え続けた先に、お前の『未来』があるはずです」

 考えるという事は、足を止めない事。
 それは、常に前へと進み続けるという事。
 たとえ気持ちが後ろ向きでも、後悔ばかりだったとしても、考える事は進む事なのだ。

「しいが、『こういう事ですよ』って説明するのは簡単です。
 でも、それじゃあお前はいつまでたっても納得のいく答えには辿り着かない。
 だから、しいの事も、お前自身の事も、考え続けるしかないのです」

 そうして、抓んでいた手を離すと、人差し指を立てて青年の唇へ押し当てる。

「お前はそうやって、『生きられる』ヒトですよチキンやろー。
 考えるのをやめない限り、お前は必ず『なにかに成れます』」

 そう、青年を咎める事も否定することもせず、ただ。
 『お前はそれでいい』と言うように、薄く微笑みかける。

カラス >  
「………うん。」

こくこくと頷く。

そうだ、結局ヒトの身体を持つ限りヒトは思考せねばならない。
それは自分も相手も同じこと。

そうして生きる限り、ヒトは考え続ける。

いつか辿り着く答えを見つける為に。

「………しいなさんも、考え、られない?」

そうして言葉を告げられるなら、
大切なモノを失ってしまった貴方にも、歩む道は無いだろうか。

 『未来』に君も居て欲しいとは、言えなかった。

青年の唇の動きが、椎苗の指に伝わる。

神樹椎苗 >  
「――――はあ」

 仕方ないな、とでも言うように息を吐いて。
 人差し指ごと押し込むように、体ごと青年に近づいた。
 目と鼻の先の距離で、赤と青の視線が混ざる。

「そういう台詞は、大事な女にでも言うのですね」

 無気力な、けれど穏やかな表情で青年を見上げる。

「しいに言ったらお前、本格的にロリコンやろーですよ。
 まあ、しいは美少女ロリですから、仕方ねーかもしれませんが」

 そう揶揄うように言ってから、眩しそうに目を細めた。

「――考えていますよ、ずっと。
 しいは、考え続けています。
 『生きる』方法を、ずっと、ずっと」

カラス >  
あまり自分に雄と雌というのは分からない。
青年は大元では獣だった。
人間に近い育てられ方をして、中途半端に人間性を得た。

雛鳥は少女の近くで、困ったような顔をする。

「じゃあ……っ…。」

そう口が動きかけて、それは違う言葉だと気づき、口を噤む。
そうして後悔するのだ。自分の短絡さに。

大きく開けた口から鋭い牙が覗いた。

「……ごめんなさい。」

勢いに任せて失礼な言動をしかけた。

「………せめて、今日だけ、でも。」

そうして青年が言えたのは、ほんの小さな我儘。

神樹椎苗 >  
「――ふ、ふふ」

 その半べそで必死な様子に、思わず笑い声が零れた。
 左手を青年の羽根耳に伸ばして、優しく触れる。

「まったく、お前はかわいいやつですね」

 可笑しそうに笑って、思わず閉じていた瞼を開く。

「安心しやがれ、ですよ。
 しいはそう簡単には死ねないのです。
 今日も、明日も――もしかしたら、永遠に」

 だから、そんな顔はしなくていいというかのように、優しくささやくように言葉にする。

「ああ、ほんと、おかげで気分転換になりましたよ。
 ちゃんと役に立てるじゃねーですか、チキンやろー」

 そう言って、青年から体を離して、再び柱へともたれかかった。
 そしてまた、どこか遠くの空を見上げるようにして、視線を飛ばし。

「――お前は。
 大切な『友達』が、望んでこの世界から消えてなくなろうとしていたら。
 お前だったら、どうしますか」